「SoftBank World 2022」DAY2に催されたスペシャルセッション。特別ゲストとして慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏、中外製薬株式会社 上席執行役員・志済聡⼦氏をゲストに迎え「社会・企業はどのようにデータを活用していくべきか」をテーマにそれぞれの立場からお話をいただきました。モデレーターは株式会社博報堂 ミライの事業室 室長代理 ビジネスデザインディレクター・堂上研氏が務めました。
※記載内容は2022年7月時点のものです。
「SoftBank World 2022」DAY2に催されたスペシャルセッション。特別ゲストとして慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏、中外製薬株式会社 上席執行役員・志済聡⼦氏をゲストに迎え「社会・企業はどのようにデータを活用していくべきか」をテーマにそれぞれの立場からお話をいただきました。モデレーターは株式会社博報堂 ミライの事業室 室長代理 ビジネスデザインディレクター・堂上研氏が務めました。
※記載内容は2022年7月時点のものです。
慶應義塾大学
医学部 教授
宮田 裕章 氏
中外製薬株式会社
上席執行役員
デジタルトランスフォーメーションユニット長
志済 聡子 氏
株式会社博報堂
ミライの事業室 室長代理
ビジネスデザインディレクター
堂上 研 氏
ソフトバンク株式会社
法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部 副本部長
中野 晴義
慶應義塾大学医学部教授でデータサイエンティストの宮田裕章氏がメインゲストを務めた前半セッション。テーマは「社会とデータサイエンス」です。
そもそも私たちはなぜ「データ」を必要とするのでしょうか。宮田氏は、世界中の薬がデータをもとにして安全が確認されていることで、より安心して投薬を受けられることや、LINE株式会社がコロナ禍で行った全国調査で“3密回避”などのコロナ対策の手がかりが共有されたことに触れ、「データがあることで私たちはよりフェアに、中立的に判断できるようになる」と話しました。
「すでに生活のあらゆるシーンでデータが回っている」と語る宮田氏が期待する重要トピックが「Web3時代」の到来です。
1990年代半ばからインターネットが世界中に普及、その後TwitterやYouTubeなどのサービスが世界を席巻しました。特に2000年代の半ばからの「Web2.0」時代ではGAFAMが象徴するプラットフォーマーが台頭、データの一極集中が起こりました。しかし、ブロックチェーン技術によって実現するWeb3(分散型インターネット)では、データは分散管理され、これまでとは違った状態に変わっていきます。
「企業・政府・行政などのプレイヤーが協力しながら適宜データを集め、あるいは分散させながら一緒にデータを活用することで価値を高めていく。そういう時代になりつつあります。これまでのビジネスでは自社のユーザ接点だけで考えられがちでしたが、Web3では直接的には関わりがないユーザと接点を持つ場合もあります。あらゆるユーザのデータ活用を想像しながらビジネスをつくらないと、企業は対応できなくなるでしょう」(宮田氏)
さらに、Web3時代のキーワードとして挙げられたのは“パーソナライズ化”。例えば音楽サービスは大多数に好まれるヒット曲を制作するだけではもはや成り立ちません。「一人一人の好み・シチュエーションに適した音楽を、適切なタイミングで届けることができるか否か」が重要視されるなど「パーソナライズ化がこれからの企業ビジネス・行政サービスの体験価値につながっていく」と宮田氏は話しました。
2017年10月、ソフトバンク内に設立された新規事業創出のための専門組織・DX本部は、東急不動産株式会社との共創活動として、東京・竹芝地区を舞台とした「スマートシティ竹芝」プロジェクトを推進中です。
「『スマートシティ竹芝』プロジェクトは、必要な情報を必要な人にリアルタイムにお伝えするという取り組みです。住んでいる方、働いている方、街を訪れる方、それぞれに必要な情報を提供します」(中野)
ソフトバンクが2020年に移転した本社ビル「東京ポートシティ竹芝オフィスタワー」は、1,400以上ものセンサーとAI・IoTとでビルの価値を向上する最先端スマートビルです。街の人流データや道路状況・交通状況などもデータ流通プラットフォームに集約され、各事業者の連携のもと回遊性向上・混雑緩和・防災強化などさまざまな課題解決に役立てられる想定です。
こうしたスマートシティの取り組みの中でも、Web3時代の一翼を担うパーソナライズ化に期待が寄せられています。取り組みの紹介を受け、宮田氏は次のような感想を述べました。
「産業界を中心に『都市化』というトレンドが世界中で100年間も続きました。しかしWeb2からWeb3に移り変われば生活者の体験価値——すなわち『大多数よりも、一人一人がどう生きるか』が見直されるでしょう。ソフトバンクのスマートシティ構想は、一人一人の豊かさを基準にした街づくりに寄与するものだと考えます」(宮田氏)
