Citrixベースのアフターコロナ・ワークスペースElastic Desktop Service

2021年12月27日掲載

2021年9月にCloud Elastic Desktop(以下、EDS)が東京リージョンでもローンチされました。日本を含むグローバルユーザ向けには、Alibaba Cloud国際サイトで提供されています。

EDSは、高品位の仮想デスクトップ向けエクスペリエンス技術であるCitrix HDXを採用する高機能な本格的なDaaS(Desktop as a Service)です。仮想デスクトップ接続に利用するクライアントアプリケーションの操作性で高評価を得ています。

目次

Alibaba Cloud Workspaceクライアント Alibaba Cloud Workspaceクライアント

各社から仮想デスクトップサービスがリリースされる中で、EDSの特長的なポジションと言えるのは、充実したコンソール機能にあります。Azure Virtual Desktopやオンプレミス、クラウド基盤上でCitrix Virtual Desktop等のコントロールプレーン製品によりVDIを構築するのとは異なり、SIer等のエンジニアリングサービスによる導入支援に頼ることなく情報システム管理者で導入、運用できるサービス内容に仕上がっています。

具体的には、Microsoft Windows 365 Enterpriseでは利用の前提となるAzure ADやMicrosoft 365のような周辺サービスの構築作業や専門知識がEDSではほとんど必要なく、短時間で利用開始が可能です。また、従量課金で利用できるためAWS Workspacesよりも低価格に抑えることができ、より使いやすいクライアント機能やCitrixベースの充実した仮想デスクトップ機能を提供しています。

日本国内でも各企業はワークスタイルの見直しに着手しています。コロナ禍で緊急で導入したテレワーク環境のコスト面を見直し、オフィスとリモートのハイブリッドな働き方に最適化しようという企業が増えています。また、より多くの利用シーンにテレワークを適用することで競争力を強化しようという動きも加速しています。

今回は、こうしたテレワーク環境の次の一手を検討すべきタイミングで新たな仮想デスクトップの選択肢として登場したAlibaba Cloud Workspaceとして提供されるElastic Desktop Service(EDS)をご紹介したいと思います。

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ネイティブクライアント「Alibaba Cloud Workspace Client」

テレワーク環境の本格導入において、仮想デスクトップの導入で企業を悩ませたのは、ユーザが従来のPCへのログオン操作から、仮想デスクトップへ接続する操作に対応できないといったITリテラシーの問題がありました。EDSではCitrix HDXを採用し、クライアントもCitrix製のWorkspace appをベースにすることで、簡単な操作を実現。ネイティブに動作するクライアント「Alibaba Cloud Workspace Client」を提供しています。

インストーラはこちらのURL(https://www.alibabacloud.com/ja/product/cloud-desktop/download-client)にてダウンロードすることが可能です。日本国内のユーザ向けでは、WindowsおよびMacOS用が利用できますが現時点ではiOS用、Android用、Webクライアントは提供されていません。

 

ユーザは自分のWindows PCまたはMacにインストールしたクライアントをショートカットから起動することができIDとパスワードに加え、二段階二要素認証が利用できます。

仮想トークンによる二段階二要素認証に対応 仮想トークンによる二段階二要素認証に対応

具体的には、設定によりスマートフォンにインストールしたGoogle Authenticator等を利用したタイムベースワンタイムパスワード(TOTP)でセキュアにログインができます。

Google AuthenticatorによるTOTP Google AuthenticatorによるTOTP

ログインすると、管理者によってユーザに割り当てられた「クラウドデスクトップ」と呼ばれる仮想デスクトップが表示されます。ここではあらかじめ管理者が割り当てたvCPU 2コア メモリ4GBというコストパフォーマンスから利用されることが多いスペックの仮想デスクトップに接続してみます。「Start」ボタンを押すと約30秒でWindowsが起動します。

Start・Stopボタンで仮想デスクトップ起動・課金停止が可能 Start・Stopボタンで仮想デスクトップ起動・課金停止が可能

さらにRegisteringで約30秒経過するとRunningとなります。

起動後に「Connect」ボタンを押すと接続処理に約10秒、その後、Windowのログオンプロセスで約15秒経過するとWindowsの操作が可能になります。

なお、従量課金で作成した仮想デスクトップの場合、「Stop」を押すことで簡単に課金を停止できます。この際、Windowsの設定やユーザデータの保持のために占有しているSSD領域のみ課金が継続され、CPUやメモリは開放されて課金が停止します。

EDSは従量課金で利用することでWindows 365やAWS Workspaces等より安価に利用でき、ユーザがクライアントから簡単に課金停止できることが大きなメリットです。

