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2024年5月に改正され、2025年4月から段階的に施行される育児介護休業法。この改正により、中堅中小企業にも柔軟な働き方が求められるようになります。本記事では、育児介護休業法改正の背景や企業への影響とその対応策について、さまざまな法務コンテンツを提供している株式会社LegalOn Technologiesの柄澤氏に解説いただきました。
株式会社LegalOn Technologies
弁護士
柄澤 愛子 氏
慶應義塾大学法科大学院修了。
2012 年弁護士登録。
都内法律事務所、特許庁審判部(審・判決調査員)を経て、2019年から現職。
社内で法務開発、マーケティング等の業務を経て、現在は法務、コンプライアンスを担当。
育児介護休業法(正式名称「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」)とは、「子の養育又は家族の介護を行う労働者等の雇用の継続及び再就職の促進を図り、もってこれらの者の職業生活と家庭生活との両立に寄与することを通じて、これらの者の福祉の増進を図り、あわせて経済及び社会の発展に資すること」(育児介護休業法1条)を目的として制定された法律です。
つまり、仕事と、育児・介護といった家庭生活との両立のための法律です。
2024年5月に、この育児介護休業法が改正され、2025年4月1日から段階的に施行されることになります。
なお、今回の改正は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律」により行われる改正で、育児介護休業法と共に、次世代育成支援対策推進法も改正されます。
次世代育成支援対策推進法とは、少子化対策の一つとして自治体や企業による育児支援などを定めた法律です。2005年4月から10年の時限立法(10年の有効期間のある法律)でしたが、その後10年間延長されており、今回の改正でさらに10年間延長されます。
ご存知の通り、日本は少子高齢化が深刻な問題となっており、労働者人口は今後も減少し続けるものと考えられます。2040年には高齢化率(65歳以上の割合)が約35%となり、2070年には総人口が9000万人を割り込み、高齢化率は約39%となると推計されています。他方で、出生率については2023年も1.20と低い水準にあります。
そのため、育児・介護を行いつつ仕事を行う労働者がいかに柔軟な働き方を実現できるかが、非常に重要な課題となっています。
育児介護休業法は近年、改正によって「子の看護休暇」「介護休暇」を時間単位で取得できるようにする(2021年1月1日施行)、「産後パパ育休」の創設と育児休業の分割取得(2022年10月1日施行)、企業に対する育児休業の取得の状況の義務付け(2023年4月1日施行)、などを行ってきました。
今回の改正で、新しく仕事と育児・介護を両立できるようにするための制度などが拡充されます。
今回の改正のポイントは大きく分けて3つです。
以下順番に説明していきます。
育児といっても、子どもの年齢によって育児にかかる時間なども全く変わってきます。仕事と育児を行う労働者が成長していく子どもの年齢に応じて柔軟な働き方を実現するために、育児介護休業法の改正によってさまざまな措置が定められました。
企業は、3歳以上の小学校就学前の子どもを育てる労働者に対して、柔軟な働き方を実現するための措置を講じる義務が課されます。
具体的には、以下の中から2つを選んで、措置を講じる必要があります。
・始業時刻等の変更
・テレワーク等(月10日)
・保育施設の設置運営等
・新たな休暇の付与(年10日)
・短時間勤務制度
そして、労働者は企業が講じた措置の中から1つを選んで利用することができます。
なお、企業が措置を選ぶ際には、過半数組合などからの意見聴取の機会を設けて労働者の意見を聴く必要があります。
これまでは「3歳に満たない子」を養育する労働者は請求することで残業免除を受けることが可能でしたが、改正によって「小学校就学前」の子どもを養育する労働者は請求することで残業免除を受けることが可能と対象が拡大されました。
【改正前】 | 【改正後】 |
---|---|
「3歳に満たない子」を養育する労働者は請求により残業免除を受けることができる | 「小学校就学前の子」を養育する労働者は請求により残業免除を受けることができる |
