AIを日常的に使う世界はすぐそこに SoftBank World 2024 講演レポート

2024年11月08日掲載

AIを日常的に使う世界はすぐそこに SoftBank World 2024 講演レポート

デジタルトランスフォーメーション(DX)が主流だった日々が遥か昔のことのように思える程、AIが日常に溶け込むスピードが加速しています。AIの活用は地域活性化や社会課題解決の可能性を秘めています。それを実現するためにはAIを多様化させ、潜在能力を最大限に引き出す必要があります。
誰もがAIを当たり前に使う時代を迎えるために、私たちは何をすべきか。株式会社TOKIOの国分太一氏をモデレータに迎え、東京大学の森川教授とソフトバンクのCIO兼AI責任者の3名が対談形式で語りました。

本記事は、2024年10月3日に開催されたSoftBank World 2024での特別講演を再編集したものです。

目次

国分氏

国分 太一 氏
株式会社TOKIO
副社長

森川氏

森川 博之 氏
東京大学大学院
工学系研究科教授

牧園専務

牧園 啓市
ソフトバンク株式会社
専務執行役員 兼 CIO

ソフトバンクワールド,講演レポート

 数年前に株式会社TOKIOを立ち上げ新しいチャレンジをし続けている国分 太一氏、東京大学大学院教授で世の中にデジタルテクノロジーを浸透させることに奮闘している森川 博之氏、そしてソフトバンク株式会社 専務執行役員 兼 CIO の牧園 啓市による三者三様の立場でセッションがスタートしました。

国分 太一氏(以降、国分):「株式会社TOKIOの理念も含めて、AIからほど遠いことをいろいろとやっているんですけども、そんな私がこの会に参加しても大丈夫でしょうか」

森川 博之氏(以降、森川):「僕としてはとてもありがたいと思っていまして、素朴な疑問とかをぶつけていただけることで技術側の人たちの気づきになり、それがAIが浸透していくきっかけになると思っています。AIは進化し知識はどんどん上がりますが、AIが賢くなっても、それをどう使うかを人間が考えなくてはならない。基礎となる質問がとても大切で、その部分がないとAIは社会のどこでも利用されないモノになってしまうと思います」

ソフトバンクワールド,講演レポート,国分氏

地方創生とデジタル社会人材

 最初の議題は「地方創生とデジタル社会人材」。日本が今抱えている課題とデジタルがどのように向き合うのか、という内容で始まりました。

国分氏:「私たちTOKIOは福島県の西郷村というところに東京ドーム2個分の土地を買い、先人から教わったものを後継者に伝えていくということを始めています。TOKIOの3人だけでは難しいことなので、福島県の地元の皆さんや大手企業さんとタッグを組みながらプロジェクトとして取り組んでいます。
福島県においても、子供たちは昔の遊びをしなくなってきています。しかし、大切なものは残すべきではないかということで、私たち株式会社TOKIOは今、『TOKIO-BA』という場所を作り、温泉を作りたいという夢を持っています。そうすることで温泉も自分たちで掘らないと意味がないとか、手作りって大変なんだよと、後世に伝えていくわけですけれども、そういった地方創生とか、デジタル社会人材というものは地方が抱えている問題にもつながっていると思うんです」

ソフトバンクワールド,TOKIO-BA 温泉を作ろうとしているというTOKIO-BA

森川氏:「今、人口がぐっと減少しています。生産性を上げないと次の世代によい日本というものを残していくことができないので、デジタルテクノロジーは使わないよりは使った方がいい。日本はまだまだ経済規模があるので、デジタルテクノロジーをたくさん使って新しい価値の創造につなげていく、そういうお手伝いがしたいと思っています」

国分氏:「『デジタル社会人材』というのはどのような意味でしょうか」

森川氏:「『デジタル人材』という言葉とは分けて使っています。デジタル人材が大切で増やすべきと言われていますが、それだけでは駄目だと思うんです。デジタル人材とは、プログラミングができる、深層学習が強い、統計学が分かっている、といった素晴らしい人たちです。しかし、大事なのは現場の人たちが考えるということだと思います。現場の人たちが起点となって、AIやテクノロジーを使ってこれをやってみよう、とデジタルやAIに向き合っていく。そういった『デジタル社会人材』という意識を全ての人々がもつことが大事です」

国分氏:「地元が抱えている課題は地元の人が一番分かっている。その地元の人たちがまず最初に疑問を見つけ、デジタルで解決していこう、と考えることが大切なんですね。でも、その地方の方たちは、デジタルを使いこなせるのか少し心配なところもあります」

