ソフトバンクが取り組む5G活用のリアル 共創パートナーと進める産業変革の行く末とは

"ソフトバンクが取り組む5G活用のリアル 共創パートナーと進める産業変革の行く末とは"

野田 真氏

ソフトバンク株式会社
テクノロジーユニット
モバイル技術統括モバイルネットワーク本部
本部長

2013年よりモバイルネットワークの品質改善プロジェクトを牽引。その後、米国スプリント買収に伴い同社へ出向。帰国後、2017年4月から現職。4Gおよび5Gのネットワーク戦略企画、周波数、無線技術、無線設備等の責任者。

木場 弘子氏

フリーキャスター/千葉大学客員教授

1987年TBS入社。同局初の女性スポーツキャスターとして『筑紫哲也ニュース23』などで活躍。92年与田剛氏(現・中日監督)との結婚を機にフリーランスに。教育や環境に関わる仕事が多く、生活者の視点を大切に7つの省庁で幅広く審議に参加。各界トップへのインタビューは300人を超える。

(2020年3月23日 掲載)

■本記事は2020年2月14日に日経クロステックに掲載されたものです

通信という枠を超え、新たな社会やビジネスのインフラとして期待される5G。高速・大容量、低遅延、多接続といった特長を持つ5Gが浸透していくことで、身の回りの暮らしはどう変わり、各産業にどのようなインパクトをもたらすことになるのだろうか。こうした中、製造、運輸、小売りをはじめとした産業のデジタル化に向け、多くのパートナー企業とともにさまざまな5Gを活用した実証実験を進めているのがソフトバンクだ。フリーキャスターの木場 弘子氏が、ソフトバンクでモバイルネットワーク本部長を務める野田 真氏に、ソフトバンクの描く戦略や将来像について話を聞いた。

サプライチェーンのデジタル化で産業・社会課題の解決を目指す

木場 5Gの商用サービスが、いよいよ今年春からスタートしますね。まずは5Gの登場によって、私たちの暮らしや生活がどう変わっていくのか教えてください。

野田 いわゆるBtoC分野では、VR/ARを使ったショッピングやクラウドゲーム、臨場感溢れるスポーツ観戦やライブ体験など、新しいサービスが続々と登場してくるでしょう。当社でも1年前に福岡 ヤフオク!ドーム(現:福岡PayPayドーム)で5Gを活用したマルチアングルVR試合観戦の実証実験を行いました。これはドーム内に高画質VRカメラを置いて、バックネットや外野スタンド、一塁側、三塁側といろいろな角度から試合を見られるというもの。5Gを見据えたプレサービスなので、球場に来た人だけが体験できるものでしたが、その臨場感が自宅でも楽しめるようになる日も近いでしょう。好きな選手をずっと見続けたり、監督や審判の目線で試合を楽しんだりといったこともできるようになるわけです。

木場 私の夫が中日にいる(中日ドラゴンズの与田 剛監督)のですが、場合によっては試合中にベンチで何を話しているのか口の動きで分かってしまうかもしれませんね(笑)。多接続や大容量といった特性を生かして、ICT活用が遅れている教育現場でも大いに貢献して頂きたいものです。一方で、ビジネスではどんな変化が起こっていくのでしょうか。

野田 実は5GはBtoB分野にこそ、大きなインパクトをもたらすと考えています。それはAIやIoTなどのテクノロジーと結びつくことで、あらゆる産業が再定義されていくからです。中でも製造・運輸・小売り業界は、社会を支えるサプライチェーンを形成している上、それぞれの事業が密接に関わり合っています。そこで、ソフトバンクはこの3分野のデジタル化に特に注力しています。

