AIは敵じゃない。ビジネス革新のために今必要なこと|SoftBank World 2019

AIは敵じゃない。ビジネス革新のために今必要なこと|SoftBank World 2019

(2019年10月29日掲載)

「SoftBank World 2019」の基調講演で、ビジネスに変革をもたらすキーテクノロジーの1つとして挙げられたのがAIだ。企業の経営課題や社会問題の解決には、膨大なデータを分析し、新たな価値を生み出すAIの活用がもはや不可欠と言える。

本記事では、ソフトバンクのAI活用の最新事例がわかる講演を紹介するとともに、AIの活用によって経営危機を乗り越えた経験を持つ旭酒造の会長・桜井博志氏の講演をレポートする。

AIは、法人マーケットに何をもたらすのか?

吉田剛 ソフトバンク株式会社 法人事業統括 法人プロダクト&事業戦略本部 副本部長

吉田 剛

ソフトバンク株式会社
法人事業統括 法人プロダクト&事業戦略本部
副本部長

近年は人口の減少、経済成長の停滞などが社会課題となり、企業も変革を求められています。企業が経営課題を克服するためには、自分たちの現在地を知るとともに、変化を受け入れ、新しい時代に挑戦することが重要です。これから先、変化はAIを中核としたテクノロジーによってもたらされます。

例えば、コールセンターの入電数予測による運営の最適化や、コンビニの新規出店候補地の評価など、AIによってすでにビジネスが変化した事例は数多くあります。AIの導入により、人の思いつきや勘といった不確実なものから根拠のある予測へとビジネスが変わります。また、人の目から機械の目になり、属人的だった仕事を標準化することができ、AIチャットボットの導入によって1対nのコミュニケーションを生むことも可能です。さらには、個の知を集約して集合知に変えることができます。

AIを活用するには重要なことが4つあります。1つ目はデータを可視化し、事実を知ること。2つ目は、AI導入によってどんな課題が解決できるかを発掘すること。3つ目は、異なる得意分野を持つ企業が手を取り合うこと。そして、4つ目がAIを中核としたあらゆるテクノロジーを活用していくことです。

AIに重要な4つのこと

しかし現状は、企業が持つ課題はさまざまで、AI導入を検討する企業だけでAI活用を進めていくことはとても難しいようです。ソフトバンクでは、企業の改題解決支援とテクノロジーの活用を推進すべく、ビジネスパートナープログラム「ONE SHIP」をスタートさせました。「ONE SHIP」ではデベロップメント、インテグレーション、セールスの3つの枠組みでパートナーとなる企業を募っています。新しいビジネスを創出し、優れたIT商材をマーケットにいち早く浸透させパートナーと国内市場における「No.1連合」を実現することで企業と共に未来へと向かっていきたいと考えています。

OneShipの概要

AI・ビッグデータ活用と都市最適化マネジメントの紹介

松田慎一 ソフトバンク株式会社
テクノロジーユニット モバイル技術統括 IoT & AI技術本部 副本部長

松田 慎一

ソフトバンク株式会社
テクノロジーユニット モバイル技術統括 IoT & AI技術本部
副本部長
杉本伸之 パシフィックコンサルタンツ株式会社 社会イノベーション事業本部 交通政策部 都市マネジメント室長

杉本 伸之

パシフィックコンサルタンツ株式会社
社会イノベーション事業本部 交通政策部
都市マネジメント室 室長

データは目的に応じて分析されることで、初めて価値を生みます。この処理を行うのがAIです。ソフトバンクではAIを活用して顧客の課題を解決し、事業に貢献することを目指しています。

社内ではチャットボットの開発、モバイル通信事業におけるマーケティング施策などにAIを導入。また、顧客に対しては、IoT機器の接続の制御と上がってくるデータの蓄積、そしてそのデータをAIで解析するIoTプラットフォームを提供しています。

データ活用において、個人情報の取り扱いには細心の注意が必要です。ソフトバンクでは徹底したセキュリティと完全なプライバシー保護を実現し、キャリアのビッグデータを活用した統計情報サービスを提供しています。

