【鉄道DX】「踏切IoTソリューション」が全国3万の踏切をネットワークでつなぐ

"【鉄道DX】「踏切IoTソリューション」が全国3万の踏切をネットワークでつなぐ" (2021年4月2日 掲載)

  • ソフトバンクと東邦電機工業は、踏切の情報メモリー(VAM)に通信機能を付帯させた「踏切IoTソリューション」を共同開発。
  • 踏切設備の保守にかかるダウンタイム短縮を目指す。
  • LPWA通信規格「Cat.M1」や通信プロトコル「LwM2M」の採用により、大幅にランニングコストを抑えた運用を実現。
  • 2020〜2021年には九州旅客鉄道管轄の踏切で実証実験も行われた。

日本国内の踏切は、1960(昭和35)年当時、全国に約7万ヵ所以上あったとされている。
1961(昭和36)年に「踏切道の改良を促進することにより、交通事故の防止及び交通の円滑化に寄与することを目的とした踏切道改良促進法が制定され、踏切の統合や廃止、立体交差化などが進み、現在はその当時の半分以下の数に。それでも今なお国内には、約3万3000ヵ所の踏切が点在している。

踏切の「保守」の効率化は鉄道業界にとって長年の課題だ。

そんな鉄道業界の課題に向き合うべく、ソフトバンクは2020年11月20日〜2021年1月31日に九州旅客鉄道(以下、JR九州)管轄の踏切で「踏切IoTソリューション」の実証実験を行った。

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同プロジェクトについて、ソフトバンク 5G&IoTエンジニアリング本部 九州IoT技術部 部長の根来昌宏(上記写真左)、同・石井孝憲(上記写真右)の両名に話を聞いた。

踏切保守にかかるダウンタイム削減に向けて

「このソリューション開発を皮切りに、“鉄道業界にソフトバンクあり”と認知されるところまで持っていきたい」——ソフトバンク5G&IoTエンジニアリング本部 九州IoT技術部 部長の根来昌宏はそう話す。

現在、国内の踏切にはVAM(バム)と呼ばれる踏切制御装置の情報メモリーが置かれていることが多い。このVAMに「列車検知・構内検知・緊急停止ボタン・障害物検知」などの情報をインプットし、踏切の動作を制御する(下図)。

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鉄道会社の保守拠点とVAMがネットワークでつながっているケースはまだ稀であるため、踏切事故などの異常があった場合は、係員が踏切のある場所まで駆けつけ、情報ログの読出・解析を行わなければならない。

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踏切横にあるVAMの設置場所

しかしここに課題があった。

長年、踏切設備の保守において大きな課題とされてきたのが、踏切事故が発生した際の「ダウンタイム」すなわち、踏切トラブルが起こった際に係員が現場に駆けつけ、正常性判断や原因特定をするまでに要する時間だった。

復旧時間が長期化すれば渋滞の発生、緊急車両の通行支障など、さまざまな影響を及ぼす。

「人身事故以外にも踏切にはさまざまなトラブルがあります。係員が現地に到着しなければVAM情報の取得・解析がスタートできませんし、現地に到着しても解析終了まで時間を要します。

また、解析の結果、もしも追加部材が必要となれば事務所などへ取りに戻る、あるいは別班を出すなどの措置がとられることもあり、ダウンタイムが増大していたのです」(石井)

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踏切IoTソリューションにソフトバンクが参画する理由

今回の取り組みでは、VAMの圧倒的シェアを誇る東邦電機工業とソフトバンクがタッグを組み、ソリューションを開発。

2020年11月20日から2021年1月31日の間、JR九州管轄4ヵ所の踏切設備に本ソリューションが設置され、使用感・運用面・データ量などが検証された。

ソリューションの構成は、VAMにソフトバンクの通信デバイスを接続し、踏切設備の動作ログを同じくソフトバンクのIoTプラットフォームに集約させるというものだ。

管理者(鉄道会社)はデータを取得するアプリと解析するアプリ(東邦電機工業が開発)を通じ、遠隔地からでもVAM情報の取得・解析ができるようになる。

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ソリューションの具体的な機能としては「踏切情報メモリーデータ取得機能」「踏切情報メモリー種別自動判定機能」「踏切番号取得・設定機能」「踏切情報メモリー時刻自動補正機能」「死活監視機能」「通信デバイス遠隔リセット機能」などが備わっている。

