人流とは? データの活用法・集め方・無料サービス
2023年3月30日掲載
人流とは
人流とは「人の流れ」を意味する言葉で、人がいつ、どこからどこへ移動したのか、どこにどれくらいの時間滞在したのか、どのような交通機関で移動したのかといった人の動きを指す言葉です。
昨今では、スマートフォンの普及や街中にあるカメラやセンサーの普及などから、人の位置情報が取得しやすくなってきています。こうした人の流れを統計的にまとめたデータは、官民を問わず交通や観光、都市開発などさまざまな分野での活用が進められています。また近年では、新型コロナウイルス感染症への対策としても注目を集めました。
現在では、ソフトバンクをはじめとする多くの企業が人流データの提供を開始しており、国土交通省も人流オープンデータを提供するなど扱える人流データの量も増加しつつあり、人流に高い注目が集まっていると言えます。
人流が社会や経済に与える影響
人間が行う多くの社会活動や経済活動には人の移動が不可欠です。人の移動を正確に把握することは近い未来を予測し対策を立てることに対し、極めて大きな示唆を与えます。人流が少ない地域では交通インフラは増強されず、商圏も小さく、観光業も成り立ちません。一方、人流が多い地域では多くの人流に耐え得る都市計画や交通インフラが求められるほか、災害時に多くの人がどう動くのかを想定した防災計画も必要です。
また、2019年に発生した新型コロナウイルス感染症の流行では、人流が抑制されたことで世界的にも経済が大きく停滞し、人々の感情や行動にも多大な影響を与えました。人は移動を通して社会活動や経済活動を行っていることを世界中の人々があらためて認識した出来事だったと言えるかもしれません。
こうした人の移動履歴や推移をデータとして「見える化」させる人流データの重要性は、総務省が令和元年6月に発表した『「人の移動データ」とその活用について』にて「人の移動データ分析は、さまざまな地域課題を解決するポテンシャルのあるテクノロジーである」と言及されており、実際にまちづくりや防災への活用、店舗における売上予測など行政から民間企業まで幅広い分野で活用されはじめています。
例えば内閣府が推進している「EBPM(Evidence Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)」では、人流データが欠かせないものになっています。また、EBPMのモデルケースである前橋市では、人口減少や高齢化、地域のさまざまな課題を解決するために「赤城山の人流分析」「中心市街地の人流分析」を行ない、それによって人流分析がこれまで現状把握にかかっていたコストを削減でき、リアルタイムでの実態把握にもつながったとしています。
人流が注目される背景
ICT技術の進歩によるデータ活用の広がり
スマートフォンの普及、ビッグデータの活用、AIによる分析などICT技術は日々進歩しており、こうしたICT技術の進歩を背景に人流データの活用が進んでいます。
総務省の「令和4年版 情報通信白書 データ集」では、スマートフォンを保有していると回答した人の割合は2021年には88.6%、モバイル端末全体では97.3%にまで至っており、現代において人は1人1台の端末を持って移動していると言える状況であることが示されています。
また、「令和4年版 情報通信白書 市場概容」によれば、AIの市場規模は2020年度で約513億円だったものが、2025年度には1,200億円に達すると予測しています。
モバイル端末の普及で増えた人流のビッグデータを高度化が進むAIが効率的に解析し、私たちの生活にフィードバックする時代がやってきています。
参考リンク)
新型コロナウイルス感染症の流行
2019年に発生した新型コロナウイルス感染症の世界的な流行に対し、日本では感染経路の把握や感染拡大防止のために人流データが用いられました。感染経路の特定と人流の多寡から、夜の時間帯の飲食に感染経路があるとして飲食店への営業自粛が求められたことは記憶に新しいはずです。
現在東京都では、人流データをもとに主要繁華街の混雑状況を1時間ごとのリアルタイムで取得・更新して誰でも閲覧できるように公開する取り組みや、主要ターミナル駅における滞在人口の増減率などをグラフ化して公開する取り組みを実施しています。
参考リンク)
> 東京都内における繁華街の混雑状況および滞在人口(人出)の増減状況 | 東京都政策企画局
人流データの活用法
交通
人流データの活用が大きく進んでいる分野のひとつに「交通」があります。交通関連の人流データは、「携帯電話基地局データ」「GPSデータ」「Wi-Fiアクセスポイントデータ」「交通系ICカードデータ」などから集められています。
