デジタル×共創で社会課題の解決へ ソフトバンクが描く「未来の街」とは

"デジタル×共創で社会課題の解決へ ソフトバンクが描く「未来の街」とは"

今井 康之氏

ソフトバンク株式会社

代表取締役 副社長執行役員 兼 COO

大手建設会社を経て、2000年にソフトバンク(現ソフトバンクグループ)入社。ソフトバンクグループ各社で、主に法人営業を担当。 2012年ソフトバンクテレコム(現ソフトバンク)およびソフトバンクモバイル(現ソフトバンク)の取締役専務執行役員などを歴任し、18年4月より現職。 法人向け事業を統括。

木場 弘子氏

フリーキャスター

千葉大学客員教授

1987年TBS入社。同局初の女性スポーツキャスターとして『筑紫哲也ニュース23』などで活躍。92年与田剛氏(現・中日監督)との結婚を機にフリーランスに。教育や環境に関わる仕事が多く、生活者の視点を大切に7つの省庁で幅広く審議に参加。各界トップへのインタビューは300人を超える。

(2020年3月17日 掲載)

■本記事は2020年2月14日に日経クロステックに掲載されたものです

少子高齢化、自然災害といった多様な社会課題の解決に向けた切り札として、スマートシティが注目されつつある。その実現に向け積極的な取り組みを始めている企業のひとつがソフトバンクだ。同社では、既に多数の自治体や企業との共創を通じ、持続性ある街づくりに取り組み始めている。フリーキャスターの木場 弘子氏が、ソフトバンクの今井 康之氏に、未来の街づくりのあるべき姿を聞いた。

デジタル技術を駆使してあらゆる人に最適な街づくりを

木場 近年、スマートシティが注目されつつあります。その背景をどう捉えていますか。

今井 やはり、日本のさまざまな地域が少子高齢化、労働人口の減少、自然災害などの社会課題に直面していることが大きいのではないでしょうか。AI、IoTあるいは5G(第5世代移動通信システム)をはじめとする最新のデジタル技術を活用することが、そうした課題解決の切り札になるという期待が高まっているわけです。

木場 街づくりにデジタル技術を融合させることで、どんな可能性が広がるのでしょうか。

今井 災害対策はその一例です。最近は自然災害が激甚化していることもあり、防災・減災は必須の課題となっています。ソフトバンクは画像データをAIで解析する手法によって、社会インフラの点検作業の効率化をサポートしています。また、高度な画像解析やセンサを使用して、地盤や水位の変化を正確に測ることで土砂崩れや水害などの発生を予測して的確なタイミングで避難指示を出すなど、安全・安心な街づくりに寄与できます。
一方、人口減少が進んだ地方都市では、住民の移動手段、特に高齢者の買い物や通院などをどう支援するかといった問題も深刻さを増しています。こうした“移動難民”をゼロにするための有効なアプローチを提示することも可能です。
ソフトバンクとトヨタ自動車などの共同出資会社であるMONET Technologiesは、MaaS(Mobility as a Service)社会の到来に向けたモビリティプラットフォームの構築に取り組んでいます。現在はその第一段階として、医師不足などの課題を抱える地域に移動診察車が赴いて、遠隔地にいる医師がビデオ通話を通して患者を診察するといった実証実験を行っています。自動運転技術が実用化されれば、これまでソフトバンクが培ってきたデータ収集・解析技術を生かして、地域のニーズに応じた交通サービスの実現をサポートできるはずです。

木場 スマートシティは、さまざまな社会課題の解決につながるということですね。ただ、抱える問題は地域ごとに異なると思います。

今井 そこが街づくりの難しい点です。さらに、地域だけではなく、そこで暮らし、働く人々のライフスタイルや働き方は多種多様です。重要な視点は、その街に関わるあらゆる人の満足度や幸福度をいかに高められるか。今、スマートシティに求められているのは、「個々の人に合わせ、最適化できる街づくり」ではないでしょうか。

本社移転先の竹芝エリアを 最先端テクノロジーの実験場に

木場 国家戦略特区に指定されている竹芝地区で実施中の「都市再生ステップアップ・プロジェクト(竹芝地区)」では、東急不動産を中心とした多くの企業とスマートシティの共創に取り組んでいますね。その目的はどこにあるのでしょうか。

今井 ソフトバンクは2020年度中に東京・竹芝に本社を移転させる予定です。ビル内外の人の流れや環境データを分析することで、快適な環境整備と効率的なビル管理を可能にするとともに、竹芝エリアでロボティクスやモビリティ、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、5Gの活用をはじめとする幅広い領域の実証実験も行います。さまざまな事業者がこのエリアに新しい技術を持ち寄ることで、スマートシティのモデルケースを構築しようとしているのです。

