AI活用とアナログな工夫を重ねた、ソフトバンクのコールセンター改革事例

2022年12月13日掲載

コールセンターで働く女性

昨今、あらゆるビジネスのDX化が進んでいます。今回はコミュニケーションの一つである「声」のデジタル化について、ソフトバンクのカスタマーサポート事例を交えてお伝えします。

※本ブログは12月8、9日に開催されたイベント「Communication Tech Conference 2022」のソフトバンク講演「コミュニケーションDXの最前線~『声(コエ)』のデジタル化による新たな顧客体験とは~」を再編集したものです。

目次
ソフトバンク株式会社 石井基章

石井 基章

ソフトバンク株式会社
法人事業統括
プロジェクト推進第二統括部 統括部長
兼)クラウドボイスサービス部 部長

ソフトバンク株式会社 土屋馨

土屋 馨

ソフトバンク株式会社
コンシューマ事業統括部
カスタマーケア&オペレーション本部
CS企画統括部 統括部長

繋がらない電話、進まない“コエ”のデジタル化

コロナ禍を経験し、繋がらない電話もあったのではないかと石井は語ります。

石井「例えば、コロナワクチンの予約です。電話しても繋がらないため、かけっぱなしで午前中が終わってしまったという話も聞きます。我々の親世代である60〜80代にとって電話が繋がらないことは深刻な問題です。繋がらない電話に対して、LINEやメール、Webが使えるスマートフォンのような、高齢者でも使えるコミュニケーション手段も考えねばなりません」

声のデジタル化の現状

電話のような声のコミュニケーションのうち、98%はデジタル化が進んでいない と当社調べにより分かりました。

石井「進んでいると答えている2%には、コールセンターなどの電話対応をクラウドに録音するといったケースが該当します。利用者が問い合わせをしたりクレームを言いたい時にはコールセンターへ電話をかける人が多いと思います。実態として 顧客接点の92%が電話 です。日本はシニア層の方々が多いので、LINEは使えるものの、Webで問い合わせをしたりチャットで解決していくのは難しく、電話で伝えた方が早いという意識もあります。
これは一般利用者向けの話ですが、法人向けも同じです。サービス導入検討時の細かい確認や交渉したい場合は、直接電話をすることの方が多いと思います。実際に61%の方がそう答えています」

声による顧客対応の現状

コロナ禍におけるデジタル活用

コロナ対応における声のデジタル活用

“コエ”のデジタル化の事例として、皆さまも経験されたかと思いますが、自治体の保健所の事例があります。

石井「保健所にはワクチン接種はいつからか、罹患したがどうすればよいか、自宅待機の指示をされたが食料はどうすればよいかなど各種問い合わせが多くあり、職員も疲弊していました。このような状況の中、一部の保健所や市町村では、これらのアナログな業務をデジタル化したという話があります。人間が受けていた電話をボイスボット※と呼ばれるAIロボットに対応させて、24時間365日対応できる体制を整えました。これにより、保健所の職員はほかの業務に時間を割けるようになりました」

※ボイスボット(Voice Bot):
音声認識や自然言語処理などの技術を活用し、AIを用いて顧客の発話の内容を解析し対応するシステム。ボット(Bot)とは、一定のタスクや処理を自動化するプログラムのこと。

これはデジタルとAIの活用において非常に秀逸な事例であると石井は言います。このような経験を踏まえて、有事ではなく日常使いでどうやって音声のデジタル・AI化を行っていくか というステージに入ってきました。

ソフトバンクが取り組んだカスタマーサポートのデジタル化

ここからは声のデジタル化をどうやって実用化のフェーズに進めたのか、ソフトバンクの事例を交えて、ソフトバンクのカスタマーサポートを管轄する土屋と石井との質疑応答が進みます。

ソフトバンクのカスタマーサポートにおける問い合わせ

ソフトバンクのカスタマーサポートは、ソフトバンクの携帯電話にご契約いただいているお客さまの窓口で、携帯電話に関する問い合わせを幅広く受け付けています。数千万にも及ぶ契約のサポート窓口なので、顧客がコールセンターに電話をかける理由であるコールリーズンも100を超えています。例えば、毎月の請求金額や支払い状況の確認、契約変更、自分にあった料金プランのご相談、もしくは携帯電話を他社に乗り換える時にナンバーポータビリティの予約番号の発行なども受けています。

Q.各種お問い合わせについて:どんな導線設計をしている?