3歳に満たない子どもを養育する労働者がテレワークを選べるように措置を講ずることが、企業の「努力義務」となります。
「子の看護休暇」制度の見直しが行われ、対象となる子どもの範囲や取得事由が拡充されます。具体的には以下の表のようになります。
【改正前】 | 【改正後】 | |
---|---|---|
名称 | 子の看護休暇 | 子の看護等休暇 |
対象となる子どもの範囲 | 小学校就学まで | 小学校3年生修了まで |
取得事由 | ・病気、けが ・予防接種、健康診断 | ・病気、けが ・予防接種、健康診断 ・感染症に伴う学級閉鎖等 ・入園式、入学式、卒園式 |
労使協定の締結により除外できる労働者 | ①引き続き雇用された期間が6か月未満 ②週の所定労働時間が2日以下 | 週の所定労働時間が2日以下 *①が削除された |
改正前も、企業は労働者から妊娠、出産などの申出があった場合は、育休などの制度を個別に周知して取得するかどうかの意向を確認するなどしなければいけないとされていました。
今回はそれに加えて、「個別の意向の聴取と配慮」をする必要があるとされました。
つまり、子どもや家庭の状況に応じて両立が難しい場合などもあることから、勤務時間帯、勤務地などの希望を確認しなければならないとされました(個別の意向の聴取)。また、意向を確認した後は、その企業の状況に応じて労働者の意向に配慮しなければならないとされました(配慮)。
さらに、子どもが生まれた後、子どもが「3歳になるまでの適切な時期」に、(1)の「柔軟な働き方を実現するための措置」について個別に周知して、利用するかどうかの意向を確認しなければいけないとされました。
また、子どもが「3歳になるまでの適切な時期」に、上記「個別の意向の聴取と配慮」も行う必要があるとされました。
なお、この「個別の意向の聴取」の方法としては、面談や書面の交付などとなる予定ということです。具体的に企業がどのように個別の意向を聴取し、どのような配慮を行うべきかについては、指針で示されることとなる予定です。指針が出されたらそれを参考とすることになります。
【改正前】
労働者から妊娠・出産などの申出があったとき | 3歳になるまでの適切な時期 |
---|---|
・育休などの制度の個別周知 ・意向確認 | - |
- | - |
【改正後】
労働者から妊娠・出産などの申出があったとき | 3歳になるまでの適切な時期 |
---|---|
・育休などの制度の個別周知 ・意向確認 | ・「柔軟な働き方を実現するための措置」の個別周知 ・意向確認 |
・個別の意向の聴取 ・意向への配慮 | ・個別の意向の聴取 ・意向への配慮 |
性別問わず育児と仕事の両立を目指す観点から、両立支援に関する企業の取組みを更に促すために、育児介護休業法とそれに加えて次世代育成支援対策推進法の見直しが行われています。
今回の改正前は、常時雇用する労働者数が1,000人超の企業は、毎年1回以上、男性の育児休業などの取得状況を公表する義務がありました。
今回の改正では、この義務について、常時雇用する労働者数が300人超の企業が負うとされて、義務を負う企業の範囲が拡大されました。
【改正前】 | 【改正後】 |
---|---|
常時雇用する労働者数が1,000人超の企業は、毎年1回以上、男性の育児休業などの取得状況を公表する義務 | 常時雇用する労働者数が300人超の企業は、毎年1回以上、男性の育児休業などの取得状況を公表する義務 |
次世代育成支援対策法は、上述したように2005年4月から2015年3月末まで10年の時限立法(10年の有効期間のある法律)でしたが、その後2025年3月末まで10年間延長されていました。
そして今回の改正でさらに2035年3月末まで10年間延長となりました。
【改正前】 | 【改正後】 |
---|---|
次世代育成支援対策推進法について、2025年3月末までの法律 | 次世代育成支援対策推進法について、2035年3月末までの法律 |
改正前も、次世代育成支援対策法では、企業は従業員の仕事と育児の両立を図るための行動計画(一般事業主行動計画)を策定する義務があるとされていました(常時雇用する従業員100人超の企業は義務、100人以下の企業は努力義務)。
この計画を策定するときに、以下を行うことが義務となりました。
