生成AIを自治体業務でフル活用! 職員の本音と成功のヒントとは

2025年1月27日掲載

生成AIを自治体業務でフル活用! 職員の本音と成功のヒントとは

ChatGPTに代表される生成AI。ビジネス現場での利用が広がる中、自治体でも活用が進んでいます。しかし、日々の業務に追われている自治体職員は新しい技術を取り入れる余裕があまりなく、そもそも生成AIに対して興味を持ちにくい環境にあります。また興味があってもいざ活用するとなると、どのように使って良いか分からないとの声をよく耳にします。
本記事では、現役の自治体職員同士のトークを通し、生成AI活用の具体的な課題とその解決策について探ります。

目次
相場 雄大
相場 雄大
出向前は秋田県庁で環境保護や新型コロナウイルス感染症対策などに従事。ソフトバンクでは、Web施策と自治体への生成AI導入支援を担当。
川久保 奈於
川久保 奈於
出向前は宮崎市役所で税・国保・年金の窓口業務に従事。ソフトバンクでは連携自治体へのDX推進支援業務やWeb記事作成を担当。
山口 友也
山口 友也
出向前は奈良県庁で公共工事の入札や契約業務に従事。ソフトバンクでは、自治体向けのDX人材育成研修や東海自治体への提案業務を担当。

自治体職員が感じる生成AI活用の課題とは?

山口さん: 最近、ChatGPTなどの生成AIサービスが次々と登場し、ビジネスの現場でも活用が広がっています。昨年と比べて、生成AIを業務に取り入れる自治体も増えたように感じますが、いまどのような課題があるのでしょうか?

川久保さん: 現在、生成AIを使える環境にある自治体は確かに増えていますが、使いこなせている自治体はそこまで多くないように感じています。生成AIに対してあまり興味を持っていない職員がいるということもありますが、興味をもっていざ使ってみると、あまり上手く使えず、それ以来使わなくなる職員も多いと考えます。結果的に自治体で利用者が伸び悩んでいるといった利活用の課題につながっています。

相場さん: そうですね。職員の利活用についてはどこの自治体でも課題となっている印象があります。職員が上手く使えない要因の一つは、生成AIの回答に対し「完璧を求めすぎている」ことがあると考えています。自治体職員にとって間違いは許されない風潮があるため、それを生成AIにも求めてしまい、少しでも思った通りの結果が出ないと 「使えない」 と判断してしまうケースがあります。完璧でなくても業務効率化を実現できる「使い方」がたくさんあるのに、本当にもったいないですね。

川久保さん: 確かに使い方で悩んでいる方は多いですね。さらに私は、「活用シーンが浮かばない」ことで利用が進まないのではないかと考えています。活用できる部分が分からないことは、不適切な業務での利用につながります。例えば、自治体業務には毎年開催されるイベントも多くあるので、資料作成で言えば、新たに何かを生み出すことが得意な生成AIを無理に使うよりも、開催概要や通知文などは前年のものを活用する方が早いこともあります。そのような既存資料が豊富に利用できるところでは、かえって手間が増え、生成AIを使わない方が良いと考えてしまいます。自身の業務での良い活用シーンを見い出して、「使いどころ」を理解していくことが大事だと思います。

利活用課題の主な要因

完璧を手放して、生成AIを味方に!〜あるある事例で使い方をマスター〜

山口さん: 先ほど利活用課題に対して「①完璧を求めすぎている」「②活用シーンが浮かばない」といった2つの要因を挙げましたが、これらの要因が解消されれば、もっと活用が広がると考えられます。どのような解決策があるのでしょうか? では、まず「①完璧を求めすぎている」に対してお伺いします。

川久保さん: 生成AIはあくまでツールの一つであり、万能ではありません。しかし、完璧ではなくても、ちょっとした業務に活用でき、劇的な効率化が可能です。例えば「照会業務」です。庁内では、ひっきりなしに照会がきますが、照会文が本当に分かりにくいんです(笑)。 そのため私はややこしい照会文を効率的に整理するために生成AIを使っていました。(以下参考プロンプト)

あとは、文章の要約や概要作成など現状時間がかかっているけれど、生成AIを使えば作業が楽になる。そういったところを理解して職員間で広めていければ良いのではないでしょうか。

自治体での生成AI活用について議論する三人

■照会文を整理する

入力文

あなたは、自治体業務において問い合わせを整理する専門家です。
あなたの役割は、照会文の内容を理解し、自身と担当者がすぐに対応できるように必要な情報を整理することです。 以下の#照会文を読み、#出力形式のもとに整理してください。

#出力形式
・整理項目は「内容の要約」「対応すべきアクション」、「手順」、「期限・優先度」としてまとめてください。

#制約条件
・「内容の要約」は箇条書きで簡単にしてください。
・「対応すべきアクション」は大枠を記載し、次の「手順」で詳細を記載してください
・分かりやすい構成や文章にしてください。
・間違った内容に受け取られないよう、正確性重視でお願いします。
・分かりやすくするための補足はしていただきたいですが、新しい内容の追加はやめてください。
・もし確認事項があれば、「確認した方が良いこと」として教えてください。

