ITを「ツール」から「インフラ」に変えた、東洋紡のたった1つのアクション

ITを「ツール」から「インフラ」に変えた、東洋紡のたった1つのアクション

(2020年3月27日 掲載)

  • 東洋紡はDXによる「モノ売り」から「コト売り」への転換を図っている
  • 社内でのデザインシンキングに基づき、各種ITツールの導入を検討
  • 経営企画部で予算化することで、「T-4OO」の全社導入に成功

日本では、本当の意味での「デジタルトランスフォーメーション」(以下、DX)に成功している企業はごくわずかなのが実状だ。特に大企業においては、社内で新しいITツールを導入してはみたものの、なかなか全社員に浸透せず、一部の部署での限定的な取り組みに終始しているというケースも少なくない。
大阪府大阪市に本社を置く「東洋紡」は、全社を挙げて積極的にDX化を推進しようとしている企業のひとつだ。2020年を「DX元年」として、新たな取り組みを本格化している。

東洋紡 経営企画部 IT企画グループ マネジャー 結城敬(ゆうき さとし)氏に、同社がどのようにDXを推進しようとしているのか、伺った。

東洋紡株式会社

東洋紡株式会社

1882年創立。フィルム・機能樹脂、産業マテリアル、ヘルスケア、衣料繊維分野における各種製品等の製造・加工・販売や、プラントや機器の設計・制作・販売、また各種技術や情報などの販売を行う企業。連結従業員数9688名。

時代に合わせた組織改革に不可欠なDX

DXを推進するに至るまでの背景について教えてください。

結城 私たち東洋紡は創業から130年を超える歴史の中で、つねに時代の変化に対応してビジネスモデルの変革を繰り返してきました。もとは日本の紡績業界における筆頭企業として繊維を中心とした事業を展開してきた弊社が、現在ではフィルムや高機能素材といった事業が売り上げの大半を占めていることからも、それは明らかです。

そして現在、私たちに再び変革の時が訪れています。その理由として、近年、デジタル技術がめまぐるしい進化を遂げたことで、世の中のビジネスの構造やスピード感が変わってきたことが挙げられます。
さらには、働き方改革やダイバーシティなど、労働環境においても変化が求められています。

DXの推進が、企業の変革を後押しすることになるのでしょうか。

結城 こうした大きな変化のなかで避けて通れないのは、ITツールの導入です。ITツールの活用はビジネスの新たな提供価値を生み出すだけでなく、業務効率化によって、労働環境の大幅な改善にもつながります。

しかしながら課題もあります。特に弊社のように、事業部門が多岐にわたる企業でITツールの導入を進める上では、時として深刻な問題にぶつかるのです。
一部の部門だけが個別に使用するシステムであればいいのですが、例えばメールシステムや表計算のソフトウェアなど、全社共通のインフラとなるようなITツールの導入において、この問題は顕著です。
なぜならば、部門によって働く環境や設備、職場でのルール、労働体系などが著しく異なるからです。

例えば、本社で働く従業員が1人1台のPCを与えられているのに対して、工場で働く従業員は4〜5人で1台のPCを共有することもあります。
こういった環境の違いのなか、全ての社員が足並みを揃えて新しいシステムを導入することは非常に難しいのです。ともすれば、本社起点で決めた新しいルールを工場の従業員にまで強要し、結果として無意味な作業時間を増やすことにもなりかねません。
DXを正しく推進していくためには、全社を挙げた取り組みが不可欠だとして、昨年2019年夏からDXの検討会議を開始しました。

時代に合わせた組織改革に不可欠なDX

デザインシンキングの手法でDXの糸口を探る

DX推進にあたっての方針をお聞かせください。

結城 私たちがDXを通して実現しようとしているのは、これまでの「モノを売る」という事業から、「コトを売る」事業へと転換していくことです。つまり、モノやサービスを提供するだけでなく、その先にあるお客さまの課題を解決し、ひいては社会のニーズに応えていくことが使命だと考えています。

実際にはどのようなやり方でDXを進めているのですか。

結城:取り組みはまだまだ始まったばかりで、現状ではいわゆる「デザインシンキング」の手法をとっています。まずは各部署でDXに関する講義を実施した後、参加者たちが集まって、「自分たちが現場で困っていることは何か」「それをどのように解決していくか」という意見交換を、付箋などを使って自由に行っていきます。

例えばその場で「このプロセスの、ここの部分の生産性が低い」という課題が出てきたとします。すると次に「このITツールを使ってその部分を効率化してみよう」というアイデアにつながるのです。

現在検討しているのは、顧客情報をデータ化して一元管理し、営業支援につなげる「マーケティングオートメーション(MA)」や、コンピュータ制御機能を用いて工場を自動化する「スマートファクトリー」、研究開発においてデータベースやAIなどを活用する「マテリアルズインフォマティクス(MI)」などさまざまです。すでに部分的な導入が始まっており、全社導入はこれからという状況です。

