【孫正義】AI第三世代の未来図|SoftBank World 2020ダイジェスト

2020年11月12日掲載

初のオンライン開催となった「SoftBank World 2020」。10月29日に行われた基調講演の前半では、ソフトバンクグループの代表取締役会長 兼 社長※の孫正義とNVIDIA(エヌビディア)の創業者/CEOジェンスン フアン氏との対談が実現。AIの未来について語った。

基調講演の後半ではソフトバンク・ビジョン・ファンドの出資先企業によるAI活用最新事例を孫が紹介。AI革命はすでに人々の暮らしを大きく変えている。本記事は、基調講演の内容をダイジェストで紹介する。

 

<プロフィール>
孫 正義
ソフトバンクグループ株式会社
代表取締役会長 兼 社長※
※ 11月9日付で「代表取締役 会長兼社長執行役員」

ジェンスン フアン
NVIDIA
創業者/CEO

目次

4年前に2人で語ったAIの未来が現実に

冒頭、孫はAIの今後の展望について「AIはクラウド側で発展を遂げてきたが、これからはエッジ(端末)側にも組み込まれる。エッジとクラウドが相互にやりとりをしながら、インテリジェンスを高める時代が来る」と述べた。

フアン氏と孫は、4年前に米国にある孫の自宅で夕食を共にする機会があり、AIの未来について話し合ったという。

ソフトバンクグループは2020年9月14日、エッジコンピューティングにおける世界最大手のArm(アーム)をNVIDIAへ売却することで合意したことを発表。今後各国の規制当局による承認を前提として本取引が完了すれば、エッジに強みを持つArmとクラウドとAIに強みを持つNVIDIAが合併し、ソフトバンクグループはNVIDIAの筆頭株主になる。

孫はこの事実を「ジェンスン フアン氏と4年前に語った夢が現実になる」と表現した。

フアン氏は「2人で会うといつも何か大きなアイデアについて話していますね。その1つがAIです」と応じ、AIの可能性について次のように語った。

「AIこそが現代の最もパワフルなテクノロジーです。歴史上、初めてコンピュータ自身がソフトウェアのコードを書けるようになりました。

人間の創造性はいまだに比類ないもので、独自のアイデアを思いつく能力にかけては人間に並ぶものはいません。しかし、AIの優位性は規模にあります。膨大な量のデータから学び、それに基づいて将来を予測し推測することだってできるのです。

私たちの最大の功績は、AIが最新のコンピュータ科学だという認識を世に広めたことでしょう」(フアン氏)

企業は巨大なAIと同義になる

孫は、これまでのコンピュータの歴史を振り返り、「コンセプトの大転換に人々は気づくべき」と語る。

「コンピューティングの第一段階は『演算』、第二段階は大量な情報の『記憶』、そして次にそこから必要なものを探し出す『検索』です。これまでコンピュータはこれらの目的で利用されてきました。

そして、ついにコンピュータには目や耳を持つようになりました。話し声や人が見ているものを識別し、学習できるようになったのです。ということは、コンピュータを利用する目的もこれまでとはまったく異なるものになるはずです」(孫)

フアン氏はこれに「認識、推論、計画、これらを大規模かつ高速に行える。コンピュータは拡張した知能だ」と応じた。

特定の分野においては、すでにAIのケーパビリティは人間の能力を越えている。その例として、金融業界、小売業界におけるNVIDIAの事例が紹介された。

アメリカン・エキスプレスでは24時間、AIで不正行為を瞬時に検出できるサイバーセキュリティが導入されている。

また、ウォルマートでは、地域や店舗毎にAIが自動で在庫計画を立てているという。フアン氏は「将来的にはウォルマートという企業は1つの巨大なAIと同義語になる。すべての企業はAIになる」と述べた。

その後、孫はこれからの人間の役割について次のように語った。

「私たちには心があります。他人に優しくしたい、役に立ちたいと願うのが人間です。AIを判断や意志決定の道具のために使いますが、その最終目標は人間の幸福や喜びなのです」(孫)

