2021年5月26日掲載
最近、中国のデジタル事情について継続的に情報発信して欲しいと読者の方からの要望をいただいております。
特に中国の製造業におけるDX(Digital Transformation=デジタルトランスフォーメーション)の最新動向にについて多くの方から関心を寄せていただいております。少しでも多くの方に役立てることができるように、このコラムを継続していきたいと思います。
これまでに、世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)に選出された「ライトハウス工場(Lighthouse、灯台)」のうち、服装製造業界では「アリババの迅犀(シュンシー)デジタル工場」、自動車製造業界「上汽大通(SAIC Maxus Automotive)の南京工場」、電子製品製造業界「フォックスコンのデジタル工場」、家電製造業界「美的集団のスマート工場」と各業界の代表的な事例を紹介しました。
今回は総合家電メーカー「ハイアールグループ」のDX事情を紹介します。
ハイアールグループ(Haier)は、1984年に青島に設立され、30年以上の発展を経て、今は、冷蔵庫、冷凍庫、洗濯機、掃除機、キッチン、エアコン、食器乾燥機、電子レンジ、テレビなどを生産・販売する中国の代表的な総合家電メーカーとなっています。
Euromonitor International市場シェアランキングにおいては、12年連続で家電ブランド1位に選ばれおります。3つの子会社が上場しており、そのうち「ハイアールスマートホーム」はアメリカのビジネス雑誌『フォーチュン』のGlobal 500にランクインしています。
ハイアールは、エコシステムブランド戦略を策定しており、日本で展開している「Haier」、「AQUA」ブランドに加え、「Casarte」、「Leader」(中国)、「GE Appliances」(アメリカ)、「Fisher & Paykel」(ニュージーランド)、「Candy」(イタリア)と7つのブランドを保有しています。。
また家電領域以外にも、インダストリアル・インターネット・プラットフォーム(産業インターネット)を提供する「COSMOPlat」、生物医療製品を提供する「ハイアール生物医療」など、多くのブランドを展開しています。
ハイアールは、世界的にビジネスを展開するグローバルネットワークを構築しており、世界中に10以上のオープン・イノベーション・システム、28カ所の工業団地、122カ所の製造拠点、108カ所のセールス拠点と14万カ所に及ぶ販売ネットワークを有しているのです。
グローバルビジネスを展開している中で、ハイアールは、世界的な競争力を高めるために、独自の理念「人単合一」を提唱しています。
「人単合一」(Rendanheyi=Integrating order with personnel)とは、「人」は人材・従業員を、「単」は顧客からのオーダーを意味する「訂単(注文)」を意味しており、人材と注文を統合させる理念となります。
「人単合一」の理念とは、従業員が皆、単に会社のポジションに属して働くものではなく、顧客のために働いていることです。一人ひとりの従業員は、顧客と関連付けて、顧客のために自分ありの価値を創り出す必要があります。そのために、オーダーの獲得・デリバリー・アフターサービスといったサイクルを中心に、自ら、より良い顧客体験を実現しようとしなければなりません。
この「人単合一」理念の根幹は、従業員一人ひとりは顧客体験を向上するとともに、顧客に自分の欲しい商品のデザインから製造まで参画できるエコシステムを提供することにあります。
ハイアールはこの実践に数十年をかけて、①デジタル化アップグレード、②コネクテッド工場、③ライトハウス工場、④COSMOPlatエコシステムといった道を歩んできました。
現在、ハイアールはCOSMOPlatエコシステムの構築に取り組んでいます。ここでは、直近フェーズのライトハウス工場とCOSMOPlatエコシステムについて説明します。
ハイアールは、社内工場のデジタル化を進め、2カ所がライトハウス工場として認定されています。2019年に、青島にあるセントラルエアコン コネクテッド工場が初めてライトハウスとして認定され、続いて2020年に瀋陽の冷蔵庫コネクテッド工場が認定と、中国企業の中で初めて2つの工場が認定された会社でもあります。
WEFのレポートでは、青島工場に対して「顧客の需要に応え、新しいビジネスモデルを革新するためにデジタル・マニュファクチャリング・トランスフォーメーションを発展させた」、そして瀋陽工場に対しては「瀋陽冷蔵庫工場は、顧客中心のマス・カスタマイゼーションモデルの一例。サプライヤーやユーザーとエンドツーエンドで接続するスケーラブルなデジタルプラットフォームを導入することにより達成され、直接労働の生産性が28%向上した」と評価されました。
いずれにしても、顧客中心のデジタル・マニュファクチャリングが高く評価されていることがわかります。工場のデジタル技術の活用、社会へのインパクトなどの視点から評価されているポイントは、具体的に以下の通りです。
ハイアールのライトハウス工場は、製造プロセスの面で「人単合一」理念を具現化し、顧客からの注文によりマス・カスタマイゼーションを実現しました。いわゆる「C2B(※)」方式です。このC2B方式は、今まで紹介した「アリババの迅犀(シュンシー)デジタル工場」、「上汽大通(SAIC Maxus Automotive)の南京工場」にも適用されています。
※C2Bは、Customer to Businessの略で、顧客・消費者側から企業・ビジネス側へ取引の条件を設定するビジネスモデルを指します。
技術的には、COSMOPlatは、エッジ側も含めてIaaS、PaaS、SaaSから構成されており、レイヤーごとに共通モジュール、中核モジュール、サービスツール、カスタマイズアプリ・APIなどを提供します。
ハイアールは、このCOSMOPlatを中心に、インダストリアル・インターネットのエコシステムを構築すべく、2017年にCOSMOPlatビジネスの専門会社(オフィシャルサイト:COSMOPlat.com)を立ち上げました。
それ以降は、インダストリアル・インターネット・プラットフォームの構築・運用、インダストリアルインテリジェンス技術の研究開発、スマートファクトリーの建設及びシステムインテグレーション、エネルギーマネジメントなどの業務に取り組んできました。
今は下図の通り、2カ所がライトハウス工場と認定され、約790件の知的財産権を保有し、約20カ国に提供し、グローバル的にインダストリアル・インターネットのベストプラクティスを展開しています。COSMOPlatのブランド評価価値は約557.67億人民元(約89億ドル)、企業評価価値は約10億ドルになっています。
2021年3月に青島ビール社の工場が世界でビール業界初のライトハウス工場として認定されました。この工場で利用されているインダストリアル・インターネット・プラットフォームはCOSMOPlatです。
COSMOPlatは、ハイアールグループ内の工場だけではなく、外部に対してもそのノウハウを提供するビジネスモデルが確立されていることを意味しているとも言えます。
ハイアールは、中国家電業界のリーディングカンパニーとして実業のコアコンピテンシーを持ちながら、経営管理思想などの面でも革新的なコンセプトを生み出しています。競争が非常に激しいこの時代に、ハイアールは果たしていつまで今の業界地位を持っていけるのか、それは今後のDX取り組み次第ではないかと思います。引き続き注視していきたいと思います。
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