流動人口ソリューション

このデータの活用例としては、商業施設周辺エリアのマーケティング調査、地方自治体の政策決定支援、災害対策などが挙げられます。

こうしたデータを価値に変え、社会課題の解決に生かしていくためにはパートナー企業との共創が欠かせません。

その1つがパシフィックコンサルタンツとの取り組みです。パシフィックコンサルタンツでは、ソフトバンクが提供するデータを元に都市全体の動きを人々の流れから捉えることで、都市本来の力を引き出す「都市最適化マネジメント」に取り組んでいます。

都市最適化マネジメント

データを活用してインフラの利用状況、混雑、事故などをモニタリング。どういった属性の人たちが、いつ、どのように街に訪れているのかが分かるようになることで、インフラの需要と供給をコントロールでき、インフラを賢く使うことが可能となります。また、大きなインフラ予算を使わずに費用対効果の高い都市のイノベーションにつなげられます。

これによってビッグデータに基づいた根拠のある都市計画を立てることができるとともに、将来的にIoT・AIの進化によりリアルタイムに施策効果を把握できるようになるため、全国の地域が考える都市づくりをより一層加速させることにつながります。

マイクロマーケットの決定版!スマートマルシェの戦略

弓削考史 ソフトバンク株式会社 クラウドエンジニアリング本部 IoTサービス統括部 IoTプロダクト推進部 部長

弓削 考史

ソフトバンク株式会社
クラウドエンジニアリング本部
IoTサービス統括部 IoTプロダクト推進部 部長

ソフトバンクでは、今後拡大すると言われるマイクロマーケット(小規模商圏)に向けた新サービス「スマートマルシェ」を提供しています。従来のオフィスコンビニやコンビニ自販機にIoTを絡め、オフィス内で無人で商品を提供できるサービスです。

特長は大きく3つあります。1つ目は設置企業に初期費用や運用費用の負担がない点。2つ目は、現金不要でPayPayや交通系電子マネーによるキャッシュレス決済に対応している点。3つ目は、固定の金額に縛られないため、自由で多彩な商品陳列ができる点です。

これまでのオフィスコンビ二では現金管理の都合から100円均一などになりがちでしたが、キャッシュレス決済に対応した「スマートマルシェ」では幅広い価格の商品を展開できます。さらに、リアルタイムで在庫管理も可能で、在庫状況に応じてベンダが商品を補充するため、設置企業の負担なく、従業員満足度を高めることができるのです。

「スマートマルシェ」のメインターゲットはオフィスビルですが、ホテルや病院、マンションの共有部、工場などにも今後サービス拡大を目指していく考えです。

「スマートマルシェ」はパートナー企業とのコラボレーションを実施するプラットフォームでもあります。パートナー企業の新商品を陳列して購入情報を分析するといったテストマーケティングにも活用できます。

スマートマルシェが新商品のマーケティングに貢献

今後はAIを取り入れて発注の自動化、在庫配置最適化などの機能を付加し、マイクロマーケットにおけるサプライチェーンマネジメントを実現していきます。これにより将来的にはダイナミックプライシング、売れ筋セレクトなども可能になるでしょう。

スマートマルシェの機能サービスと展望

我々が目指しているのは企業の福利厚生サービスとしてだけでなく、「スマートマルシェ」を通して新たなデータビジネスを創造することです。

利用者に笑顔を届ける仕組みを提供するとともに、パートナー企業とのコラボレーションに積極的に取り組んでいきたいと考えています。

顔認証をはじめとした画像認識技術とそのビジネス活用

Andrew Schwabecher 日本コンピュータビジョン株式会社 取締役社長 兼 CEO

Andrew Schwabecher

日本コンピュータビジョン株式会社
取締役社長 兼 CEO
本島 昌幸 日本コンピュータビジョン株式会社 事業本部 本部長

本島 昌幸

日本コンピュータビジョン株式会社
事業本部 本部長
鳥海 哲史 株式会社フューチャースタンダード 代表取締役

鳥海 哲史 ※ゲスト

株式会社フューチャースタンダード
代表取締役

日本コンピュータビジョン(以下JCV)はAI画像認識技術を活用したソリューションを提供する企業です。テクノロジーパートナーとして、香港に本社を置く世界最高レベルの技術とデータを持つAI企業・センスタイム社と提携しています。