Web通信の出口対策等のために閉域ネットワークでプロキシサーバを運用している企業向けに、プロキシサーバと認証に対応しています。HTTPプロキシ環境をサポートしない仮想デスクトップサービスが多い中、EDSはHTTPプロキシやSOCKSプロキシに対応しています。在宅環境等のインターネットからの接続の場合や社内からのWAN経由でのクラウド接続の場合、この設定は不要になります。

HTTPプロキシ設定が可能 HTTPプロキシ設定が可能

接続が完了すると、標準状態ではIntelプロセッサをPRしたデスクトップ画面が表示されます。

仮想デスクトップのデフォルト画面はIntelロゴ入り壁紙 仮想デスクトップのデフォルト画面はIntelロゴ入り壁紙

仮想デスクトップを作成する際に選択するスペックによって代わりますが、システム画面からIntel Xeon Platinum 8163 がアサインされており、Skylake世代の2.5GHzの24コアCPUを複数搭載するサーバ上で、仮想デスクトップが作成されていることが確認できます。

Intel Xeon Platinumプロセッサが稼働 Intel Xeon Platinumプロセッサが稼働

仮想デスクトップに対しては、ユーザアカウントはAdministrators権限を保持しているため、アプリケーションを追加インストールすることができます。壁紙には、Windowsのネットワークの設定変更等でのトラブル発生について注意するようお知らせが表示されています。Alibaba CloudもSDGsに取り組む企業の一つであり、温室効果ガスの削減のために業務終了時のシャットダウンを呼びかけています。

EDSのWindows環境は、Windows 10 LTSCの互換デスクトップとして構成されるWindows Server 2019となっています(2016も選択可)。Windows Server 2019とWindows 10 LTSCはアプリケーション互換性があります。また、操作性の観点でもデスクトップに最適化されています。日本国内ユーザ向けにはあらかじめ日本語化された状態で提供されます。WebブラウザのEdgeもすぐに利用できる状態であるため、必要なアプリケーションをインターネットからダウンロードしてセットアップすることが可能です。

Citrix HDXの高機能を活かした快適な仮想デスクトップ環境

EDSが採用するCitrix HDX採用のメリットはいくつかありますが、特に下記があげられます。

Webカメラデバイス利用するWeb会議 クリップボードの制御、USBデバイスの制御等のポリシー制御 動画視聴等グラフィック転送の圧縮と重複排除等による効率的な転送 GPU対応でCAD等3D描画に対応

Webカメラデバイスのサポートも良好です。下記の設定でも確認できるように、接続時にデバイスを検知して仮想デスクトップでWebカメラやマイクを利用できるように自動的に動作します。

デバイス接続設定 デバイス接続設定

実際にWebカメラを接続したWindows PCから仮想デスクトップに接続し、ZoomやGoogle Meetを利用してみます。視聴側から見ても遅延をほとんど感じず、FAT PCどうしのWeb会議に近い良好なエクスペリエンスが得られています。

Google MeetによるWebカメラ利用したWeb会議 Google MeetによるWebカメラ利用したWeb会議

Citrix製品が得意とするクリップボードの制御をはじめ、ローカルデバイスの仮想デスクトップ上へのマッピング可否やプリンタのリダイレクト制御もポリシーで制御できるため、データの持ち出し・持ち込みについて企業のポリシーに合わせた制御を徹底することができます。カメラ撮影等による情報持ち出しに備えた透かし(watermark)機能も備えています。

ポリシー設定 ポリシー設定

動画視聴についてはMicrosoft標準のRDPでも進化を遂げていますが、転送量の削減にHDXは大きな効果があります。たとえばWebページに組み込まれた小さな動画再生によって仮想デスクトップの転送トラフィックが増大することがよくありますが、HDXでは部分的な描画についても転送データが最適化されます。冗長なトラフィックによってインターネット出口やWAN回線の帯域が圧迫されることを防止します。

仮想デスクトップ単位のトラフィックもコンソールのモニタ機能で簡単に確認できます。下記はGoogle Meetで2ユーザがChromeを起動した際のウィンドウサイズのまま、Webカメラを利用して会議をしている際のトラフィックとなります。赤枠で囲まれている通り、1.5Mbpsを超えないトラフィックに抑制されていることが確認できます。

勿論、トラフィックは解像度に依存します。昨今ではテレワークのために在宅環境のモニタは大型化しています。たとえば普及価格帯のWQHD(2560x1400)のモニタサイズで最大化してWeb会議をおこなうと8Mbpsを超えるようなこともあります。これはEDSに限った話ではありませんが、トラフィックの観点では、Webカメラの映像を小さく表示した方が抑制にはつながります。

