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いわゆる「肉体労働」の印象が強い建設土木業界。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは縁遠かった業界が、今、変わろうとしている。
建設現場のプロセスをクラウドでデータ管理、自動操縦の無人建機。そんな未来へ向けた構想が現実のものになりつつある。その鍵を握るのはIoT、AIなどお馴染みのテクノロジー。そして意外と知られていないのが、センチメートル単位で位置情報を計測する「高精度測位技術」だ。
日立建機では、スマホのアプリで撮影するだけで土量や採石量などを計ることができるサービス「Solution Linkage® Survey」を2019年4月から提供してきた。2020年6月からは、ソフトバンクが提供する高精度測位技術「ichimill(イチミル)」を活用して、施工現場の進捗管理を計測できるサービスを拡張。
「Solution Linkage® Survey」と「ichimill」がタッグを組むことで、建設土木業界にどのような変革をもたらすのだろうか。日立建機株式会社 顧客ソリューション本部の田中一博氏と、ソフトバンクの湯田坂和大氏 、舟井雄一氏に話を聞いた。
約340万人いる技能労働者のうち、今後10年間で全体の1/3にあたる約110万人が高齢のため離脱すると言われる建設土木業界。危機的状況な人材不足の解消と、業界全体の生産性向上が急務となっている。
こうした中、国土交通省では2016年から「i-Construction」という取り組みをスタート。建設土木の現場にICTを活用した施策を導入するなどして、生産性向上、働きがいのある業界を目指すというものだ。
例えば、ドローンによる写真測量を活用した三次元測量、三次元CADによる設計、ICT建機の自動制御、航空レーザ測量による土工の監視など。「調査・測量」「設計」「施工」「検査」「維持管理・更新」といった建設プロセスの各工程で、精密な調査に基づくデータ化と、データを活用したソリューションを展開する。
これまで紙や職人の頭の中にあったあらゆる情報をデータ管理し、サプライチェーン・マネジメントの概念を導入。その効率化を図るというわけだ。
一方、土木の現場では人手がどうしても必要で、働く人の負担になっている作業もあった。その1つが、土量やセメント量、採石量などの計測だ。日立建機の田中氏は、土木現場が抱えている課題について次のように話す。
日立建機
田中一博氏
「建設現場では作業進捗の報告や、運搬にトラックが何台必要かを判断するために、仮置きしている土量やセメント量を計測するという作業があります。これまでは職人が経験から目視で判断したり、メジャーを使って人力で計測したりするケースが多かったのですが、計測しやすいように形を整える手間が発生していました。
ドローンを使って三次元測量をするという方法もありますが、コストがかかるため、全ての現場で利用できるわけではありません」(田中氏)
こうした現場の声に応えて開発されたのが「Solution Linkage® Survey」だ。スマホで位置情報を取得しながら計測対象の周りを歩いて動画撮影するだけで対象の三次元データがクラウドにアップロードされ、おおよその体積を計測するというサービスだ。
「Solution Linkage® Survey」によって土量計測の作業時間とコストが抑えられ、大幅に効率が上がったものの、まだ課題が残っていたという。1周波アンテナとVRS(仮想標準点)による補正情報を用いていたため、写真測量に必要な位置情報を安定して取得できる状態になるまでの待ち時間がどうしても長くなってしまうのだ。また、動画撮影時に衛星からの電波を遮蔽するものがあると不安定な状態になってしまうという課題もあった。
この2点の解決策を探しているときに田中氏が出会ったのが、ソフトバンクが提供する高精度測位技術「ichimill」だったという。そして、「ichimill」とタッグを組んで拡張されたのが、2020年6月から提供を開始した「Solution Linkage® Survey Advanced」だ。
「『ichimill』はL1-L2の2周波アンテナに対応しているため、位置情報を取得するまでの待ち時間がわずか1分程度です。これまでは計測を始めるまでに10分ほどかかっていたので大きな改善です。また、『ichimill』は基準点が多く、基準点とユーザーの測位位置までの距離が短いため、1度データが安定的に取得できる状態になると外れにくいというのも魅力でした。我々としては、喉から手が出るほど欲しかった技術です。
