ドライバーの労働環境と社会的地位を変える、物流版Uberの正体とは?

2019年12月11日掲載

目次

  • EC需要は拡大しているが、ドライバーが不足。「ラストワンマイル」の配送が課題となっている
  • 物流業界の「多重下請け構造」が、ドライバーの労働環境を厳しいものにしている
  • 「PickGo」は荷主とフリーランスドライバーをつなぐマッチングプラットフォーム
  • CBcloudとソフトバンクは、ITを活用した運送業界の改革に取り組んでいる

今、日本の物流において「ラストワンマイル」の配送が課題となっている。

「IT化されていない複雑な配送ルートや再配達増加による業務効率の低下」「ドライバーの収入の低さと担い手不足」――。

ECの急成長に伴い宅配便取扱個数が増加する一方で、物流を担うドライバーを取り巻く非効率かつ低賃金、長時間労働などの厳しい労働環境により、人手不足が深刻化するというひずみが大きくなるなか、徹底的に「ドライバーファースト」の視点に立ち、物流業界の変革に挑んでいるのがCBcloud株式会社だ。

2016年にスタートした配送マッチングプラットフォーム「PickGo(ピックゴー)」は、フリーランスドライバーと荷主を即時につなぐITソリューションとして急成長中。現在、全国約15,000人以上のドライバーが登録し、26,000人以上のユーザーが荷主として利用している(2019年10月末時点)。2019年8月にはソフトバンクから出資を受け、また同年9月には業務提携を発表した。
CBcloudとソフトバンクは物流業界の未来をどのように考えようとしているのか。CBcloudの代表を務める松本隆一氏と、ソフトバンク デジタルトランスフォーメーション本部の河本亮氏、鵜沢泰造氏に話を聞いた。

全国のフリーランスドライバーは約26万人。
「多重下請け構造」が配送の効率化を妨げる

「物流業界の問題点の1つは『多重下請け構造』です。
日本の運送会社はBtoB領域で約6万3000社。その多くが車の所有台数10台以下の小規模な会社です。こうした企業は売上げを伸ばすために自社で保有する車の台数でまかなえる案件数以上の仕事を受注し、フリーランスドライバーに下請けに出すことで仕事を回しています。
一方、運送業に携わるフリーランスドライバーは全国で約26万人。これはタクシードライバーに匹敵する数です。彼らは小さな軽貨物車を所有し、個人のネットワークを使って下請けで業務に従事しています」(松本氏)

CBcloud代表の松本氏は、航空管制官として勤務したのち、運送業界に飛び込んだ異色のキャリアを持つ。そのきっかけとなったのが、運送業者向けに冷凍車を販売する会社を経営していた義理の父から、個人事業主のドライバーを取り巻く過酷な労働環境について聞いたことだったという。

「特にBtoB領域では、『今すぐA地点まで部品を運んでほしい』といった仕事の依頼が電話で突然舞い込むことが多く、電話に出られなかったり、断ったりすると次から電話がかかってこないということも。この多重下請け構造によって、フリーランスドライバーは誰がいくらで発注しているのかの大元が見えない中で仕事をせざるを得ない状態となり、配送効率の低下、賃金の低下などにつながっているのです。」(松本氏)

こうした物流業界の課題を解決するため、松本氏の義父は「ラストワンマイルを支えるのはフリーランスドライバーだ」という信念を持ち、運送会社から配送依頼を受け、その仕事をフリーランスドライバーに紹介する配車サービスをスタート。

さらに松本氏を誘ってITを活用し、配車の流れをシステム化しようとした。しかし、その矢先に義父が他界してしまい、配車サービス事業を松本氏が引き継ぐことに。

「義父の事業を引き継いでから2年間にわたってドライバーの方々と同じ目線で話をする中で、彼らの労働環境の厳しさを肌で感じました。ドライバーは高度なスキルを持っているのに、業界全体のアナログな文化、多重下請け構造などによって劣悪な条件で働かざるを得ない。こうした状況を変えるべく、『PickGo』の開発をスタートさせました」(松本氏)