土屋「お客さまの解決を速やかに行いたいため、お客さまの問い合わせごとに最適なサポートチャネルは異なる と考えています。例えば、目的や知りたいことが明確な方はいつでもご自身で確認できるWebが適しています。自分が困っていることをきちんと伝えられないような課題では、お電話やチャットのサポートでオペレータがお答えするのがよいと思っています。
また、ソフトバンクとしてオペレータから提案させていただきたい場合もあります。例えば、解約方法の確認やナンバーポータビリティ方法のお問い合わせについては、ソフトバンクを引き続きご利用いただけるような提案を一緒に実施しています」

Q.運営時にどのような課題が発生していますか?

土屋「我々に限らずコールセンター業界の共通課題だと思いますが、人材採用や人件費高騰などの課題があります。また、Webなどのデジタル化が進んでも、複雑な問い合わせは引き続き発生しますし、どうしても電話がよいといわれる方との 電話対応は引き続き残っていく と思っています。こういったことから、我々は 『電話対応の効率化』に取り組んでいくべき だと考えています」

Q.AI導入について:課題解決したいと思ったきっかけは?

土屋「電話の中でご契約者の本人確認など 『定型的なやり取り』は必ず発生 します。こういったやりとりであればボイスボットで効率化できるのではと考えました。また、コールリーズンが100以上ありますが、効率的に対応するために、IVR※のメニューを選んでいただきお問い合わせを振り分けています。ただ、このガイダンスは長くなってしまうため、お客さまに満足いただけてないのではという課題もあります。ボイスボットであればこの問題も解決できるのではと考えています」

石井「たしかに、ユーザの立場だとガイダンスが長くなりオペレータになかなか繋がらないと不満がたまりますね。コールリーズンが100を超える中で全てを対応していくことはか大変なので、AI化していく価値があるということですね」

※IVR:自動音声応答システム

Q.AI化の課題と対応策:フェーズごとに分けて対応を進めていますが、まず1stフェーズとして「本人確認」の課題と対応策について教えてください。

AIによる本人確認

土屋「携帯電話のご契約者さまからのお問い合わせは必ず『本人確認』を行います。本人確認は従来であればオペレータが30秒ほどかけて実施していました。こちらをボイスボット化することで、電話番号、生年月日、お名前などの基本的な情報はオペレータへつなぐ前に確認しています」

石井「オペレータが本人確認をしなくてよくなった ということですね。1件あたり30秒とはいえ数千万という契約数を考えると大きな効果ですね」

土屋「はい、全てのオペレータが同じことを実施するので大幅に効率化されます」

Q.AI導入・開発中:AIを導入してもなかなかうまくいかない話も聞きます。どの辺を工夫したか、どう乗り越えればよいか教えてください。

土屋「若い方からご高齢の方まで幅広い層の方からお電話をいただきます。発話をきちんと音声認識するために 10万件の問い合わせデータを教師データとしてAIに学習 させました。また、お客さまはボイスボットと対話することに慣れていないため、お客さまがガイダンスを聞いたときに迷わないようスピードなどを細かくテストして、お客さまに答えてほしい内容をきちんとお伝えできるように工夫しています。例えば、名前であれば『お名前をフルネームで』や、生年月日であれば『生年月日を西暦で』のように、より具体的にわかりやすくお伝え しています」

石井「教師データに頼るだけでなく、『お名前をフルネームで』など アナログな工夫を積み重ね ているのですね。人によって西暦か元号か迷いが出てしまった場合に、迷って電話を切ってしまわないという効果もありますね」

土屋「お客さまが音声を一度聞いただけで、それに対する回答を話さないといけないので、わかりやすさが重要 です。そこはかなり工夫をしました」

Q.導入後について:本人確認をボイスボット対応することで、お客さまやオペレータからどのような反応がありましたか?

土屋「お客さまからは、アナウンスがわかりやすい、認識精度が高くて驚いたなどの好評価をいただいております。オペレータからも、本人確認が終わった状態でお客さまとつながるため、冒頭から『〇〇様お電話ありがとうございます』とお声かけできるので、スムーズに問題から入れるようになった と聞いています」

石井「冒頭から〇〇様と言えるのはいいですね。言い過ぎかもしれませんが、ホテルにきたようなホスピタリティが電話で体験できるとよいですね。ストレスを減らした状態で対応できれば、カスハラ※対策などの問題にも効果がありそうなお話ですね」

