人流データ利活用のススメ③【活用事例で解説】~ 「隅田川花火大会」によるインパクトを読み解く~
2024年1月24日掲載
自宅にいながら買い物をしたり、友人とオンラインで飲み会をしたりと、スマートフォンなどのデジタル技術の発達により、人々の行動が複雑化しています。デジタル技術は人々の位置情報を正確に取得することを可能にし、こうした人流データの利活用により、社会インフラや自社の事業検討を効果的かつ効率的に行えるようになってきました。
本記事では、都市計画や交通計画などのノウハウを有し、社会インフラに関わるコンサルタントとして活躍するパシフィックコンサルタンツ株式会社の札本氏に、人流データの最新状況と利活用に向けたポイントを説明いただきました。
大規模イベントによるインパクト
皆さん、こんにちは。これまでの第一弾・第二弾の記事に続いて今回の第三弾では4年ぶりに開催された「隅田川花火大会」を題材に話を進めてまいります。
このような大規模なイベントが開催されると、「広い範囲に人波が押し寄せ、混雑のため花火が見られないのではないか?」や「周りの駅も来訪者で混雑してしまい、会場までの移動が大変なのではないか?」といったマイナスのイメージから、イベントへの参加を嫌遠する方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、このような大規模イベントの影響範囲を正確に知るために、「全国うごき統計」を活用し分析してみました。
「全国うごき統計」とは
ソフトバンクの携帯基地局のデータをもとにした数千台の端末の位置情報データに、パシフィックコンサルタンツ株式会社が保有する都市計画や交通計画のインフラに関するノウハウを加えて生成した人流データサービスです。
人流データに基づく実態:“大規模イベント”といえど“広範囲のパニック”ではなかった!?
今回は、「全国うごき統計」を活用して、以下2つの状況において、通常時との違いに着目して分析しました。
①隅田川花火大会周辺エリアに人が集まっている状況
②会場周辺の駅の来訪状況
なお、メッシュの滞在人数だけでなく駅利用者を時系列的に見ることができるのは、「全国うごき統計」の特長(交通手段別の移動が把握可能)です。
結果を見る前に、今回の分析結果の見方について説明します。以下の図は、右上の時計が示すように16時台の結果です。
中央の地図は普段と比べてどの程度各メッシュに人がいるか?を可視化したもので、左右のグラフは各周辺の駅を使って来る人・帰る人の状況を時系列で可視化したものです。左のグループAが「上野」のような少し離れた駅、右のグループBが「浅草」のような会場近くの駅です。詳細は後から解説しますが、この両者には顕著な違いがありました。
では、開演3時間前の16時台の様子(上の図)から見ていきましょう。
右のグラフを見ると、会場付近の駅を利用して来る人が通常時に比べて徐々に多くなっていることが分かります。それに起因して、会場周辺の混雑も徐々に増加しています。
次に花火が打ちあがり始める19時台の様子(下の図)です。
会場の中心部では、普段の10倍以上の人が訪れており、そのほかの場所も隅田川沿いを中心に多くの人でにぎわっています。一番北のオレンジ色の場所には公園があり、そこにも人が集まっている様子がうかがえます。
その一方で、花火会場から2km弱離れた場所はほぼ普段通りです。また、右のグラフで整理している会場近くの駅を見ると、来る人のピークが落ち着く一方で、早く帰る人も見受けられます。
さらに大会終演後の21時台(下の図)です。このあたりで、浅草駅などの会場付近の駅には、帰る人のピークが来ます。
ただ、それでも会場周辺には多くの人がいることが分かります。その一方で上野といった3㎞程度離れた駅は、多少通常時よりも混雑しているものの、通常時と比較した滞在人口比は170%程度なので、そこまで大きな混乱はなかったのではないかと考えられます。
さらには日付が変わる23時台の様子(下の図)です。まだ浅草駅から帰る人の数は、通常時よりも大きな増加を示しています。また、周辺の混雑状況を見ると、まだ通常時以上になっていることからも、混雑が落ち着くまで帰りの時間をやり過ごしている人が多かったのではないでしょうか。
“適切な影響範囲”を捉えた上での検討のための人流データ活用
ここまで、人流データを活用して大規模イベント時の周辺エリアの状況を見てきました。分析前に提示した「混雑により広域な範囲でパニックが起きているのか?」という疑問に対しては、そこまでパニックにはなっていないという印象を持った方も一定数いるのではないでしょうか。
会場近くの駅は、開演3時間前から深夜までかなりの長時間にわたって混雑しています。
一方で、会場から2〜3kmほど離れた駅や周辺エリア(歩いたら30分程度かかってしまうかもしれませんが)では、終日ほぼ通常通りの混雑度と、会場近くのエリアとは全く異なることが分かるかと思います(下の図参照)。
ここまで見てきたように、時々刻々と変化する人の活動を印象だけでなくきちんと捉え、イベントなどの事象の影響範囲を把握することが、大規模イベントや休日といった特異日に対するさまざまなビジネスをより良いものにするために重要だと考えます。
例えば、自治体の皆さんは誘導に対して大変ご尽力されていると思いますが、人流データで定量的な可視化をすることで、よりスマートな計画立案を実現できるとともに、可視化によって一般利用者への訴求も効果的に図れるでしょう。
また、混雑エリアの近くや外側でビジネス・サービスをしている皆さんは、“混雑”をターゲットにするのではなく、 “分散”をあえてターゲットにした施策。例えば、クーポンのようなもので多くの人を誘うことで、巨大な需要の一部を獲得できるとともに、混雑緩和という社会貢献にも寄与することが可能になると思います。
さらには、会場直近の特需と言っていいほどの人が集まるエリアでビジネスを行う皆さんにとっては、これまで勘や経験でイベント時のサービス設計をしていたものに加えて、実データというエビデンスに基づく設計により、より収益性の高いビジネスに昇華することが可能になると考えます。
さて、今回3回にわたって社会インフラの整備・大規模施設の整備・大規模イベントの実施という3つの事例から皆さまのビジネスやサービスに対して、いかに人流データが重要なのか?ということを説明させていただきました。ポイントは次の通りです。
#1 社会インフラの整備
・整備の時点と人の行動の変化のタイミングは異なるからこそ、人流を捉えることが大事
#2 大規模施設の整備
・ “量”だけでなく“質”を捉えることがビジネス・サービスにとって重要だからこそ、人流を捉えることが大事
#3 大規模イベントの実施(今回)
・事象の影響範囲を適切に捉えることが重要だからこそ、人流を捉えることが大事
これからの時代は、第1回で取り上げた社会インフラの変化に加え、AIやIoTといった技術革新によって、さらに短期間で人の活動が大きく変化してきます。
今後の潮流に遅れないためにも、人流を正しくとらえ、今のビジネスやサービスをアップデートいただければ幸いです。
後記
本記事では、札本氏に人流データ活用のポイントを説明いただきました。データの種類を整理し、目的に合わせたデータ選定が重要となることが分かりました。
携帯電話基地局データとGPSデータの使い分けについて、より詳細な情報を知りたい方は札本氏登壇のウェビナーをご確認ください。ウェビナーでは、各種人流データの取得方法による特徴や活用シーンごとの人流データの選定ポイントについて解説いただいています。
また、ソフトバンクでは、携帯電話基地局データをもとにした人流統計サービス「全国うごき統計」を提供しており、機能概要と合わせてユースケースを紹介しています。どんな課題をどう解決できるのかを確認いただき、貴社の人流データにぜひご活用ください。