牧園:「『デジタル』と言うととっつきにくいと思いますが、今までの歴史を見ても分かる通り、使いやすくするようなUIがどんどん出てきています。例えばチャットは、言葉という人間がコミュニケーションを取れるようなUIがあるから使いこなせる。人が変わらない形で使いこなせることが1番大事で、そうした取り組みをソフトバンクはやっています。

 自動運転もそうです。いろいろな技術が使われていますが、要は今までのバスと何も変わらず、人が普通に乗って行きたいところまで行って降りる。全くUIは変わっていません」

ソフトバンクワールド,自動運転車輛 自動運転の車輛が街中を走行している様子

牧園:「日本の自動運転技術は世界と比べても全然遅れていません。しかし技術があってもビジネスとして追いついていない状況なので、経済として成り立たせるためには国の制度に対する取り組みをしなくてはいけない、という問題もあります」

国分氏:「自動運転のバスに乗るとき、最初は少し抵抗あるかもしれませんが、普通のバスに乗るように自動運転のバスに乗る、という第一歩が、普通の生活の中にAIを取り入れるということになるんですかね」

牧園:「最初は多分、バスに運転手がいないことにびっくりするでしょうね」

国分氏:「僕のおじいちゃんもそうでしたが、カメラに映ると魂を抜かれるからすごく嫌だって言うんです。そんな時代からスタートして、今では当たり前のようにスマートフォンにカメラがついている時代になっているという、やはり私たちがデジタルやAIを受け入れることで進化は早くなるものなのでしょうか」

森川氏:「そうだと思います。とにかく失敗してもやり続けないと進化しないのです」

国分氏:「どんなことでも新しいことをやるときは失敗がありますが、失敗で終わってしまったらその先の成果がない。その成果を考えて、失敗も認めてくださいということですね」

森川氏:「イギリスの赤旗法という百数十年前の『車は危ないから、赤い旗を振って注意を喚起する先導者を義務付けた』法律のために技術が進展しなかったということもあるように、制度とテクノロジーは表裏一体です。あまり制度で固めてしまうと技術は進まないので、バランスが重要ですね」

国分氏:「日本は数年後にある大阪万博などで注目を浴びて大きなステップを踏み出したり、世界にアピールして制度も変えていくという手段もありますね。デジタル技術は知らないうちに使っていたりする可能性が高いだけで、とても身近なものだと感じました」

 何ごとも最初は抵抗感があるものの、一歩踏み出して自分の生活の中に取り入れることによってそれが当たり前のことになっていく。失敗してもやめずにチャレンジを繰り返すことが大切なのは、AIに対しても同様であると国分氏は言います。

AIのエサがデータである

 2つ目の議題は「AIのエサがデータである」です。

ソフトバンクワールド,AIのエサがデータである

国分氏:「AIのエサがデータである」とはどういうことでしょうか」

牧園:「AIは賢くならなければいけないのですが、そのためにはいろいろな情報を与えないと賢くはなりません。例えば、日本語なら日本語の、英語なら英語の情報を与えなくてはいけない。そのデータがあるからAIは賢くなります。そしてそのデータはどのようにして手に入るのか、というのがキーなんです」

国分氏:「AIとの会話をしていけばしていくほど、どんどん成長していくのでは?」

牧園:「例えばChatGPTだと、自分が出した情報を食べてもいいですか、食べたらいけませんか、という設定ができます。食べてもいいとすると、その情報を彼らはどんどん食べてしまいますが、どうしてもこの情報は食べさせたくないと思ったら、食べさせないことができる。もちろん多く食べさせた方がいろんな情報を得ることができるのですが、情報をどう整理するかがとても重要です。企業に膨大な情報があっても、それを全部AIが食べられますかというと、まだ食べられない状態だったりします。食べられない状態というのは、人間にとってとても分かりやすいPDFファイルの仕様書などを、そのままAIに読ませると意味がよくわからない状態になってしまう、というような状態です。AIに食べさせるデータ=エサ作りが難しいのです」

 AIにただ情報を与えるだけではなく、AIを進化させるにはエサが大切だと牧園は続けます。

牧園:「いらないエサはできるだけ除いて、よいエサだけをあげることが大切です。よいエサかどうかのジャッジは難しく、そこはエンジニアの仕事になります。余計な情報をきれいにしてあげるには技術が必要です」

森川氏:「エンジニアの仕事の前に、何をしたいかというところも大切です。企業には膨大なデータが転がっていますが、それをAIに食わせてあげると業務プロセスがガラッと変わる可能性がある。例えばサプライチェーンの上流から下流まで、ひとつの企業だけでなく複数の企業のデータをAIに与えることによって、サプライチェーン全体が最適化されていく、ということも可能なんです」

