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2020年11月17日掲載
2020年9月16日、アリババグループは新たな製造モデルである「ニュー・マニュファクチャリング」を初めて採用したデジタル工場「迅犀(シュンシー)デジタル工場」(Xunxi Digital Factory、以下シュンシー)を発表しました。今回は、このシュンシーデジタル工場について解説したいと思います。
シュンシーデジタル工場は、アリババの強みを生かした製造モデル「メイド・イン・クラウド」と「ファッションをオンデマンド生産で(Enable on-demand fashion production)」をモットーに、中小企業が急速に変化するファッション市場で競争力を維持するのをサポートするソリューションを提供していきます。
ビジネスモデルとしては、クラウドコンピューティングサービス「Alibaba Cloud」と同じく「デジタル・マニュファクチャリング・インフラ」をめざしています。
シュンシーデジタル工場は、アリババグループ傘下の「犀牛智造(シーニュージーザオ)」が持つ工場です。アリババの製品やサービスは、よく動物の名称を利用するので「アリババ動物園(阿里動物園)」とも呼ばれています。今回の「犀牛(サイ)」は、アリババ動物園の一員として、デジタル工場の担い手になると考えられます。
アリババは、淘宝(Taobao)および天猫(Tmall)の膨大なデータを武器とした商品のトレンド・販売予測モデルと、独自の人工知能支援型の統合生産設計基盤によって、顧客の嗜好を把握することが可能です。アリババグループ傘下、Xunxi Digital Technology CompanyのCEOアラン・ウーは以下のように述べています。
「データはニュー・マニュファクチャリングの中核であり、データインサイトを活用することは、大量生産品からパーソナライズされた商品へと移る消費者の嗜好の変化の中で、新たな機会を獲得するための鍵となります。ニュー・マニュファクチャリングは、データドリブンのインテリジェンスとテクノロジー提供を通じて、従来型の製造業者を変革し、リアルタイムの需要に基づき製造できる、より俊敏なモデルに移行することができます。これにより、利益拡大と在庫管理を図りながらパーソナライズされた消費者のニーズにも対応できるようになります。」(Alibaba Newsより)
シュンシーデジタル工場は、「メイド・イン・クラウド」及び「オンデマンド生産」の理念のもとで、デジタル化ベースのデマンド・ドリブン・マニュファクチャリングを実現しようとします。そのために、需要分析ブレイン、デジタル化プロセス、自律的スケジューリング、オンデマンド供給網、柔軟的な生産態勢などを生かして、データ分析に基づいたフレキシブルな生産を実現する仕組みを採用しています。
以下にシュンシーデジタル工場の5つの強みを紹介します。
シュンシーデジタル工場は、中国のアパレル業界では「クラウドとエッジの一体化技術フレームワークを実現した初めてのデジタル工場」だと言われています。
シュンシーデジタル工場は2020年10月に発表されましたが、最初の理念は2016年に遡ることができます。それは、2016年10月にアリババ創業者のジャック・マー氏が発表した「五新戦略」(Five News Strategy:ニュー・リテール、ニュー・マニュファクチャリング、ニュー・ファイナンス、ニュー・テクノロジー、ニュー・エネルギー)です。
そのうち、製造業においては、データとインテリジェンスをエンジンとして新しい製造モデル「ニュー・マニュファクチャリング」を創り出そうとしています。
2017年に、アリババは、デジタル工場の建設に着手し、2020年9月に杭州の工場を公開しました。3年間にわたり秘密裏に建設と生産を進め、試行錯誤を繰り返した結果、「シュンシーデジタル工場」として本格稼働し始めました。そして10月に宿州の工場も公開し、各地域に展開する勢いが見えます。
シュンシーデジタル工場は、ニュー・マニュファクチャリング戦略の一環としてアイデアをもとに具現化されました。現在は200社以上のアパレル業界の中小企業に、このデジタル化生産能力を提供しています。
アリババは、アパレル業界にフォーカスしてデジタル化生産を進めてきました。では、なぜ最初にアパレルに焦点を当てたのでしょうか。その理由について、いくつか考えてみましょう。
つまりアリババにとって恩恵を受けやすく、そして優位性を持つアパレル産業は、自社の競争力と売り上げに直結するための近道だとわかります。アリババはファッションの製造と販売のプラットフォームを提供することによって、ビジネス基盤をより一層強化するのではないかと言われています。
シュンシーデジタル工場は公開されたばかりの工場ですが、3年間にわたり試行錯誤を繰り返した末に出てきた革新的な結果が、既に認められています。
2020年9月14日に開催された世界経済フォーラム(World Economic Forum)では、第4次産業革命技術を大規模に採用することに成功した世界有数企業のコミュニティー「グローバル・ライトハウス・ネットワーク(Global Lighthouse Network)」は、シュンシーデジタル工場を「ライトハウス」として認定しました。今年10社が認定されており、今では計54社が認定されています。
世界経済フォーラムの報告書には、シュンシーのトップユースケースについて「市場インサイトと需要予測」、「人工知能を生かした製品のデザインとテスト」、「高度な分析によって最適化された生産計画」、「エンドツーエンド社内自動的ロジスティック」、「デジタル化したフレキシブルな生産」などが挙げられています。そして以下のようにコメントされています。
「強力なデジタル技術と消費者の洞察を組み合わせることで、アリババのパイロットであるシュンシー工場は完全にデジタル化された新しい製造モデルを創り出した。消費者のニーズに合わせてエンドツーエンドのオンデマンド生産を可能にし、配送時間を75%短縮し、在庫を30%削減し、さらに水消費量を50%削減することにより、中小企業はペースの速いファッションおよびアパレル市場で競争力を持たすことができるようになる。」(世界経済フォーラムの報告書より)
シュンシーデジタル工場は新しい製造モデルとして生まれたばかりですが、その新しい発想と仕組みは、製造業に刺激と変革をこれからももたらしていくでしょう。「メイド・イン・クラウド」、「クラウドとエッジの一体化」、「オンデマンド生産」などを融合しつつ、アパレル業界だけではなく、他の業界にも少しずつチャレンジしていくのではないかと考えられています。今後も、シュンシーデジタル工場の動向を注視していきたいと思います。
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