EDIX東京2025:ICTソリューションを活用した次世代教育への挑戦【講演リポート編_後編】
2025年5月30日掲載
教育分野における日本最大級の展示会であるEDIX(エディックス)東京2025が、2025年4月23日から25日の3日間にかけて東京ビッグサイトにて開催されました。
ソフトバンクブースでは「さぁ、挑戦しよう 学びの未来へ。」をテーマに掲げ、新たなソリューションの紹介を行いました。また、講演では総勢30名以上の有識者や先生方をお招きし、教育の未来について熱く語っていただきました。
教育現場の最前線を知る上で特に注目すべき4つの講演を、前編・後編に分けてご紹介します。
本記事 【後編】 では、「『未来の教室』を創るには~GIGAスクール最初の5年の振り返り~」 と 「京都産業大学×ソフトバンクでひらく!大学の未来」 の2つの講演を取り上げます。GIGAスクール構想がもたらした教育現場の変化やその成果、今後の課題を振り返るとともに、大学教育におけるICT活用の最前線や新たな学びの可能性についても詳しくご紹介します。教育の未来を見据えた取り組みや展望を、具体的な事例を交えてお伝えします。
3. 「『未来の教室』を創るには~GIGAスクール最初の5年の振り返り~」
石川県の浅野 大介副知事と、奈良教育大学の小崎 誠二先生が、対談形式でGIGAスクール構想開始からの5年間を振り返り、現在の教育現場の様子や未来について語りました。
浅野氏は、経済産業省でサービス政策課長をしていた時期に、GIGAスクール構想を企画・推進してこられました。当時をこのように振り返ります。
浅野氏:「GIGAスクール構想を進めて行く中で、開始当初は教育の場に『一人一台』」のICT端末を配布する事に、必要性の疑問や、有害ではないか?などの反対の意見も多くありました。しかし、『これはこれからの教育の未来に必要だ』と最終的に判断・決定づけたのが、当時の安倍総理の一声でした」
続いて浅野氏は、「『教育DX』とは、学び方の『組み合わせ自在化』だ」と話します。オンデマンドかライブか、対面かオンラインかの選択肢が可能である事が、未来の教育の場のあるべき姿だと語りました。
浅野氏は、「”デジタル教育”という概念は存在しない」と表現しながら、デジタルを自然と教育現場へ取り入れる事の重要性を、実際の教育現場での取り組みも交え話しました。
浅野氏:「以前『未来の教室』というプロジェクトを行なった際は、学びの探求化・STEAM化※、自律化・一人一人にあった個別最適化を、基本的なコンセプトとしていました。7年前に麹町中学校で行った授業では、いわゆる「講義をしない授業」のスタイルで、一人一人が端末を活用し、自由進度学習を実践しました。『創る』と『知る』を循環させる形で、当時話題を集めました。この授業は地方の過疎地の学校でも十分に応用可能であると言えます」
小崎先生:「日本のGIGAスクール構想は世界でも注目度が高いと感じています。浅野副知事は、具体的にどの層の現場で効果が出ていると感じますか?」
浅野氏:「特に小学校は最も変わりつつあります。協働の学びや、自ら調べる事、仲間で議論するという部分にICTが活用されていると感じます。今後この世代の生徒たちが成長を重ねるにつれ、より良いパフォーマンスを発揮し、それに伴い、先生達の意識も変わっていくと感じています」
ICTの活用が進む中、生成AIのおかげで英語への苦手意識が減っているという学校もあるそうです。
小崎先生:「生成AIを英語の『壁打ち』相手とする事で、恥ずかしさを克服しながら会話練習ができるようになり、英語嫌いの生徒が劇的に減っている学校があります。AIの技術で手軽に発音、会話を練習した上で友人や教師と会話をすれば、生徒の意欲は高まり、その結果教室全体が盛り上がります。英語教師の役割はAIに奪われるのではなく、生徒の学習をサポートするための場や楽しい対話の機会を設計する事にシフトし、むしろ重要性が増していくと感じています」
生成AIの活用はさらに広がっているようです。
小崎先生:「生成AIによる自動採点ドリルは、子供の学習を進める意欲にもつながっています。誤った答えを『✖』としないで、さらに考え続けさせる姿勢、つまりはモチベーションの向上につながっている様子も見られます」
教員たちの取り組みや次の課題についてこう語りました。
浅野氏:「石川県羽咋市の学校では、教員が自作した教材を互いに共有し合う仕組みが整備されており、質の高い学習素材が次々と生まれています。今後この取り組みは、市内だけに留まらず広がっていき、それにインスパイアされ別の案が生まれ、教員間のネットワークがさらに広がって行けば良いと考えています」
GIGAスクール構想の立ち上げから5年。教育現場ではICTの活用が進み、近年では生成AIにより新たな価値が生み出されています。数年後の教室には、どのような世界が待っているのでしょうか。
4.「京都産業大学×ソフトバンクでひらく!大学の未来」
京都産業大学の奥村靖之氏とソフトバンクのスマートキャンパス推進室 貴堂と事業開発部の打越が登壇し、京都産業大学とソフトバンクが協働で取り組む大学DXについてセッションを行いました。大学と産業界が連携する事で、どのような大学の可能性を開けるのか、スマートキャンパス構想とその取り組みを紹介します。
大学が産業界と連携する重要性
奥村氏:「京都産業大学は10の学部を一つのキャンパスに集約する一拠点総合大学であり、さまざまな学部、取り組みや資源を持っています。大学が持つこういったリソースに、産業界の力を掛け合わす事ができれば、もっと世の中を面白くしていく事ができるだろう、イノベーションを起こす事ができるだろうと、デジタルの話よりも、むしろ変革の話が増えてきています。協定により、そこの支援が得られ非常に助かっています」
