孫正義が紹介する、世界のソフトバンク“AIファミリー” | SoftBank World 2019

孫正義が紹介する、世界のソフトバンク“AIファミリー” | SoftBank World 2019 基調講演
  • データと推論により人類は進化してきた
  • データ爆発時代、大量のデータの推論はAIがする
  • 世界中でゼロからAI革命を起こす起業家があらわれている
  • 日本はAI後進国になりつつある。人間の幸せのためのAI革命に目覚めるべきである

(2019年8月26日掲載)

SoftBank World 2019のDay1基調講演では、孫正義氏によってソフトバンク・ビジョン・ファンド出資先企業のCEOが紹介され、海外のAIを活用した産業の事例と日本企業の進むべき道について語られた。

今後30年で、データの量は100万倍に

「今後30年でデータの量は100万倍に」SoftBank World 2019 孫正義基調講演

孫氏は人間の歴史を振り返りながら、進化の源泉として2つの要因をあげた。

「人類はいろいろなことを推論しながら進化をしてきました。人間の『推論する力』は進化の最も大きな源泉だと、私は思います。そして推論する上で、欠かすことのできないのが『データ』です」(孫氏)

ダ・ヴィンチが空を自由に飛ぶ鳥を見て、飛行機の原型を着想したように、人間はデータとなる情報から推論することによって、進化を遂げた。

現在、進化の源泉となるデータはデジタルとなり、インターネットの発明とともに加速度的に増大している。

「今後30年で、データは爆発的に増加していくでしょう。ソフトバンクグループのArm社(事業内容:マイクロプロセッサーIP等のデザイン)によると、今後10年間で1兆個のIoTのためのチップが出荷されると予想されています。

これまで人とモノがつながっていたわけですが、これからはモノとモノが直接つながるようになる。そうなればさらに膨大なデータが行き交うようになります。

インターネットトラフィック

つまり、どう推論しても今後30年間でデータの量は100万倍に増える。我々グループのモバイル通信も、5Gにとどまらず、6G、7G…と、さらなるキャパシティを求め進化していくでしょう」(孫氏)

過去30年で増大したデータ流通量の総和は、IoTの登場により新たな地平へと向かう。データ爆発時代の到来だ。

推論は人間の手からAIへ

「その100万倍のデータは、もう人間が推論するのは不可能な量です。そのため、AIで推論するという世界になっていきます。これまで勘と経験と度胸に頼ってきた人間の意思決定に代わり、AIがデータにもとづいて推論するのです」(孫氏)

先ほど、人間の進化の源泉であると述べたデータと推論。これらがすでに人間のそれを超えつつあるのだという。孫氏はAIの需要予測の例をあげて説明した。

「推論は人間の手からAIへ」SoftBank World 2019 孫正義基調講演

「例えば、在庫の回転率。AIで特定の時間にどれくらいの注文が来るのか、予測することができます。AIで科学的に在庫の回転率をあげることができるのです。

中古車は通常60日間で次のオーナーに転売しますが、中国で中古車取引プラットフォームを展開する『Guazi』は15日で売ります。在庫が60日から15日になるということは経営効率が4倍になるということです。在庫の日数が短くなるほど、商品価値は守られ、運転資金もいらなくなり、会社の利益に直結します」(孫氏)

AIとユニコーンに特化した投資戦略

世界中でスタートアップ投資が加熱している。産業構造が根底から変わろうとしている今、大企業もまたスタートアップに目を向けはじめているが、その中でもソフトバンク・ビジョン・ファンドの動向は注目に値する。

「昨年、世界では約4,500社のベンチャーキャピタルが8.6兆円の資金を調達し、投資しました。ソフトバンク・ビジョン・ファンドだけで10兆円規模の資金力を持ち、AI革命に出資しています。

これは革新的なモデルだと思っています。

今までのベンチャーキャピタルがアーリーステージの企業に投資していたのに対して、ソフトバンク・ビジョン・ファンドはレイトステージの既にユニコーンになった企業に特化して投資しています。