例えば西東京バス株式会社は、位置情報ビッグデータを活用した人流分析を、需要が見込まれるバス路線の新規開発に活用しています。スマートフォンのGPSデータを収集して位置情報を解析し、都内の通勤・通学に利用ニーズが高い地域を分析した結果、八王子市内北東部にニーズが多いと判明し、乗り換えなどによる混雑を解消させるため、新たな「通勤ライナー」を2021年6月に新設しました。
また、岐阜県岐阜市では交通系ICカードデータによる乗降履歴データを活用してバス停区間毎の利用者数を集計し、朝のピーク時に利用者数が急増する区間を把握してバス再編に役立てています。
参考リンク)
> Location AI Platform®が西東京バスの新規路線開業に活用される
観光
観光においても人流データの活用は広がっています。
例えば群馬県では、観光地における滞在時間と周遊パターンを把握して、観光交通の検討に活用しています。観光に訪れた人の携帯電話のGPSデータから、観光地点別に日帰りや宿泊の割合、周遊パターンなどを算出しました。具体的には、富岡製糸場の宿泊観光の割合は約4割で、伊香保温泉や草津温泉、磯部温泉などとあわせて訪問しているため、それぞれの観光地をつなげる交通網の検討に活用したと言います。
参考リンク)
> 携帯電話 GPS データの観光交通検討への活用(群馬県) | 総合都市交通体系調査におけるビッグデータ活用の手引き【第1版】
また、北海道札幌市では人流データと購買データのクロス分析を行い、国籍別に外国人観光客の行動特性を抽出し、分析結果を誘客プロモーションなどに活用しています。人流データの収集は、観光情報提供アプリと街中にあるビーコン端末、携帯電話のGPS機能を連動させることで行なっています。
参考リンク)
都市開発
人流データはリアルタイム性が高く、年代や性別などの属性も取得できるため、データにもとづく合理的な都市開発にも活用できます。
千葉県柏市にある柏の葉キャンパス地区では、つくばエクスプレス柏の葉キャンパス駅を中心としたまちづくりに人流データを活用しています。例えば、駅前地区の歩行者空間ネットワークの結節点にカメラを設置して人流を把握し、混雑状況などの情報提供を各商業施設に行っていると言います。ほかにも地域病院の待ち時間を可視化するため、病院到着後の患者の人流を測定・分析しています。将来的には、遠隔チェックインや待ち時間を柏の葉の街で有効活用してもらう施策などを検討しています。
また、広島県福山市でも「備後圏域都市計画マスタープラン」の実現に向けて、人流データを活用しています。福山市では、現状の拡散型都市構造から集約型都市構造へと転換していく必要があると考えており、都市構造についての分析に人流データを用いています。福山市は「ふくやまスマートシティモデル事業コンソーシアム」も展開しており、人流データを活用した駅前再生にも取り組んでいます。
参考リンク)
防災
地震や台風など災害が多い日本では、防災への人流データの活用も進んでいます。
神奈川県横須賀市では、人流データを活用して、災害発生時の避難誘導や救助の対応に役立てる取り組みを行なっています。約100名を対象に避難実験を実施し、半数の参加者に対してPUSH型の避難情報を提供しました。結果として、PUSH型避難情報を受け取ったグループが推奨される避難ルートを選択でき、効果的な避難行動につなげられたとしています。
参考リンク)
商圏分析
店舗運営における商圏分析にも人流データを活用できます。店舗を構えている、あるいは構える予定の地域の人口や人流の量、世帯特性、ライフスタイル、地理的条件、競合店舗への影響などのデータを収集・分析することで、効果的なマーケティングが実現可能です。また、国勢調査データなどの統計データや自社のフィールドワークなどで収集したデータと人流データを掛けあわせることで、より精度の高い消費者動向の予測が可能になります。大型ショッピングモールなどの商業施設ではモール内の人流を把握することでも価値が生まれます。販売促進や売上増加、マーケティングなど、企業活動における人流データの利用価値は極めて高いと言えるでしょう。
参考リンク)
人流データの集め方
携帯電話基地局を使った位置情報データ
特長
メリット
電波がつながっていれば24時間365日、網羅的な位置情報取得が可能。
携帯電話契約書の属性データと紐付けることで利用者の属性取得も可能。
インフラ設計や都市開発などに利用できる。
デメリット
各携帯電話会社の基地局に蓄積された履歴情報をもとにして、人流データを得ることが可能です。利用者の携帯電話の電源が入っていれば、自動的に人流データが取得できるため、地域別で多くのサンプルを集められます。
