対面販売の精肉店として90店舗強を展開している株式会社ニュー・クイック(以下、ニュー・クイック)は、ベテラン店長の勘と経験に頼った店舗運営を行っていました。しかし、そのノウハウを言語化できず、若手への伝承が難しいという課題があったため、店舗・気象データを基にAIで需要を予測するサービス「サキミル」を導入しました。これにより、天候を考慮した店舗運営という基準ができ、ベテランがそのデータをどのように見ているのかを若い世代に伝えることが可能になりました。また、「サキミル」を値引き販売オペレーションの見直しやスタッフのシフト調整にも役立て、より効率的な店舗運営を進めています。
定量的な数値効果
惣菜部門値引き額
(前年対比)
8%削減
総労働時間(前年対比)
97%
時間外勤務(前年対比)
58%
「結果はこんなに良いのかというレベルで精度が高かったです。トライアル段階からいくつかの店舗では予測数値がほぼ合っていてみんなが驚いていました」
株式会社ニュー・クイック マーケティング部 部長 横田 英夫 氏
昨年、創業50周年を迎えたニュー・クイックは、創業当初から対面の接客販売を優先的に行っており、町のお肉屋さんのような量り売りのスタイルをチェーン展開として継続しています。これにより、お客さま一人一人のご要望に合わせたきめ細やかな対応が可能で、安心して購入していただける点が強みだそうです。そんな同社では、いかに店舗に負荷をかけずに業務効率化を進めるかに注力していると言います。
今回は、全社としての認知向上やブランド戦略の実施、啓蒙活動などをメインとしながら、販売に近い立場で業務整理も行っている横田氏と、エリアマネージャーとしてエリアごとに複数店舗を統括し、現在は大船店を含む6店舗の利益やスタッフの教育管理をしている国井氏,、そして、現場で30年勤務し、店長になって23年になる大船店店長の細矢氏という立場の異なる3名に課題解決に向けた取り組みを伺いました。
まず「サキミル」導入以前の状況について、課題に感じていたことを語っていただきました。
「本部としてデータ分析を強化する中で、現場に対して集める情報が精緻化・複雑化してしまい、店舗側はそれに応えるのが大変になってきていました。またもう1つの課題としては、ベテラン店長の勘と経験に依存した属人的な店舗運営を行っており、ノウハウが明文化されていないことから若手店長や下の世代への共有が困難でした。そこで、勘と経験に何らかの裏付けを加えることで、従業員一人一人にノウハウを浸透できないかなと思っていました」(横田氏)
「現場目線で見ると、良くも悪くも肌感覚なんです。『サキミル』のように定量的に示されることが今までなかったので、属人化された個人商店のようでした。店長は今90人ほどいますが、それぞれ経験も考え方も教育のされ方も違うので、私としては肌感覚が課題だとよく感じていました。昨今、トレンドにもなっているデータ活用やAIを取り入れている企業が成長し続けているのかなと思います」(国井氏)
一部の店長は意識的に情報収集や日々の数値追跡を精緻に行っているものの、確認すべき項目や数字がたくさんあると、見ることが疎かになったり集まっているデータが判断材料として活用されないことがあると言います。そのため、情報を見る習慣をつけることが重要だと考えていたそうです。
「小売で一番肝心な天気と外気温の確認を習慣づけることで経営への向き合い方を変えられるのではないかと思っていました。そのため、何か削減しましょうとか、売上アップしましょうといったすごい成果を出すというよりは、まずは情報を見る習慣を持つことで、天気を意識した経営や運営になってくれたら良いなと考えていました」(横田氏)
ニュー・クイックでは、単品のPOSデータを集積しにくい事情もあったと言います。そうした背景から横田氏が展示会でデータ分析に関する情報を収集しているときに、ソフトバンクのブースへ立ち寄り、AI需要予測サービス『サキミル』に出会ったそうです。
「駅ナカの店舗の場合、レジが委託運営されているため弊社の中でデータを取り揃えることができず、全店共通で確実に取れるのは売上金額と客数という限られたデータだけでした。以前から役員や経営層からも需要予測を取り入れられないかという話はありましたが、他社の需要予測は販売データありきになってくるので導入できませんでした。しかし、『サキミル』はその限られたデータを基に予測が可能であると聞いて魅力を感じました。また、天気を絡めた需要予測は今まで聞いたことがなかったので、エリアをピンポイントで区切って、特定地域の天気や実績に対して判断ができるのは一つの指針になるのではないかと思いました」(横田氏)
大船店は路面店のため普段から天気を気にしている一方で、駅ナカ店舗は天気に左右されにくいため、天気を意識しなくなってしまうと言います。そうした事情から、店舗異動があると感覚がガラッと変わってしまうそうです。
