経済産業省が定義するデジタルトランスフォーメーション(DX)とは何か?

2020年2月26日掲載

2020年11月20日更新

経済産業省のDX推進ガイドラインを解説

今、さまざまな業種・分野で、デジタルトランスフォーメーションへの取り組みが始まっています。日本でも経済産業省が、「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン(以下、DX推進ガイドライン)」をまとめ、動き始めています。
DXとは、どんなことを指しているのでしょうか。そしてなぜ今、それが必要なのでしょうか。DXが注目されている理由や背景などの基本を知った上で、経済産業省がまとめたガイドラインの概要を確認し、DX推進のためのテクノロジーや仕組みを解説します。

目次

デジタルトランスフォーメーション(DX)の定義を知ろう

DXとは、もともとは「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念のことを指します。2004年、スウェーデンのウメオ大学教授、エリック・ストルターマン氏によって初めて提唱されました。
日本におけるDXは、2018年に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」を取りまとめたことを契機に広がり始めます。
同ガイドラインでは、DXの定義を「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と、より明確かつ具体的に示しています。

「DXレポート」に書かれた衝撃の事実「2025年の崖」とは

経済産業省は、DXを実現していく上での課題やそれら課題への対応策を明らかにするために、研究会を設置。そこで行われた議論を、「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~(以下、DXレポート)」と題した報告書にまとめました。
「DXレポート」では、DXを実現していく上でのアプローチや必要なアクションについて、企業が認識を共有できるようなガイドラインを用意する必要性が指摘され、さらにその具体的な構成案についても示されています。この提案を受けて、経済産業省は「DX推進ガイドライン」の策定を始めたのです。

「DXレポート」には、ガイドライン策定の提案とともに、多くの企業において既存システムが老朽化したり、ブラックボックス化(全貌がよく分からなくなった状態)したりしている実態が報告されています。ブラックボックス化が起こる原因としては、システムを構築した担当者が退職でいなくなったことや、自社の業務に合う細かいカスタマイズを加えた結果、プログラムが複雑化したことなどが挙げられています。
「DXレポート」は、このように老朽化・ブラックボックス化した既存システムが、環境変化や新たな事業に対応できない、保守・運用のためのコストがかさむといった問題を生み、DXの推進を阻んでいると指摘しています。
さらに、既存システムの問題を解消できない場合、DXを実現できないだけでなく、2025年以降、日本経済には年間で最大12兆円の損失が生じる可能性があると警告。これが「2025年の崖」と呼ばれる問題です。

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デジタルトランスフォーメーション(DX)が求められる理由

企業にDXが求められている理由は、主に3つあります。

①デジタル化によるビジネスの多様化
先述の通り、今は、あらゆる産業でamazon.comのような新規参入者が現れ、次々と新たな製品やサービス、ビジネスモデルが生まれる時代。この流れについていくには、DXの推進が不可欠だと考えられています。

②「DXレポート」でも指摘されている既存のITシステムの老朽化
多くの企業で、既存システムは限界を迎えつつあり、既存システムのままでさらなる成長につながる新しい事業を始めることは難しくなってきています。しかも、複雑化した既存のシステムを使い続けるだけで、高い維持費がかかります。
また、システムが事業部門ごとに構築されていて、部門間の連携や企業全体でのデータ活用ができない状態になっているケースもあります。この場合、最先端のデジタル技術を導入しても、効果は限定的にならざるを得ません。「2025年の崖」を目前に控えた今、新システムへの移行は企業にとって急務なのです。

③消費者のマインドの変化
近年では、消費者の多くが、製品を買って所有することよりも、楽しい体験で得られる満足感や生活を豊かにすることを重視するようになりつつあります。つまり「モノ消費」から「コト消費」への移行が進んでいるのです。
そのため企業側には、時代にふさわしい価値あるコトや体験を提供するビジネスモデルへの移行を目指して、システムはもちろん業務や組織全体を変革していくことが求められます。

DXとは?デジタイゼーション、デジタライゼーションとの違い分かりますか?