#照会文
(照会文を記載)

回答例
※今回は例として子育て施策に関する文章を記載した回答例を示しています

■内容の要約
・自部門では、これまで実施してきた子育て施策に関連する業務の進捗状況と、関係部署間の情報共有体制を再点検している。
・所管領域における施策関連情報の整備状況や、今後予定されている指針策定や調整過程の有無を可能な範囲で教えてほしい。

■対応すべきアクション
・課での施策関連情報の整備状況を確認し、提供する。
・今後の指針策定や調整過程の予定があるか確認し、情報を提供する。

■手順
・課内で子育て施策に関連する情報の整備状況を確認する。
・今後予定している指針策定や調整過程の有無を確認する。
・共有可能な情報を整理し、可能な範囲で依頼元に提供する。

■期限・優先度
・可能な範囲で早めに回答することが望ましい。優先度は高め。

■確認した方が良いこと
・提供する情報に機密性や開示制限がないか確認する。
・必要に応じ具体的にどのような情報を求めているのか詳細を確認する。

相場さん: そうですね。自治体の「あるある」業務での使い方は、生成AIの便利さを理解いただくのに非常に効果的ですね。自治体ではよく「ほかの自治体では?」と上司から確認されます。私も事例探しに非常に時間を費やしていました。このような「他自治体の動向調査」などにも生成AIが活用ができます。今はインターネットの情報をまとめる生成AIサービスが豊富にあるので、そのようなサービスを活用し、情報を収集することで大幅な時短ができます。もちろんハルシネーションがあるので、どんな使い方をしても自身できっちりと事実確認を行う必要がありますが、全て自分一人で行うよりは遥かに効率的です。

※ハルシネーション(Hallucination=幻覚):存在しない情報やデータを生成し、もっともらしいウソの情報が出力されること

川久保さん: 自治体特有の文化に対しても効果が発揮される良い例ですね。むしろ相性の良い部分もたくさんあるのかもしれません。例えば、文書の体裁を整えることなどは生成AIの得意分野ですよね。現状、報告書や計画書の書式を整えるのに時間を割いている方も多いと思いますが、生成AIに任せることで、その時間を内容のブラッシュアップに充てられるようになりますね。(以下参考プロンプト)

■文章の体裁を整える

入力文

あなたは公文書作成の専門家です。正確性、明瞭性、形式的な正しさを基準に、対象文書を校正し、修正箇所の洗い出しと改善案を提示してください。

#出力形式
以下の形式で回答してください
・修正箇所:誤りが含まれる具体的な文や表現
・修正理由:修正が必要な理由(例: 文法の誤り、不自然な表現、敬語の誤用)
・改 善 案:修正後の提案文(簡潔で分かりやすく、公的文書のトーンを保つ)

#制約条件
・誤字脱字、不自然な言い回し、敬語や丁寧語の誤用、文法的な間違いを重点的にチェックしてください。
・修正案は公的文書としての正式な体裁を保つよう注意してください。
・校正内容に漏れがないよう、全ての箇所を網羅してください。

#対象文書
(以下に文書を記載)

回答例
※今回は例として子育て施策に関する文章を記載した回答例を示しています

・修正箇所: 「少子化や育児負担の増加は、地域社会全体が解決すべき重要な課題です。」

・修正理由: 表現が曖昧であり、具体性に欠けるため。
・改善案: 「少子化と育児負担の増加は、地域社会全体で解決すべき喫緊の課題です。」

・修正箇所: 「育児負担の増加」
・修正理由: 「増加」よりも「増大」の方が文脈に適しており、より正式な表現となります。
・改善案: 「育児負担の増大」

・修正箇所: 「家庭の家計を支えています。」
・修正理由: 「家庭」と「家計」は意味が重複しており、冗長な表現となっています。
・改善案: 「家計を支えています。」

相場さん: 完璧さを求めるのではなく、業務の一部を補助してくれる存在と考えることで、生成AIの本当の価値が見えてくると思います。完璧を求めている人には、まず自治体業務でのあるある的な事例を真似してもらうことで、使い方に慣れてもらうのが良いかもしれません。

業務で生成AIが輝くポイントは?〜使いどころを探す方法とは〜

山口さん: 先のような「自治体あるあるの活用事例」では、回答が完璧でなくても業務効率を大幅に向上できると理解してもらいやすいと感じました。では「②活用シーンが浮かばない」に対して、どのような解決策が考えられるのでしょうか?