業務提携を結ぶソフトバンクは、松本氏自身が物流業界の課題と向き合った経験こそがCBcloudの強みであると感じているという。

鵜沢氏は次のように話す。

「ECの需要の高まりとともに今後さらに荷物量は増えていくと予想されます。物流を担うドライバーの労働環境の改善、効率化、人員の確保は急務です。
こうした中で実際に物流の最前線にいた松本氏は、現場にどういう課題があるかを知っています。これは我々のようなIT業界からは見えにくい領域です。
机上でサービスを設計したところで、実際の現場で求められているものとは違う視点になってしまいかねません。現場を知っているというのは、サービスを開発するうえで大きな強みになると考えています」(鵜沢氏)

「PickGo」はドライバーが「個人」で勝負できる場

ITの活用により運送業界で革命を起こすことを決意した松本氏は2016年に「PickGo」をリリース。「PickGo」は荷物の配送を依頼する企業と配送を行うフリーランスドライバーをマッチングするサービスだ。

荷主が配送を依頼すると、わずか約56秒でドライバーとのマッチングが成立する。荷主側はドライバーの評価などを参考にして誰に依頼するかを決め、マッチングが成立。すぐにドライバーが集荷に来て、集積所に集められることなく直接、配送先へと向かう。
いわば、タクシー配車サービス「Uber」の物流版といったところだ。すでに全国で15,000人以上(2019年10月末時点)が登録しており、規模としては軽貨物配送を担う個人事業主の共同組合「赤帽」を超えている。

「『PickGo』の最大の特長は、ドライバーが荷主から直接受注できるため、多重下請け構造を許さないことです。また、『PickGo』ではドライバーの評価制度を導入し、受注のスピードだけではなくサービスの質でドライバーの方が勝負できる環境を作っています。
ドライバーが1つ配送を終えるごとに、配送遅延がないか、適切なタイミングで必要な連絡をしているかなどをシステム上で評価。さらに、荷主や受取主がドライバーの対応を評価。これらを総合して、ドライバーの顔写真やプロフィールとともに5段階評価が表示されます。
プラットフォーム上で仕事内容や評価が可視化されることで、努力した分だけ評価が上がり、より多くの仕事を受注することができます。
もちろん、中間業者をはさまないので単価も上がります。
こうした仕組みが共感され、多くのフリーランスドライバーに登録してもらえるようになりました。従来の多重下請け構造では月20〜30万の収入だったフリーランスドライバーが『PickGo』を活用して月100万円以上の収入を得るケースも出ています」(松本氏)

ドライバーの労働環境を改善し、モチベーションアップにつながるだけでなく、荷主側にも「PickGo」を活用するメリットは大きいという。

「まずは、スピードです。依頼を出してから約56秒でドライバーが複数集まるので、『一刻も早く荷物を運びたい』というニーズに応えることができます。出発後はドライバーの位置情報をリアルタイムで把握可能です。
また、配送コストを流動費化できる点もメリットです。例えばネットスーパーの配送ではお客さまへの荷量が日によって異なるにもかかわらず、常時配送車両のトラックを一定数確保する必要があり、荷物が少ない日には車両が余ってしまいます。
『PickGo』を利用することで荷物量にあわせて手配する車両の数を調整できるため、コストダウンにつながります。」(松本氏)

ドライバー目線に立ったサービスは荷主側のビジネスにも貢献するというわけだ。

物流業界のデジタルトランスフォーメーションを加速させる

EC需要の高まりに伴い、個人宅への荷物配送を担う宅配ドライバーの不足も深刻だ。
CBcloudにも宅配の相談が寄せられているとのことだが、『PickGo』のドライバーは宅配をやりたがらない人が多く、BtoB領域での仕事を希望している人が多いという事情がある。