近年、ディープラーニングの登場によってAI画像認識技術は飛躍的に進化しました。画像センサは高解像度化し、2025年には人間の目と同等の500メガピクセルを超えると言われています。それに伴い、IPカメラの市場も広がり続けています。

AIは今後ますます社会と密接に関わり、私たちの生活に欠かせないものになるでしょう。例えば、店舗でカメラの映像から顧客を認識し、行動や表情などのデータを分析。これを元に店舗は最高のサービスを提供することができます。

センスタイム社はAI画像認識に関する研究で世界有数の実績を持つ企業です。すでにアジアでは同社のAI画像認識技術の運用が進んでいます。

上海随一の観光エリアである外灘では9.4㎢に185台のカメラを設置し、エリアごとの混雑分析や立ち入り制限エリアの監視に活用。シンガポールでは3階建てのショッピングモールに64台のカメラを設置し、顧客の属性推定や人流分析などを行っています。

JCVは、こうしたすでに実証済みのモデルを使ったソリューションを日本でも展開していきます。センスタイム社から技術ライセンス提供を受け、JCVが日本向けサービスを開発し、運用します。

まずは、受付や入退室管理などのビルディングアクセスソリューション、勤怠管理や会議室管理などのワークソリューション、店内の導線分析や顧客の属性分析などのリテールソリューションの3つにフォーカスし、サービス提供を進めていきます。

日本コンピュータビジョン リテールソリューション

ピンチはチャンス!
~逆境経営を乗り越え、辿り着いた世界の「獺祭」とは~

桜井博志 旭酒造株式会社 会長

桜井 博志

旭酒造株式会社
会長

我々の酒蔵はこの30年間で100倍以上の成長を遂げました。なぜできたのか。社会は変わり続けていて、私たちはその変化に対応できたからだと思います。

旭酒造の酒蔵

我々の酒蔵は山口県岩国市にあります。過疎が進む地域で、酒造りの現場では以前から人手不足が課題になっていました。将来的な「獺祭」の安定供給・品質維持のため、我々が取った手段はAIの活用でした。杜氏(酒造の最高責任者)は経験と勘がすべて。つまり、優れた杜氏は膨大な酒造りのデータを蓄積しているということです。そこで、我々は酒造りを安定させるために、酒造りの工程を徹底的にデータ化し、AI予測モデルを活用して最適解を見つけ、杜氏抜きの、社員だけで酒造りを行うスタイルを確立しました。

原材料は「山田錦」しか使いません。山口県は米所ではないため、主産地である兵庫県から購入しています。供給量を安定させるために、酒造り同様、さまざまな挑戦をしました。例えば、米作りをデータ化し、分析することで収穫量を増やす取り組みです。酒造りほどうまくいきませんでしたが、結果として旭酒造で1年に使用する約17万6000俵もの購入ルートを確保しました。

旭酒造では米作りをデータ化し分析することで収穫量を増やす取り組みも実施

こうした改革ができたのは、我々が業界の負け組だったからです。今までのやり方を変えなければジリ貧の道しかありませんでした。日本酒は日本の歴史と文化によって出来上がってきた酒です。それゆえ、我々は伝統の手法に固執することなく、変わることこそが日本酒の伝統だと考えています。

近年もフランスで本当にいい酒を紹介するために、"フレンチの神様"と呼ばれるジョエル・ロブション氏と「獺祭」がコラボした「獺祭・ジョエル・ロブション」というレストランを出店したり、ニューヨーク北部に酒蔵を造ったりなど、新たな挑戦をしています。お客さまに最高の酒を届けるために何をすべきか。変わっていく社会の中で、我々はこれからも変わり続けていかなければならないのです。

後記

「AIは人の仕事を奪う」。かつてそんな風に言われたこともあったが、今回の講演でよく聞かれたのは「AIをパートナーとして活用することで新たな価値創出につながる」という声だ。データを集めただけ、AIを導入しただけで終わりにするのではなく、そこから得られた結果から解決すべき課題を見つけることが企業には求められる。新たな可能性を考えることは人にしかできない。AIはそのための心強い味方になるはずだ。

関連リンク

SoftBank World 2019

SoftBank World 2019の孫正義・宮内謙の基調講演をはじめとした講演動画・講演資料をアーカイブ配信しています