デタイゼーション:ごく一部の業務やデータなどを単純にデジタル化すること

デジタライゼーション:業務プロセス全体をデジタル化し新たな価値やビジネスを創出すること

DX:デジタライゼーションの発展系で社会的課題を解決したり人を豊かにする変革をもたらすこと

デジタルトランスフォーメーション(DX)推進に必要なテクノロジー

DXに欠かせないのが、最先端のデジタル技術です。ここでは、中でも代表的なものを紹介します。
 

IoT:「Internet of Things」の略で、「モノのインターネット」とも呼ばれます。建物や車、機器など、これまでインターネットに接続されていなかった「モノ」をインターネットに接続し、モノや場所の状態、人間の行動といった情報を収集したり分析したりして、新たなサービスを生み出す技術です。

AI:学習や言語の理解、予測、問題解決など、これまで人間にしかできないと考えられていた知的な行動の一部を、コンピュータに行わせる技術を指します。

クラウド:メールソフトなどのソフトウェアやサーバ、ストレージなどのインフラを持っていなくても、インターネットを通じてそれらの機能を利用できる仕組みのこと。近年は、多種多様なクラウドサービスがあります。自社内にサーバなどを置いて管理するオンプレミス型のシステムを使う場合に比べると、システム維持費などのコストを大幅に削減できる可能性があります。

5G:「5th Generation」の略で、「第5世代移動通信システム」のこと。現在使われている4Gよりもさらに高度な無線通信システムです。4Gから5Gになることで、通信速度が約20倍になり、多数の端末への同時接続が可能になるといわれています。5G によりIoT化が加速するとも考えられています。


なお、ソフトバンクでは、これらすべての技術をサービスとして提供しています。専門的な知識を持つソフトバンクのような企業とともにDXを進めていくのもひとつの方法でしょう。

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「DX推進ガイドライン」の概要

では、実際にDXを推進していくには、どうすればいいのでしょうか。ひとつの指針となるのが、経済産業省が2018年10月に取りまとめた「DX推進ガイドライン」です。

同ガイドラインは、DXの実現やその基盤となるITシステムの構築を行っていく上で経営者が押さえるべき事項を明確にすること、取締役会や株主がDXの取り組みをチェックする上で活用できるものにすること、を目的に策定されました。
その内容は

(1)DX推進のための経営のあり方、仕組み
(2)DXを実現するうえで基盤となるITシステムの構築

の2部構成になっています。次に、それぞれの概要を紹介します。
 

(1)DX推進のための経営のあり方、仕組み

第1部は、下記の5項目で構成されています。

1:経営戦略・ビジョンの提示
2:経営トップのコミットメント
3:DX推進のための体制整備
4:投資等の意思決定のあり方
5:DXにより実現すべきもの:スピーディな変化への対応力


まず項目1では「デジタル技術を活用してどんな新たな価値を生み出すかという目標を明確にし、そのために必要な経営戦略やビジョンを提示できているか」というDX推進にあたっての基本姿勢が問われています。加えて、「経営者にビジョンがないのに『AIを使って何かやれ』と部下に丸投げする」といった失敗ケースも例示されています。

項目2では、「経営トップが強いコミットメントを持って変革に取り組めているか」と、経営者のリーダーシップに言及。

項目3では、DX推進に向けた体制整備に必要な要素として、各部門で社員らが新たな挑戦を積極的に行っていく「マインドセット(心理状態)」、ビジョンの実現に向けてデータやデジタル技術の活用を「推進・サポートする体制」、デジタル技術やデータ活用に精通した「人材」の3つを挙げています。

項目4では、DX推進のための投資に関して、コストだけでなくビジネスに与えるインパクトを勘案しているか、他方で定量的なリターンを求めすぎていないか、はたまた投資そのものを実施していないことのリスクについて言及。

最後の項目5では「ビジネスモデルの変革が、経営方針転換やグローバル展開等へのスピーディな対応を可能とするものになっているか」と問い、変化への対応力を身につけることの重要性を強調しています。

