AIによる事故予防の“今”の話をしよう。“不完全”自動運転時代のドラレコ「Nauto(ナウト)」

2019年9月5日掲載

もし「完全自動運転」になれば――。
高齢者による危険運転や免許返納問題が取り沙汰されると、必ずといっていいほど議論にあがる「完全自動運転」。しかし、その実用化の目処はというと、技術や法整備などあらゆる点において、まだ未来の話と言わざるをえない。

AIによる完全自動運転までのレベルを段階的に分け、現行法に照らし合わせると、AIによるドライバーの運転支援が現状の最適解となる。喫緊の問題である交通安全に、AIでどのようにアプローチするのか。

AIによって移動と交通の安全を守ることをミッションに掲げるシリコンバレー発の「Nauto(ナウト)」。ナウト・ジャパン日本代表の井田哲郎氏に同社のサービスの特長、そして、AIによって自動車の運転がどう変わっていくのかについて伺った。

目次

井田哲郎氏

ナウト・ジャパン 日本代表
大学卒業後、トヨタ自動車株式会社入社。中南米地域の販売戦略を担当。新興国戦略車のローンチや新ブランドの立ち上げに参画。2014年、カリフォルニア大学バークレー校MBA。2016年、Beepiでオンライン中古車マーケットプレースの立ち上げに参画。2017年、ナウト米国本社に移籍。同年6月、日本支社設立と同時に日本代表に就任。

車が進化しても、ヒューマンエラーの事故は減らない

高齢ドライバーによる危険運転、ドライバーの急病による事故などが近頃ニュースを賑わせ、交通事故に対する社会の関心が高まっている。警察庁が発表した統計によると、交通事故の原因の多くが安全不確認やわき見運転、相手の動きに対する判断を見誤る動静不注視などの法令違反、つまり、ヒューマンエラーが原因であるという。自動車そのものの性能は高まっているにも関わらず、ヒューマンエラーによる事故は後を絶たないのだ。

ここ数年は商用車を保有する企業のみならず、一般市民でも交通事故に対する意識が高まり、ドライブレコーダー市場が急速に広がっている。しかし、ドライブレコーダーは走行状況を録画し、後から確認するためのツール。万一、交通事故が起きた場合の“証人”になってくれるが、交通事故そのものを防ぐことには直結しない。

事故率50〜70%減。AIが人間の運転をサポートする「Nauto」

こうした中、ドライブレコーダーの「次の可能性」に挑んでいるのが、シリコンバレー発のスタートアップ「Nauto」だ。同社は、AIが運転中の危険をリアルタイムに自動検知する次世代型ドライブレコーダーを展開。井田氏は「Nautoは事故ゼロを目指すドライバー安全システム」であると、その特長を語る。

井田:Nautoは2017年にアメリカで販売開始しました。これまでに日米合わせて250社以上に導入しており、2018年末時点で、導入車の総走行距離は4億km以上となっています。

Nautoが従来のドライブレコーダーと大きく異なる点は、AIが危険運転をリアルタイムに検知し、ドライバーに安全運転を促すという点です。車内向けと車外向けのカメラが付いた車載器でドライバーの動きを感知し、分析。AIが一定秒以上のわき見運転や居眠り運転、車間距離が保たれていない状況などを検出すると、警告音を発してドライバーに知らせるとともに、運行管理者にメールで通知されます。

運行管理者は専用のWebアプリで、ドライバーごとに運行履歴や危険運転を検知した際の運転動画を確認できるほか、急ブレーキや急加速、わき見運転の回数なども確認できます。

さらに井田氏は、Nautoが「企業にもたらす価値」について、次のように語った。

井田:従来のドライブレコーダーはSDカードに運行映像を記録するものが多く、カードの抜き差しが手間でした。さらに、回収したデータを運行管理者がすべてレビューし、危険運転の有無をチェックしている企業も多く、大変な負担になっていました。

その点、NautoはSDカードの交換が不要です。また顔認証でドライバーを把握するので、例えば1人のドライバーが複数の車両に乗車した場合でも、そのドライバーがどの車に何時間乗ったかといった運行データをリアルタイムに集めることができます。また、危険運転があった動画だけがモバイル通信でクラウドにアップされるので、運行管理者はすべての運行映像をチェックする手間がなくなります。