AI第三世代までの変遷

60億人がインターネットを利用する時代、データ量は膨大になり、そこから求めている情報を検索することは不可能になりつつある。

これに伴い、インターネットの主力は「検索」から「レコメンデーション」に移っていったという。フアン氏はこのレコメンデーションの裏で駆動するAIを第一世代と呼んだ。

そして第二世代が企業の基幹システムのAI化。つまり「すべての企業がAIになる」状態だという。では第三世代とはどのような状態なのか──。フアン氏は次のように語る。

「かつて私とあなたでAIの将来について語りましたね。AIが外の世界に解放されるとき、それこそが第三世代です。建物も車も、義足も、すべてがロボットになるのです。それこそが人類の未来です」(フアン氏)

なかでも最も巨大になる産業が、自動運転だという。孫は「自動運転は人間の運転と同じくらいに安全なのかと問う人がいますが、自動運転は人間の運転より安全です。将来的には、自動運転が輸送の中核となり、人間は趣味として車を楽しむようになるでしょう」と語った。

AI第三世代を現実にするNVIDIAとArmの合併

自動車だけでなく、街のあらゆるものが自律的に動く、AI第三世代の世界。孫は「それらにはすべてエッジAIが組み込まれている」と述べた。

「端末側のAIは高速で動き、かつスマートでなければなりません。エッジAIは動くものに組み込まれていることもあれば、建物や街路など動かないものに組み込まれていることもあります。

エッジAIとクラウドAIが超並列処理をしシームレスにやりとりをする、そこをつなぐのは5Gです。

クラウドAIはエッジAIが集めてきた情報を学習し、学習内容をすべての端末に返します。この学習のサイクルは極めて高速で、どんどんと賢くなっていく。言わば集団思考のようなものです」(孫)

フアン氏は話を受け、改めてNVIDIAとArmの合併の理由について言及した。

「今日の世界におけるクラウドとAIは、x86とNVIDIAで構成されています。そしてエッジ側に使われているのがArmです。だからこそ、ArmとNVIDIAを組み合わせるのが合理的です。NVIDIAのAIを世界で最も普及したエッジCPUと組み合わせることができるようになるのです。

そしてArmの真の価値は世界最高のCPUのパフォーマンスではなく、Armを利用する500社のエコシステムにあります。私たちの夢はNVIDIAのAIをArmのエコシステムに参加させることです。NVIDIAにはエッジコンピューティングに提要できるノウハウがありますから、エッジAIの進化に貢献することができます」(フアン氏)

孫とフアン氏が4年前に話したAIの未来は、その多くが今、現実になっているという。 今回の講演で語ったAIの未来も、もうすぐそこまでやってきているのだろうか。

基調講演の後半では、AIが具体的にどのように活用されているのか、ソフトバンク・ビジョン・ファンド出資企業の事例が紹介された。

【事例① AI×創薬】新型コロナの治療薬開発にAIを活用「VIR」

新型コロナウイルスが世界中で猛威を奮っている中、その治療薬の開発にAIを活用しているのがアメリカの「VIR(Vir Biotechnology)」だ。

【事例② AI×新素材開発】AIで開発コスト減&スピードアップ「Zymergen」

新素材の開発をする「Zymergen」では、AIを使って実験を自動化すると共に遺伝子の組み換えを設計し、圧倒的なスピードで効率良くテストを実施している。

これによって1つの新素材を開発するコストを1/10に縮小し、開発期間を10年から5年ほどに短縮することが可能になったという。電子製品向けの高機能フィルムや次世代工学フィルム、天然成分由来虫除け剤など、幅広い分野で革新的な素材の開発につながっている。

【事例③ AI×創薬】AI活用で新薬開発を加速「XtalPi」

新薬の開発にAIを導入しているのが「XtalPi」だ。新薬開発における従来の分子シミュレーションは精度が低く、予測にも時間がかかっていた。同社ではAIと量子物理学とクラウドを組み合わせることでそのプロセスを10倍のスピードに向上した。

【事例④ AI×デジタル医療】14日前に心不全を予測する「Biofourmis」

AIを活用して心臓疾患の事前予知や最適投薬量などを知らせるデジタル医療プラットフォームを手がける「Biofourmis」。410万人の患者データを解析し、バイオマーカー(特定の病状の指標)、どんな治療をしたらどんな結果になったかなどのデータを分析。その結果、心不全を14日前に99%の精度で予測することを可能にした。急な心不全で亡くなる人や再入院率を減少させることにつながり、医療費の削減にも役立てることができる。

