導入目的の設定と運用の最適化がロボット活用のカギを握る

導入目的の設定と運用の最適化がロボット活用のカギを握る

  • 外部の知見、技術を取り入れ、生産性向上に挑む
  • “AIロボット+テクノロジー”連携による細かい調整を実践
  • ロボットの役割を明確にし、正答率30%→80%を実現

激変する経営環境の下、多くの企業が、先端技術の活用による新ビジネス創出を迫られている。JR東日本では、新たな経営ビジョンの下、ソフトバンクの「Pepper」を使った駅構内でのAI案内ロボットの実証実験を実践。その内容と結果から見た、AI、ロボット技術の可能性とは。

外部の知見、技術を取り入れ、生産性向上に挑む

坂入 整 氏

東日本旅客鉄道株式会社
JR東日本研究開発センター
フロンティアサービス研究所
主幹研究員(データサイエンス)
課長

2018年5〜9月にかけて、東京駅構内「グランスタ」にある総合案内所の前で、案内業務を行うコンシェルジュとともに働く“彼”の姿があった。ヒト型ロボットでおなじみ、ソフトバンクの「Pepper」(ペッパー)だ。

東日本旅客鉄道株式会社(以下JR東日本)では、人口減少などの経営環境の変化を受け、2018年7月にグループ経営ビジョン「変革2027」を発表。「ヒトを起点とした価値・サービスの創造」への転換を推進しているが、その一環として行ったのが、PepperによるAI案内ロボット実用化に向けた実証実験だ。

社内の新サービス創造を担うフロンティアサービス研究所の坂入整氏は、その狙いとして「高齢化の進展によりお客さまへのご案内やサポートのニーズが高まる一方で、生産年齢人口の減少によりこれらを支える人材の確保が難しくなっていくことが想定されることから、サービスロボットなどの導入により課題の解決を図っていくことが目的の一つでした」と語る。

駅や商業施設といった環境音が多い状況下、利用者の質問を正確に理解し、回答できるための音声認識率、正答率向上に加え、技術を活用した案内業務の多言語化もミッションに、ソフトバンクとタッグを組んだプロジェクトがスタートする。

“AIロボット+テクノロジー”
連携による細かい調整を実践

菅澤 学 氏

東日本旅客鉄道株式会社
JR東日本研究開発センター
フロンティアサービス研究所
研究員(データサイエンス)

設置したのは東京駅構内の商業施設、グランスタ。法人向けモデル「Pepper for Biz」に「Google Cloud Platform」(以下Google)、「IBM Watson」(以下Watson)を連携。Pepperに質問をすると、Googleが音声をテキスト変換し、Watsonを活用して内容の解析と回答を行う。学習済みデータから最適解を選び、Pepperが発音して回答する。

Watsonに学習をさせておらず、回答できない質問は、利用者のボタン操作によりロボット遠隔操作システムが起動。オペレーターが出した回答をPepperが音声で答え、その履歴を学習に活用する仕組みも取り入れた。「回答できなかった質問は追加学習させ、Watsonの学習済みデータを拡張する仕組みを構築しました」。実証実験の運用を担当した同社の菅澤学氏はそう語る。

無論、最初からスムーズに事が運んだわけではない。そのため利用者とのやりとりの記録、現場でのマイクの使われ方など、デジタルとリアル両方の検証をし、利用者が実際に質問した話題の中で活用性が高いと期待できるものをWatsonに追加学習させるプロセスを繰り返した。「ソフトバンク様と一緒に細かなチューニングを実践できたことが大きかったですね」(菅澤氏)。

ロボットの役割を明確にし、正答率30%→80%を実現

こうして、終了時の音声認識率は90%まで改善し、結果正答率も約30%から80%までに向上。「コンシェルジュへのアンケートでは、単純な道案内の質問が減った印象があるといった声をいただきました。Pepperの1日の対応数、約130件という数値も、1人の案内係として評価に値すると思います」(坂入氏)。

また、成果を最大限に上げるには、導入目的を明確にし、設置場所にも気を配るべきだと2人は指摘する。

「総合案内所の地図前に設置したことが効果的な正答率向上につながったと分析しています」と菅澤氏。自然とPepperへの質問が道案内に集中し、学習機能も効率的に働いたという。

「ロボットの役割をクリアにしてこそ、人間にはないロボットならではの業務の均質性や正確性という長所も生きてくるのではないでしょうか」と坂入氏は指摘。蓄積したデータを可視化し、新たな業務改革、ビジネスへの可能性にも期待を寄せる。

同社では具体的な実用化に向け、次のフェーズの実証実験も予定。AI案内ロボットが置ける環境づくりを行っている。JR東日本をはじめ、人とロボットとの共存による新たな価値創造の動きも加速していきそうだ。

東京駅構内の商業施設「グランスタ」にある総合案内所、構内地図前に設置。制服を着た視覚的な訴求、Pepperが持つ親しみやすさ、知名度の高さもあり、若年層から年配者まで幅広く利用されたという

経営環境の変化を受け、Pepperは日々進化していく

本実証実験を技術面から伴走したソフトバンクの藤原真氏。「ロボット技術はまだ進化の余地が大きい。その点からも、お客さまによって異なる環境、ニーズに合わせ、適切な技術やパートナーとの連携により課題を解決していく姿勢を大事にしています」と語る。Pepperはただ置いておくだけでは本来の効果を発揮しない。「観察を重ねながら、成長させていく必要があります。私たちもお客さまの課題解決のソリューションとなり得るよう、Pepperをより進化させていきたいです」。

 

藤原真:ソフトバンク株式会社 法人事業統括SE本部 SE第三統括部 SE第三部 担当課長