GPSによる位置情報データ
特長
メリット
デメリット
特定のアプリを利用しているユーザに依存してしまう。
スマートフォンの位置情報がOFFだとデータを取得できない。
スマートフォンのアプリなどで提供されている位置情報から取得ができます。GPS衛星からの電波を受信して、現在地を緯度経度単位で細かく特定できるのが特長です。なお、スマートフォンの位置情報がOFFになっている場合は人流データが取得できないほか、地下や屋内などでは正確に位置情報を把握できません。
店舗や施設のWi-Fi接続データ
特長
メリット
特定の施設への来訪や滞在状況など細かい行動まで把握可能。
Wi-Fi機器に接続できれば地下でもデータが取得可能。
デメリット
店舗や施設に設置されたWi-Fi機器に利用者が接続することで、いつからいつまで接続していたのかなどの人流データを取得できます。また、施設がたとえ地下にあってもWi-Fi機器に接続できればデータの取得が可能なため、より細かい範囲までカバーができます。
交通系ICカードデータ
特長
メリット
鉄道やバスなどのICカードの乗車履歴から行動を把握可能。
性別・年齢などを取得できることもある。
デメリット
駅改札などに設置されているICカードリーダーで読み取った乗車履歴から、駅間やバス停間のOD情報(出発地点 Origin から目的地 destination までの移動情報)を取得できます。その人が、どこからどこまで公共交通機関を利用したのかを把握できることに加え、ICカードに性別や年齢が紐づけられていると、より詳細な情報として把握できます。
ビーコンデータ
特長
メリット
デメリット
発信機の設置とアプリの利用許諾が必要。
スマートフォンのBluetoothがOFFだとデータを取得できない。
近距離無線技術「Bluetooth Low Energy」を活用して、ビーコン電波の発信機から半径数10mの範囲で通信ができたスマートフォンの位置情報を取得できます。電波範囲は最大100m程度で、電波発信の間隔調整が可能です。
カメラの映像解析データ
特長
メリット
混雑状況や人数カウント、属性解析をリアルタイムで把握可能。
スマートフォンなどの特定のデバイスを持っていなくても把握できる。
デメリット
カメラ機器の設置が必要。
データを取得できる場所に制限がある。
カメラの映像を活用して、混雑状況や属性解析を行います。カメラを設置した場所を通過した人を全て把握でき、特定のデバイスなどを持っていなくても人流を把握できるのが大きなメリットです。一方で機器の設置が必要な点や、法的・倫理的・プライバシー的にカメラを設置できない場所がある点などには留意が必要です。
PT(パーソントリップ)調査データ
特長
メリット
デメリット
都市圏居住世帯の2~10%を無作為に抽出率して調査票を送り、性別や年齢、世帯構成などとともに1日の移動情報を回答してもらうことで、統計的精度を確保したデータを取得する手法をPT(パーソントリップ)調査と呼びます。個人の属性、移動目的、移動する時間帯、交通手段など、ほかの人流データ取得方法よりも細かい情報を把握できる点で優れていますが、調査頻度が10年に一度と低いことに注意する必要があります。
参考リンク)
無料で使えるオープンデータ「全国の人流データ(1kmメッシュ、市町村単位発地別)」
国土交通省では、2019年1月から2021年12月までの携帯電話端末などの位置情報データから得られる広域な人流データ「全国の人流データ(1kmメッシュ、市町村単位発地別)」を無料で公開しています。公開場所は、産学官の地理空間情報を扱うプラットフォームである「G空間情報センター」です。
「全国の人流データ(1kmメッシュ、市町村単位発地別)」を活用することで、「いつ・どこに・何人が滞在したのか」「いつ・どこから・何人来たのか」などのデータを扱えます。つまり、地域のどこに人が多いのか、昼夜によって人がどのように増減しているのかなどを知ることが可能です。
活用方法もさまざまあり、例えば津波の防災に役立てたい地域では、「洪水浸水想定区域」と「人流データ」を組み合わせることで、想定被害数が昼と夜でどれくらいになるのか、被害を減らすための防災設備はどうすればよいかなどの検討に利用できます。
ほかにも観光客の動向を調査するために、「携帯電話基地局やGPSを活用した位置情報データ」などと組み合わせることで、観光戦略の検討にも利用できます。
参考リンク)
> 全国の人流データ(1kmメッシュ、市町村単位発地別) を公開します | 国土交通省
人流データの課題