相場さん: 事例から使い方を学ぶことで、活用シーンもある程度理解いただけるのかなと思いますが、使い始めはなかなか生成AIの「使いどころ」がイメージできないかもしれません。そこで、生成AIに「自治体業務のどこで使えるか」を聞いてみてはどうでしょうか。

自治体での生成AI活用について議論する三人

川久保さん: それはいいですね。私も最初は使いどころが分からず苦労しました。確かに聞いてしまえば早かったかも。

■活用シーンを生成AIに聞いてみる

入力文
あなたは自治体職員です。自治体業務の中で生成AIを活用できる場面について教えてください。
回答例

1.文書作成業務
・会議録の作成
   メモを基に、会議録や要点をまとめた報告書の作成。

2.政策立案・住民意見の分析
・アンケート分析
   住民アンケートの自由記述欄を分析し、政策立案のための意見集約を行う。



入力文
「会議録の作成」について、手順を例を示しながら教えてください。
回答例
手順 1: 会議メモを準備する
・例:簡単な箇条書きのメモなど

手順 2: 情報をAIに入力する
・例:「会議タイトル」、「日時」、「参加者」など

手順 3: プロンプトを作成
・例:あなたは○○です。・・・

手順 4: AIが生成した会議録を確認・修正
・例:議題の順番や内容が正確か。など

相場さん: 生成AIと対話しながら、一緒に探していけば良いのではないかと思います。一度質問して出力された回答に対し、「手順を教えてほしい」や「情報漏えいの懸念があるためその使い方はできない」「もっとこういうところが困っている」など追加で要求をしていくと、良い回答に導くことができます。幸いにして何度聞いても怒られることはありませんからね(笑)。

川久保さん: 確かに。その中で0から1を生み出すことや繰り返し行われているところがあれば、非常に良い使いどころになりますね。生成AIの活用シーンが浮かばない人も生成AIに聞いていけば、無理なく業務改善を進めることができますね。

相場さん: この先、自治体でも生成AIの活用は避けては通れません。最終的には自分で使いこなすところまでリテラシーを高める必要があります。自身で効果的な使いどころを見つけ、取り組んでいくことが重要です。

もっと自治体業務で生成AIを活用するために

山口さん: 利活用の課題に対しては、「あるある事例」のような活用事例で「使い方」を理解することや、生成AIを活用して「使いどころ」を見出すことが重要だということが分かりました。では、そのほかに今後自治体で生成AIの活用を広めるには、どのようなことが必要でしょうか。

相場さん: 利活用という点では、「研修会・勉強会の実施」「プロジェクトチームなどの体制づくり」など、複合的な定着化支援も必要だと思います。また、情報セキュリティや倫理面での注意点も職員の方に理解していただくことが大切です。小さな業務からでも良いので、ぜひ生成AIを使って効果を実感してほしいです。

川久保さん: 私は生成AIが活用できる業務の幅を広げることも大切だと感じています。
以下の図は、縦軸に「創造性」、横軸に「業務量」として、自治体業務を4象限でまとめてみたものです。自治体業務で特に時間が割かれており、職員の頭を悩ませている業務というのは、「創造性」も高く、「業務量」も多い、右上に並べた領域の業務になると考えます。どれも自治体業務の根幹を成す業務です。対して、良く生成AIで効率化できるとされている業務、例えば挨拶文は、「創造性」は高いかもしれませんが、そこまで「業務量」は多くないと思います。

自治体業務の4象限

相場さん: なるほど。業務量が高い領域にある「入札事務」なども、時間をかければできてしまうため、困っている度合いはそこまで高くないというわけですね。

川久保さん: そうです。自治体業務で職員に生成AIがなかなか浸透しないのも、本当に負担になっている右上の領域であまり使えていないことにあると考えています。この領域にある業務に対し、生成AIで効率化を図るために必要なのが、自治体で持っている独自のデータを活用した精度の高い回答です。通常の生成AIサービスでは、独自データをAIに学習されてしまうことを避けるため入力できる情報が限られてしまうので、どうしても抽象的な回答になってしまいます。しかしながら、自治体の中で求められているものは、特有のお作法や勘所を押さえた具体的な回答ではないでしょうか。特に右上の領域に並べた業務は、抽象的な回答では真の効率化につながりません。

相場さん: 確かに自治体業務は、一般企業と比べると特殊な部分も多いですからね。独自データを活用したモデルは、自治体に長年勤めている優秀なベテラン職員といったところでしょうか。本当に頼りになりそうですね。

川久保さん: 定着化支援はもちろん、さらなる業務活用を目指して、独自データを活用できるセキュアな環境を構築することも必要だと感じています。そうすることで、自治体業務は真に効率化され、職員の負担も軽減されていくのではないでしょうか。

山口さん: お二人とも本日はありがとうございました。

※通常の生成AIサービスを利用する際には、内部情報が学習される恐れがあるため、機密情報や個人情報を含む内容の入力を避け、各自治体の規定に従って利用するようお願いします。

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ビジネスブログ「 Future Stride」編集チーム
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