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「JR九州様の場合はダウンタイム削減が大きな目標でしたが、現状、1回の出動あたり30分ほどの作業短縮につながりそう、とのコメントをいただいています」(石井)

近年のスマートフォン普及により、高速大容量通信の実現が追及されてきたが、IoTデバイスでは、デバイスの小型化や設置場所条件の制約を踏まえた「低消費電力」、広範囲での利用を踏まえた「長距離通信」が社会的ニーズとして高まりつつある。また、多数のデバイスで構成されることが多く低価格であることも求められる。

それらのニーズに対応した無線通信技術がLPWA(Low Power Wide Area)通信規格だ。

「LPWAは低消費電力・長距離通信の通信規格ですが、今回はそのなかでもCat.M1を採用し、VAMのIoT化ソリューションを構築しました。

Cat.M1は、すでに当社が基地局を拡げているLTE帯域を利用するため、大幅に初期費用を削減できます。かつ通信プロトコルには、軽量なLwM2Mプロトコルを採用。HTTPsなど他のプロトコルと比較して総通信データ量を抑えられるため、ランニングコストも抑えることができます。

そのため、JR九州様管轄の踏切の数はおよそ2,600ヵ所と膨大ですが、本プロジェクトでは、VAM蓄積データの200変化分を月1回取得した場合、踏切1ヵ所当たりの通信費を『月額数十円』のレベルにまで抑える試算です。ちなみに設置工事も踏切器具箱に入ったVAMに通信デバイスをつなぐだけなので1ヵ所10分程度。大規模工事不要で容易に設置が可能なことも導入時のメリットです」(石井)

さらなる未来へ——ビッグデータで実現するCBMの世界

実証実験の成果を受け、石井は次のように述べる。

「ソリューションの設置から東邦電機工業様で開発されたデータ取得アプリの使用まで大きな問題もなく、JR九州様からの反応も上々でした。

いろいろなフィードバックをいただいたので、それらを商用機の開発に生かしていきたいと思います。踏切設備は本当に奥が深く、VAM以外のデバイスや装置にもIoT化・遠隔化の可能性を感じた部分がありました。踏切ソリューションとしての“深化”にもソフトバンクとして関与していければと考えています」(石井氏)

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現地試験の様子。通信デバイスを設置して、車内から遠隔データを取得

今後、踏切IoTソリューションは「2022年夏頃、実運用開始」を目指しているという。その後はもちろん「他のJR沿線・私鉄沿線を含め、業界への横展開も狙っていきたい」と石井は意気込む。特に過疎が進むような地方では、踏切保守の業務効率化の観点からニーズが高まる可能性がある。まだまだ全国に波及していく余地がありそうだ。

最後に根来は、先々の展望を見据え、こう語った。

「IoT本来の醍醐味はプラットフォームにデータを蓄積していくことで生まれるビッグデータです。鉄道業界も例外ではありません。それが本当に構築できれば、設備の劣化予測、保守タイミングの最適化も可能になるでしょう」(根来)

メンテナンスの世界には「TBM(Time Based Maintenance)」と「CBM(Condition Based Maintenance)」という概念がある。

前者は故障の有無に関係なく定期的にメンテナンスを実施する考え方で、後者は必要と判断されたときのみメンテナンスを実施する考え方。「時間基準保全」と「状態基準保全」と訳されることも多い。

「現在の鉄道業界の多くはTBMの考え方のもと、3年に1回、5年に1回などの頻度で設備のメンテナンス・交換を行っています。社会課題解決の施策として、ビッグデータで業務最適化を図る——今回の取り組みはCBMの世界が到来する第一歩だと考えています」(根来)