ユニコーン企業ということは、その分野の世界No.1、少なくともその地域のNo.1です。AIに特化し、しかもNo.1だからこそシナジーを生み出しやすい。

こうしてファミリーを構成するのです。世界でも初めてのアプローチではないでしょうか。このファミリーの数が2年間で(パイプラインも含めて)82社になりました」(孫氏)

SoftBank Vision Fund 82社

ベンチャー投資は、企業の成長フェーズに応じて「シード」「シリーズA」「シリーズB」とわかれている。シリーズが上っていくにつれて投資金額もあがる。多くのベンチャーキャピタルは大量の初期フェーズ企業に投資し、そのなかの数社でも上場すれば、投資金を回収できるという算段をする。

その確率は一般的に「千三つ(1,000社のうち3社)」と言われる。
一方でソフトバンクグループの投資は対象的だ。既に成長したブレイク寸前のAI企業に絞り、大胆かつ戦略的に投資する。

基調講演ではソフトバンク・ビジョン・ファンドから投資をうけた4社のユニコーン企業が壇上にあがり、プレゼンテーションを行った。

OYO - 6年で世界No.2になったホテル企業

Ritesh Agarwal OYO Founder & CEO

Ritesh Agarwal

OYO
Founder & CEO

OYO(オヨ)

2013年にRitesh Agarwalが19歳で創業したインド発ホテルベンチャー。「快適な居住空間の創造」をミッションに80ヵ国で110万室以上を提供する、客室数世界第2位のホテルブランド。小規模なホテルと提携し、OYOブランドと共に設備、オンライン予約サービス、経営用アプリ、人材の派遣・研修などを提供する。

OYO - 6年で世界No.2になったホテル企業

「現在、私たちは世界第2位のホテルチェーンになりました。歴史ある大手ホテルチェーンと比べ、6年しか歴史のないOYOがなぜ躍進をとげることができたのか。それには“秘伝のタレ”があります。

それは『アジリティ(俊敏性)』です。大手ホテルチェーンがフランチャイズ契約をする場合、6ヵ月から12ヵ月かかるのが一般的です。潜在的な稼働率やROIなどをコンサルタントに依頼して調査します。

しかし、OYOは数億のデータポイントを用いてリアルタイムでそれらの指標を予測し、5日間以内でフランチャイズ契約を締結することができます。これは大手ホテルチェーンの36倍の速さです。

そのためOYOは月に9万室をオープン、1日で3,000室をオープンしているということになります。

Ritesh Agarwal OYO Founder & CEO

また、OYOではどのような家具、内装であれば客室稼働率が上げられるか、AIを活用したデザインアルゴリズムで選択しています。

例えば、マリリン・モンローの写真を部屋に飾ると稼働率が2倍になるというユニークな結果も出ています。米・ダラス州のホテルでは清掃や照明、そしてインテリアデザインを変えることで、たった数週間で稼働率が18%から90%へと上がりました。

ホテルのオペレーションにおいては、客室清掃員のためにアプリを提供し、どの部屋を掃除すれば良いか、指示を出しています。それにより客室清掃員は2.5倍の生産性となり、給与を向上させることもできます。

そして、私たちはホテルの価格を1日に5,000万回、1秒あたり730回変更します。ホテルを検索しているユーザの場所や目的地など、さまざまなデータを用いて最適なホテルを最適な価格で提供できるようにしています。

我々はAIによってホテル運営における、契約、デザイン、オペレーション、価格などのベストソリューションを得ることができたのです」(Ritesh氏)

Grab – 東南アジアNo.1のSuperApp

Anthony Tan Grab Group CEO & Co-Founder

Anthony Tan

Grab
Group CEO & Co-Founder

Grab(グラブ)

2012年にマレーシアでスタートした東南アジア大手の配車アプリ。2019年現在、8ヵ国339都市でサービスを展開し、累計ダウンロード数は1億6,000万件以上。配車の利用回数は30億回超。フードデリバリー、フィンテックとサービスを広げ、移動、配達、決済と東南アジアの人々の生活全般を支えるアプリを展開。

