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IT技術の急速な発展により、社会の利便性が高まる現代。その一方で、犯罪の多様・巧妙化やインフラの老朽化といった社会課題も発生し、生活の安心・安全を守るためのセキュリティも重要性を増している。
このようなセキュリティ対策へのニーズから、防犯カメラ業界は近年急速に市場が拡大している。しかし、防犯カメラの設置によるセキュリティ強化には、工事やメンテナンスにかかるコストなどにより、大きなハードルがあった。
そこでソフトバンクが開発したのが、IoTカメラサービス「SecuLight(セキュライト)」だ。最もユニークな点は「蛍光灯一体型」であること。LED対応の蛍光灯器具がある場所ならば、はめ込むだけで設置可能。大幅に導入とメンテナンスのコストを削減することができるという。また、SIMが搭載されているためWi-Fiなどのネットワーク環境がない場所でも4G通信により遠隔で映像の取得が可能だ。
「SecuLight」の開発に携わった、ソフトバンク デジタルトランスフォーメーション本部の伊藤文武(いとう ふみたけ)氏と、同社 クラウドエンジニアリング本部の廣瀬徹弥(ひろせ てつや)氏の両名に話を聞いた。
――「SecuLight」のサービス概要について教えてください。
伊藤:LED蛍光灯とネットワークカメラがひとつになったサービスです。
株式会社MOYAIと「IoTube(アイオーチューブ)」という端末を共同開発し、ソフトバンクが本体機器の設置から、4Gデータ通信、クラウド環境や専用のウェブアプリケーションの整備、また実際の保守や運用に至るまでを担当しています。
ソフトバンクが掲げる「テクノロジーの力で社会課題を解決していく」というビジョンのもと、スマートシティの実現に向けた取り組みの1つと考えています。
廣瀬:「SecuLight」ではファーストステップとして、防犯分野に着目しました。
公共施設のような、不特定多数の人が出入りする場所を管轄する企業にとって、防犯カメラの導入は喫緊の課題です。
しかし、防犯カメラは導入したからといって売り上げが伸びるような製品ではありません。つまり、導入の必要性はあっても、それが企業の直接的な利益には結びつかないのです。そこで、防犯カメラの導入を検討する企業にとっての「3つの課題」が浮かび上がってきました。
防犯カメラの取り付けには、本体費用と工事費用をあわせて、1台当たり平均20万円程度かかるといわれていて、設置のための工事には時間と人手も要します。また、老朽化した建物などでは、耐震面の影響から壁に穴を開けられず工事ができない場合もあります。
そして、最近ではネットワークカメラも増えてきたものの、まだまだアナログカメラが一般的。アナログカメラでは、端末から直接映像を取り出したり、日々の稼動確認をしたりと、余分な労力がかかってしまいます。
――それらの課題は、「SecuLight」で解決できるのですか。
廣瀬:「SecuLight」の大きな特長は、LED蛍光灯と一体化したネットワークカメラであること。いつもの蛍光灯を取り替えるだけで、たちまち防犯カメラの役目を果たすのです。
蛍光灯の交換作業自体は、誰にでも簡単にできるものなので、工事の手間や費用がかかりません。また、蛍光灯をはめ込める環境さえあれば、工事不可となるリスクもなし。さらにWi-Fi環境でなくてもモバイル通信によって、撮影した映像を遠隔地からいつでも確認できます。
――具体的にはどのようにして使用するのでしょうか。
廣瀬:「SecuLight」では、「防犯映像の閲覧」「防犯映像の保存」「アクセス権限管理」「デバイスの遠隔状態監視」という4つの機能を提供します。
まず、カメラが24時間常に映像を撮影して、その映像データをカメラ本体に付属のmicro SDカードに保存します。データの保存期間は7日間で、7日を過ぎた分の映像は自動的に上書きされていきます。
保存された映像を見るには、ユーザがPCなどの端末からWebアプリケーションを立ち上げ、「どのカメラの、いつの映像かほしいか」という情報を入力して送信します。
ソフトバンクの4Gネットワークを経由して、「IoTube」が受信すると、要求に応じた映像データをクラウドにアップロード。ユーザはクラウドに上がったデータを閲覧・ダウンロードできる仕組みです。
もちろん、PC1台につき1台のカメラというわけではなく、複数の端末から複数のカメラのデータを取得することが可能です。たとえば「このユーザはこのカメラにアクセス可能」というように、個別にアクセス権限を設定できます。
また、カメラはネットワークにつながっているので、万一カメラに不具合が起きた際には、ただちにユーザにアラートが届くようにもなっています。
――「SecuLight」のアイデアが生まれた経緯について詳しく教えてください。
伊藤:もともとあったのは「ソフトバンクの強みであるネットワークを活用し、独自のサービスとして事業化して、社会に貢献していきたい」という私自身の思いです。今から6年以上前、MOYAI社の代表取締役CEOである渡邊亮さんと一緒にそんな話をしていて、出てきたアイデアのひとつが「SecuLight」です。
