EDIX東京2025:ICTソリューションを活用した次世代教育への挑戦【講演リポート編_前編】
2025年5月30日掲載
教育分野における日本最大級の展示会であるEDIX(エディックス)東京2025が、2025年4月23日から25日の3日間にかけて東京ビッグサイトにて開催されました。
ソフトバンクブースでは「さぁ、挑戦しよう 学びの未来へ。」をテーマに掲げ、新たなソリューションの紹介を行いました。また、講演では総勢30名以上の有識者や先生方をお招きし、教育の未来について熱く語っていただきました。
教育現場の最前線を知る上で特に注目すべき4つの講演を、前編・後編に分けてご紹介します。
本記事 【前編】 では、「子どもの可能性は無限大~iPad だからできる学び~」 と 「みんな聞いて!GIGAスクール、その先へ!子どもたちが語る学校の未来」 の2つの講演を取り上げ、ICT活用が子どもたちの学びや学校生活にもたらした変化を、現場の声や実践例とともに詳しくお届けします。
1.「子どもの可能性は無限大~iPad だからできる学び~」
近畿大学附属小学校の外山先生、洗足学園小学校の赤尾先生、熊本市教育センターの山下先生の3名が登壇し、それぞれiPad の活用事例を紹介し、ディスカッションを行いました。
近畿大学附属小学校の活用事例
外山先生:「私たちの学校では、iPad を使った学びが日常の一部となっています。例えば、算数の授業では表計算アプリを使い、社会の授業ではディスカッションを行います。子どもたちは、自分に合った学び方を見つけ、イヤホンを使って動画を見たり、プレゼンテーションを行ったりしています」
コンテンツを消費するような受け身の使い方ではなく、頭の中にある考えや表現、伝えたい事をさまざまな方法で創造して発信するという能動的な使い方をできるようにする事が大切だと外山先生は言います。
外山先生:「紙と鉛筆しかない学びから、iPad がある事で子どもたちはそれぞれにあった学び方や得意な表現方法を選択できるというのが、今求められている多様な学びにつながるデバイスの活用方法なのではないかと思っています」
その実践として、小学3年生で学ぶ「モチモチの木」というお話で、生成AIとVRで物語の場面を想像して物語の世界をつくるという事を行いました。
外山先生:「この画像を使ってVR体験をしながら、あたかも自分が物語の中にいるような体験をする事で『想像しましょう』と言わなくても、どんどん頭の中で想像が膨らんでいく。それによって、子どもたちの本が嫌い、読むの嫌いというところも何とか改善できたらなという実践です。テクノロジーを使う事自体が目的ではなく、iPad のようなツールがある事で、子どもたちがもっと読みたい、もっと上手に話したいと思うようになるというところを狙っています」
多様な選択肢がある事のメリットをこう語ります。
外山先生:「指導者の選択肢が増えると授業デザインは変わっていきます。私たち教員がいろんなスキルやいろんな知識を広げて、いろんな方法を知る事で、授業のやり方ってどんどんどんどん変わっていくんですね。学習者の選択肢が増えると、学び方は自然と広がります。表現しましょうと言ったら、『僕はこの方法で、私はこの方法で』と、自分たちでどんどん選べるようになっていくと、学び方は自然と広がっていく。そういう事をiPad を使って実現したいと思い、日々実践をしています」
洗足学園小学校の活用事例
赤尾先生:「本校でもiPad のある生活が当たり前となっており、入学当初からiPad を使って学習を進めています。例えば、1年生の子どもたちが自己紹介カードを作る際にiPad を使っています。短時間で作る事で、交流の時間を長く取る事ができます。宿題なども1年生からデジタルで提出する事で荷物を減らせますし、1年生も楽しそうにいつも勉強しています。生活の中でもiPad を活用しており、例えばハンカチとティッシュの持参チェックを行う委員会ではチェック表をNumbersで共有しています。ポスター作成やアンケートもごく当たり前に行っています」
