人流データ利活用のススメ①【活用事例で解説】~ 「相鉄・東急直通線」によるインパクトを読み解く~

2023年12月1日掲載

人流データ利活用のススメ① 【活用事例で解説】~「相鉄・東急直通線」によるインパクトを読み解く~

自宅にいながら買い物をしたり、友人とオンラインで飲み会をしたりと、スマートフォンなどのデジタル技術の発達により、人々の行動が複雑化しています。デジタル技術は人々の位置情報を正確に取得することを可能にし、こうした人流データの利活用により、社会インフラや自社の事業検討を効果的かつ効率的に行えるようになってきました。

本記事では、都市計画や交通計画などのノウハウを有し、社会インフラに関わるコンサルタントとして活躍するパシフィックコンサルタンツ株式会社の札本氏に、人流データの状況と利活用に向けたポイントを説明いただきました。

パシフィックコンサルタンツ 礼本氏

札本 太一氏

パシフィックコンサルタンツ株式会社
デジタルサービス事業本部 DX事業推進部
DX事業推進室 技術課長
(技術士:建設ー道路)

目次

社会インフラ整備によるインパクト

皆さん、こんにちは。パシフィックコンサルタンツの札本(フダモト)と申します。これから、3回にわたって人流データの利活用の重要性について、事例にもとづいて解説させていただきます。よろしくお願いします。

さて、第一弾として社会インフラの整備を題材に話を進めます。今回、題材にしたのは2023年3月に開業した「相鉄・東急直通線」で、2路線の直通によって、神奈川の県央部から都心への接続性や利便性が向上したという事例です。
通常、このような社会インフラができると「利用者がすぐに新路線に経路を変えそう」といった移動行動の変化や、「周りの沿線も整備と同時に賑わいそう」といった街の使われ方の変化=“人の変化“が、新路線の開業という“社会インパクト(社会の変化)“と同時に起きるとイメージされるのではないでしょうか。

 

新路線の開業が与える“社会インパクト(社会の変化)“とは

しかし、“社会インパクト“と”人の変化“は本当に同時に起きているのでしょうか?

ソフトバンクの携帯電話基地局のデータをもとにした数千万台の端末の位置情報データに、パシフィックコンサルタンツ株式会社が保有する都市計画や交通計画の社会インフラに関するノウハウを加えて生成した人流データである「全国うごき統計」を活用し、分析してみました。

人流データに基づく実態: “社会インパクト”と“人の変化”は異なる!?

今回は、「全国うごき統計」の“交通手段を把握できる”という特長を活用し、駅間のOD量を用いて、「相鉄・東急直通線」開通前後の駅間の利用経路の変化や、駅周辺の居住地情報から転居者に関する変化について分析を行いました。

OD量とは

ある出発地点(発地=origin)からある目的地(着地=destination)まで「いつ」「どのように」「どれくらい(人数や量)」移動したのかを把握するデータ

移動の変化

まず、「相鉄・東急直通線」ができたことによる移動の変化についてです。
相鉄線の主要駅である大和駅から都心の渋谷駅へ向かう場合、開通前は必ず横浜駅で乗り換える必要がありました。今回の分析によって、直通運転が実現したことで、横浜駅を経由する方が約2割も減少していることが分かりました。

大和駅と渋谷駅間の移動ケース

しかしその一方で、ほかの私鉄経由で都心に行ける駅では、料金や所要時間の面でこれまでの経路が優位であるため、大きな変動は見受けられませんでした。
このように、すぐに利用者の経路変更が図られている区間と効果が限定的である区間を可視化し、評価することが人流データの活用で可能になります。

鉄道沿線の街の変化

次に、鉄道沿線の街の変化についてです。
今回この直通運転に合わせて、新綱島という新しい駅が開業しました。下記のグラフは新綱島駅周辺の転居者の増加率を示したものです。このグラフを見ると、必ずしも新路線が開通した2023年に転居者が爆発的に増えているわけでなく、開業数年前から徐々に増加しているということが分かります。

新綱島駅への転居者増加率のグラフ

今回の事例を通じて分かることは、“社会インパクト”と“人の変化”は必ずしも一致していないということです。
しかも、内容によって、社会の変化の前から変わることや、社会変化の後に徐々に変わることなど、さまざまなタイミングで変化するため、きちんとデータから把握・理解することが重要です。人流データは、経年的な人の変化をきちんと捉えるために有効な手段です。

ビジネス・サービスのタイミングを逃さないための人流データ活用

ビジネスやサービスの展開タイミングを逃さないために、人流データがいかに重要か?ご理解いただけたかと思います。例えば、自治体など街を運営されている方は、これまでの整備に合わせたまちづくりから、人の活動の変化に合わせて常に柔軟に変化させる可変的なまちづくりへの方針転換が考えられます。

また、主に交通事業者においては、実際の人の活動(特に自社以外のエリアや区間を含めた人の活動)の変化を緻密に捉えた上で、弾性的にダイヤや料金の運用を行うことが可能になります。
さらには、民間事業者では、これまで社会インフラの開通タイミングを見越して1時点ごとに検討することが一般的でしたが、人の経時的な変化を捉えた検討を行うことで、自社のビジネスチャンス・タイミングを逃さなくなると考えられます。

人の経時的な変化をとらえることで得られるビジネスチャンス

このように“タイミングを見定める”ためには、社会の変化だけではなく、社会の変化に伴う“人の変化“をとらえることが重要であり、そこに対しては、24時間365日分の人流データが必要です。

第2・3回では、ほかの事例かつ違う観点から人流データの重要性を説明していきます。ぜひ引き続きお読みいただければ幸いです。

後記

本記事では、札本氏に人流データ活用のポイントを説明いただきました。データの種類を整理し、目的に合わせたデータ選定が重要となることが分かりました。

携帯電話基地局データとGPSデータの使い分けについて、より詳細な情報を知りたい方は札本氏登壇のウェビナーをご確認ください。ウェビナーでは、各種人流データの取得方法による特長の違いや活用シーンごとの人流データの選定ポイントについて解説しています。

また、ソフトバンクでは、携帯電話基地局データをもとにした人流統計サービス「全国うごき統計」を提供しており、機能概要と合わせてユースケースを紹介しています。どんな課題をどう解決できるのかを確認することで、貴社の人流データ活用の参考になれば幸いです。

関連サービス

人流統計サービス「全国うごき統計」

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