こうしたAIによるデジタル化で、企業にとっては車両管理の手間を大幅に削減することが可能です。さらに、ドライバーごとの運転状況が可視化されるので、より効率的な安全運転指導に生かすことができます。

我々の主な顧客は運送会社やタクシー会社、営業車を持つ会社など。中でも、ドライブレコーダーを導入したけれど、「運用が大変だった」「事故が減らなかった」という経験を持つ企業です。導入した企業では車両管理の手間が削減しただけでなく、事故率が50〜70%減ったケースもありました。6ヵ月ほどの運用で、ドライバーのわき見運転が5割以上減ることがデータでも明らかになっています。

ドライバーからは「安全性が高まって嬉しい」という声がある一方、車内にカメラがあることに当初は抵抗感を抱く人もいます。しかし、安全運転していればデータが運行管理者に送られない仕組みで、プライバシーにも配慮した設計であることを説明すると納得してもらえる場合がほとんどです。

シリコンバレー発の先端技術。AIの精度は、すでに人の目と同等

では、AIが危険運転を判定する精度はどのレベルまで到達しているのだろうか。Nautoでは、人の目が見るのと同じくらいの精度でAIがわき見運転やあおり運転を検出できるという。

井田:従来のソリューションでは、目が基準点から何cmずれたらアラートをならすといったパターン認識が主流でした。この場合、角度の調整が大変で、正確なデータを集めることができませんでした。

それに対し、Nautoはディープラーニングを使ったアルゴリズムを使用しています。人がどこにいるかをAIが自動で検出して、その人がどう動いているのかを自分で判断します。人が見るのと同じような精度なので、サングラスをかけていたり、夜間などの暗い状況でも問題なく危険運転を検出することが可能です。顧客からも「精度が高い」という評価を得ています。

システムの開発は本国のアメリカで行っている。しかし、アメリカと日本では道路環境、人間の行動パターンが異なる。Nautoでは国ごとの交通ルール、道路幅などに合わせてローカライゼーションを行っているという。

完全自動運転実現には、「人にフォーカスしたデータ」が必要

Nautoでは集めた膨大な運行データをAIに学習させ、新しいアルゴリズムを作り、90〜120日に一度の頻度でソフトウェアを更新しているという。一度製品を出して終わりではなく、アップデートし続けるのはクラウドサービスならではだ。しかし、単に製品のアップデートという枠を超え、Nautoでは将来的な完全自動運転への活用を目指した取り組みを進めているという。

井田:特定の敷地内など限定された状況下での自動運転は2〜3年でいろいろなサービスが登場するでしょうが、完全自動運転の実現となると、まだ先。乗り越えなければならないハードルがたくさんあります。

完全自動運転に向けては、ドライバーの状況を知り、ドライバーが何を考え、どう動くのかをAIが予想できるようになることが必要です。そのためには、膨大なデータを集めてシミュレーションしなければいけません。AIドラレコを通してこうした「人にフォーカスしたデータ」を集めていくことは、我々の重要な役目ですし、完全自動運転実現の大きな一歩になると考えています。

Nautoのミッションは、AIや画像認識を活用して、安全なトランスポーテーションを実現すること。AIドラレコの開発、販売はあくまでそのスタート地点にすぎないという。

井田:今のドライバーを取り巻く状況と、完全自動運転までの間には大きなギャップがあります。その間を埋めることが我々の仕事。将来の完全自動運転実現に向けてデータを集め、シミュレーションを重ねる一方で、今後しばらくの間続く人間と自動運転が併存する社会で、ドライバーに安全で効率的な運転環境を提供していく。これが我々の事業のコアです。

さらに言えば、将来的にはAIドラレコで集めたデータを使ってさまざまなデータビジネスの展開も視野に入れています。車で走っているだけで車外の情報を集め、AIが分析してくれるという特長を生かせば、いろいろなビジネスの可能性があるのではと考えています。

後記

Nautoは日本ではスタートしたばかりの会社だが、オリックス自動車やソフトバンクとタッグを組み、販売を拡大しつつある。安全意識の高い中小の運送会社のみならず、数百、数千の車両を保有する企業での導入も相次いでいるという。ドライブレコーダーの次なる可能性に挑戦しているNauto。AIの活用によってどこまで事故を減らすことができるのか。今後の展開が楽しみだ。

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