ラジコンの“Futaba”とソフトバンクが実現する「ドローン前提社会」

2021年3月5日掲載

  • 新しいドローンの開発に向け、ソフトバンクは双葉電子工業との共同プロジェクトを発足。
  • LTE対応の通信モジュールを搭載し、遠隔地からでも飛行制御を行える。
  • 空撮画像・映像をリアルタイムでクラウドへ送信することができるようになる。
  • 高精度測位サービス「ichimill」に対応し、航行時には誤差数センチメートルの飛行制御が可能。
  • 開発したドローンはソフトバンク「SoraSolution」のラインナップに加わる見込み。

2020年9月からラジコン業界のトップメーカである双葉電子工業とソフトバンクは、LTE対応の通信モジュールとセンチメートル級の高精度測位サービス「ichimill(イチミル)」に対応した国産ドローンの共同開発プロジェクトを開始し、機体のプロトタイプを製作したことを発表している。

同プロジェクトで開発する「国産ドローン」とは? 双葉電子工業・ソフトバンクの両社に話を伺った。

目次

強風にも耐える全天候型の産業用ドローン

2020年9月、双葉電子工業との「LTE対応の通信モジュールとセンチメートル級の高精度測位サービス『ichimill(イチミル)』に対応した国産の産業向けドローン」共同開発プロジェクトを発表したソフトバンク。ソフトバンクの高原弘樹はこの協業の経緯について、次のように話す。

高原 弘樹

ソフトバンク株式会社

テクノロジーユニットモバイル技術統括
5G & IoTソリューション本部 コアソリューション統括部
ロボティクスソリューション部 UAVソリューション課

「もともとソフトバンクが行っていた『基地局ドローン』(ドローンに災害用臨時基地局を搭載し災害時のエリア復旧に貢献するプロジェクト)の取り組みで双葉電子工業さまにご協力をいただいていました。

取り組みの中で双葉電子工業さまの実績・技術力、そして研究フィールドに感銘を受けました。そのため、今回のドローン共同開発に当たってもご協力をお願いしたいと考え、お声がけさせていただきました」(高原)

真空管の製造・販売会社として1948年に設立した双葉電子工業。同社は1962年からホビーラジコン用の“送受信機”の製造・販売を開始し、業界では「ラジコンのFutaba」として一目置かれる存在に成長した。

2015年頃から産業用ドローンメーカに同社製のプロポ(ドローンの送信機・操縦装置)等の制御部品が採用されると、翌2016年頃からは送受信機の性能評価で培ったノウハウ、技術力を結集させ自社製ドローンの開発・製造に着手。以来、同社は安定性に優れた全天候型の産業用ドローンを世に送り出している。

ドローン開発ではすでに業界で確固たる地位を築いている同社だが、共同プロジェクトにあたり、とりわけソフトバンクのメンバーを驚かせたのは、耐風試験の様子だった。

双葉電子工業は本社を置く千葉県内に研究施設を持っており、敷地内にはすぐに飛行試験が行える環境が整えられている。

「屋外の試験場で大きな送風機による風速15〜20mほどの強風の環境下でも、Futabaのドローンはホバリングに耐え、自動航行でも安定飛行・安定制御を実現していました」(高原)

ひとえにそれは双葉電子工業の技術力の賜物であるが、そもそもなぜそれだけ“極端”とも言えるような条件下で飛行するドローンを開発する必要があるのか。双葉電子工業株式会社 理事 システムソリューション事業センター長 横山 勝氏はその理由をこう語る。

横山 勝氏

双葉電子工業株式会社
理事 システムソリューション事業センター長

「国内でのドローン普及拡大にあたり課題はさまざまですが、とりわけ我々が注視するのは『安全性の証明』です。これまで多くの産業用ドローンは『理想的かつ安全な環境下でスキルを持った操縦技術者が取り扱う』ことを前提に開発・製造されてきました。

しかし今後あらゆる業界・用途へ拡大していくことを見据えると『まさかこんな環境でも航行する』という条件をクリアしてこそ、さまざまなニーズに対応できると考えています」(横山氏)

両社のアセットを組み合わせ、課題を解決

両社で共同開発が進められる産業向けドローンは、橋梁・鉄塔・工場・建設現場などの点検作業をはじめ、測量・災害支援などでの活用シーンが想定されている。

機体にはFutaba製の産業用ドローン「FMC-02(クワッドタイプ)」を採用。監視・捜索・放送・運搬・撮影など各種用途に合わせた柔軟なカスタマイズに対応する産業用ドローンだ。