木場 製造・運輸・小売り業界は産業別の国内売上高で約7割を占めていますし、この分野がデジタル化されれば、ほかの産業への波及効果も大きいですね。

野田 おっしゃる通りです。日本では少子高齢化の影響で、あらゆる産業の労働力が不足しています。特に運輸業は深刻で、人手不足による倒産比率は他業種の3倍に達します。また製造業の設備は20年程度と償却期間が長く、すぐに入れ替えができない。人手に頼らざるを得ないのに、その人手が足りない。
それでは、どうやって産業を活性化するのか。その解決策のひとつとして5Gに対する期待が高まっているわけです。社会を支えるサプライチェーンが活性化すれば、日本の産業全体の生産性も上がり、労働力不足の時代にも持続的な成長が可能になるでしょう。

業務の効率化・自動化を目指しパートナーとの連携を加速

木場 こうした社会課題の解決に向け、既にさまざまな実証実験に取り組んでいるそうですね。

野田 はい、まず製造業では住友電気工業と今年3月から工場のデジタル化に向けた実証実験を開始する予定です。工場に設置されたカメラやセンサで設備の稼働状況や人の動きなどのデータをリアルタイムに収集し、そのデータをAIで分析します。データ伝送に5Gを活用することで、高精細な映像データや詳細なセンサデータをこれまで以上に高速かつ安定的にやりとりできます。設備のメンテナンスなど人手に頼らざるを得ない作業の自動化が進み、生産性や安全性の向上につながるでしょう。
工場の設備は様々なメーカが混在していますが、既存の設備に付加して利用でき、製造プロセスの変更もない。成果が上がれば、同じ課題を抱えるお客様へ横展開していく計画です。

木場 共創パートナーとの実証実験を通して、広く業界全体の活性化を考えているわけですね。そのほかには、どんな実証実験を行っていますか。

野田 運輸業でも、様々な取り組みを行っています。そのひとつとして「トラック隊列走行」の公道実験を行いました。トラック同士が5Gを介して制御情報を共有し、車間距離を自動制御するというもの。実験は新東名高速道路で実施し、約14kmの試験区間を3台のトラックが隊列を組んで走行し、実証しました。人が運転するのは先頭の1台のみで、残り2台は自動運転で追従します。3台のトラックを1台の有人運転で制御できるので、労働環境の改善やドライバー不足の解消につながります。

"5Gトラック隊列走行実証実験"

木場 昨年1月に司会を務めたシンポジウムで御社が新東名で行った隊列走行の実証実験について国土交通省から説明があり、大変興味を持っておりました。輸送の効率化は、燃料消費やCO2排出量低減といった環境問題やドライバー不足軽減にもつながりますよね

野田 おっしゃる通り、Eコマースの普及に伴い、宅配の需要が急拡大していることもドライバー不足の大きな要因です。そこで、ソフトバンクのグループ企業であるWireless City Planningは、日本通運とともに「見える化による物流の効率化」の実証実験も行っています。これはトラックや荷物の位置情報、トラック内の貨物状態の情報、荷物ひとつひとつの状態情報を取得し、荷物とトラックをマッチングできるようなプラットフォーム作りを目指しています。例えば、そういったプラットフォームを用いることによって新たな集荷依頼が来た際は最適なルートを再計算し、ピックアップさせることが可能になります。
ここでカギを握るのはトラック内の空き容量を示す点群データ(3Dの空間データ)です。5Gによってこうした大容量のデータをリアルタイムに送受信することが可能になるわけです。そうすれば、新規荷物が発生した際に、わざわざ車両を手配することも少なくなり、貴重なトラックやドライバーのリソースを効率的に運営できるでしょう。もちろん配送業の方の作業工数やドライバーの負荷軽減にもつながるはずです。
ここで挙げた以外にも本田技術研究所とともに、「コネクテッドカー」の共同研究を進めたり、大成建設とともに、建設機械を遠隔操作・自動制御する実証実験を実施したりしています(最下部コラム参照)。

5年後、10年後の「当たり前」を目指し地道に
ユースケースを積み上げていく

"5Gについて対談する野田氏と木場氏"