洗足学園小学校では2016年からICT活用を進めており、2019年からの急激な活用促進を経て、ICTは特別なものではなく、当たり前に活用されるようになりました。ICT推進委員会も役割を終え、10年⽬を迎えたICT活用は、新たなステージへと進み、その変化についてこう語ります。
赤尾先生:「活用が当たり前になった頃から変わり始めた事は、学び方の変化です。この変化により、子どもたちは自分の疑問を解決するためにテクノロジーを活用しています。例えば、空気鉄砲の中の水がどう飛び出すか疑問を持ったときに、今までテクノロジーがないときには、目では絶対に分からなかった事が簡単に確認ができるようになっています。子どもたちが、自分たちの学びは自分たちで進めるように変換しています」
また、iPad の一番の利点は大人の世界に近づける事だと赤尾先生は言います。
赤尾先生:「例えば、図工の時間にリアルな靴を作り、その宣伝ポスターや動画を作成していますが、こういった事はiPad がなければ絶対にできませんでした。児童会選挙のポスターや政見放送の動画も全校児童で共有していたり、こういった大人の世界に近づけるのも、iPad があるからだと思っています」
熊本市の教育現場での活用事例
熊本市では、小中学校にiPad が導入されています。2018年から3クラスに1クラスの割合で導入が始まり、2021年には1人1台となりました。現在の具体的な取り組みについてご紹介いただきました。
山下先生:「1年生がiPad のアプリClipsで朝顔の育て方を動画でまとめたり、6年生が夏休みの思い出を英語で動画にしたりしています。Clipsであれば1年生でも簡単にまとめる事ができます。また、中学校では光合成の仕組みをアニメーションで作成したり、学習課題について調べ、オリジナルのクイズを作るというような活動をしています」
iPad の導入による変化をこう語ります。
山下先生:「iPad が入った事で、本当に言語活動が多様になりました。さまざまな言語活動を通す事で、学んだ事を自分の中で理解する、自分の中で落とし込む、自分で言語化する、表現するという事が増えてきたかなというふうに思っています」
しかし、現実には、一人の教師が複数の生徒に一斉に授業を行う、いわゆる「デジタル一斉授業のまま」という課題もあるため、現場の先生に寄り添うための施策も熊本市教育センターでは行っています。
山下先生:「先生方に伴走者として寄り添いたい、一緒に考えたいという思いから、現場のニーズに合わせた研修というのを行っています。まずは教育センターに電話で相談をしてもらい、指導主事が学校にうかがいます。そこでリクエストを聞きながら、オーダーメード研修を行っています」
また、熊本市の大きな特徴は「産学官連携」だと山下先生は言います。
山下先生:「月に1回産学官連携会議を行い、情報化検討委員会も年に2、3回行っています。ICT教育に関する情報共有や今後の取り組みについて議論しています。これらの会議を通して、iPad の導入が進んでいたものの、活用方法が曖昧だったという課題が浮き彫りになりました。そこで、『教師用』『児童生徒用』『保護者用』のリーフレットを作成し、活用方法を明確化しました。さらに、タブレット開きを必須とし、そのための動画や授業展開案、教材などを提供する事で、なるべく先生たちに寄り添った事が教育センターとしてできるといいなと思い、取り組んでいるところです」
続いて先生たちでディスカッションが行われました
・なぜiPad ?
