医療分野の課題と、デジタルトランスフォーメーションで解決できること

2020年4月30日掲載

今、あらゆる分野で、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)と呼ばれるデジタル技術による変革が推進されています。そんな中、医療分野ではどのようなDXが期待できるのでしょうか。海外の予防医療分野ではすでに、デジタルデータの活用が広がりを見せています。例えば、個人の行動や生活活動データの医療機関での活用や、デジタルデータ分析をもとにした病気の発症予測などが挙げられます。

日本は世界に誇る長寿国ですが、健康寿命は平均寿命に比べて短いため、健康的な暮らしを支えていく医療分野の取り組みが注目されています。今回は、医療分野の抱える課題と、DXによる解決の可能性を探ってみましょう。

目次

医療分野が抱える課題とは

総務省統計局の国勢調査によると、日本の総人口は2008年に1億2,808万人に達したのをピークに、その後は減少傾向にあります。この傾向は長期的に続く見込みで、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」の総人口の推移をみると、2015年の日本の総人口は1億2,709万人であったものが2053年には9,924万人となり、2065年には8,808万人まで減少するとされています。一方で、高齢化率は高まる傾向にあり、2065年には約41.2%まで達すると推計されています。

こうした人口構造の変化によって、要介護や認知症の高齢者は増加し、医療と介護を必要とする人の数はますます増えるでしょう。一方、若い世代の労働人口は減少する見込みで、医療業界では、需要と供給のバランスが崩れて人手不足がより深刻化し、医師や看護師といった医療従事者の労働環境や待遇はますます悪化すると予想されます。効率化とコスト削減、ひいては「働き方改革」が医療現場の急務といえます。

今後、高齢化に伴い医療費が増大し続けると、国の財政を圧迫し、保険料の引き上げなどによって国民の負担が増えることも懸念されています。医療費抑制や健康保険をはじめとする社会保険制度の維持は、医療業界のみならず、日本の社会全体の重要な課題です。

かつての日本では、高齢者は家族と同居し、家族が中心となって高齢者のケアを担うのが一般的でしたが、家族構成や家族のあり方も変わりつつあります。高齢化社会では、高齢者の一人世帯や夫婦のみの世帯が増加していく傾向があるため、社会や地域で高齢者を支えていく体制整備が求められています。今後は、自宅、医療・介護施設など、高齢者がどこにいても地域で継続性のある適切な医療を受けられるよう、医療機関や医療従事者は、立場の異なる医療関係者、行政機関などと連携を深め、緊密な地域ネットワークを構築していく必要があるのです。

医療分野におけるDX

医療分野が抱えるこれらの課題を解決するカギとなるのが、DXです。超高齢化社会を迎える日本において、DXは医療をどのように変化させていくのでしょうか。ここでは、DXが医療現場にもたらすと期待される効果について、次の4つの項目に分けて詳しく見ていきましょう。

①ICT環境の向上による効率化

ICT(情報通信技術)の発達と普及は、すでに医療現場にさまざまな変革をもたらし始めています。分かりやすい例が、オンライン診療です。遠隔地からのオンライン診療が可能になることで、専門医がいない地域の患者や一人暮らしの高齢者でも医療につながりやすくなります。さらに、患者の通院の負担を軽減するだけでなく、医師の負担軽減、現場業務の効率化にもつながることが期待されます

ICT技術を駆使した医療系の新しいサービスも、続々と登場しています。例えば、ソフトバンクが取り扱っている「遠隔病理プラットフォームサービス」もそのひとつです。同サービスは、病理医の不足という問題に対応するために開発された技術で、遠隔放射線画像診断用の専用通信機器「iCOMBOX」を用いることで、クラウド上でその画像や診断情報を複数の医療機関同士で共有できるというものです。

医療施設は施設内に「iCOMBOX」を設置するだけで、遠隔地にいる専門知識を持った病理医からのコンサルテーションを受けることができます。病理医側にも、検査やコンサルテーションに伴う出張や事務作業の負担を軽減できるというメリットがあります。

また、長野県の伊那市とMONET Technologies株式会社、株式会社フィリップス・ジャパンは協業で、医療機器などを搭載し、医療を行う車両「ヘルスケアモビリティ」を開発。2019年12月には、伊那市が推進するモバイルクリニック実証事業内において、テスト運行をスタートさせました。

ヘルスケアモビリティは、看護師が車両で患者の自宅を訪問すると、車両内でオンラインビデオ通話を通して医師が遠隔地から患者を診察できる仕組みになっています。その上で、看護師が医師の指示に従って、車両内に設置された心電図モニタや血糖値測定器・血圧測定器などの医療機器を用いて、検査や処置を行います。