企業間連携により実現するWeb3時代のパーソナライズ化。前半セッションの最後に、宮田氏は日本企業に対し次のような期待を込めました。
「日本はコロナ給付金を一律に届けるだけでも数ヵ月かかってしまいました。『日本はデジタル敗戦国』なんて揶揄されることもあります。先進国の中でそれなりにGDPが高く、またインフラが十分に行き渡っているように見えても、実際は社会のなかには“つながり”——すなわちデジタル・データの価値が行き渡っていないのだと思います。
本当のつながりが行き届いた状態であれば、一人一人の状況や苦しさに応じて必要なタイミングで支援をする、そんなパーソナライズ化も含めた新しいサービスを実現できる社会になるはず。多様な生活者像をイメージし、そこに寄り添えるかどうか。それが、これからのビジネスにおけるキーワードになっていくでしょう」(宮田氏)
後半セッションでは、新たに中外製薬株式会社・志済聡子氏をメインゲストに迎え「企業の取り組み」に関するディスカッションが行われました。
中外製薬は、医療用医薬品メーカとして日本ではトップクラス。がん・バイオに強みを持つ研究開発型の製薬企業です。
同社は2021年、新成長戦略「TOP I 2030」を発表。その中では「世界最高水準の創薬の実現」「先進的事業モデルの構築」が宣言されています。またキードライバーに据えるDX実現のための「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」も策定。AIを活用した創薬プロセスの革新、デジタルバイオマーカーの開発、リアルワールドデータの利活用などに取り組んでいます。
前半セッションに登場していただいた宮田氏もビデオでメッセージを寄せました。
個人情報保護などを背景に、いまだ抵抗感が根強い医療関連データの利活用。志済氏は宮田氏に向け「データ連携に向け、事業者がどのようにしていくのがベストなのか」と質問を寄せました。
「まず前提として、医療におけるデータ利活用は『どのくらいの人々に役立つのか』、その根拠を示す必要があると思います。日本のマイナンバーにしても、普及率・保有率の目標ばかりが先行していますが、大事なのはそれで何ができるのか。『マイナンバーカードが保険証と一緒になった』だけでなく、個人番号と健診データが紐付くことで『国民一人一人に寄り添うために何ができるようになるのか』——そうした事例をつくっていくことが大切です。
そのうえで、一人一人のデータが散らからないように何をしていくのか。EUにはデータアクセス権がありますが、日本の医療でも一人一人がデータにアクセスする権利を軸に、いろいろな場所に点在しているデータをつなぐ必要がある。企業の皆さんにはそのために連携をしてWeb3への流れをつくっていただきたい」(宮田氏)
中外製薬は経済産業省が選定する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2022」に選定され、日本瓦斯株式会社とともに「DXグランプリ」を受賞しています。同じくDX銘柄2022に選定されているソフトバンクも、データ活用にまつわる2つの取り組みを紹介しました。
①AI需要予測サービス「サキミル」
お客さまが保有するデータ、ソフトバンクが保有する人流データ、日本気象協会が保有する気象データを活用したSaaS型のAI需要予測サービス。東海・北陸・近畿で展開するドラッグストアチェーン「V・ドラッグ」で行った実証実験では、来店客数予測を約93%の精度で行い、機会ロス改善・フードロス改善に寄与しました。
②全国うごき統計
ソフトバンク基地局から得た携帯端末ユーザの位置情報を集約、人の移動・滞在情報を匿名化・統計加工したうえでデータ提供します。商業・不動産、観光、交通、防災・減災などのユースケースが生まれています。
ソフトバンクの中野は後半セッションのなかで「企業がデータ活用を推進するには、デジタル人材の確保が課題」と指摘。しかし同時に「中外製薬様のように、社外パートナーと戦略的に提携してエコシステムをつくることが課題解決の道筋になる」と話します。
「たしかに古い価値観のままだと、どうしても私たちは自前主義に陥りがちです。しかしデータをもっと広く活用するには、さまざまな企業・ステークホルダーが手を取り合いながら、同一プラットフォームのなかで自社だけではできない幅広いデータ活用をしていかなければいけません。
コロナ禍で医療機関やドクターへの訪問もままならないなか、どのようにしてドクターの皆さんにデータドリブンな意思決定をしていただくかがこれからの課題。データ活用により『何かが一つでも変わった』というユースケースをつくり、それを皆で共有することが重要だと考えます」(志済氏)
最後に中野は次のようにまとめました。
「ソフトバンクの法人事業部門は、DXを通じて企業・社会の課題を解決していくミッションを持ちながら事業活動をしています。コミュニケーション、デジタルオートメーション、デジタルマーケティング、セキュリティー。これら欠かすことのできない4領域を中心に、いろいろなパートナーと組みながら、企業様向けのデジタル化を支援するサービスを提供していきたいと考えています」(中野)