デジタルで重要なことは「大義」と「きれいな心」

国分氏:「持っているデータをあまり共有したくない、ということもあるのでしょうか」

牧園:「本来は1つのAIにたくさん食べさせた方がよいのですが、企業にとて機密情報にあたるものがあります。実際には機密情報の中のほとんどは一般情報なのですが、全部機密情報にしてしまっている。それを分解してあげるということと、みんなで共有してもいいよと思う気持ちが大事ですね」

森川氏:「私は、いわゆる天動説と地動説という言いかたでよく話していますが、データを出したくないと言うのは自分中心の天動説で、大きく全体を考えればデータ出した方がいいかもしれないと言うのが地動説だと思うんです。大義があって、マクロで見たらそこに向かってデータを出した方がいい場合があるのですが、そういったことがなかなか日本は得意ではありません。『大義』そして『きれいな心』が重要です。皆で共感して一緒にやりましょうということが大事で、デジタル時代になればなるほど人間力が必要になると思います」

国分氏:「デジタル化されればされるほど人間力を高めなきゃいけないということでしょうか」

森川氏:「例えば、大きな会社の中には多くの事業部がありますが、それぞれが外の会社ともつながっている。そうしたときに、地表で見ている場合と上空100メートルからマクロで見てるのとでは全然景色が違いますよね。理想的には上空100メートルのところへ行って俯瞰して見て、どうデータを使ったらいいだろうか、ということを考える人が出てくると面白い展開になってくると思います」

国分氏:「一つの大義があって、そのためにいろいろな企業が集まったときに、それをまとめる中心となる人というのも人間力としては必要になるということですね」

牧園:「そこが一番大事ですね。我々もそこを目指してはいるのですが、ソフトバンクもときには当事者ではなかったりしますし、技術を持っているサポーターだけでなく当事者が必要だったりします。当事者たちにこういう世界があったらいい、そのためにはどうしたらいいだろうって聞いてもらって、こうしたらいいですよ、と皆が集まって動く。その際、一番最初にやらなくてはならないのはデータです。データをきれいにして、きちんとAIに食べさせてあげると、この業界の一番いいAIが出来上がります。しかし、当事者たちがこれをやりたいと思わないと、なかなかサポートができない。ここが問題なんです」

森川氏:「結局、動かしていくのは人なんです」

国分氏:「理想のAIを作ろうとしていても、壁はその『人間』である部分はたくさんあるんだなということを改めて感じます」

ソフトバンクワールド,森川氏-講演

 企業もお客さまも、ほかのステークホルダーも。皆が儲からないといけない。「自分だけ」という自分中心ではなく、世の中全体のためにデータを活用すべきであるという考え方が大事だと森川氏は語ります。

牧園:「社会課題があったとき、この課題認識が大義になりやすいので動きやすいというのは間違いありません。世の中の人たちが便利になるとしても、結局、誰が儲かるのかというだけでは、なかなか大義としては成り立たなかったりします。どのようにして大義にするかを考えると、『社会課題にどう取り組むのか』というのが一番大事だと思います」

国分氏:「昔からある社会課題だとしたら、大手企業が1チームごとにそれに向かって進んで行っても結果は出ない。だからこそ、皆さんと手を組んで情報を出し合えば、その社会課題というのはクリアできるかもしれないということなんでしょうか」

森川氏:「僕は最近テトリス型経営と言っていますが、テトリスのパーツをクルクルと回転して、ぴったりうまく当てはまったときに大きな価値が生まれる。そんな時代になってきていると感じています。AIやテクノロジーも1つのパーツです。ステークホルダー、自治体、企業や個人をうまく回転させてくっつけて価値を生み出すといった時代に入ってきたと思っています」

国分氏:「パーツを回転させて役の立ち方が変わることで、縦のままだとうまく役に立ってないけれども、横にした瞬間に役に立つとか、そういうことがありますね」

森川氏:「まさにそういうことで、パーツをつないでいる人たちは、パーツに回転してもらわないといけなくて、回転してくれないとうまくくっつかない。回転してもらうためには、先ほど言った『大義』が必要で、心のきれいな人が必要です。デジタルなんて使いたくないという人がいたら、デジタル使ったらいいんじゃないか、一緒にやろうよ、と回転してもらわないといけないので、回転させるところが実は大変です」

国分氏:「人間が手を組んでやった方が社会課題をクリアできるんじゃないかという、疑いから入っている人もまだ多いとは思いますが、もう変化していかなければいけないときに来ているということでしょうか」

