SBクラウドこれまでの歩みと今後の展望

2021年4月15日掲載

Alibaba Cloud(アリババクラウド )が2016年に日本展開を開始してから、2020年12月15日で4周年を迎えました。SBクラウドは、ソフトバンクとアリババグループの合弁会社であり、Alibaba Cloudの日本上陸から現在に至るまで、その成長を共に歩んできました。

今回のコラムでは、Alibaba Cloudの日本展開開始時より携わっているSBクラウド クラウド技術統括部の3名に、これまでの歩みと今後の展望について聞きました。

目次

サール バシル(El Hadji Bassirou Sarr)

SBクラウド株式会社
クラウド技術統括部 技術部部長

ソフトバンクで10年以上のインフラ運用経験を経て、2016年よりSBクラウドの立ち上げから参画。ローカライズ、オペレーション&サポート、プロダクト企画開発などの責任者を歴任し、2018年より総勢約70名の多国籍チームである同社の技術部門のトップを務める。

李 在熙(Lee Jaehee)

SBクラウド株式会社
クラウド技術統括部 技術戦略室

ソフトバンクでスマートフォンのH/W開発業務経験を経て、2016年よりSBクラウドの立ち上げから参画。アリババクラウド日本リージョンのデータセンター構築に携わる。またその中で、設備投資計画、設備調達、DCキャパシティー設計&構築を行うサプライチェーンチームリーダーを歴任。現在は、各種事業開発におけるプロジェクトマネージャーを務める。

住吉 洋平

SBクラウド株式会社
クラウド技術統括部 アフターセールス部 部長代行

ソフトバンクでのカスタマーサービス、情報システム部門での業務経験を経て、2016年のSBクラウドの立ち上げから参画。Alibaba Cloud日本展開におけるテクニカルサポート・バックオフィス業務の設計・構築に携わる。現在はアフターセールス領域のマネージャーを務める。

Alibaba Cloud日本展開が始まるまで

ー本日はよろしくお願いします。まず、Alibaba Cloudについて教えてください。

Sarr:皆さんご存知の通り、アリババグループは、世界時価総額トップ10に入る巨大企業であり、ECプラットフォームのアリババドットコムや天猫(Tmall)、決済システムのアリペイなど、多岐に渡るサービスを展開しています。 中国で毎年11月11日に「天猫ダブルイレブン・ショッピングフェスティバル(独身の日)」を開催しており、2020年はセール期間のみで約7.9兆円の取扱高をあげています。(2020年11月1日〜11日総計) 国内最大手ECモールの年間流通額が約3.9兆円ですので、セール期間の11日間だけでその約2倍の流通額を達成していることになります。

それらのアリババグループのサービスを支える独自開発のインフラ基盤が、Alibaba Cloudです。現在は、日本を含む22リージョンに展開し、世界中で利用されています。

〈天猫ダブルイレブン(独身の日)における2020年実績〉

先ほど述べたような世界最大級のECプラットフォームで培った高速トランザクションに耐えられるクラウドネイティブなデータベースや、アリババが独自開発をしたリアルタイムに大容量データを処理できるデータ分析基盤、そして、商品検索に利用されるような画像処理技術などに強みを持っています。 ECモールを適切にスケールさせるためのコンテナ技術にもグローバルでコミットをしており、最新の技術を提供しています。

〈アリババグループのサービス基盤「Alibaba Cloud」〉 〈アリババグループのサービス基盤「Alibaba Cloud」〉

ーでは、皆さんが日本展開に携わるようになった経緯を教えてください。

Sarr:私たちは3名とも、元々ソフトバンクの別々の部署に所属していました。 2016年3月に新規事業立ち上げメンバーの社内公募があり、その社内制度を利用してAlibaba Cloudの日本展開準備を行うプロジェクトに参画することになりました。私が参画した時点では15名ほどのチームでしたね。 当時Alibaba Cloudの海外向け(中国国外)Webサイトはありましたが、日本語の情報はほぼなく、パイオニアであるAWSとは差があるなと思った記憶があります。

ーそうなんですね。3月にプロジェクトに参画し、11月にプレローンチするまでの9カ月間は、どのようなことをされていましたか?