打越:「我々がなぜ大学に着目したかと言うと、大学が産業界・自治体をつなぐ大きなハブになるのではないか。学生や研究シーズなどの、まだ世の中に正しく認知されていないものが、世の中に出たらすごいイノベーションを起こすのではないか。そういう仮説をもとに、京都産業大学と大学DXを進めています」
貴堂:「通常こういった提案は情報システム部門や総務部門へ提案を行う事が多いのですが、京都産業大学は学長室でした。なぜ学長室だったのでしょうか?」
奥村氏:「デジタルトランスフォーメーションの要点は、『効率化』ではなく『生産性の向上』にあります。大学においては、学生の学びをもっと良くし、学生の成長を最大化するための取り組みとなるでしょう。これは、大学改革そのものですから、戦略企画として学長室直下でやるべきだと考えました。また、スピード感も重要です。決断のスピードを上げるために、常任理事会の下に大学DX会議を設置して、いろんな検討をどんどん進めていきました」
打越:「デジタルはあくまでも手段であり、学長室とビジョンや思いを共感し、熱量を持って進めていく事を起点としたのがポイントだと思います」
「Collaboration」:パートナー企業との3者コラボレーション
奥村氏:「まだ世にない、あったらいいなという事を実現させていくにあたり、本学とソフトバンクでは難しい事も、パートナー企業の協力を得る事ができれば可能になるでしょう。困難な事も、『どうやったらできるのか』をソフトバンクと一緒に考えています。また、本学、ソフトバンク、パートナー企業だけでなく、他大学や組織にとって役立つものを生み出そう、そういう事も重視してアイデアを描いてきました」
打越:「『三方よし』という考え方に基づき、京都産業大学とソフトバンク、そしてパートナー企業がそれぞれWIN-WIN-WINの関係になる事を目指しています。この価値が回る事で、サステナブルに持続する構図が続く事が本質的に重要であり、その意識を持って進めてきました。以下はその一例です」
・フルキャッシュレス・プラットフォームの構築
奥村氏:「キャッシュレス化は、つまるところペーパーレス化であり、全自動化によるタイムパフォーマンスの向上が目的となります。『ペーパーレス→フルデジタル→自動化』が可能となりますと、AIの活用も進むでしょう。色々な手続きの自動化が可能になれば、学生や保護者、教職員がもっと効率的に時間を使えるようになるのではないかという事で、検討を進めました」
・応援プラットフォームシステムの構築
奥村氏:「学生と卒業生や社会の人たちを、小口寄付、いわゆる“投げ銭”を通じて結びつける事ができれば、それは、新しいコミュニケーションの手段となるのではないか。卒業生が学生を応援してあげたいと思ったそのときに、面倒な手続きなく、すぐに寄付とメッセージを送る事ができる仕組みがあれば、もっとみんなで盛り上がれるのではないか。お金のやり取りも、見方を変えれば『応援したい気持ち、感謝の気持ちのやり取り』であり、そのプラットフォームを創りたい、そんな考えから構築を進めています」
「Solution」:デジタルを活用した学生のイマジネーションの引き出し
貴堂:「大学は学内ポータルや独自のアプリケーションなど情報が点在している環境があると思いますが、それを一つにまとめるため、誰もが使っているLINEを活用した環境を作りました」
奥村氏:「まず、学生生活が便利になる事は当然でしょう。しかし、それだけが、デジタル化・スマート化の目的では大学DXとしては物足りません。大学は、驚くべき技術、便利なサービスに学生を触れさせ、創造性を引き出し、技術・サービスを使ってどのような未来を構想するのかを問いていく場でもあります。大学は、いわば、イノベーションを起こすための未来のパビリオンと言えるでしょう。そこで、ソフトバンクの持つ多くのリソース、多様なソリューションが生きます」
「Relation」:大学がプラットフォームである事の重要性
奥村氏:「社会における大学の価値とはなにか。それは、高度な教育の提供や研究を進める事に加えて、キャンパスに集まる人や知を結び、何か面白い事を生み出していくプラットフォームである事です。大学は、プラットフォームビジネスという側面を持ちます。ですから、学生だけでなく、ソフトバンクをはじめとする、いろいろなプレイヤーを集め、新しい取り組みや行動を起こしていく事が重要になります。必ずしも全部成功する事はないでしょう。しかし、挑戦しなければ未来は開けません。産業界と一緒に挑戦していくにしても、同じ姿勢・ビジョンを持つパートナーが必要です。本学は、ソフトバンクという強力なパートナーを得て、アントレプレナーシップを持って、さらに挑戦しつづけていきます」
打越:「さまざまな取り組みを行う事が大切で、そのプロセスにどういう意義を持って取り組んだかも教育であり、取り組みを通じて、学生に伝わる部分もあると考えています。大学は地域や日本の未来を担う学生や先端技術、産業の源泉を持っており、ここに我々が着目して社会実装させていく事が重要だと思っています」
まとめ
EDIX東京2025で語られた教育の未来は、教育現場におけるDXや生成AIの活用、子どもたちの主体的な学び、そして大学と企業の連携による新たな教育モデルなど、多様な角度から「未来の学び」を具体的に描き出しました。教育現場では、ICT教育の発展に向けてさまざまな取り組みが進んでおり、ICT環境の進化と現場の挑戦が新しい教育のかたちを生み出しています。これにより、すべての子どもたちと教育関係者に貴重なヒントと希望がもたらされています。これから誰もが自分らしく学びを深められる教育の実現に向けて、その挑戦は続いていきます。
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