外山先生:「iPad が導入された途端に、できる事の幅が圧倒的に広がったと実感しています。iPad は動画や音声の取り扱いも可能で、活用の可能性が飛躍的に拡大しました。特に子どもたちにとっては、表現の幅が大きく広がるツールだと考えています。これまでは紙と鉛筆が中心でしたが、書く事や読む事が苦手な子どもにとっても、新たな表現手段が格段に増えたのは大きな変化です」
山下先生:「導入前にさまざまな端末を比較検討し、子どもたちにそれぞれの端末を使わせた事前授業を行ったところ、子どもの満足度が圧倒的に高かったのがiPad だったそうです。子どもがとにかく使いやすいもの、子どもが自分で端末を触りながら自分の思いを説明したりとか、そういう事ができる。それがiPad だと思います」
赤尾先生:「とにかく直感的に使えるところです。操作方法を教える時間を省きたかったので、すぐに使えるiPad は最適でした。また、クリエイティブなアプリケーションが多いのも魅力でした」
・授業創りはどうしている?
赤尾先生:「本校では置き換えから始めました。各教科で必ず使う物をデジタルに置き換えて、まずは毎時間使うようにしました。また、『ICT_café 』という、先生方がiPad を使って自由に遊ぶ会を設けました。そこで得た体験を、後から授業に生かしていくという流れです。先生方がiPad のさまざまな機能を使って遊ぶ事で、楽しいと感じてもらう事が重要だと考えています」
外山先生:「導入して3年間は、教員研修ではひたすらiPad を使って、先生たちが課題に取り組む時間にしました。顕微鏡の使い方の動画を作ったり、プレゼン資料を作ったり、先生自身が使いこなせるようになってから、子どもたちに還元していくという流れです」
山下先生:「先生たちに楽しい授業を体験してもらい、指導者側からの授業設計ではなく、子ども側からの授業設計を考える事が今は必要になってきていると思います。ICTをどう使うかというよりも、どう学んでいくかという授業攻略の本質を考える事が重要です」
2.「みんな聞いて!GIGAスクール、その先へ!子どもたちが語る学校の未来」
続いて、群馬県の吉岡町教育委員会 井堀先生と吉岡中学校の子どもたちが登壇しました。
吉岡町の教育委員会、教育現場で進める具体的な教育イノベーションについて、井堀先生に紹介いただきました。
吉岡中学校では全教科でさまざまなGoogle アプリを活用した学習が進んでおり、GIGA端末活用から生まれたアイデアを吉岡中学校の子どもたちが発表しました。
子どもたちが自ら学びを創造する! ICTで変わる授業風景
吉岡町では、GIGAスクール構想に基づき、いち早くICT環境の整備を進めてきました。Chromebook を活用し、従来の授業とは全く異なるスタイルで学びを深めています。
井堀先生:「子どもたちは授業で席に着くと、自分でチャットを開き始めます。チャットを開いて何か問題が出ていないかを確認し、Google Classroom を開いて、今日のルーブリックは何か、課題は何か、など自分たちで調べて進めています。また、学年全員の子どもたちの学びの状況をスプレットシートとスライドを使ってみんなで共有しています。ただ共有するだけではなく、友達の考えを読んで、自分の考えをコメントしていく。これを繰り返し行っていく事で思考力の向上を狙った授業展開をしています。色々な教科を通して情報活用能力や言語能力を高めようとした結果、『思考力』に関する項目で全国平均を上回る結果が出ています」
HiBALIプラン「考えて行動できる人の育成」
「HiBALIプラン」は吉岡町が推進する学校ICT教育推進計画です。「考えて行動できる人」の育成を目標に、子どもたちだけでなく先生や保護者、地域、企業なども含めたウェルビーイングの実現を目指しています。
井堀先生:「個別最適な学びと協働的な学びをどのように考えているかと言うと、並列ではありません。とにかく一番大事なのは、自分で考えて行動する力をつけてほしいというところを狙っています。これは子どもたちだけでなく先生も一緒です。教育委員会が言ったとおりに授業をすると言う事ではなく、先生自身が自分で考えて、自分の良さを生かした授業をしてほしいという事です」
「子ども主体の授業」、「校務DX」、「心理的安全性の確保」に力をいれて全体最適を目指していく理由として井堀先生は以下のように語ります。