・計画策定時の育児休業取得状況や労働時間の状況の把握など
・育児休業取得状況や労働時間の状況に関する数値目標の設定
なお、この「育児休業取得状況」とは、男性の育児休業等取得率、「労働時間の状況」とはフルタイム労働者1人当たりの各月ごとの時間外労働と休日労働の合計時間数などとなる予定です。
詳細は法律に紐づく省令で定められる予定です。
企業は、この行動計画を策定し、各都道府県労働局へ届出をして計画を公表。その上で従業員に周知して、計画を実施することになります。そして計画終了、目標達成によってまた次期行動計画の策定、実施をしていくことになります。
計画終了、目標達成時点において、申請をすることで一定の基準を満たせば厚生労働大臣による認定を受けることができます。この認定によって、税制優遇を受けることができるほか、次世代認定マーク「くるみん」のマークを使用することができるようになります。(これによって企業イメージの向上、人材獲得に向けての競争力となる、といった効果が狙えます)
介護と仕事の両立を支援するための制度を利用しやすい環境をつくるため、育児介護休業法の見直しが行われています。
労働者から妊娠・出産などの申出があったときに、育休などの制度を個別に周知して取得するかどうかの意向を確認しなければならないのと同じく、介護に直面して労働者が申出をしたときに、仕事と介護の両立支援制度など(介護休業、介護休暇、残業制限など)を個別に周知して、労働者の意向を確認する義務があるとされました。
まだ介護に直面はしていない40歳などの労働者に対しても、早い段階から仕事と介護の両立支援制度についての情報提供を行う義務があるとされました。
労働者が両立支援制度を利用しやすいように、研修を行う、相談窓口を設置するなどの環境を整備する義務があるとされました。
要介護状態の家族を介護する労働者がテレワークを選択できるようにする義務(努力義務)があるとされました。
改正前は、その企業に勤続6カ月未満の労働者は労使協定によって介護休暇の対象外とすることができましたが、今回の改正でこの仕組みは廃止されました。
今回の改正は、企業に対して大きな影響を与える改正だといえます。まずは企業の就業規則又は育児・介護休業に関する規則(規程)の内容について、今回の改正によって修正するべき箇所がないか確認する必要があるでしょう。
従来から存在した制度(育児中の残業免除、子の看護休暇、介護休暇)についても改正がされて制度を利用することができる労働者の範囲の拡大などがなされたため、それに対応して社内規程を整備する必要があります。
また、今回新しくつくられた制度、「柔軟な働き方を実現するための措置」の実施や、「個別の意向の聴取と配慮」の実施、介護の申出があった場合の個別周知と意向確認などについては、今後法律に紐づく省令、そしてガイドラインが出されるので、それらを参照して具体的にどのような対応を行っていくかを決めていくのがよいでしょう。
さらに、男性の育児休業取得率の公表については、対象となる企業が拡大されたため、自社が対象となっていないか確認する必要があります。対象となっている場合は、取得率の公表をできるように準備しておくのが望ましいです。
次世代育成支援対策推進法に関して、行動計画の策定と認定については、特に常時雇用する労働者数が100人超の企業は行動計画の策定が義務となっているため、今回の改正も踏まえた上での計画を策定する必要があります。
具体的に行動計画に盛り込むことが望ましい事項などについても、指針で示される予定となっているため、指針が出たらそれを参照して計画を策定することになります。
少子高齢化が進む中で、育児や介護と仕事の両立は非常に重要な課題となっています。そのため今回の法改正のように、今後ますます企業は労働者が柔軟な働き方を実現できるために職場環境を整えることが求められるでしょう。
まずは法令で定められた義務としての措置を講じることは必須です。人事労務関連の法令は比較的法改正が頻繁に行われます。企業内の労務部門、法務部門などは日常業務に加えて、こういった法改正にもれなく対応していく必要があります。
弁護士、社会保険労務士など外部の専門家の力も借りつつ、自社業務を各種ITツールの導入などで効率化することで、こういった法改正対応も乗り切っていただければと思います。
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