AI自動翻訳サービス「T-4OO」の導入事例

DXへの取り組みとして、貴社ではAI自動翻訳サービス「T-4OO」の全社導入を行ったと聞きました。これはどういった経緯からですか。

T-4OOとは 外国語業務の効率化に特化したAI自動翻訳サービス

結城 以前から一部の部門において試験的に導入していたものを、2019年9月、私たち経営企画部が主導となって全社展開に踏み切りました。
弊社では2014年のPHP社を買収など、タイや米国、中国など海外を拠点とした生産工場の建設、海外のお客様への製品の販売など、グローバルメーカーとしての事業を拡大してきたという背景があります。

必然的に、海外の企業から外国語での問い合わせを受ける機会が増えました。英語であればまだしも、例えばスペイン語や韓国語の資料請求となると、プロの翻訳者や社内でその言語がわかる人を通さねばならず、そのたびにコストや時間がかかっていました。

こうしたやりとりを飛躍的に効率化してくれたのが「T-4OO」です。メールの文章の翻訳だけでなく、Microsoft PowerPointなどOffice系のファイルをそのまま翻訳にかけることができるので、手持ちの資料をすぐに相手に送ることも可能です。

もちろん、機械翻訳ですので完璧ではありません。精度としては、いわゆる下訳(したやく)と呼ばれるような、翻訳者が行う一次翻訳のレベルに近いです。契約書など正式な文書として使用する際には人間がチェックする必要がありますが、通常の情報交換であれば、ほぼ問題はないと言えるでしょう。

T-4OOの特長:翻訳時間の短縮、翻訳コストの削減

以前から一部の部門で使われていたとのことですが、あえて全社導入することのメリットは何でしょうか。

結城 一番の違いは、「各部門の負担がなくなった」ということです。これまではT-4OOを使用する部門がそれぞれ利用料金を支払っていたので、各部門の予算によって、使用できるケースに制限がありました。
しかし、会社全体としてグローバル事業の成長を加速させていくためには、こうしたツールはなくてはならないものです。そこでその費用を一元化して会社が負担し、全ての部門に解放すれば、今後は誰もが必要な時に活用することができるのです。

つまり、これまでは単なる「便利ツール」のひとつに過ぎなかったものを、会社としての「インフラ」に昇華しようという考え方です。結果として業務効率はアップし、事業のさらなる拡大も期待できます。このロジックを経営陣に話して説得し、経営企画部でまとまった予算を得ることができました。

DXが社員の意識改革の起爆剤となる

企業がDXを推進するにあたって、ポイントとなるのはどのような点だと思われますか。

結城 今回のT-4OOの例のように、会社にとって必要なツールを見極め、それを一箇所で集中管理することは有用なメソッドです。各部署がバラバラに使っているよりも、一極集中でシステムを管理したほうが維持はしやすく、また全社に浸透していく速度もはるかに速いです。

ほかにも、例えば東洋紡グループでは、「ERP」(Enterprise Resource Planning)という、経営資源の効率化と経営判断のスピード化を実現するパッケージソフトウェアを導入しており、あわせてグローバルのグループ企業にも水平展開しています。

このソフトウェアは導入コストが高いため、もしも各グループ会社の負担で導入するとなると、費用負担の面で厳しいところも出てきます。しかし本体の東洋紡がマスターとして一括導入すれば費用負担は最小限で済み、またワンシステムで管理を行うことで、コーポレートガバナンスの点でもより安定した仕組みを構築しやすいと言えるでしょう。

DXが社員の意識改革の起爆剤となる

日本企業は世界と比較して、DX化が遅れていると言われることもあります。スピーディな変革を起こすために、貴社で重要視されている点は何でしょうか。

結城 何よりも「変化を恐れない」ことが大切な心がけだと私は考えています。東洋紡は紡績業界では歴史ある企業ですが、だからといって既存の事業だけに留まるのではなく、時代に合わせて次々と新しいビジネスを開拓していかなければ、社会に貢献する価値を生み出し続けることはできません。
社員一人ひとりにそうした意識改革を起こすための起爆剤として、DXは非常に効果的な取り組みです。

一方で、DXを担う人材が不足しているという課題もあります。そこで、未来のDX人材を社内で育てていくのと同時に、私たちは積極的に「外部のリソースを活用する」ことも行っています。
2019年夏にDXの検討会議を始動した時から、専門のコンサルタントを招いて、新たな知見や情報を取り入れています。こうして社外の状況を知っている人材から率直な意見をもらうことで、自社の状況を正確に把握し、内部から変革を起こしていくことができるのです。

これはいわば「歴史と新しい人材の融合」です。こうした循環の取り組みによって、ひとつずつ確実にDXの成功事例を増やし、それがやがてさらなる広がりを見せていくことを願っています。

後記

業務効率化から新規事業創出まで幅広いレイヤーで語られるDXだが、いずれも「組織」の問題で推進に至らないケースが散見される。東洋紡のT-4OOのケースでは、部署単位でのトライアルを経て、経営企画部が予算化して全社で自由に利用できるようにしたことで、この問題をクリアした。同社は全てのツールを全社導入することを前提とし、DX化を推し進めている。日本企業のDX推進にあたっては、経営層がデジタル戦略の重要性を認識し、明確なビジョンを示せるかが鍵になるだろう。

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