(2)DXを実現するうえで基盤となるITシステムの構築

続く第2部は、「体制・仕組み」と「実行プロセス」に分かれており、下記の計7項目で構成されています。

(2)-1 体制・仕組み

6:全社的なITシステムの構築のための体制
7,8:全社的なITシステムの構築に向けたガバナンス
9:事業部門のオーナーシップと要件定義能力

(2)-2 実行プロセス

10:IT資産の分析・評価
11:IT資産の仕分けとプランニング
12:刷新後のITシステム:変化への追従力

前半の「体制・仕組み」では、主に、「事業部門ごとにデータやデジタル技術を活用できる基盤と、それらを連携できる全社的なITシステムを構築するための組織や役割分担などの体制が整っているか」「全社的なITシステムを構築するにあたって、ブラックボックス化しないガバナンスを確立しているか」といった体制やガバナンスづくりのポイントが、先行事例や失敗事例を交えながら述べられています。

先行事例としては、「経営レベル、事業部門、DX推進部門、情報システム部門からなる少人数のチームを組成し、トップダウンで変革に取り組む」といったケースが、失敗事例としては、「これまで付き合いのあるベンダ企業からの提案を鵜呑みにしてしまう」といったケースが紹介されています。

後半の「実行プロセス」では、「デジタル技術の活用によってビジネス環境の変化に対応し、迅速にビジネスモデルを変革できる領域を定め、それに適したシステム環境を構築できるか」「経営環境の変化に対応して、不要なITシステムは廃棄できているか」など、IT資産の仕分けやシステム移行のプランニングの際に留意すべきポイントが示されています。
加えて、「IT資産の現状を分析した結果、半分以上が利用されていないITシステムであり、これらについては、廃棄する決断をした」といった先行事例も紹介。

最後の項目では、「刷新後のITシステムには新たなデジタル技術が導入され、ビジネスモデルの変化に迅速に追従できるようになっているか」というチェックポイントが示され、ここでも変化への対応力が重視されています。

デジタル経営改革のための評価指数の策定

さらに経済産業省では、2019年7月、民間企業におけるDXの推進を後押しするため、経営者や社内の関係者が現状や課題に対する認識を共有し、アクションにつながる気づきを与える評価基準として、「DX推進指標」を策定しました。

経営幹部、事業部門、DX部門、IT部門などが議論をしながら各項目に回答することで、簡単にDX推進の進み具合を診断することができます。「DX推進指標」は、次の2つからなります。

  • DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標
    「DX推進の枠組み」(定性指標)、「DX推進の取組状況」(定量指標)
  • DXを実現するうえで基盤となるITシステムの構築に関する指標
    「ITシステム構築の枠組み」(定性指標)、「ITシステム構築の取組状況」(定量指標)

定性指標には、DXを進めるうえで日本企業が直面している課題やそれを解決するために押さえるべき要素を中心に、35の項目が定められています。

DX推進のための経営、仕組み、ITシステムの構築に関する指標

各社の自己診断結果をIPA(独立行政法人情報処理推進機構)に提出すると、自社の診断結果と全体データを比較できるベンチマークが作成されます。これにより各企業が他社との差を把握し、次のアクションを考えるきっかけを得ることが期待されています。

「2025年の崖」への対策としてDX推進は補助金を活用

「2025年の崖」と呼ばれる既存システムのレガシー化による維持コストの上昇や業務への支障を回避するためには、DXへの取り組みを進めることが重要です。ですが、DXは長期的に取り組むことが必要なので、継続的にIT投資をすることにもなります。こうした投資は中小企業にとっては大きな負担になり、そのためにDXへの取り組みに積極的になれないケースもでてきます。
そうした場合に検討したいのがIT導入補助金といった国の制度です。
補助額は30〜450万円で、補助率は2分の1。補助の対象はバックオフィス業務の効率化や顧客獲得のためのITツール導入です。
2020年のIT導入補助金の公募は中小企業庁のサイトに掲載されています。

まとめ

否応なしに急速なデジタル化が進むなか、企業はそれに迅速に対応し、DXの取り組みを本格的に実践していかなくては競争力を維持することはできません。今後は自動車、金融、医療、製造など幅広い業種で加速度的に取り組みが進むでしょう。
流れに遅れないためにも、まずはDX推進に向け企業が取り組むべき方向性を把握しておきましょう。

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