FMC-02の特長

そこに加わるのが、ソフトバンクのアセット群。LTE対応の通信モジュールが搭載されたことで遠隔地からドローンの飛行制御を行えるのに加え、空撮した画像・映像をリアルタイムでクラウドへ送信できるようになる。

さらに、ソフトバンクが提供する高精度測位サービス「ichimill」に対応。準天頂衛星「みちびき」などGNSS(全球測位衛星システム)から受信した信号を利用するRTK測位※1により「飛行の安定性」「取得データの高度化」というメリットが得られるという。

※1 RTK(Real Time Kinematic)測位とは、固定局と移動局の2つの受信機を利用し、リアルタイムに2点間で情報をやりとりすることで、高精度での測位を可能にする手法のこと。

「GPS(衛星測位)ではどうしても1〜数メートルの誤差が生じますが、今回共同開発を進めるドローンは、誤差数センチメートルの飛行制御・安定飛行が可能です。空撮した画像・映像の位置情報も高精度で測定するため、点検した対象物を後からでも特定しやすく、地図データに重ねたときの精度も向上します」(高原)

双葉電子工業はこのたびの協業の中で「ichimill」の有効性を確認した。同社のシステムソリューション事業センター 技術部 ロボティクス課 UAV開発係 吉岡 佑基氏は次のように語る。

吉岡 佑基氏

双葉電子工業株式会社
システムソリューション事業センター
技術部 ロボティクス課 UAV開発係

「2020年12月の実証実験で初めて確認しましたが、明らかに位置情報の精度がよいと感じました。位置情報に誤差が生じるとドローンの航行は不安定になり、撮影する画像・映像もぶれてしまいます。RTK測位を行うドローンは従来のGPSと比較してもホバリングの動きが安定し、ぶれがありません。まるで空中で静止しているかのような動きをかなえられました」(吉岡氏)

今後、同プロジェクトではAI活用による完全自動飛行や5G(第5世代移動通信システム)の実装も視野に入れ研究開発を進めていくが、まずは2020〜21年度にかけて機能改良に向けた実証実験を行う予定だ。そして、実証実験が終了し次第ソフトバンクのドローンサービス「SoraSolution」のラインアップに追加される予定だ。

空をドローンが飛び交う「ドローン前提社会」を目指して

ソフトバンクの「SoraSolution」は、ドローン本体や操縦・管理用のアプリケーション、導入・運用サポートなどをワンストップで提供する、ドローンに特化した独自サービスである。ソフトバンク 松田憲史郎は今後の「SoraSolution」の展望について次のように話す。

松田 憲史郎

ソフトバンク株式会社
法人事業統括 法人プロダクト&事業戦略本部
デジタルオートメーション事業第1統括部 IoT統括部
IoTプロダクト企画推進部 プロダクト企画3課

「通常、産業用ドローンは、スマートフォンなどを介して外部データセンターとの飛行・撮影情報のやりとり、プログラム更新を行っており、機体も無線回線で制御されています。

そのためユーザが意図しないプログラム更新、飛行・撮影情報の外部漏えい、他人による機体制御乗っ取りなどが起こるリスクがあり、そうしたセキュリティリスクの観点から “国産ドローン”への市場ニーズが高まっていくと予想されます。

産業向けドローンの市場としては官公庁・自治体の利活用も想定されます。そういった観点からも“国産ドローン”は今後増々求められていくでしょう」(松田)

かつて点検作業の現場は、作業員が手にした紙での管理が主流だった。しかし今ではスマートフォンやタブレット端末が積極的に利用され、作業員による点検作業もだいぶ効率化されたといえる。そこからさらに発展し、遠隔地からでもドローン機体で点検ができるようになれば、労働人口減少という社会問題を抱える日本の産業にも貢献できるだろう。

「だれでも」「かんたんに」ドローンを使える世界に——。「SoraSolution」のコンセプトだ。 ソフトバンクの高原と松田は「誰でも簡単にドローンを使える世界を作りたい」と語る。

“空”を有効的に活用し、産業を再定義していきたい思いは、双葉電子工業も同じだ。

「これまで人類が活用してきた電波、石油……といった資源に今新たに“空”が割り当てられたと私は思っています。私たちが目指すところは、高原さんや松田さんと同じく、ドローンを前提にした社会。空を見上げれば当たり前のようにドローンが飛び交い、人が負担を負ってきたさまざまな仕事・業務がドローンに代替され、みんなが幸せに暮らしている。そんな世界の構築に向け、何を提供すればよいのか、我々ができることを考えていきたいです」(横山氏)

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