ですが、このアイデアは最初、ソフトバンク社内でもなかなか受け入れられませんでした。
――事業化する上でのきっかけとなったのは何でしょうか。
伊藤: 社内の人間を納得させるためには、「このサービスが社会から必要とされている」という事実を証明する必要がありました。それはつまり、「SecuLight」を使いたいというお客さまを実際に見つけてくることです。
そんな中、偶然にも最初の訪問で出会ったのが、東急電鉄様でした。東急電鉄様では、鉄道車両内における安全性向上に対する社会的ニーズの高まりや、東京オリンピック・パラリンピック開催を見据えて、鉄道利用者へのさらなる安全・安心な車内環境の提供を実現するため、2020 年7月までに全車両への防犯カメラ設置を目標 としていました。
しかし、鉄道車両への防犯カメラ設置は、長期間に渡る工事の間車両を休止させなければ ならないことや、新たな配線を車両内に敷設する等の工事により多額のコストがかかって しまうといった課題があり、より低コストかつ短期間で設置可能な方法を模索していました。
――まさに、「SecuLight」が求められる条件が揃っていたのですね。
伊藤:私が初めて東急電鉄様の担当の方を訪ねた時は、まだ「SecuLight」のデモすらできていませんでした。本来であればすぐに追い返されても仕方ない状況だったのですが、非常に好意的に話を聞き入れてくださり、「それが本当に開発できるのであれば、私たちにとっても夢のような話。ぜひとも協力したい」とまで言ってくださり、東急電鉄様との協力関係がスタートしました。
それからは、実際に車両を見学させてもらったり、現場の技術的な課題をヒアリングさせてもらったりしながら、そこで得たノウハウを開発に生かしていきました。
そして2019年4月、「SecuLight」の最初のプロトタイプが完成しました。視野角160度の超広角レンズを搭載したことで、車両に8つあるドアのうち、千鳥配列で4つのドアの上に合計4本の「IoTube」を設置すれば、車両内をくまなく見渡せる。導入にかかるコストを圧倒的に削減することが可能となるモデルでした。
さっそく翌月の5月末から、東急電鉄大井町線の車両に試験導入を実施。「IoTube」本体の強度や画像の撮影角度、電波状況を確認し、東急線各車両への本導入に向けた仕様の検討を行いました。
現在は検討がひと通り完了し、2020年春のサービス提供開始にあわせて、段階的に設置を進めていただく予定です。
――「SecuLight」のサービスは、鉄道業界のほかにどのような業界で活用されていく予定でしょうか。将来に向けての展望をお聞かせください。
廣瀬:小売、介護、倉庫などの分野のお客さまと、現在サービス導入の話を進めているところです。東急電鉄様との取り組みが始まったことで、世間からの注目が集まり、さまざまな業界のお客さまが関心を持ってくださるようになりました。
「IoTube」の長さ1,198mmというのは、現在最も普及しているLED蛍光灯のサイズです。基本的には、この蛍光灯がカバーなどに包まれていない状態で設置できる環境さえあれば、どんな業界のお客さまにもご利用いただくことが可能です。
伊藤:「SecuLight」は、防犯を起点として始まったサービスではありますが、今後想定される使い方は、必ずしも防犯の目的だけではありません。
先日とあるスーパーマーケットで実証実験を行ったのは、「Seculight」を「商品棚の品出し管理」に活用するというもの。商品棚にきちんと弁当が補充されているか、カメラの映像を本部がチェックして、もし品出しが必要であれば現場のスタッフに連絡します。
これは「Seculight」を店舗業務の改善に生かすという考え方です。
「SecuLight」のWebアプリケーションであれば、複数の店舗の状況をひとつの画面で同時にチェックすることが可能なため、迅速かつ効率的にモニタリングの作業を行うことができます。同様に、介護業界や倉庫業界などの現場においても、こういった現場改善のための使い方ができると見込んでいます。
さらには、こうして得られたデータを蓄積していくことによって、例えば「顧客の導線解析」などのマーケティング業務に生かすこともできます。これから導入事例が増えれば、新たな活用の可能性も見えてくることでしょう。
私たちが目指すのは、お客さまのニーズを汲み取り、それに応じて「SecuLight」の機能をアップデートし続けていくこと。そうして、やがてはより広く社会に貢献できるサービスとして、「SecuLight」を成長させていければと願っています。
AI、IoT、5Gなど、最新テクノロジーが生まれているにも関わらず、未だにイノベーションが起きない。そんな場合、「コスト」と「ハード」、「法律」などが障害となっているケースが多い。イノベーション創出には技術の進化だけでなく、それらの技術をマーケットにフィットさせる段階でさらなるアイデアが必要になる。その意味で、既存の技術を組み合わせて生まれた「SecuLight」というサービスは、1つの「発明」だと言えるだろう。顧客のニーズを汲み取りながらアップデートしていくという、「SecuLight」の今後の展開に注目したい。
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