「生産プロセス革新」事例:三井住友建設 作業員の位置情報をフル活用 クラウドベースのデータ活用の仕組みで「建設生産革命の実現」を目指す

2021年2月10日掲載

あらゆる業界で急務となっているデジタルトランスフォーメーション。建設業界においても、各社が様々な施策を展開している。中でも「建設生産プロセスの変革」を基本方針の1つに掲げる三井住友建設は、先進的な取り組みを進める企業の1社だ。着目したのは、関連会社に持つプレキャスト工場内の作業員の「位置情報」。これを収集・蓄積し、生産管理システム内の様々なデータと組み合わせて分析することで、部材の生産プロセスの効率化・最適化、ビジネス競争力の強化につなげている。

目次

「建設生産革命の実現」に向け、ICTを積極的に活用

IoT、AIなどの技術の進歩とともに、建設業界のプロセス革新が急速に進んでいる。デジタルを取り入れることは、競争力強化に向けてもはや不可欠といえるだろう。こうした事業環境の中、先進的な取り組みを展開するのが三井住友建設だ。同社では、三井住友建設グループの持続的な成長に向けた「2030年の将来像」を、「新しい価値で『ひと』と『まち』をささえてつなぐグローバル建設企業」と設定。「建設生産革命の実現」「建設から広がる多様なサービス」「サスティナブルな技術」「グローバルな人材」の4つを軸に、これまでにない価値の具現化を目指している。

「このうち、建設生産革命の実現に向けて不可欠なのがICTです。かねて利用してきた独自のトータル建設マネジメントシステムに、IoTやAI、ロボティクスなどの先進テクノロジーを取り込むことでシステムを高度化。次世代の建設生産システム『SMile生産システム』を確立することを、2030年に向けた重要な目標としています」と三井住友建設の菅谷 和人氏は語る。

菅谷 和人氏

三井住友建設株式会社
技術本部
生産機械技術部長

 SMile生産システムが実現されれば、3次元データ化された設計・施工計画と、リアルな建設現場が連携できるようになる。ただし、それにはまず建設現場に先進ICTを適用し、各工程の作業や人の動きなどを「データ化」しておくことが不可欠だ。でなければ、現実世界の膨大な情報をシステム内に取り込むことは難しいからだ。

プレキャストコンクリート部材の工場でIoTデータの活用に挑む

 そこで同社は、グループ企業のSMCプレコンクリート茨城工場(写真)において、生産プロセスのデータ化に着手。作業員一人ひとりのヘルメットにセンサーデバイスを装着し、工場内における位置情報、移動経路などのデータを集める。それをBI(Business Intelligence)ツールで分析・活用することにした。

「当社は『スクライム工法』という独自技術を強みの1つとしています。これは、あらかじめ工場で プレキャストコンクリート部材を生産し、それを現場で組み上げることで工期短縮やコスト削減につなげる工法のこと。主要な構造部に現場打ちコンクリートを一切使わない点が、一般的なプレキャストコンクリート工法との違いです。このスクライム工法の部材の生産プロセスを担うのがSMCプレコンクリート茨城工場であり、この拠点の生産性向上を図ることが、全社のビジネス競争力向上につながると考えました」と菅谷氏は説明する。

クラウドであれば「とりあえず使ってみる」が可能

ところが、ここで同社は予期せぬ問題に直面する。ベンダーとともに構築した分析システムの性能や拡張性が、扱うデータの件数や利用目的に対して不十分である可能性が浮上したのである。

「システムのキャパシティを十分に考慮できていなかったため、大量のデータの抽出・加工と可視化の処理に多くの時間がかかっていました。当初は蓄積したデータを年単位で分析したいと考えていたのですが、それも難しそうなことが分かったのです。データはどんどん増えていく上、別拠点へ横展開すれば活用用途も広がります。そこまでを見据えたシステムを、新たに用意する必要性に迫られていました」と同社の中谷 和孝氏は振り返る。

中谷 和孝氏

三井住友建設株式会社
技術本部
生産機械技術部
主任研究員

 こうして同社は、要件を満たす新たなデータ分析基盤の検討を開始。最終的に、パートナーに選定したのがソフトバンクだ。ポイントはその提案内容だった。

 まず、高いシステム性能が求められるデータの抽出・加工・分析といった処理は、リソースを柔軟に拡張できるクラウド上で行う。クラウド基盤には、多彩なデータ活用サービスを擁する「Google Cloud Platform 」(以下、GCP )を選定。BIツールには、ビッグデータの可視化に実績のある「Tableau」を採用した。そして、抽出したデータはWebプラウザ上のダッシュボードで分かりやすく可視化し、スムーズに社内で共有できるようにするというものだ。