木場 先端のテクノロジーに関する実証実験にはどのようなものがあるのですか。

今井 例えば入館時の顔認証により、従業員の勤務フロアを判別し、行き先までの最適なエレベーターに誘導したり、エレベーターホールの待機状況を3Dセンサで検知して効率的な運用を実現します。また、飲食店の混雑状況を可視化してその情報を配信することも予定しており、注文したランチをドローンによってテラス席までデリバリーする実験なども検討しています。

木場 ビル全体で最先端のIoTやセンシング技術などがフルに活用されるわけですね。まさに私どもが子どものころに抱いていた近未来都市のイメージですね。

今井 実験範囲は本社ビルにとどまらず、周辺のエリアにも及びます。例えば、竹芝にある劇場の演目などからお客様のメイン層を判断して歩行者デッキのデジタルサイネージに最適な情報を発信するといったことが考えられます。リアルタイムデータを活用すれば、竹芝エリアを訪れた人やそこで働く人のために、鉄道に遅延が生じた際の情報や代替となる帰宅方法をスマートフォンに配信することも可能になります。

木場 国はIoTやロボット、AI、ビッグデータなどの技術を社会の隅々に取り入れ、一人一人のニーズに合わせる形で社会的課題を解決する新たな社会を「Society 5.0」と呼んでいますが、竹芝のスマートシティはまさにそれを具現化するものだといえそうですね。

ソフトバンクが推進している竹芝スマートシティ ソフトバンクが推進している竹芝スマートシティ
本ビルでは、屋内外に設置された多数のカメラやIoTセンサから、温度や湿度、CO2濃度などの環境情報のほか、ビル内や周辺の人流データ、混雑情報などが収集され、リアルタイムで解析されるという

多数の企業や自治体との共創により社会課題を解決する企業を目指す

"スマートシティについて対談する今井氏と木場氏"

木場 スマートシティの推進に向け、ソフトバンクでは既に多くの企業や自治体と共創しています。なぜ共創を重視するのでしょうか。

今井 ソフトバンク1社の力だけでは多種多様な問題に対応することはできないからです。既に約40の自治体と連携協定を締結して、課題解決に向けた取り組みを行っていますし、前述のMaaSを推進するMONETコンソーシアムには、500社近くの企業が参加してモビリティ問題の解決に向けてさまざまな知恵を出し合っています。

木場 様々な企業と共創に取り組む中で、ソフトバンクの強みはどう生かされるのでしょうか。

今井 データ解析、ネットワーク、クラウド、API、課金システムなどの技術やプラットフォームをワンストップで提供できるのでスマートシティにおける取り組みをスピーディに実現できるということです。また、自動運転バスの実用化に取り組んでいるSBドライブや、スマホ決済アプリのPayPayなど、街づくりに活用可能な最先端技術を持つグループ企業を保有していることです。そうした強みや技術をソリューションとして提供するとともに、スマートシティのコンセプト設計段階からイノベーションパートナーの一員として参画し、今後本格的に加速するスマートシティ構想の推進に貢献していきます。

木場 デジタル技術の提供だけでなく、コンセプトの設計段階から参画できる点は、パートナーにとっては心強いですね。

今井 ただし、我々の使命はデジタル技術の活用方法やコンセプトの提案だけにとどまりません。課題解決には、人と人、人と企業、企業と企業をつなぐことが不可欠です。スマートシティでは街の全体像を可視化し、収集したデータを必要な人や企業へ届けなければなりません。社会状況の変化とともに新たな課題は次々に持ち上がりますから、街づくりに関わるすべてのステークホルダーを結び合わせることにこそ、私たちの存在意義があると思っているのです。

木場 人、企業・自治体、情報をつないでいくということですね。そうした考え方のもと、ソフトバンク自身も変革を迫られそうですね。

今井 もちろんです。私どもはこれまで、デジタル化やデータ活用の促進によって個別の企業課題を解決してきましたが、これからは社会課題の解決が主なミッションとなるでしょう。それを見据えて、2018年10月には社会の課題解決に向けた専門組織であるデジタルトランスフォーメーション本部(DX本部)を立ち上げました。この部門では、様々な社会課題にどのようなテクノロジーを当てはめれば解決できるかを検討しています。今後もこれまでのノウハウや知見、育成してきた人材を生かし、こうした取り組みを加速していきます。

木場 高齢化社会のトップランナーである日本が今後どのような街づくりをするかについては、世界も注目していると思います。ソフトバンクの貢献を期待しています。

"スマートシティについて対談した今井氏と木場氏"