「異動の際は今までの感覚が通じないので苦労していました。その店舗のパートナーさんから情報を吸収したり、POSデータやストアコンピューターがない店舗の場合には、紙の過去データを引っ張り出す必要があります。そこに何カ月かかけている間に、繁忙期がきてしまうので本当に大変でした」(細矢氏)
横田氏はどの程度の精度なのかが気になり、複数店舗でトライアルを実施してみることにしたと言います。
「結果に関しては、こんなに良いのかというレベルで精度が高かったです。トライアルの段階からいくつかの店舗では予測数値がほぼ合っていて、みんなが驚いていました」(横田氏)
「ある種、悔しかったです。『サキミル』の導入にあたり数字を確認してほしいと言われて見たときに、最初は自分が予測していた経験値による客数とAIが予測した数値にギャップがあり、『いやいやこれはちょっと違うよ』と思いました。でも4月から続けて見ていく中で、今では『すごいね、肌感じゃないよね』と感じますね。直近では予測精度103%と3%のズレがある程度なので非常に助かっています」(細矢氏)
「現場の勘と経験と、こういった定量的な根拠があるものがうまく嚙み合わさったら、すごく有意義で、その可能性があると見ていて感じました」(国井氏)
また、ソフトバンクについても特定要件などの相談に対しての真摯な対応をしていたところをご評価いただいたと言います。
「トライアルの段階の応対も含めて疑問点は解消できたので、何ら不満はなく、むしろ導入に前向きになれました。また、『サキミル』側のダッシュボードの画面を店舗側がなかなか見に行かないので、見るツールを1つにするために、『サキミル』のデータをダウンロードしてニュー・クイック側のBIツールやポータルサイトの方に組み込む手法はないかなどの相談に対しても、真摯に対応していただいたと感じます。そうでないと恐らく導入できていないです」(横田氏)
ニュー・クイックでは、長年、RPAの活用も実施しており、夜中に自動処理で「サキミル」からダウンロードしてきた予測データを日々店舗が見ている管理ツールの中に日別の予測客数と天気データとして入れる使い方をしているそうです。
また導入時には、関係者を説得するためにチェーン店ならではの悩みもあったと言います。
「費用をかけて導入するということは、予測が当たっている店舗には役に立っていますと言えますが、当たっていない店舗についてはどう説明すれば良いだろうかと考えていました。しかし、思っていた以上に当たっている店舗の期間精度が良かったので、この精度でこのくらいの店舗が当たるんだったら導入したほうが良いよねという声に切り替わったタイミングがありました。また、精度の高さに加えて、導入することで1日1回の天気のチェックをルーティン化できます。それにより例えば1週間後の客数を予測して必要な準備や人員配置を考えてもらうだけでも全然違うと思っていたので、意識改革の手がかりにさせてほしいと上層部にも話をしました」(横田氏)
今までは新任店長が過去の売り上げを見るときに天気まで含まれていなかったと言います。
「できる店長や経験値のある店長に対しては、無理にこれに合わせてくださいという思いはなく、参考にしてくださいと伝えています。ただ、参考にするときにこれを見てどういう風な運営の仕方をしているのか、こういうやり方だとマッチしたというようなヒアリングをすることで、今まで明文化できていなかったものを、その下の世代に伝えていくことができるというのが大きいです」(横田氏)
大船店では、「サキミル」を仕入れやパートナーさんのシフト作りに役立てていると言います。
『サキミル』は仕入れと人の配置時間に活用しています。今までは示されていなかった根拠が示せることで、天気が悪い場合、1時間早く帰るといったパートナーさんの協力が得られているのは大きいです。また、大船店は夏場に売り上げが落ちる店舗なのですが、そういったときに根拠を示せることで、来店客数と予測を見て先に有給休暇を取るようにしようとか、ここは夏休みが取りやすいよねというようなシフトの調整にうまく使わせていただいています」(細矢氏)
『サキミル』を導入することで従業員の意識も変わったと語ります。
「私以外にも、副店長とお惣菜担当のパートナーさんが明日の天気はどうなんだ? 来店客数はどうなんだ? と気にするようになりました。それによって明日の特売をどうしようかとか、1ケース減らすか増やすかというところまでもう動き始めています。『サキミル』を導入して予測を見るうちに、自分たちで考えて動くことで効果が出てきているのを感じていますし、大船店は成功事例なのかなと思います」(細矢氏)