その場に医師がいなくても患者に適切な医療を提供できる機能を備えたヘルスケアモビリティは、医師不足や医療の地域格差を解決する可能性を備えています。

伊那市のモバイルクリニック実証事業については以下の記事で詳しく紹介しています

②情報ネットワークの構築

医療施設や介護施設、行政機関などが互いにスムーズに連携することを可能にする情報ネットワークの構築は、医療分野におけるDXが目指す目標のひとつです。

ソフトバンクでは、安全かつコストを抑えて利用できるオープンな地域健康・医療情報プラットフォーム「HeLIP」を提供可能なソリューションとして用意しています。同プラットフォームを利用すれば、病院・臨床検査機関・薬局といった地域の医療施設が双方向で患者の診療情報を共有し、各医療機関・施設で異なる医療情報システムを連携させることができるようになります。

こうした地域の医療情報のネットワーク化が進めば、一人一人に合った医療や介護、健康管理サービスが今まで以上に提供されるようになるはずです。さらには、患者と医療従事者双方の負担軽減や、診療の質の向上、診療時間の短縮、重複検査の減少などにつながり、増大し続けている医療費が適正化されると期待されています。

③災害時のBCP(事業継続計画)強化

自然災害やテロといった緊急事態が生じた際に、影響を最小限に食い止め、中心となる事業を継続させていく対応策を用意することを「BCP(事業継続計画)」といいます。近年、日本各地で地震や台風などの大規模災害が頻発していますが、特に医療施設では、災害時でも診察や治療を継続することが求められるため、BCPの見直しや強化は不可欠です。

前出の情報プラットフォームやクラウドサービス、データ保全サービスなどを活用すれば、電子カルテなどの重要な診療データをバックアップしながら安全に管理することが可能になります。災害時に施設内のシステムが損害を受けた場合も、バックアップデータを参照して診療を続けることができます。

本文はいる「同じ企業に所属していれば同じアプリケーションを使っているかもしれませんが、お客さまや現場に出入りされる協力会社の方のことを考えると、アプリケーション必須のWeb会議システムは使用できない場合もあります。その点、『VISUAL TALK』はスマートフォンに送られたSMSのURLをタップすれば通話を開始できるため、アプリケーションのインストールやID入力の必要がありません」(野代)

④データの活用による予防医療の発展

高齢化が進む社会では、医療費抑制のためにも、健康寿命を延ばすことが重要です。そのためには、寝たきり状態や生活習慣病になるのを未然に防ぐ予防医療に力を入れる必要があります。

近年は国内でも、IoTやAI、5Gといった最先端のデジタル技術を組み合わせることで、人々の行動や生活習慣・健康状態などの膨大なデータを収集し、さまざまな形で健康づくりに役立てようとする取り組みが進み始めています。

慶應義塾大学殿町先端研究教育連携スクエアとソフトバンクが共同で進めるAIアシスタントに関する研究もそのひとつです。研究の根底には、今後、人々のライフスタイルがますます多様化するなかで、身体的・精神的・社会的に良好な状態を意味する「ウェルビーイング」を高める必要が増すとの考え方があります。

両者は2019年12月に包括連携協定を締結し、ウェルビーイングを実現できる社会を目指して、健康的な生活習慣や行動をサポートするAIアシスタントの開発に向けた研究を実施していくと発表しています。

まとめ:人手不足、遠隔地医療など情報活用・共有によってクリアできる可能性が見えてきた

医療分野において、ICTやクラウド、AI、IoTといったデジタル技術の活用が進めば、現場の業務が大幅に効率化されることは間違いありません。それにより、コストや人件費の圧縮、働く環境の改善も実現する可能性があります。各医療機関でDXが進むことで、地域における医療連携や他職種間の情報ネットワークの実現にも近づくでしょう。

しかしながら、他の分野と同様に医療分野でも、既存システムの老朽化・複雑化、多忙さゆえの現場の抵抗、知識不足、セキュリティへの不安などが足かせとなり、DXが大幅に進んでいるとはいえないのが現状です。

各現場や組織内で変革を一歩ずつでも進めていくには、まずは課題を把握したうえで、DXの可能性について理解を深めることが大切です。医療分野においても実績を持つソフトバンクのような専門企業のサポートを受けながら、ともにDXを進めるという方法もあります。選択肢のひとつとして検討してみてはいかがでしょうか。

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