Grab – 東南アジアNo.1のSuperApp

「私たちは毎日40テラバイトのデータを生成し、4ペタバイトのデータを保有しています。これらのデータとAIを活用して、ユーザに最適なサービスを提供しています。

天気や交通量、配車需要などのデータをリアルタイムで予測し、価格を決定。3分以内で車が到着し、最適なルートで目的地まで送り届けます。

目的地まで送り届けるだけではありません。ユーザが週末にヨガやフィットネスに通っているというデータがあれば、食の好みを予測して『このサラダはどうですか?』とフードデリバリーをレコメンデーションすることもできます。帰宅途中に注文していれば、家に着いたと同時にサラダが届きます。

Anthony Tan Grab Group CEO & Co-Founder

重要なのはAIでどのように世界の社会問題を解決するかです。例えば東南アジアの重大な社会問題である渋滞。自動車が信号と通信し、リアルタイムで渋滞緩和のための予測をする。1つの車に複数人で乗車する。そういったことで、渋滞を緩和できるようになります。

東南アジアでは食品の廃棄も問題になっていますが、私たちはユーザが何を食べたいのか予測できます。ユーザに適切な食事を届けることで、食品廃棄を削減することもできるのです。

また、Grabではドライバーに信用スコアをつけています。これにより、金融機関と取引できなかったようなドライバーもローンを組むことができるようになりました。これは、ドライバーの生活パターンや仕事の勤勉さを把握しているからこそできることです」(Anthony氏)

Paytm – PayPayのQR決済技術を提供

Vijay Shekhar Sharma Founder & CEO Paytm

Vijay Shekhar Sharma

Founder & CEO
Paytm

Paytm(ペイティーエム)

インド・デリーに拠点を置く、2010年創業の電子決済・電子商取引企業。PayPayでも使用されているQRコード決済技術を持ち、「Paytm payment gateway(モバイル決済)」「Paytm wallet(電子マネー)」「Paytm money(投資・資産運用)」「Paytm bank(モバイル銀行)」とさまざまな事業を展開。2018年の利用者数は4.08億人、取引額は400億ドル。

Paytm – PayPayのQR決済技術を提供

「孫さんとはじめてインドのデリーでお会いしてから、私たちのアプリの利用者は4年で2,000%、取引額は150倍に成長しています。

私たちはAIで1/1,000秒の間に1,000のルールを適用し、利用者と加盟店のセキュリティを保証しています。

ただし、決済は私たちのビジネスモデルのはじまりに過ぎません。

顧客を囲い込みたい、1人当たりの顧客の価値を上げたい、コストを削減したいなどの加盟店のニーズには、我々のキャッシュバックの仕組みを利用することができます。これはPayPayにも利用されている仕組みです。

小規模な店舗であっても、我々のテクノロジーを活用し、新しい決済手段を提示することで、新規の顧客を獲得することができるのです。

Vijay Shekhar Sharma Founder & CEO Paytm

日本では多くのクレジットカードが発行されていますが、生活者の財布に入るカードの枚数は限られており、すべての店舗がクレジットカードを利用できるわけでもありません。

しかし、これはリアルタイムクレジット決済で解決することができます。会計の際にPaytmが蓄積したデータを活用し、リアルタイムでローン審査を行います。店舗にとってどれぐらい優遇されるべきお客さまか判断し、クレジットカード会社ではなく店舗自体がローンのお金を信用貸ししてくれるのです。我々はこの仕組みにより数ヵ月でインド最大のクレジット会社(クレジットイシュア)になりました。

また、私たちは保険商品の提供や、資産運用のための金融商品の販売、そしてモバイル銀行も展開しています。資産運用サービスはローンチから100日で、銀行も1年で、国内最大となりました。