※カスハラ(カスタマーハラスメント):
顧客側が企業に対して理不尽なクレームや度を越した要求、暴言などを行うこと。

Q.2ndチャレンジについて:現在検討されている次に解決したい課題について教えてください。

ボイスボットによる振り分け

土屋「次のチャレンジとしては、IVR自動ガイダンスの代わりに、ボイスボットによる振り分けを行っていきたい と考えています。IVRではお客さまが選択肢を聞いてその中から自分の問合せ内容にあったものを選ばなければならないため、メニューが多くなりがちです。場合によっては二階層、三階層と選択しなければなりません。お客さまからも何を選べばよいかわからないというご意見もいただいているので、これを割愛するだけでお客さまの満足度を向上できるのではと考えています」

石井「2ndフェーズは 通話の入口の改善 ですね。ここのボイスボット対応は発話のキーワードからアクションするイメージでしょうか」

土屋「はい、お客さまに一言お話していただくだけで、内容にあったオペレータにつなぐという運用です」

Q.ボイスボットの効果:IVRは昔からありますが、これをデジタル化するとどんな課題が解消され、どんなメリットがありますか。

土屋「お客さまからすると、要件を話すだけでメニューを選択せずに済むため、オペレータにつながる時間が短縮 すると考えています。弊社目線だと、自動ガイダンスのメニュー選択を間違えてしまったり、とりあえず1番を押すというお客さまもいらっしゃいました。
このような場合、担当外のオペレータにつながってしまうので、担当者に転送する間、余計にお待たせするということがありました。ボイスボットで自動振り分けすることで、転送する手間がなくなる と思っています」

Q.将来の展望について:更なる声のデジタル化の計画、展望について教えてください。

カスタマーサポート最終形

土屋「IVRの代わりとして振り分けを行った後、コールリーズンごとに毎回同じようなヒアリングをする必要があるので、簡単なヒアリングについてもボイスボットを活用していきたいと考えています。そして問い合わせ内容次第ですが、手続きの実施というところまで視野にいれて取り組んでいきたいです」

石井「AI化が難しいところですね。自動対応できるようにRPAを工夫したり、申込書をデジタル化するなどして、誰でもできるようにするのが最終形でしょうか」

土屋「はい、手続きまでボイスボットでできるようになると、オペレータは複雑なご相談やご提案など、人でしかできない業務に集中できるようになるのではと思っています」

対談を通して、3つのポイントがあると石井は語ります。

対談まとめ

石井「一つ目は声は最も大切な顧客接点であり、お客さまの声を聞くことはなくならないということです。二つ目として、困っているコトやヒトの声、意見に向き合うこと。そして三つ目は、全体最適化に最初から取り組まず、部分最適化と織り交ぜて進めることです。上層部と現場の意見それぞれを汲み取りながら、取り組む範囲を決めて行う必要があります」

デジタル化にはオペレーションとの組み合わせが重要

コミュニケーション×オペレーション最適化

コミュ二ケーションだけデジタル化してもビジネス価値は上がっていかないと石井は語ります。

石井「まずは既存業務を細分化していく必要があります。ソフトバンク事例の1stフェーズでもありましたが、最初のやり取りをデジタル化するのではなく、その後ろの工程から取り組みました。最初の工程から取り組みがちですが、業務を分解して2番目や3番目からデジタル化してみるのは大事なポイントです。それに加えて、業務をどうマイナーチェンジできるか、デジタルに置き換えられるのか、置き換えた時間の使い方や置き換えるコストはどうするかを考えないといけません。このようなオペレーションのデジタル化に加え、電話やLINE、チャットなど、どのコミュニケーションで行うかを検討し、部分最適しながら改善につなげていくことが重要です」

ソフトバンクのコミュニケーションDX戦略

ソフトバンクでは、既存の「音声」サービスに加えて、メールやチャットの「テキスト」、Web会議のような「映像」などを統合したユニファイドコミュニケーションと呼ばれるコミュニケーションサービスを提供しています。コミュニケーションDXとして、お客さまの状況に応じてフェーズを区切って導入いただけるようなサービス展開を実施しています。

我々にご相談いただければDXのノウハウを生かし、皆さまのデジタル化のご支援をさせていただきますので、ぜひご相談ください。

講演資料ダウンロード

下記より、講演資料がダウンロードいただけます。

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辻村 昌美
ソフトバンクビジネスブログ編集チーム
辻村 昌美
ソフトバンクで新規事業立ち上げなどを経験後、2020年より法人向けマーケティングに従事。中小企業や既存のお客様向けマーケティングを担当し、2022年よりコンテンツ制作に携わる。

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