【事例⑤AI×オンライン教育】 AIが宿題支援。家庭教師プラットフォーム「Zuoyebang」

中国の「Zuoyebang(作业帮)」は、スマホで問題を撮影すると瞬時に回答手順と答えを提示してくれる。問題を理解するために2億5千問のデータをAIに蓄積させており、問題を認識すると瞬時にマッチングさせる仕組み。中国では月間アクティブユーザ数が1億7千万人に到達。AIが出してくれる類似問題をいくつも解くことで、学生は問題の理解をより深め、問題を解く能力を身につけることができる。

【事例⑥AI×眼鏡販売】 似合う眼鏡をAIがリコメンド「Lenskart」

インドの「Lenskart」はレンズの削り出しから販売まで一気通貫で提供するサービスで、AIを活用することで新しい購買体験を生み出している。

アプリでユーザの輪郭データを読み取り、視力や目からカメラまでの距離をAIで測定し、どのように眼鏡が顔にフィットしているかをリアルタイムで表示するほか、顔のタイプや大きさに合わせてオススメの商品も提示してくれる。手軽な価格後でわずか1〜2日後にカスタムメイドされた眼鏡が自宅に届くことから急成長している。

【事例⑦AI×配送ロボット】自動運転で安全に食品をデリバリーする「Nuro」

自動運転配達のスタートアップ「Nuro」は、小型の無人自動車で商品を配達するサービスを展開。アメリカではカリフォルニア、アリゾナ、テキサスの3つの州ですでに認可がおり、一般道路を走行している。

時速は約40キロ、自動車の1/4ほどの大きさで事故のリスクは低く、アメリカではピザや生鮮食品のデリバリーの運用が本格的に始まろうとしている。

【事例⑧AI×デジタルメディア】AIが最適なコンテンツを提供する「ByteDance」

「TikTok」を提供する「ByteDance」では、AIを活用してパーソナライズ化した動画コンテンツを提供している。従来は好きなもの、知りたいことを入力して検索するのが一般的だったが、「TikTok」ではユーザの好みのジャンル、スクロールのスピード、熱心に見ているのかリピートしているのかといった行動などをAIが分析し、最適なレコメンドの動画を表示。エンタテインメントの楽しみ方をAIが大きく変えつつある。

【事例⑨AI×住宅売買】物件取引から内覧まで対応する住宅売買プラットフォーム「Beike」

中国で急成長しているAI住宅売買プラットフォーム「Beike(貝殻找房)」。データベースには2億3千万件の物件が登録されている。

AIを使って物件の取引をすることができ、成約や価格の予想も可能。また、バーチャルリアリティで内覧する機能や、自分好みの内装の雰囲気を確認できるホームデザイン機能などもある。

【事例⑩AI×Eコマース】需要予測、物流効率化にAIを活用「Coupang」

韓国のEコマース大手「Coupang」では、需要予測から配送に至るまですべての工程でAIを活用。商品が注文される前から需要を予測し在庫を確保したり、倉庫でのピッキングの際は従業員の歩行距離を最小にするルートを選定。また、配送においてはトラック内の最適な積載位置や最適な配送ルートの提案をAIが行っている。

情報革命で人々を幸せにする

今回取り上げた10の企業のように、AIによる革命はますます加速している。孫は講演の最後に、次のように語った。

「AIは快適な豊かな世界をもたらしてくれる。事故や病気で人が亡くならないように、人々がエンタテイメントをもっと楽しめるように、買い物をもっと快適にするために、AIによる情報革命はますます進んでいくでしょう。

私は非常にポジティブに捉えています。このエキサイティングな時代に生まれたことを幸せだと思い、この革命に貢献していきたい。世界のAI革命の潮流に乗り遅れないように一緒に頑張っていきましょう」(孫)

編集後記

孫とフアン氏が4年前に語ったという「AIの未来」は、すでに現実のものとなっている。ソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資する世界各国の企業はAIサービスの社会実装に成功しつつある。AIがもたらす社会はもう未来の話ではない。これから日本でもAIは黎明期から成熟期へと移行し、多くの変革を社会にもたらすに違いない。

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