ソフトバンクと共に、世界で起こる革命を、PayPayを使って日本にもたらすことができ、嬉しく思っています。しかし、PayPayで行っていることは氷山の一角でしかありません。

これから我々が日本にもたらすもの。それは伝統的な銀行のあり方を変えるでしょう」(Vijay氏)

Plenty – データとAIで、美味しい栄養のある野菜を低価格で

Matt Barnard Plenty Co-founder and CEO

Matt Barnard

Plenty
Co-founder and CEO

Plenty(プレンティ)

米・カリフォルニア州に拠点を置く、2014年創業のアグリテックカンパニー。屋内農場に立てられた高さ6mのポールで農作物を栽培。データとAIを活用し、品種改良と栽培の管理を行うことで、栄養価が高く、美味しい野菜を低価格で提供する。

Plenty – データとAIで、美味しい栄養のある野菜を低価格で

「私たちは室内農園で、AIによる野菜の栽培をしています。土を使わない水耕栽培のため農薬や殺菌なども必要なく、AIで野菜の味や色、成長、栽培効率をコントロールすることができます。そして、野菜の収穫量も年々増加しています。

Plentyの農園は通常の5%未満の水で栽培が可能です。面積当たりの収穫性は屋外の農場に比べ最大350倍。また、人々が住む場所の近くで栽培することができるため、長距離の輸送を必要としません。

Matt Barnard Plenty Co-founder and CEO

Plentyの事業を拡大するためには、「美味しさ」「収率」「価格競争力」が重要です。私たちは大量のデータとAIにより、これを実現しています。

農作物開発のために160万のデータポイントを各プラントに設置し、AIをトレーニング。700種類以上の農作物のエネルギー効率、味、収穫性などを最適化しています。

また、農園管理システムはは30のコントロールパラメータで最適化を図り、AIで管理する1日当たりの栽培方式のレシピは400万通りもあります。さらに水や照明、空調の質、栄養などを調整することで野菜の味は変わっていきます。照明を変えるだけでも、味をスパイシーなものから甘く変えていくことだって可能なのです」(Matt氏)

AIで人間の仕事は進化していく

「AIで人間の仕事は進化していく」SoftBank World 2019 孫正義基調講演

ゼロからたった数年で成長を遂げた4社。過去に類を見ないほどのスピードの成長を支えたのは、紛れもなくAIである。

「彼らの話を聞いて思いませんか?日本はAI後進国になってしまったと。ついこの間まで日本は世界最先端の技術国でした。

なぜ日本の企業に投資しないのか?と、よく問われます。しかし、日本にはまだ世界のNo.1といえるAIのユニコーンがいない、投資したくてもなかなかそのチャンスがないというのが実態です。

まだAIの革命ははじまったばかりです。25年前にインターネット革命がはじまった当時、GoogleもFacebookも、Netflixもありませんでした。インターネット革命の5年、10年後に瞬く間に世界を席巻するインターネットカンパニーが生まれたわけです。そう思えば、今目覚めれば、手遅れではないでしょう」(孫氏)

AIを活用する意義について語る孫正義

最後に、孫正義氏はAIを活用する意義について語った。

AI革命が進むと人間は仕事を奪われ、存在意義がなくなるのではないかと考える人がいます。しかし決してそうではありません。何のためにAI革命をするのか。それは人間が幸せになるためです。

150年前、人々の職業の90%は農業でした。農業が機械化されて、農業従事者はアメリカで2%に、日本も5%を切りました。シンガポールは0%です。では90%の農業従事者は職を失ったのか。そうではなく、新しい仕事に人間は進化していったのです。我々は人間の幸せのためのAI革命を行わなくてはなりません。そしてそのチャンスが今、目の前にあるのです」(孫氏)

後記

今回登壇したのは、創業10年以内にもかかわらず、AIの力で成長を遂げた企業であり、彼らの存在自体がAIの可能性を代弁している。

AIが人々の生活をより豊かにする未来を信じて、ソフトバンクはこれからもAIによる産業革命を進めていく。

関連リンク

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