そして、エリアマネージャーの国井氏は台風の際に自身の現場感覚と「サキミル」を合わせた使い方をしていると言います。
「台風が接近している際、『サキミル』の予測客数に弊社システムから抽出した客単価一覧を掛け合わせて、予想売上を算出しました。そして、『これくらいの売上になるので、仕入れを抑えましょう。また、可能であれば従業員の安全を確保するために、遠方から通勤するスタッフには事前に休んでもらいましょう』と、前日にエリア内の全店舗にアナウンスしました。
ただ、私の感覚では予測客数がやや高めに感じられたため、『この予測よりも若干下がるかもしれない』という注意書きを添えました。結果的に私の読みが的中し、このような使い方が有効なのではないかと試しています」(国井氏)
大船店でも、AI需要予測に現場感覚をうまく合わせた活用を試しているそうです。
「以前は、伝票を部門ごとに仕分けし、電卓で計算して仕入れを分ける作業に1日約30分かかっていました。人によっては1時間ぐらいかかっている店長もいたのではないかと思います。
しかし、目標とする数値に根拠があるのとないのでは全然違います。『サキミル』の数字があれば明日の予測を見て、じゃあどうしようと動くことができるので、この数字に何を掛け合わせることができるかを考えて店頭販促をかけて、予測の数字のもう5~10%伸ばしていこうかなどというトライアルを店舗として行っています」(細矢氏)
店舗では天気のデータを値引き率(売上母数に対して値引きの金額で指数化)にも活用していると言います。
「例えば大船店は19時閉店ですが、17時から雨が降るとなるとお客さまは来なくなるので、普段17時に実施している値引きを今日は16時から実施しようといった使い方をしています」(国井氏)
実際にそのオペレーションでの変化について値引き率も変わったそうです。
「今までは、感覚だけで3割でいいか、2割でいいよねと値引きしていたものを、来店客数と天気を見ることによって、まだ2割でいいでしょうだとか、もう3割値引きしないとまずいよねということで、値引き率は削減されていると感じています」(細矢氏)
これにより、昨今、外的要因で単価が上がっているところに対して、複合的な要因があるものの「サキミル」を本導入後、惣菜部門では対前年比で増収を達成しつつ、値引き額が8%削減出来ていると言います。
さらに時給者への作業シフトが進んだことに加え、『サキミル』の予測に基づくシフト調整により、総労働時間(前年対比)97%、時間外勤務(前年対比)58%と店舗トータルでの勤務時間削減につながっているそうです。
本部と現場それぞれでデータを活用した効率化に取り組まれているニュー・クイック。本部としての今後の展望について横田氏は次のように述べます。
「店舗より管理している量が多いのでより慎重な判断が必要にはなりますが、大元の仕入れ側の方のコントロール(工場で管理する在庫の部分)に少しでも生かしていけると良いかなと思っています。また、今でも月中の予測を作るときに精度を見ながら組み立てており、期間計、全店計にすると当たっているので、全店合計で予算が少し足りない、未達になりそうというときには全体施策として、本部の販促や企画主体で何か追加で手が打てるように持っていきたいです」(横田氏)
現場サイドについて国井氏と細矢氏はこう語ります。
「昨今、原価も高くなっているので、『サキミル』を見たときにお客さまが来ないと思うのであれば、仕入れ量を減らして過剰在庫を持たないのも1つだと思います。店舗で在庫を持つとどうしても無駄に出してしまったり、生鮮品なので、物流センターの温度管理と店舗の温度管理を比較するとどうしても店舗の方が悪くなる分、ロスが出てしまう。そういうところも今後は活用できるのではないかなと思います」(国井氏)
「今後の活用方法としては、働きやすい職場作りのために活用したいですね。パートナーさんが無駄な労働や労力を使わずに1日を楽しく過ごせる。それによって仕事終わりの一家団欒ができたり、もっと言えば有給休暇が取りやすくなったりと、働きやすい環境を作っていければと思っています」(細矢氏)
さらなるデータ活用を目指して取り組んでいるニュー・クイック。
独自の使い方をされながら、現場感覚とうまくAI需要予測をミックスさせた活用を進めています。
お話を伺った方
株式会社ニュー・クイック
マーケティング部 部長
横田 英夫 氏
株式会社ニュー・クイック
エリアマネージャー
国井 俊雄 氏
株式会社ニュー・クイック
販売本部第二販売部 東神奈川グループ
大船店店長
細矢 征史 氏
本事例のサービスに関する導入へのご相談やお見積りなどについては、下記よりお気軽にお問い合わせください。
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