黒字倒産とは? 回避方法も解説

2024年8月26日掲載

黒字倒産とは? 回避方法も解説

近年、黒字倒産という言葉に触れる機会が増えてきました。名前の通り、利益が「黒字」にもかかわらず倒産してしまうことを指します。なぜ近年注目されているのか、原因や対応策について詳しく解説します。また、中小企業が利用できる資金調達方法についても取り上げます。

本ブログはソフトバンクに所属する中小企業診断士が解説します。

目次

本記事の執筆者

Miki Kubota

久保田美樹(くぼた みき)

ソフトバンク株式会社
法人事業統括部 デジタルトランスフォーメーション本部 フィンテック事業統括部 事業開発部

主に通信インターネット業界で、新規事業の立ち上げ(事業開発、事業計画の立案や資金調達など)、サービス企画、オペレーション構築、調査・コンサルティングに従事。ソフトバンクでは、​現在フィンテック分野で金融関連の企業との共創推進や事業開発を担当。

黒字倒産とは

黒字倒産とは、商品やサービスが売れて帳簿上では利益がでているにもかかわらず、支払いに必要な資金が不足し倒産してしまうことです。企業間取引では、商品やサービスを販売してもすぐに代金を受け取れるとは限らず、役務が完了した月に請求書を発行したものの数カ月後にならないと代金を受け取れないケースがあります。一方で、原材料費や外注費などの中には売り上げの入金を待たずに費用を支払わなければならないことがあります。このようなことが重なると資金繰りがうまくいかなくなり、倒産を引き起こしてしまいます。

東京商工リサーチの調査※1によれば、2020年に倒産した7,773件のうち財務データが存在する340社※2について調査を行ったところ、最終決算が黒字であった企業は46.8%で、全体の実に5割近くにあたります。つまり、赤字倒産をした会社と割合がほぼ変わらない計算であり、黒字倒産に追い込まれる会社が意外と多いことが分かります。

※1 出典 株式会社東京商工リサーチ: 2020年「倒産企業の財務データ分析」調査
※2 負債総額1,000万円以上の倒産企業のうち、同社の財務情報に3期連続で財務データが存在する340社(個人企業を含む)

黒字倒産の原因

帳簿上で黒字がでているのに資金が不足してしまう、いわゆる「勘定合って銭足らず」の状態になってしまうのは、帳簿上では取引が発生したときに計上されるものの実際にお金が入ってくるタイミング(キャッシュフロー)はこの通りではないことに起因します。黒字倒産は以下のようなことが主な原因となります。

1.過剰在庫

小売業や卸売業の場合には、一定の商品在庫の保有が必要になりますが、在庫は販売して現金化されるまでに時間がかかります。特に過剰な在庫を抱えてしまうと、売れ残りのリスクもあり大きな資金負担となります。

例えば、単価1万円の商品を100個、現金で仕入れて1万2,000円で70個売った場合、帳簿上の仕入れ値と売り上げは以下のようになり、14万円の利益がでます。

仕入れ : 単価 1万円 × 100個 = 100万円
販売 : 単価 1万2,000円 × 70個 = 84万円
売り上げ: 単価 84万円 - 原価(1万円×70個) = 14万円

一方、お金の流れで考えた場合、仕入れた時点で全て支出となってしまいます。

仕入れ : 単価 1万円 × 100個 = 100万円 ←支出
売り上げ: 単価 1万2,000円 × 70個 = 84万円 ←収入
-100万円 + 84万円 = ▲ 16万円

帳簿上では売れた分だけを売上原価として計上しますが、お金の流れでは、仕入代金が先に出て行ってしまうため、売り上げが確定して入金がない限りキャッシュフローはマイナスとなります。在庫を過剰に抱えてしまうと、キャッシュフローは悪化します。

また、キャッシュ(現金)を投じた過剰在庫は売れない限りキャッシュを生み出さないだけでなく、以下のようなデメリットもあります。

2.売上債権が回収できない

一般的には、商品を引き渡した時点で売り上げを計上します。しかし、実際に売掛金を回収するのは、計上した1~2カ月後になります。いくら利益率の高い商品を販売しても、売上債権を回収できなければ仕入代金などの買掛金を支払うキャッシュは入ってこず、最悪の場合には倒産することもあります。

3.無理な投資

投資は企業が成長していく上で必要です。しかし、本業で稼げていないのに、借り入れで無理な投資を行うと、多額のキャッシュアウトが起こります。特に、設備投資を行ったにもかかわらず計画通りに売り上げが増加しない場合、借り入れの返済は大きな負担になります。投資を行う際は、本業でキャッシュを生み出した上で将来のキャッシュを生む出すために投資することが必要です。

黒字倒産を回避するには

ここまでは黒字倒産の原因について解説してきました。企業にとって黒字倒産は避けねばなりません。ではどのようにすれば回避できる可能性が高まるのか解説していきます。

1.キャッシュフローを把握する

まずは、自社の資金繰り表を作成して、これまでのキャッシュフローの実績および将来のキャッシュフローを把握する必要があります。
過去の実績の傾向や予定している取引や投資による入出金を把握することで、将来、資金不足が見込まれる場合にはあらかじめ資金調達先を検討するなど対策を講じることができ、急な資金繰りの悪化を未然に防ぐことができます。

