建設業界の人手不足を解消するDXとは

建設業界の人手不足を解消するDXとは

(2021年3月11日掲載)

目次

少子高齢化の時代を迎え、労働人口が減少している日本において、人材確保はどの業界においても課題となっています。中でも建設業界における人手不足は慢性的だといわれており、事業継承や技術継承といった課題も顕在化しています。本稿では建設業界が抱える課題を明らかにし、DXの導入によってどのように解決が図れるのか、その方法を探ります。

建設業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)とは

建設業界で目指すべきDXを考える前に、あらためてDXの定義と目的を確認し、建設業界の現状を理解しておきましょう。

DXとは

2018年に経済産業省がDXに向けたガイドラインを取りまとめ、DXの定義を「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と示しました。

日本でも多くの企業が取り組みをはじめ、DXという言葉は今では聞き慣れたものになりましたが、その起源は2004年にスウェーデンのエリック・ストルターマン氏(ウメオ大学教授)が提唱した「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面で、よりよい方向に変化させる」という概念とされています。

日本の企業の現状とDXへの取り組み

経済産業省は2018年以降、2025年の崖(複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残っている状況が続くことが、日本企業の国際競争への遅れを招き、日本の経済が停滞すること)を克服するためにも、各企業に対してDX推進を積極的に勧めてきました。そしてDX推進の実態を把握し、アクションにつなげるために、「DX推進指標」を2019年7月に策定し、企業の自己診断結果を分析しています。その結果によると、およそ95%の企業はDXに全く取り組んでいないレベルにあるか、散発的な実施にとどまっていることが明らかになりました。翌2020年では、新型コロナウイルス感染症拡大への対応が必要であったことも受け、DXへの取り組みが加速していることが期待されていましたが、現状は前年とあまり改善が見られないもので、90%以上の企業が未着手または一部部門での実施であると回答しています。

建設業界の現状

国土交通省が2019年に公表している「建設産業の現状とこれまでの取組」によると、建設投資額は1992年にピークとなり約84兆円を記録しました。その後、約41兆円まで落ち込みましたが、2019年には約56兆円に回復すると見通しています。就業者数を見ると1997年の685万人がピークで、その後緩やかな下降を続け、2018年は503万人。この数値はピーク時に比べると、およそ27%減少しています。

次に、厚生労働省の(建設労働関係統計資料)を参考に、建設業界の就労者を年齢で見ると、1997年では29歳以下が151万人で約22%を占め、55歳以上が165万人で約24%であったものが、徐々に若年層の就労者が減少し、2015年の段階で29歳以下が約11%で、55歳以上が約34%となり高齢化が進行している状況です。また、建設業における女性就業者数を見ると、2016年で74万人であり、全体の15.0%に当たります。全産業における女性の比率の平均が43.5%であることを示したデータもあり、建設業は全産業に比べると女性就労者数がかなり低い値だと言えそうです。

こうした現状にある建設業界には、どのような課題があるのでしょうか。最初に挙げられるのが人材確保の難しさだと言われています。現在日本においては、自然災害からの復興事業といった需要を含め、建設業界への需要が増加しています。厚生労働省が公表している「一般職業紹介状況(令和2年12月及び令和2年分)について」によると、「建設の職業」の有効求人倍率は4.39倍、専門的・技術的職業として「建設・土木・測量技術者」の有効求人倍率は5.51倍。職業全体における数値が1.03倍であることからすると、求職者1人に対してかなりの求人があることが分かります。つまり、求人をしてもなかなか人が集まらない状況が続いており、中でも技術職は特に人が集めにくい状況にあるということでしょう。

建設業界に押し寄せるDXの波

前項で確認したように、日本の企業でDXへの取り組みが進んでいるのは10%程度です。さらに経済産業省が公開した「DX銘柄2020」の中で、デジタル技術を前提としたビジネスモデル・経営改革に取り組む上場企業を選定した内訳を見ると、対象企業約3,700社から選定された35社のうち、建設業は2社という結果でした。この結果からも分かるように、建設業はDXへ積極的に取り組んでいるとは言えない業種です。