Sarr:マーケティング戦略の策定、データセンターの立ち上げなどに加え、プロダクトのローカライズ作業、お客さまサポート体制の整備、またアリババクラウド本社との契約など業務は多岐に渡りました。 短い期間でやるべきことが本当にたくさんあり、とても大変でしたが充実してやりがいがありました。

李:私は主に、データセンターの立ち上げを担当していました。データセンターに必要な設備の投資計画策定や場所の選定、構築・運用まで一気通貫で行いました。 新規事業に携わる前は、スマートフォンのH/W開発を担当していたので、データセンターについては全くの未経験でした。 さらにデータセンターの実務担当は社内で私のみだったこともあり、短い期間でアリババクラウド本社や、データセンター事業者との折衝が必要で、とても苦労した記憶があります。 特にアリババクラウド本社とは、英語でディスカッションを重ねるタフさも必要で、ハードな毎日でした。

ーそれはとても貴重な経験ですね。お客さまサポートについてはいかがですか?

住吉:お客さまサポートに関しては、日本のマーケットに合わせた高品質のサポートを提供できるように体制、オペレーションの整備を行いました。 また、サービスの提供にあたっては、アリババクラウド社のオフィスがある北京に1カ月ほど滞在し、OJTを受けながら技術的なキャッチアップに取り組みました。研修もドキュメントも、基本的に中国語や英語でしたので、キャッチアップにはとても苦労しましたね。

当時はスケジュールがタイトでしたし、メンバーが少なかったこともありますので、全てを完璧にこなすというのは難しい状況でした。そのため、取りこぼしている仕事があれば領域に関係なく担当し、各人が助け合いながらローンチに向けて全力で取り組んでいました。結果的に幅広く業務に携わることができたのは、非常に良い経験になったと感じています。

ーマーケティング戦略の策定や、プロダクトのローカライズ作業というお話がありましたが、どのように進めていましたか?

Sarr:アリババクラウド本社からただ指示を受けてローカライズするのではなく、SBクラウドで日本のマーケットを分析しながら優先順位を決めて行いました。 ソフトバンクとアリババグループの共同出資だからこそ、日本のマーケットに寄り添ったサービスは何かを考え、提供する、ということを事業開始当初からずっと意識して取り組んでいます。

日本ー中国間のネットワーク接続をセキュアかつ快適に

ーそして、サービスを提供開始から約半年後、2017年7月に日本ー中国間の閉域網接続を提供する「Express Connect」をローンチしましたね。

Sarr:はい、Alibaba Cloud立ち上げ当初は、まだ国際サイトでも販売していなかったサービスです。しかし、日本のお客さまに必ずニーズがあると判断し、アリババクラウド本社に強く要求し、提供開始に至りました。 短い準備期間で、技術的な使用の確認や、契約プロセスの整備なども含め、ローンチにあたっての膨大なタスクを行いました。7月に無事提供開始できたときは、かなり達成感がありましたね。

住吉:ソフトバンクのSmartVPNというVPNサービスと組み合わせてお客さまにご提供することで、お客さま拠点からAlibaba CloudのVPCとの間を閉域接続できるようになりました。より高速かつセキュアに利用できるネットワーク環境が構築できるため、企業様のニーズも徐々に増え、AlibabaCloudをご利用いただくお客様が増えてきた時期でもあります。

日本からの声が本社を動かし、グローバルのプロジェクトに発展

ーExpress Connect提供後、2018年頃はどのような取り組みをされていましたか。

Sarr:日本のお客さまと日々向き合う中で、本来はクラウド技術で解決できるはずなのに、Alibaba Cloudに最適なプロダクトが無いためお客さまの課題を解決することができない、という葛藤を抱くことが多くなりました。 ※中国向けサービス「阿里云」では展開されているプロダクトが、日本や他のリージョンでは展開されていないケースが多かった。

そこで私はアリババクラウド本社へ直談判することを思いつきました。

日本のクラウド市場や、お客様の声、SBクラウドやソフトバンクが持っているクラウド技術の知見などを100ページ超にまとめた資料を作成し、杭州市にあるアリババクラウドの本社へ向かいました。技術部門の幹部に向けてプレゼンテーションを行い、SBクラウドのAlibaba Cloudにかける熱い思いを伝えたのです。 彼らも我々の思いを真摯に受け止めてくれ、その場で前向きな回答をもらうことができました。その後、中国国内でのみ展開されていたプロダクトを日本に限らずグローバルにローンチしていくという、アリババクラウド社内の大規模プロジェクトにまで発展しました。

ー例えば、どのようなプロダクトが挙げられますか?