ドライバーが宅配を避ける理由の1つが、配送の手間がかかる点だ。地域の特性、不在時間を考慮した配達ル−トの作成が必要で、現在でも宅配を担当するドライバーが紙の地図に配達ルートをプロットしてから出発するケースがあるという。経験と勘が物を言い、しかも荷物量は増える一方とあっては、宅配を担当するドライバ−のなり手が少なくなるもの必然と言える。

CBcloudではこうした宅配領域の課題を解決すべく、「PickGo」に加えて新たなソリューションの開発を進めている。それが、宅配業務効率化ソリューション「LAMS(ラムズ)」だ。

宅配事業者向けにドライバーの業務を効率化するソリューションを提供し、物流業界全体の構造改革を図ることで、荷物量の増加、ドライバー不足といった社会問題の解決につなげていくのが狙いだ。

「『LAMS』は、ITを活用し、土地勘がないドライバーでも一定の効率性を保ちながら配送ができるソリューションです。
特長は、不在宅のスキップを含めた効率的な配送ルートの自動策定や、受け取り時の電子サインなど、ラストワンマイルの配送に関連する業務をスマートフォン上で一気通貫して完了できること。また、トラックへの積荷の配置を効率重視でアドバイスするなど、熟練ドライバーのノウハウやナレッジを、ITを介し共有する機能も搭載しています。
『LAMS』によってドライバーの作業時間は大幅に短縮されます。ある企業様と共同で実施した実証実験では、配送ルートの検討時間が従来と比べ1配送ルートあたり60分以上削減したという実績も出ています。まずは宅配業務の労働環境を変えていく。それが将来的に宅配を担当するドライバーの獲得にもつながるはずです」(松本氏)

サービスリリースはまもなく。すでにいくつかの運送業者からの引き合いもあるというから、今後の広まりに期待がかかる。

運送業界のIT化を進めるにあたっては、ソフトバンクとの業務提携による業界全体の構造改革、自動化の推進にも期待が高まる。河本氏は両社が目指すゴールについて、次のように語る。

「ソフトバンクではテクノロジーを活用して社会課題の解決を図る取り組みを進めています。物流業界の課題を解決するためには、増える荷物量に対してどう対応するかという議論と、ドライバーをどうやって増やすかの議論、両輪で回していくことが必要です。
ソフトバンクとしては、物流業界全体の課題をどう改善していくかという大きな視点の中で、今回はラストワンマイルに着目してCBcloudとの協業を進めています。
将来的には、ラストワンマイルの課題だけでなく、エンドユーザーの受け取りの多様化を含め、物流業界全体の変革を広範囲で進めていきたいと考えています。
まずはCBcloudと共にいろいろな取り組みをしていきたいです」(河本氏)

松本隆一 氏

CBcloud株式会社
代表取締役 CEO

1988年生まれ、沖縄県出身。高校時代に独学でプログラミングを修得。
高校卒業後、2007年航空保安大学校入学と同時に国土交通省へ入省。2009年より航空管制官として羽田空港に勤務。2013年に退省、他界した義父の運送業を継ぐ。会社経営をしながら自身も配送ドライバーを経験。同年10月にCBcloud株式会社を設立。

河本亮 氏

ソフトバンク株式会社
法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部
第一ビジネスエンジニアリング統括部
統括部長

鵜沢泰造 氏

ソフトバンク株式会社
法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部
第一ビジネスエンジニアリング統括部 第1部 第1課
課長

PHOTO:田中由起子

後記

社会のスタンダードより10年遅れていると言われることもある物流業界。しかし、「PickGo」の登場によってドライバーの働き方が大きく、そして急速に変わった。CBcloudでは、宅配効率化ソリューション「LAMS」の開発に加え、AIやブロックチェーンを活用した動態管理システム「ichimana(イチマナ)」を提供している。
これらの新しいサービスのさらなる普及によって、業界全体が大きく変わっていく可能性がある。
「ドライバーファースト」を掲げるCBcloudと最先端のテクノロジーを持つソフトバンクの協業によって、これから物流業界がどう変革していくのか楽しみだ。

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