また、国土交通省の「国民経済社会の動向」の資料から、建設企業の経営上の課題として挙がっている項目を確認すると、工事量や利益率などは一定の改善傾向にあるものの、人手不足や後継者問題が解消できないとする企業の割合が高まっている状況です。こうした傾向は、企業規模が小さいほど課題認識の割合が高くなっています。「経済センサス調査」(総務省・経済産業省)をもとに、ヒューマンタッチ総研が調査した結果によると、43万社ある建設業のうちおよそ70%が従業員規模4人以下の小規模企業であることが分かっています。つまり、解決すべき課題が明確になっているにもかかわらず、DXを推進して課題解決を図ることが企業体力的に困難なケースが多い業種と言えます。

日本の建設業界が直面している主な課題

日本の建設業界が直面している主な課題について、もう少し詳しく見ておきましょう。

労働力不足・技術継承問題

建設業と言っても業種は多種多様で、例えば、土木、測量、水道施設など、専門性をもった業種も含まれます。前項でも確認したように、建設業としての有効求人倍率はほかの産業に比べ高い状態で、専門職はさらに高い求人倍率を示しています。これら専門職の業務の多くが人力で行われているという現状が、人手不足の要因のひとつであるとも言えそうです。また、建設業界では就業者の高齢化も進んでいます。では、なぜ若年層の求職者が減少してきているのでしょうか。その背景にはいわゆる3K「きつい」「きたない」「危険」といった言葉で語られるように、泥まみれになるような場所や高所などでの肉体労働というイメージが定着していると考えられます。

特に、危険な職業であることは、建設業の労働災害発生状況からもうかがえます。2019年のデータを見ると全産業における死傷者数が12万5,611人、そのうち建設業は1万5,183人。死亡者数では全産業で845人、そのうち建設業は269人。死傷者数は全産業の12%程度ですが、死亡者数では31%となり、危険を伴う可能性があることを示しています。こうした現状からも、若年層が積極的に選ぶ職業から外れていると考えられます。

求職者が集まりにくく、就労者の高齢化が進んでいる現状を考えると、専門的な技術の継承が難しい状況だと言えます。つまり、現場の経験も必要となる専門技術の継承は、短期間では実現できないものであるため、現状で若年での人材確保が難しいという状況は、かなりさしせまった技術継承の危機だと言えるのです。

資材のサプライチェーン

製品が消費者の手元に届くまでのプロセスを、サプライチェーンといいます。無駄のないサプライチェーンを構築するには、資材の調達を安定的な価格で行うことと、製造した製品を合理的な価格で届けられることがひとつの鍵となります。建設業においては、受注をしてから生産を開始する受注生産が基本です。資材も受注内容にあわせて調達するため、原料価格や運送費の高騰などが起きれば、その影響を受けることになります。

また、受注生産体制であるため、時間や資材に余裕があっても、稼働できない時間が発生します。また、受注が入れば、製造時間を短縮しなければならないケースもあり、働き方が安定しないことも効率的なサプライチェーン実現を阻んでいます。

紙の図面や手動によるアナログな業務

古くから基幹産業として日本を支えてきた建設業界には、アナログな業務プロセスを抱えたままの企業が少なくありません。例えば、工程管理や受注管理を担当者が発注書や工程表を見ながら入力していたり、現場の測量や高所での点検作業を従業員が書類を見ながら手動で対応していたり、さまざまな業務において人力と紙で行う作業が多く残っています。さらに、建設現場では何百枚もの図面を使いますが、多くの場合で紙の図面が活用されています。こうした図面や書類は5年もしくは10年保管する必要があります。

スマートシティへの対応

世界的に人口の減少が進んでいますが、中でも日本の人口減少は顕著になっています。都市としての規模・機能ともに世界に誇る東京都においても、人口減少は避けられない現実として認識されるものになりました。そうしたなか、国土交通省は「スマートシティの実現に向けて【中間とりまとめ】」を2018年8月に公表。そこには、「まちづくりと公共交通の連携を推進し、次世代モビリティサービスやICT等の新技術・官民データを活用した『コンパクト・プラス・ネットワーク』の取り組みを加速するとともに、これらの先進的技術をまちづくりに取り入れたモデル都市の構築に向けた検討を進める」と閣議決定されたことが記されています。