2.売掛金の回収サイトの見直し、支払いサイトを延ばしてもらう

商品やサービスの販売代金はなるべく短いサイトで回収し、仕入代金や外注費の支払いはできるだけ長いサイトにすることで資金繰りは楽になります。

債権(売掛金など)の回収サイトの期間 < 債務(買掛金など)の支払いサイトの期間

しかし、取引先企業との力関係で、有利な条件を交渉することが難しい場合もあります。例えば売掛金では、見積もりの値引きなどの打診された場合に、交換条件として回収サイトの短縮や前払いなどを相談するのも一案です。

参考:下請け法の取り決め

大手企業から仕事の発注を受ける中小企業は立場が弱いことを鑑み、親事業者が下請事業者に対し優越的地位の濫用を防ぐため、公正取引委員会と中小企業庁が連携して運用している法律に、「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」があります。下請法が適用されるかは、親事業者と下請事業者の資本金額や下請会社が提供する役務(物品の製造・修理委託、情報成果物の作成・役務提供委託が対象)によって決まります。下請法で定められている親会社の義務の中で支払いに関するものとして、以下が定められています。

・物品や役務を受領した日から60日以内かつできるだけ早く支払い期日を決める
・受取日から60日を過ぎても支払いがない場合は、60日後から支払日までの日数に応じた延滞利息(年利14.6%)を支払う

自社の取引に下請法が適用されるのかを確認し、適用される場合は、親事業者に支払い期日の交渉、是正されない場合は、公正取引委員会への相談も視野にいれましょう。

また、支払いサイトを長くする手段のひとつとして、クレジットカードによる経費の支払い があります。クレジットカードで支払った分の請求は翌月以降になるので、その分、支払期間を延長することができます。また、交渉次第で限度枠を拡大することもできるので、仕入などへの利用や万一の資金不足にも備えることができます。

3.過剰在庫を避ける

機会損失を避けるために適切な在庫は必要ですが、お金を生まない過剰在庫を避ける必要があります。
適正在庫を判断する指標のひとつとして、特に小売業を中心に「交差比率」と呼ばれる指標を使うことがあります。交差比率は、以下で求められます。

売上総利益率(%) × 在庫回転率

売上総利益率、在庫回転率はそれぞれ以下のように算出します。

売上総利益率 = 売上総利益 ÷ 売上高
在庫回転率 = 売上高 ÷ 年間の平均在庫金額

売上総利益率が高い場合および在庫回転率が高い場合、交差比率は高くなります。交差比率が高いほど収益性が高く安全とされ、200%以上が目安とされています。ただ、在庫回転率があまりにも高いと、計画以上に商品が売れた場合、在庫切れを起こすリスクがあります。

4.資金調達力を強化する

資金不足に陥らないように、必要なときに必要な資金を調達できる体制を事前に準備しておくことも大切です。そのためには日頃から取引先金融機関に自社の情報を提供して信頼性を高めておくとともに、複数の金融機関と取引することで資金調達先の多様化を図っておく必要があります。

そのほか、中小企業向けの支援や中小企業に適した資金調達方法には、以下のようなものがあります。

(1)信用補完制度

中小企業は信用力が低く融資が受けにくいため、国が保証人となり信用力を補完することで融資を受けやすくする制度です。信用補完制度では、保証協会は銀行に対し信用保証を行い、銀行が中小企業に融資を行います。中小企業は保証協会に信用保証料を支払い、保証協会と日本公庫は保険契約を結びます。

信用補完制度のイメージ

信用補完制度のイメージ

(2)セーフティネット貸付制度

セーフティネット貸付制度は、一時的に資金繰りに支障をきたしているものの、中長期的には回復が見込まれる中小企業・小規模事業者に対して、運転資金や設備資金を融資する制度です。融資は日本政策金融公庫が行います。

(3)流動資産担保融資保証制度(ABL保証)

企業が保有している売掛債権(売掛金債権、手形債権、電子記録債権、割賦販売代金債権、運送料債権など)や棚卸資産(在庫)を担保として、金融機関が融資を行う際に信用保証協会が債務保証を行う制度です。

(4)トランザクションレンディング

トランザクションレンディングとは、ECの販売実績や会計ソフトの入力情報、金融機関の口座情報、クレジットカードや電子マネーの決済情報などさまざまなデータをAIなどを使って分析し、融資の可否を決める資金調達手法です。トランザクションレンディングのメリットには審査期間が短くすぐに借りられるという点、デメリットには金利が高い傾向があるといった点が挙げられます。

まとめ

帳簿上の損益と実際のお金の流れは必ずしも一致しません。帳簿上の売り上げや利益だけでなく在庫や売り上げの回収サイトや支払いサイトに留意し、キャッシュフローがプラスになるような経営を心掛けるようにしましょう。また、万一の備えや資金調達先を検討しておきましょう。

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