住吉:Alibaba Cloudの強みである、データ分析領域でのプロダクトとして、Max ComputeやDataVもこの時期にリリースしました。IaaS系のプロダクトだけでなく、SaaS/PaaS系の上位レイヤーのプロダクトを日本に展開できたことで、お客さまのご評価をいただくことができました。

ーAlibaba Cloudはなぜデータ分析に強みを持っているのでしょう。

Sarr:Alibaba Cloudには、自社のECプラットフォームが成長していく過程で、課題発見とそれを解決するためのサービスの開発を繰り返してきた歴史があります。 中国の人口は14億人以上で、GDPはアメリカに次ぐ2位。世界時価総額ランキングで上位に入る企業も増えています。世界のビジネスをリードするマーケットでは当然、通信量も多くなるでしょう。つまり、膨大なデータをもたらす収集・処理し、価値のある分析・マネジメントが必要となります。AlibabaCloudは、極めて質の高いクラウドサービスが求められる環境の中で成長してきたため、データ分析のプロダクトが充実しているのです。

〈Alibaba Cloudによるデータ分析の背景〉

ーその後、データ分析の強みを活かし、AIを活用したプロダクトもでてくるんですよね。

Sarr:はい、初めてのAIを活用したプロダクト「Image Search」を2018年10月に提供開始しました。

「Image Search」はアリババグループのサービスでも利用されている画像検索エンジンです。ニトリホールディングス様の公式スマートフォンアプリに、撮影した写真などから同一または類似する商品を検索できる商品画像検索機能を導入いただきました。

検索エンジンは、いかに多くの教師データを用意して学習させるかがポイントになりますが、「Image Search」は、アリババグループの巨大ECモールで扱われる大量の商品画像を毎日学習しているモデルをもとにしているため、非常に精度が高く、ニトリホールディングス様からも「実際に他社の画像検索エンジンも含めて事前にテストしたが、Image Searchが一番」とコメントをいただくことができました。

〈ECサイトとアプリのファーストビューに検索窓を設置し、画像検索の機能を実装〉

ー他にも他社パブリッククラウドと比較し、Alibaba Cloudが強みをもつプロダクトはありますか?

住吉:この時期に、専用線を利用した高機密・低遅延の帯域確保型閉域ネットワークサービスである「Cloud Enterprise Network(CEN)」をはじめとしたネットワーク領域のサービス提供も開始しました。

これにより、日本ー中国間の接続で頻発する「通信が遅い」「通信が途切れる」「コストが高い」などの課題を改善できるようになりました。 セキュアな環境で通信遅延の影響を最小に抑えながら、お客さまの中国拠点側のネットワーク構築・ルーター保守もまとめてサポートできるため、現在でも多くの企業さまに導入頂いています。

〈日本-中国間をセキュアな閉域網で接続〉 〈日本-中国間をセキュアな閉域網で接続〉

Sarr:ネットワークの他にも、アリババグループの経験・知見が込められたセキュリティプロダクトの提供も開始しました。

Alibaba Cloudのセキュリティ製品は、マルチクラウドを前提に設計されており、世界の主要なクラウドサービス、国内クラウド、オンプレミスおよびクライアントに対して、総合的なマルチレイヤー型のセキュリティを提供しています。

〈マルチクラウドを一元管理できるセキュリティプロダクト〉

Sarr:このように、アリババクラウド本社と連携し、データ分析、AI、ネットワーク、セキュリティなど、様々な領域のプロダクトをローンチし、お客さまにご利用いただけるようになりました。

アベイラビリティゾーン増設

ーグローバルプロジェクトでのプロダクト量産後、2019年にアベイラビリティゾーンの増設を行なっていますね。

李:はい、日本展開開始時より、冗長化で高可用性を担保するためにアベイラビリティゾーンの増設は視野に入れていました。1年ほど前から本格的に議論を開始し、2019年に立ち上げに至りました。

ー増設にあたり、大変だったことはありますか?