これまで国土開発を担ってきた建設業界には、都市インフラ、建物に対する量から質へのニーズの転換を促し、支える役割が期待されています。つまり、新しい時代における建設業界には、インフラの再整備をはじめ、スマートシティ実現に貢献することが求められているのです。こうした要請に応えるために、まずは各企業がICT化を進め、現状で抱えている課題を解消しておくことが必須だと言えるでしょう。

DXを活用した課題の解決

省人化の推進

建設業では、省人化工法の開発が進められています。複数のロボットや建設機械をシステム化して、自動的に作業をさせる最新技術とICT環境を活用した新しい工法によって、課題解決を目指しています。

AIの活用による熟練技術の継承

建設業における技術は、「匠の技、職人の勘」と表現されるように経験を積み、熟練することで修得されることが少なくありません。しかし、この方法では若年層が熟練技術を習得するまでにかなりの時間が必要となり、技術の継承が容易ではなくなります。人手不足、熟練技術継承の問題を解決するためには、AI技術の活用が有効です。

例えば、IoTを使って施工現場からの作業データを収集・集積し、集まったビッグデータをAIによって解析・分析をして、作業や技術の見える化と標準化を図ります。熟練の従業員でなくても同等の質を担保した作業が、誰にでもできるようになるのです。こうした取り組みがいくつかの建設企業で進められています。

BIM/CIMの導入による建設生産プロセスの変革

これまで2次元の図面を中心に行っていた建設生産プロセスにBIM/CIMを導入することで、視覚的に図面を理解しやすくし、合意形成の成立や生産性によい効果を与えることが期待されています。国土交通省においても、建設現場の生産性向上を図るために、3次元モデルを活用して社会資本の整備や管理を行うCIMを導入し、受発注者双方が業務効率化・高度化を推進することを促してきました。さらに、国際的なBIMの流れを受けて建設生産・管理システムを実現するため、BIM/CIMの取り組みを推進するとしています。

BIMはBuilding Information Modelingの略で、コンピュータ上に3次元の建設物を作成し、そのデジタルモデルにコストや仕上げ、管理情報といった属性データを追加するものです。その上で、設計、施工、維持管理の全ての工程において、追加した情報を活用することで、より効率的に作業が行える環境を構築することが期待されています。

CIMというのはConstruction Information Modeling/Managementの略で、BIMの概念を土木工事において活用することを目的に考えられました。ICTを活用して公共事業の計画、調査、設計、施工、維持管理といった全過程の情報を一元化することで、業務の効率化と事業の安全性、品質確保、環境性能の向上を図り、総コストを抑えることを目指します。 業務の全ての工程を把握しデータを活用することで、建設生産プロセスを変革することが可能になるのです。

デジタル技術を使える従業員の育成と確保

前項で確認したように、課題解決にDXを活用することはとても有効な手段です。ロボットや自動化システム、AIによる作業の標準化などによって、危険で人手のかかることが当たり前とイメージされていた建設業の業務を大きく変革することが可能です。さらに、スマートシティ実現を担える環境が整うと考えられます。一方で、こうした最新技術は、使いこなせる従業員の育成、あるいは確保が前提です。既存の従業員を研修によって育成する環境と時間を準備することや専門知識を備えた人材を採用することを忘れてはなりません。

DXの取り組み

最後に、建設企業のDXに向けた取り組みを紹介します。

大成建設株式会社
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2020/200128_4869.html

トンネル工事の現場では落盤や土砂崩れ、火災などの大事故が発生する可能性が高く、こうした現場においての労働環境の安全・安心の実現は必須の課題です。この課題に対して、大成建設はWireless City Planningとソフトバンクと協力し、トンネル工事現場の安全・安心な労働環境実現に向けた実証実験を2019年12月に行いました。