木場 デジタル化によって新しい価値や可能性が生まれる。一見、華々しいことをやっているように思えますが、実はその裏では絶え間なく地道な活動を続けているわけですね。

野田 はい、実にその通りです。5Gの商用化によって一気に世の中が変わるわけではありません。パートナーとともに、多くのユースケースにチャレンジし、ひとつひとつステップアップしていく必要があります。
スマートフォンが登場しておよそ10年経ちますが、10年前はスマートフォンがこんなに社会に浸透し、便利なサービスの恩恵を受けられるなんて誰も思いもしなかったでしょう。5Gもそれと同じだと思います。5年後、10年後に振り返った時に「今は当たり前だけど、昔はこんなことできなかったよね」と思うようなサービスが浸透している。そうした未来を少しでも早く実現するため、実用性と安全性を確認するための実証実験に今から取り組んでいるのです。

木場 なるほど。実証実験の意義がよくわかりました。一方で、ビジネスパートナーとしてのソフトバンクの強みはどこにあるのでしょうか。

野田 ソフトバンクは、親会社のソフトバンクグループのCEOを務める孫が早くからAIにコミットすることを宣言し、テクノロジー企業へ投資する大規模な投資ファンドを設立しました。ソフトバンクも、これらのベンチャー企業との連携を積極的に進めています。また、ネットワークサービスやICTサービスも数多く有しており、変革を支援するソリューション構築の実績も豊富です。5Gのメリットを最大限に引き出す技術要素やソリューション、そして活用ノウハウを一体的に提供できる。これは大きな強みです。
また各種実証実験の成果をソリューション化し、お客さまの導入ハードルも下げていきたい。企業規模の大小を問わず、5Gのメリットを享受できることを目指している点もソフトバンクの特長です。

木場 効率化・自動化が進めば、働く人の負担が減り、仕事に魅力を感じる人も増えるでしょう。次代の担い手の確保という点でもメリットが大きいですね。

野田 ロボットやAIは人の能力を高め、人の仕事をサポートする存在です。効率化・自動化が進めば、これまで10時間かかっていた仕事が半分で終わるかもしれない。そうすれば、自分のやりたいことに費やす時間も増え、仕事やプライベートもより充実したものになるでしょう。
例えば、物流事業者はモノを配達するだけでなく、地域の高齢者の見守りを行うなど新しいサービスの提供も可能になるかもしれません。

木場 今回のお話を伺って、5G時代の到来が楽しみになりました。 私たちの暮らしや社会がより良い方向に動き出すことを期待しています。

野田 5Gは今後の社会インフラの重要なピースになると確信しています。今後もソフトバンクは多くのパートナー企業と共創することで、5Gを活用した新しいサービスやイノベーションを創出していきます。これを働き方改革や労働環境の改善につなげ、産業の変革および社会課題の解決に貢献していく考えです。

Column 建設機械の自動運転で、現場の大幅な効率化を目指します

大成建設 青木浩章氏

大成建設が開発を進めている遠隔操作と自動制御が可能な建設機械システム「T-iROBO」の建機シリーズを5G環境下で稼働する実証実験を、ソフトバンク様とともに実施しました。具体的には、建設機械に搭載したカメラ映像などを5Gを活用して伝送し、遠隔の現場操作室と大成建設技術センター(横浜市戸塚区)で遠隔操作または自動運転を指示・確認するという実験です。

建設現場は山間部など電波状態が良好ではない場所も少なくありません。この課題に対し、ソフトバンク様が独自開発した可搬型5G設備「おでかけ5G」を提供してくれました。これにより、設備構築にかかるコストや設置時間を大幅に短縮。映像・制御データの伝送遅延時間も4Gに比べて約10分の1以下に低減され、土砂の掘削、積上、運搬、排土に至る一連の現場作業を安全に行うことに成功しました。

「おでかけ5G」を使えば、全国どこの建設現場でも5G環境を構築できます。今後は5G商用後の本格運用に向け、各種建設機械との実証実験を重ねて、建設現場の省人化を目指します。そのビジネスパートナーとして、今後もソフトバンク様の技術力とサポートには大いに期待しています。

"5Gについて対談した野田氏と木場氏"