井堀先生:「学びたい学校、働きたい職場を目指すという事が一番重要です。そのために、校務DXをはじめとした、教育現場の環境をどんどん整えていく取り組みを行っています。吉岡町では教育委員会が一方的な方針を示すのではなく、先生と教育委員会で定期的にリモートで協議を行い、協同で授業改善を進めていく事も行っています」
教育委員会と学校が一体となって進める校務DX
吉岡町では先生に1人1台 Chromebook とサブディスプレイを配置し、授業と校務を行っていますが、その効果を次のように語ります。
井堀先生:「特に効果が大きかったのは、ペーパーレスです。会議の都度、印刷していた紙がなくなった事で、2年間で40万枚の削減効果がありました。印刷代や人件費などを考えるとこれは非常に大きな事です」
また、ICT活用が進んでくると直面するセキュリティ問題については、以下のような取り組みで対策を行っていると言います。
井堀先生:「どんなに技術で縛ったり管理したとしても、やっぱりヒューマンエラーが起きてしまう。だからこそ一番大事なのは、先生方や子どもたちがセキュリティにしっかりと意識を持つという事だと思います。また、それだけではなく、GIGAスクール運営センターの支援を『Ddrive』に依頼し、支援に入ってもらう事で安心・安全にICTを活用できる環境づくりを行いました」
吉岡中学校の子どもたちが考えるICT活用アイデア
吉岡町の学校では、1人1台 Chromebook が配布され、全教科でGoogle アプリが使われICT活用が進んでいます。学校外での学びをもっと深めるために、家でも Chromebook を使ってもらいたいという思いから、さらなる活用方法を子どもたち自身が考え、実践しています。
・「まなびのテーマパーク」構想と「ICT部」設立
吉岡中学校2年生(たちばなさん、むとうさん):
「私たちは、Google サイトを活用した『まなびのテーマパーク』を作る事を提案しました。フードコートのように、さまざまな学習アプリケーションが並んでいて、利用者の意見で日々進化していく仕組みです。管理者は Gemini に行ってもらい、不適切な発言を自動で削除してもらう事を検討しましたが、Gemini では管理できないという事が判明し、『ICT部』を設立する事を考えました。ICT部は学校の部活動の1つとして活動し、『まなびのテーマパーク』の管理・運営、子どもや高齢者向けのICT教室開催などを活動内容として想定しています」
・「教員の働き方改革」
吉岡中学校3年生(しのはらさん):
「私は、教員の働き方改革について調べました。教員は、長時間の労働、残業代の不適切な支給、部活動など幅広い業務への対応、人間関係、教員不足など、多くの問題を抱えています。働き方改革は、教員の労働環境を改善し、教員不足を解消するために、絶対に必要です。具体的には、残業時間の削減、ICTを活用した業務効率化、業務内容の見直し、教職調整額(残業代)の引き上げなどが行われています。インタビューした私の担任の先生は、部活動の時間が減り、BLENDという教務システムを使って事務作業が効率化された事で、負担が減ったと話していました。私たち子どもも、教員の仕事の大変さを理解し、できる限りのサポートをする必要があると思います。教員の減少は社会課題の一つです。これを大人だけでなく、私たち子どもも知る事で、日本の教育の未来は変わると思います」
・不登校生徒支援と「子どもスクールカウンセラー」
吉岡中学校3年生(やこうさん):
「全国で約34万人の子どもたちが、不登校になっています。吉岡町では、『ひばりの家』や『ふれあい教室』などで、不登校生徒の支援を行っていますが、これらは学校復帰を第一目標としていません。しかし、私は、不登校生徒が学校に行きたいと思えるような環境を作る必要があると思います。そこで、私は『子どもスクールカウンセラー』の設置を提案します。大人のスクールカウンセラーに相談しにくい事も、子ども同士であれば、気軽に相談できると思います。もちろん、子どもだけで解決できない問題もありますが、あくまでも、大人のスクールカウンセラーにつなげるための役割と考えています」
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