活用したのはソフトバンクが開発した「おでかけ5G」(高い通信品質のサービスを局地的に提供できる可搬型5G設備)。工事現場に5Gネットワークを構築して、センサによるトンネル工事現場のデータ収集と、建設機械の遠隔操作を検証しました。

トンネル工事現場のデータ収集では、ガスセンサ、環境センサ、ウエアラブルセンサを活用して、トンネル工事現場で発生する毒性ガスや可燃性ガスのデータを収集し、トンネル作業現場の温度や二酸化炭素など労働環境指標をリアルタイムで監視。危険が検知された場合は作業員へアラートを送る仕組みを用意し、危険時には迅速な避難誘導が可能になる環境構築を検証しました。

建設機械の遠隔操作では、トンネル工事現場で使用する油圧ショベルとクローラダンプに遠隔制御装置と「おでかけ5G」の端末を搭載し、トンネルの外に設置された操作室から遠隔操作を実施。この環境が実現されることで、建築機械を通して災害発生時の安全確認を遠隔地から行えるようになると期待されます。

鹿島建設
https://www.kajima.co.jp/news/digest/may_2019/feature/05/index.html

鹿島建設では、DXへの取り組みとして2025年の達成を目標に「鹿島スマート生産ビジョン」を策定しています。

この取り組みの背景には、建築業界全体が直面している建築就業者不足の解消、そして働き方改革の実現という課題があります。

現在、建築現場においては、週6日の作業、つまり4週4休の休日環境が一般的とされています。鹿島建設では、これを、4週8休に改善しつつ、作業員の収入を製造業と同程度の水準まで高めることを目標として同ビジョンを策定したのです。 このビジョンでは、「作業の半分はロボットと」「管理の半分は遠隔で」「全てのプロセスをデジタルに」という3つのコンセプトをコアに、ワーク(作業)・マネジメント(管理)・エンジニアリング(生産プロセス)の分野それぞれで業務効率化、省人化、生産性向上を目指しています。

まず、作業の現場では作業員によりさまざまな作業が行われていますが、その作業のなかには資材や機材の運搬といった単純作業や、作業環境が厳しい作業などが含まれています。こういった危険性の高い作業や比較的要求精度の低い作業をロボットに行わせ、高度な判断や高い技能が必要となる作業に作業員がより注力できる環境を整えることを目指しています。

続いて、管理の現場では管理業務の見直しを行い、管理者が現場で行う方が適切な管理業務と、テクノロジーを活用して遠隔から管理できる業務を見極め、管理業務の効率化を図っています。

さらに生産プロセスの変革という視点では、「建物を建てる」とは「膨大な数のパーツを組み立てること」だとする原点に立ち返ることからはじめました。そのパーツ情報をデジタル化することで、品質管理、搬出入管理、進捗管理などの効率化を図るといいます。また、BIMを機軸としたデータ連携で、作図や意思決定のスピードを高めることと、手戻りなどの無駄な作業の削減を実現します。

DXの導入で成果を実感するために

DXの導入によって、建設業界が抱えている課題を解決できる可能性が高まると考えられます。しかし、導入の方法はそれぞれの企業によって最適解が異なります。自社内で導入することも可能ですが、人材不足が現状の建設業においては、自社でDXに対応できる人材を確保し、専門知識が技術を用意することはどの企業でも難しいでしょう。また、従業員が日常の業務に負われるなか、最先端の技術が使いこなせるように育成することは時間的にもコスト的にも負担になると考えられます。こうした点を補うのが専門的な知識と技術を持ち、多くの事例を経験してノウハウの蓄積のある専門企業の活用です。自社の現状を相談するところから連携が取れる専門企業を見つけるのが、最も成功への近道だとも言えるでしょう。例えば、ソフトバンクにはさまざまなソリューションを用意し、サポート体制があります。その他、5G通信を活用して建設機械自律制御を実現し、業務効率化を目指した取り組みとして実証実験にも参画しています。そうした専門企業からのアドバイスを受けてみることからはじめてみましょう。

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