Google Meetのカメラトラフィック Google Meetのカメラトラフィック

具体的に東京リージョンの実環境で確認してみましょう。インターネット速度テストでも200Mbps近いダウンロード速度が得られ、在宅勤務において自宅の光回線を利用しているのと同じような感覚で通信ができていることが分かります。アップロード方向も50Mbps前後と比較的良好であり、Web会議の利用にも余裕があります。また、ストレージ等の他のクラウドサービスとの併用においても支障がないレベルの速度が得られています。

インターネット速度テストの結果 インターネット速度テストの結果

ディスクの性能については、PCユーザにはおなじみのCrystal Disk Markでベンチマークを取得します。

Crystal Disk Markによるベンチマーク結果 Crystal Disk Markによるベンチマーク結果
ディスクベンチマーク結果(テキスト出力) ディスクベンチマーク結果(テキスト出力)

ディスクに対するランダムのRead/Writeアクセスにおいては2000IOPS以上、おおむね2500IOPS前後を記録していることから、仮想デスクトップ用途としてはSSD搭載PCに近いような良好なディスクパフォーマンスを実現しています。たとえばMicrosoft Officeの各アプリケーションでは、OSの起動直後の初回起動ではおおむね5000IO程度となり、約3秒程度で起動します。エントリレベルのハードディスクを搭載した200IOPS程度のPCでは約25秒程度かかるため、EDSの仮想デスクトップ環境は、Windows起動後にすぐ各種アプリケーションを起動するような使い方にも適していることが確認できました。

EDSは仮想デスクトップが停止状態であれば、コンソールから簡単にCPU・メモリなどのスペックを変更することができます。普段は一般的な2コア4GBの仮想デスクトップを利用し、ハイスペックが求められる作業の時だけ、8コア16GBで利用するといった使い方も可能です。

オンデマンドのスペック変更が可能 オンデマンドのスペック変更が可能

さらにデュアルディスプレイにも対応しています。2つのモニタに仮想デスクトップのウィンドウをまたいだ状態で最大化をおこなうだけで、2つのモニタでローカルPCでのデュアルモニタ環境と同等の環境を実現できます。各ウィンドウはそれぞれのモニタ単位での最大化が可能です。表示をまたがらせることも可能です。

WQHDモニタ 2台利用のデュアルモニタ環境 WQHDモニタ 2台利用のデュアルモニタ環境

vGPU対応でCAD業務に対応

多様な利用シーンに対応するEDSの特筆すべき点として、nVidia製のGPUを搭載する仮想デスクトップが利用可能(vGPU機能)なことがあげられ、CADの利用でも良好なパフォーマンスを実現しています。GPU利用時も時間単位の従量課金に対応しています。24時間起動し続けることが考えにくいCAD業務においても、実際の利用時間だけが課金されるためリーズナブルに利用できます。

多くの企業では、GPU利用のために専用の高性能なPCを用意しています。また、サーバやストレージを購入し、GPU対応の専用の仮想デスクトップ環境を構築しているところもあります。EDSでは、こうしたプラットフォームの準備に係る機器や人件費が不要となります。

GPUを搭載し、東京リージョンで現在選択可能なデスクトップテンプレートは下記の通りです。

4vCPU メモリ23GB GPU 4GB 10vCPU メモリ45GB GPU 8GB 16vCPU メモリ62GB GPU 16GB 24vCPU メモリ93GB GPU 16GB

上位のスペックを利用することで、ハイエンドクラスのワークステーション性能の仮想デスクトップを従量課金で利用することができます。

GPU対応テンプレートを選択することでnVidia環境がセットアップ済でデプロイ GPU対応テンプレートを選択することでnVidia環境がセットアップ済でデプロイ

デバイスマネージャでnVidia Tesla T4が動作していることが確認できます。T4は2018年に発表された第2世代のTensorコアGPUですが、Alibaba Cloudによると、第3世代のTensorコアGPUも東京リージョンに準備中とのことです。今後、さらにGPU性能を向上した仮想デスクトップが利用できることが期待されます。

Windows環境はGPU利用環境がセットアップ済みであり、関連するnVidiaのツールは導入済みとなっています。このため、GPU関連のソフトウェアのセットアップ知識がほとんどなくとも、利用するアプリケーションのインストールだけで利用できます。

業種問わず最も人気があるAutodesk社のAutoCADでも、サンプルデータの表示などの操作を試行すると体感的にも良好に動作していることがわかります。

AutoCADのサンプルファイルを表示 AutoCADのサンプルファイルを表示

また、より高性能要求する建築業界向けの同社のBIMツールであるRevitについてもソフトウェア自体は問題なく動作します。ただし、EDSの開発元のAlibaba Cloudとしては、CADのユースケースについては、カタログ性能だけでは計れない使用感などを確認するために、一定期間のトライアルを経て導入することを推奨しています。その際も従量課金であることから最小のコスト負担でテストすることができます。