 また、データ自体を保管する工場内環境とクラウドとの接続には、ソフトバンクが強みとするネットワークソリューションを適用。閉域ネットワークサービス「SmartVPN」と「ダイレクトアクセス for GCI-Partner」で、機密性の高いデータも安全にやり取りできるセキュアな通信環境を具現化する。これは GCP の世界規模の仮想プライベートクラウド環境「VPC Network」と、冗長性と帯域を確保した閉域接続を可能とするものだ(図1)。

 「ソフトバンクはまずPoC(概念実証)を行うことを提案してくれました。サンプルのダッシュボードを作り、本番同様の環境で利用してみたことで、処理性能に問題がないことや、潜在的な課題が分かりました。なお、このPoCが行えるのは、『とりあえず使ってみる』ことが可能なクラウドならでは。仮に稼働後に問題が発生しても、使った分だけの費用を支払うだけで済み、損失は少なく押さえられます。不安なくプロジェクトを進められました」と中谷氏は評価する。

 一連の仕組みはすべてソフトバンクがワンストップで提供する。複数ベンダーとの契約や、問い合わせなどの煩雑なやり取りが不要で、スムーズに導入を進められることもメリットだった。「利用開始後も、疑問点はソフトバンクに聞けばよい状態になります。手間のかからなさは大きな魅力でした」と中谷氏は付け加える。

クラウドであれば「とりあえず使ってみる」が可能

GCP上に構築したデータ分析環境は、2020年秋から稼働を開始。茨城工場におけるIoTデータの収集・蓄積・活用を支えている。先に紹介した通り、工場内における作業員の位置情報や移動経路などをセンサーで可視化し、生産管理システム内の様々なデータと組み合わせて分析する。これにより、プレキャストコンクリート部材の生産プロセスに潜む非効率な手作業や重複管理している課題点を抽出し、解決につなげる狙いだ(図2)。

 「旧システムも残してあり、溜まったデータを取り込みながら利用しています。構築に当たって意図した性能は実現できており、年単位のデータの分析や、将来的な多用途展開・多拠点展開なども十分可能な環境が実現できました」と菅谷氏は期待を寄せる。

 ビジネス成果を生むのはこれからだが、既にいくつかの効果が出ている。例えば、「工場内の特定の場所に、誰が、何分とどまっている」というデータから、ある部材の生産に要する時間や作業員数などが可視化できるようになった。また、同じ部材を生産していても、担当する作業員のチームによって所要時間が大きく異なることが分かった。原因は分析中だが、以前は見えていなかった現場の状況が、徐々に明らかになりつつある。

 「従来、部材の生産プロセスはブラックボックス状態で、『このラインでは今日何人が働き、何部材完成した』という結果しか見えない状態でした。現在は、データを基にプロセスを見ながら改善策を検討できるようになっています。また近年、プレキャストコンクリート部材は受注生産の傾向が強まっており、工場では少量・多品種生産への対応が急務になっています。データをフル活用すれば、それに向けた体制の最適化も容易になるはずです」と中谷氏は述べる。

 茨城工場での活用が軌道に乗った暁には、別の工場や建設現場などへ仕組みを横展開していく。その際、複数のロケーションで膨大なデータが発生することが予想されるが、GCPのデータ分析サービスを活用することで、デプロイメントに要するコストを大幅に削減することも期待できる。

 「建設生産革命の実現、そして当社のビジネス高度化を実現する上で、クラウドは不可欠なテクノロジーだと実感しました。今後、より多くの拠点・現場とクラウドの接続を考えていく上で、ネットワークまで含めて提供してくれるソフトバンクの存在は心強いですね。これからも、これまで同様のきめ細かな対応や効果的な提案を期待しています」と菅谷氏は語る。

 生産プロセスの最適化に向け、先進的なデータ活用の仕組みを実現した三井住友建設。ソフトバンクとのパートナーシップのもと、今後も様々な挑戦を続けていく。

左から、本プロジェクトを担当したソフトバンクの高橋 友樹氏、三井住友建設の中谷氏、菅谷氏 左から、本プロジェクトを担当したソフトバンクの高橋 友樹氏、三井住友建設の中谷氏、菅谷氏

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