李:日本展開開始時は、私が実務担当としては1名で行なっていたのですが、この時には社員も増えており、5〜6名のチームで行いました。 しかし、これまでの経緯を全て把握しているのは私のみでしたので、まず最初にチームメンバーへ説明する必要がありました。このような実務以外の部分含めたチームビルディングからだったので、チームで動く難しさや大変さを感じたプロジェクトでもありました。 ただ、苦労も大変なこともたくさんありましたが、今では良い経験となっています。特にクラウドの裏側を知れたことや、メンバーへのケア、プロジェクトマネジメントスキルが、今の事業開発の仕事にも活かすことができています。そして、仕事を通して、非常に貴重な経験をさせてもらったと感謝しています。

インテグレーション・サポートサービスの提供

ーその後2019年10月に、「プロフェッショナルサービス」「テクニカルサポートサービス」の2つの有償サービスが立ち上がりました。 プロフェッショナルサービスは、お客さまの技術課題の解決のため、システム導入の計画立案・事前検証から構築・導入までを、各分野のプロフェッショナルがサポートするサービスです。

〈システムライフサイクルと提供可能なサービス〉

ー住吉さんはテクニカルサポートサービスの立ち上げに携われたとのことですが、詳しく教えて頂けますか。

住吉:テクニカルサポートサービスは、Alibaba Cloudのプロダクトの機能や仕様、使い方、アカウントや料金に関するお問合せに対応するサービスです。 日本展開にあたりローンチしたサポートサービスは無償で提供していることもあり、サービスの提供範囲や内容は限定的なものでした。サービスを進めていく中で、応答時間の短縮、お客様環境を考慮した対応、チケット形式以外のコミュニケーション手段などのご要望をお客さまからいただくようになりました。これらのお客さまの声を受けて、有償のサービスを企画、立ち上げることになりました。

ーサービスをローンチするにあたり、大変だったことはありますか?

住吉:特に苦労したのは、お客さまにご納得いただける価格設定やサービスメニュー開発などサービス設計やそのスキーム作りです。頂いているご要望をサービスとしてどのように落とし込むか、それを実現するために、既に構築していた体制との連携、オペレーションをどのように対応させるかなど、チャレンジングな点が多々ありました。 現在は多くの企業さまにご利用いただいており、実際にお客さまから「仕様面の課題が迅速に解消できた」「提案されたアプローチで上手く構築できた」などのお声をいただいた時は、お客様の課題が解決したことに安堵するとともに、非常にやりがいを感じます。

ー2020年にはMSPサービス(監視・運用代行)が立ち上がっていますね。

住吉:「プロフェッショナルサービス」「テクニカルサポートサービス」によりSBクラウドのエンジニアリングサービスの提供範囲は拡大しましたが、監視・運用領域のサービスは含まれていませんでしたので、クラウド導入に対するお客さまのご要望をカバーしきれないという課題がありました。 そこで2020年10月に、MSPサービス(監視・運用代行)を立ち上げました。これにより、お客様のクラウド活用に対し、当社として「企画・提案」「構築・導入」「監視・運用」「技術ガイド」までワンストップでご支援できるようになりました。

〈クラウド活用を一気通貫でサポート可能に〉 〈クラウド活用を一気通貫でサポート可能に〉

最後に

ーここまで4年間の歩みを振り返ってきました。最後に、SBクラウドとして、今後の展望を教えて下さい。

Sarr:Alibaba Cloudのプロダクトに付加価値を追加し、より一層「お客さまのビジネスを加速させられる、バリューのあるサービス」を提供していきたいと考えています。ようやくそのためのサービスが揃ってきたと思っています。

Alibaba Cloudの高性能なプロダクトを提案・提供することはもちろんですが、SBクラウドの強みである高いエンジニアリング力を活かし、2019年より注力して取り組んでいるプロフェッショナルサービス、テクニカルサポートサービス、そして2020年より提供を開始したMSP(監視・運用)サービスなどを強化していきたいと考えています。

ノウハウやリソース、人材不足でお困りの日本企業様が、テクノロジーを活用し、ビジネスを成長させる手助けができるよう、これからも技術力、サービス力を磨いていきたいと思います。

ー日本展開開始から4年間の歩みがとても良く分かりました。本日はありがとうございました!

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