コロナ禍において、国内では製造業のテレワークが進まないとされていました。その一つの原因がGPU搭載の環境が物理的な理由で自宅に持ち帰ることが難しいことがあげられました。また、企業によってはコスト上の理由でCAD用のPCを共有して利用していることがありました。EDSでは、従量課金により低価格でGPU対応の占有Windows環境のテレワークを実現したり、個人単位の占有環境の構築を実現します。

Ubuntu Linuxデスクトップで開発者向け環境も提供

EDSでは、Ubuntu LinuxのGNOMEデスクトップにも対応しています。昨今では、Linux環境でソフトウェア開発やコンテナ型のアプリケーション開発をおこなうこともあるため、OA業務をおこなうPCとは別にLinux環境が求められることも多くあります。EDSでは、グラフィカルなログインに対応しているため、開発環境も一台にまとめることが可能です。

Linuxデスクトップ Linuxデスクトップ

昨今では、WindowsでもWSL(Windows Subsystem for Linux)等でLinux環境を稼働させることはできますが、グループウェア利用や秘密情報を扱うOA用Windows上のOS設定変更やソフトウェア導入は自由に認められていないことも多いと思います。OA環境とは別に開発専用環境を物理PCで用意するより、仮想デスクトップで必要な時だけ動作させることができます。

なお、EDSでは1台のPCから2つの仮想デスクトップ環境に接続することもできるため、WindowsデスクトップとLinuxデスクトップを同時に利用することも可能です。

SIerいらずのセルフサービス型の仮想デスクトップ

EDSは、仮想デスクトップの作成・管理やユーザアカウントの作成・管理が、Alibaba Cloudが提供するクラウドの管理コンソールで完結します。仮想デスクトップを実行するプラットフォーム構築などをSIerに委託する必要はなく、情報システム部門の担当者のみで完結することが可能となっています。

EDSの管理はクラウドコンソール内で完結 EDSの管理はクラウドコンソール内で完結

ソフトバンクでは、導入や運用フェーズに関わる契約や料金、あるいは技術的な相談を行いたいお客さまのために、テクニカルサポートサービスをご用意しています。

EDSの周辺で利用するファイルサーバ等周辺環境の構築、インターネットVPNや専用線による閉域ネットワーク接続において、エンジニアリングサービスを利用したい場合はプロフェッショナルサービスを提供しています。

また、EDSでMicrosoft Officeアプリケーション(Word/Excel/PowerPoint/Outlook等)を利用したい場合、SPLA(Services Provider License Agreement)を利用する必要があります。これについても月額利用ユーザ単位で追加することができるメニューを用意しています。

EDSを本格利用される場合で、ソフトバンクのこうしたサポートメニューの活用を検討いただければと思います。

コンソールが利用可能なEDS管理機能 機能一覧 コンソールが利用可能なEDS管理機能 機能一覧

また、仮想デスクトップの起動停止のスケジュール化についてはAlibaba Cloudで従来から利用できるスケジューラ機能である「Operation Orchestration Service(OOS)」、課金情報のレポートについては「料金(Expenses)」ボタンから「Billing Management」で参照することができます。

さまざまなユースケースに対応可能なEDSの柔軟性

中国国内では、EDSは影も形もないことを意味する「无影」という名称で展開されています。クラウドサービスには具体的な形もなく影もないとして、どこからでも軽くて利用できるクラウドコンピュータの意味を込めているそうです。

下記の中国ユーザ向けのWebクライアントでは、无影のロゴが確認できます。現在中国ユーザ向けの提供となっていますが、Chromeブラウザの翻訳機能等と併用すれば、日本国内のユーザも利用は可能です。

Webクライアント画面 Webクライアント画面

Webクライアント版もマルチディスプレイに対応しており、二つのブラウザウィンドウを利用することで、ローカルのデュアルモニタを活用することができます。

Webクライアントもマルチディスプレイに対応 Webクライアントもマルチディスプレイに対応

Alibaba Cloudの新しい仮想デスクトップサービスであるEDSについてご紹介しました。EDSは台数の増減は勿論、スペックの変更も自在です。さらには、GPUの有無も選択可能で、企業の多くの利用シーンにあわせて柔軟に構成することができます。また、実用的なクライアントによる従量基金の活用により、仮想デスクトップのコストを大きく削減することが可能です。

アフターコロナにおいては、企業の競争力を強化するために企業は多くのユースケースでテレワークやハイブリッドな働き方を実現していく必要があります。クラウド環境にワークスペースを構築することを支援するサービスとして、EDSは有力な選択肢になりそうです。

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