牧園:「今はその変化のときを受け入れられるか受け入れられないかという瀬戸際に来ているような気がしますね。失われた30年と日本ではよく言われますが、これからの日本の経済がどこで発展するかというと、時代が変わるときに頑張らなくてはいけないんですね。変化することを恐れずに頑張る。変化することを恐れてしまうと、ビジネスや経済の中で遅れてしまい、発展できずに国力も下がっていく。これを繰り返さないようにするために、今そういうタイミングに来ていると思うので、ここで頑張らなくてはいけないんだなという気がします」

 さらに、企業は団結して日本のためにデータを集める必要がある、と牧園は続けます。

ソフトバンクワールド,牧園専務-講演

牧園:「きちんとしたエサをAIに与えて、AIをみんなで作らなければ、と皆さんに本当に思ってもらえるかどうかですね」

国分氏:「AIに同じような情報を入れると、同じ答えが世の中に増えるみたいなことはないのでしょうか」

牧園:「AI自身はきちんとしたデータを入れることによってどんどん進化していくので、毎日のように同じ質問をしても次の日には違う答えがきます。もし同じ答えが出てきたとしても、それを人がどう受け取って次の価値にどのようにつなげていくかが重要です。今まで少し大変だなというものをAIに任せて、人はそれ以外のことに向かうということが大事だと思いますね。かと言って人間の仕事が減るわけではありません。ちょっと価値の高いところを人がやって、そうでないところはAIに任せてしまう、ということです」

森川氏:「すでに学生に出すレポートの課題は、学生がChatGPTを使う前提で問題を出しています。ChatGPTで答えづらそうな問題を作ったり、そんな時代になってますね」

国分氏:「若い人たちはデジタルの使い方が上手ですね。この先、その若い人たちがデジタルをさらに使っていくと新たな仕事や課題が生まれていく。だからこそ僕ら世代も頑張らなきゃいけないのかなという気はします」

牧園:「数年後にはデジタルネイティブではなくAIネイティブの社員が入ってきます。しかし上司はAIを使いこなせず、うまくコミュニケーションが成立しない状況になる可能性もあります。ソフトバンク社内でもAIを活用するようにと言っていますが、それでも本当に使ってる者は多くはないですね」

森川氏:「AIを使うことに慣れていただくことが重要です。使っていくと必ず人間とAIとの関係がまた新しいフェーズに入ります。意思決定の仕方や業務プロセスがガラッと変わるはずなので、どう変わるかということを一人一人が考えていただきたい。どう変わるのか、今答えはありませんので、それを考えていただくということがとても重要なのかなと思っています」

国分氏:「AIが特別なものという感覚がまだありますが、もう少し生活の中に取り込んで、1人の人間と同じぐらいの場所にAIを置くことから始めれば使いやすくなりますか」

牧園:「新しいGPTは計算に強いんです。以前のGPTは言語に強い。これはAIのキャラクターの違いだと思っていて、その特性を生かして会話をしてあげると、自分が望むやり取りがいろいろ出てきます。
 キャラが違うAIとどのように付き合うかというのを、想像できる人が新しい創造物をつくる、新しい価値を作れるようになります」

国分氏:「この先の創造を見据えた部分で、エサを入れていくということがとても大切な時期に来ているんですね。最初は驚いたけれど、今は普通に使っていることがたくさんあります。AIを受け入れて付き合っていく。エサを与えるスピードが速くなると、質のいいエサになっていくということなんですね。
 全く知らなかった世界ですがとても楽しい世界であること、しかしまだ一歩を踏み出してもいなかったんだなというのを改めて感じましたし、どんな人でも役割があるように、AIの中でもその役割はあって、僕たちが認識して使っていかなくてはいけないんだなっていうのを理解しました」

森川氏:「今日は本当に国分さんにいらしていただいたことがとてもありがたかったです。AIの技術の人たちだけだとどうしても気づかないところがあって、やはりいろいろな人たちが集うのがすごく重要だし、多様な場だからこそ気づけることがあります」

牧園:「AIを知る、どういうキャラクターなんだろうって知ろうとする。実際に人間同士の多様性も全く同じで、自分が知らない人のことをちゃんと知る、相互理解すると驚くような新しい価値が生まれていくと思います。全く違う人とお付き合いするとき、まず理解しようとすることが重要で、AIも同じように重要なのだと思います」

 皆で協力して日本が次のステージに向かうことを実感したという国分氏は、教授のアカデミックな取り組みと、企業としてのソフトバンクの取り組みで、よりよい日本社会に向かうためによろしくお願いします、として対談を締めくくりました。

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