ここまでの解説でも見えてきた通り、人流データの活用は大きな可能性を秘めていることがわかります。一方で人流データの闇雲な収集・活用には、法律やプライバシーの面で大きな課題が残されていると言えます。人流データは収集方法によっては、利用者情報や顔の写真・映像といったプライバシーに当たる個人情報も取得しており、個人情報保護法を含む法律に留意することが求められます。
経済産業省の「平成29年度 中小サービス産業実態・対策調査 民間データによる地域経済社会動向に関する統計作成に向けた実証調査 報告書」にも「人の識別に係る特長点は個人識別符号に該当するとの見解がなされ、人流計測に用いる場合の法令上の課題が残る。」と明記されています。また、同資料では、プライバシーの観点から以下のようにも記載されています。
“スマートフォン端末の固有信号の取得について、法令上の問題はないとは言え、端末保有者の心的印象からは、「知らないうちに情報が取られている」といった気持ち悪さや、固有信号取得に係る告知が行われたとしても、「情報だけ取られている」といった嫌悪感を抱かれやすく、この心的印象は、いわゆる炎上(SNSやwebサービス等で主に発生するネガティブな情報の拡散と過剰な反応)を引き起こす原因となる可能性があることを否定できない。”
個人情報の流出・漏えいは、刑事上の罰則はもちろんのこと、民事の損害賠償責任など社会的信用の失墜につながってしまい、業務が立ち行かなくなってしまう可能性もあります。人流データの収集・活用は、法令の遵守とプライバシーへの配慮が不可欠と言えるでしょう。
また、人流データのさらなる利活用に向けて、法律や制度をあらためて整備していくことも必要になっていくことと思われます。
参考リンク)
> 平成29年度 中小サービス産業実態・対策調査 民間データによる地域経済社会動向に関する統計作成に向けた実証調査 報告書 | 経済産業省
> 地域課題解決のための人流データ利活用の手引き Ver1.0 | 国土交通省
> カメラ画像から抽出した性別や年齢といった属性情報や、人物を全身のシルエット画像に> 置き換えて作成した移動軌跡データ(人流データ)は、個人情報に該当しますか。 | 個人情報保護委員会
ソフトバンクの人流関連サービス
全国うごき統計
全国うごき統計は、ソフトバンクの携帯基地局から得られるデータと、パシフィックコンサルタンツが保有している社会インフラに関する知見やノウハウを組み合わせた「網羅的かつ最新の動態が把握できる」人流の統計データです。
ソフトバンク携帯端末の位置情報から、エリアごとの人の密集度や、観光における来訪客の動向などを把握できます。加えて公共交通機関を利用した際の移動経路や交通手段も把握できるのも特長です。
性別・年代・居住地などの属性情報を取得できるほか、時間帯別のデータも取得可能です。また、特定日の人流データや月間平均データなど、必要なデータを簡単にフィルタリングして得られます。
24時間365日の人の移動から滞在状況までを把握できるため、民間企業の経営戦略やマーケティングへの利用から、都道府県や自治体の都市計画や防災計画への活用まで、さまざまなニーズに対応することが可能です。
マチレポ
マチレポは、店舗や施設、観光地などを指定して、来訪者数や属性データ分析できる人流マーケティングツールです。ユーザは分析したいエリアを日本全国から自由に指定できます。分析は店舗単位でも行え、年代や性別などの属性データもペルソナ別に分析可能です。
分析メニューは18種類用意されており、来訪者数や時間帯別に分析結果が閲覧できます。これらの分析結果は、CSV形式などでダウンロードでき、ローカル環境で加工や分析も行えます。
また、従来の人流マーケティングツールでは、データの鮮度や分析にかかる時間も大きな課題となっていました、マチレポは分析結果をブラウザ上でスピーディに確認できる点も特長です。
まとめ
人流を正確に把握するためには、人の移動や滞在時間、どこからどこへ行ったかなどの統計的な情報が必要です。こうした人流の情報を活用することで、都市計画から観光、防災、ビジネス計画など、あらゆる計画を効果的に立てやすくなります。
ICT技術の進歩が目覚ましい現代において、ビッグデータの収集と活用は事業を行なっていくうえで、民間だけでなく行政でも欠かせない要素となりました。総務省の「平成29年 情報通信白書」で「ビッグデータ利活用元年」と称してから早6年が経過しました。「移動」という人の活動の根幹を成す活動を可視化する人流データは、多くの可能性が秘められたビッグデータだと言えます。人流データを効果的に活用し、よりよい社会が創られていくことを期待しています。