加えて、従来は『Solution Linkage® Survey』のアプリ内で位置情報の補正処理をしていましたが、『ichimill』は通信機能を備えていて、ソフトバンクの基地局から内部処理された補正済みのデータをアプリに送ってくれます。そのため、アプリ側は計測に専念できるというのも魅力でした」(田中氏)
「ichimill」を提供するソフトバンクの湯田坂氏と舟井氏は、その特長を次のように話す。
「『ichimill』では、ソフトバンクの基地局の設置場所を活用することで、RTK測位に必要な独自基準点を全国3,300ヵ所以上に設置しています。そのため、高精度で誤差数センチメートルの測位がリアルタイムで可能となります。こうした特長から、『Solution Linkage® Survey』の課題であった待ち時間の長さと、環境要因による不安定さという課題の解決につながりました。我々のサービスコンセプトとうまくマッチしたと思います」(湯田坂氏)
「技術的なことに加えて、料金の部分も評価していただきました。GNNS受信機は100万円以上と高額なものが多いところ、我々のサービスでは大幅にコストを抑えて提供しています。ソフトバンクの通信チップを搭載した端末のご提供ができることが強みになっています」(舟井氏)
ソフトバンク
湯田坂和大氏
ソフトバンク
舟井雄一氏
こうして「ichimill」との連携によって生まれた「Solution Linkage® Survey Advanced」は、アプリの月額利用料金1万円〜(従量課金制)という圧倒的な低コストと手軽さで、今までにない高精度の三次元計測を可能にした。
計測した点群は、アプリ内から福井コンピュータ株式会社のクラウドデータ共有システム「CIMPHONY Plus®」にデータ転送が可能。点群データを生成したその場から転送できるため、遠隔地に所在する関係者間で現場の進捗状況や土量などをリアルタイムに共有し、クラウド上で三次元データを閲覧することもできる。
これによって建設現場にどのような変革がもたらされるのだろうか。田中氏は次のように話す。
日立建機
田中一博氏
「ドローンやレーザスキャナーを活用した高精度な測量はコストや手間がかかるため、中小規模の建設会社では導入が難しい面がありました。その点、『Solution Linkage® Survey Advanced』はスマホで手軽に三次元計測ができるので、これまで二次元図面が中心だった建設会社でも気軽に三次元施工に取り組めるようになります。まずは三次元施工の入口として利用していただければと考えています。
また、建設現場だけでなく、災害査定ツールとしても活用できると考えています。土砂崩れが起きた際の土量計測や、洪水などで出た大量の災害廃棄物の数量計測にも役立つはずです」(田中氏)
高精度測位技術は、自動車の自動運転に使われるケースが多かった。今回、三次元計測サービスである「Solution Linkage® Survey Advanced」と連携したように、今後はさまざまな産業で活用されていく可能性がある。
「GNSSを利用する価格面、技術面でのハードルは年々下がり、建設現場での活用は身近になってきています。例えば、工事完成時に設計通りにできているかを確認するため、高精度測位技術で三次元設計データと完成物の比較検証を行うという流れが一般的になりつつあります。また、国や自治体でも工事で取得した三次元計測データを地図上に蓄積し、オープンデータとして活用する取り組みも始まっています。
今後は手軽に数センチメートル単位の精度で位置情報が取れることで、三次元データ=難しい、コストがかかるというイメージが払拭され、業界全体で日常的にICT活用が進んでいくのではないでしょうか」(田中氏)
「建設業界での測量の高度化のほか、ドローン飛行の制御にも高精度測位技術が役立ちます。ドローンによる農薬散布を高精度測位技術で管理することで、必要な畑だけに農薬を散布することも可能です。また、災害時のインフラ防衛にも役立ちます。高精度測位技術を用いた監視センサを設置し、河川の水位変化や地滑りの変化を捉えることもできます。
位置を取得するアプリケーションはさまざまありますが、高精度化することで付加価値が生まれ、今後あらゆる産業に不可欠なものになっていくと考えています」(湯田坂氏)
これまでは高精度位置情報を得るには高価な機器を用いて複雑な操作が必要だったため、限られた企業や人のみが扱えるものだった。しかし、これからはスマホで誰もが手軽に活用できるようになり、身の回りのさまざまな産業を支えるインフラとなっていくに違いない。
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