みずほ銀行の生き残りをかけた「攻めのコスト削減」。実績重視で選んだ「モバイル通信」とは!?

2019年12月23日掲載

銀行が大転換期を迎えている。収益力改善のためには、新規ビジネスの創出とコスト削減が急務。みずほフィナンシャルグループでは、人件費の見直しや店舗の統廃合といった大々的なコスト削減を図る一方、利用者の目には映らない部分でのコスト削減も進めている。

その1つが、通信コストだ。みずほ銀行では、ATMの通信コストを削減するため、ソフトバンクが提供する法人向けモバイルネットワークサービス「Twin(ツイン)アクセス」を採用。順次全国のATMで切り替えを進めている。

「Twinアクセス」によって具体的にどのような変化がもたらされたのか。プロジェクトに関わったみずほ銀行の吉川俊之氏、みずほ情報総研の熊澤由希子氏、システムインテグレーターの日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)の春間卓氏、ソフトバンクの福田俊司氏に話を聞いた。

合理化しなければ、生き残れない

銀行を取り巻く環境は年々厳しさを増している。長引く超低金利によって、利ザヤを得るという従来の銀行のビジネスモデルは鈍化し、収益力の低下につながっている。また、少子高齢化による人口減少、地域経済の減速、異業種からのフィンテック参入などによって銀行の店舗に来店する人の数も減少。まさに今、銀行の存在意義が問われている時代と言える。

こうした状況について、みずほ銀行の吉川氏は、「銀行経営は合理化、効率化を進めていかなければいけない」と危機感をあらわにする。

みずほフィナンシャルグループでは2026年度末までに1万9000人の人員削減を進めているほか、店舗の統廃合を進めるなど、コスト削減に取り組んでいる。一方で、近年では個人向けレンディングサービスを提供する「J.Score(ジェイスコア)」といった新しいフィンテック領域への投資にも力を注ぐ。

「これから伸びていく可能性のある新規事業には積極的に投資する。そのためにも、負のレガシーとなっている部分は大幅に見直していくことが必要だと考えています」(みずほ銀行・吉川氏)

では、人件費、店舗維持の費用のほかに、どんな負のレガシーを銀行は抱えているのだろうか。

成長の足かせになっていた通信コスト

銀行業務で発生する固定費の1つが、通信インフラのコストだ。店舗業務におけるシステムの利用はもちろんのこと、各地に点在するATMが回線で常時つながっている。利用者がいつでも預金を自由に引き出すことができるのは、この通信インフラが整っているからこそだ。

これまでみずほ銀行のATMでは、回線速度はそこまで早くないが通信品質が安定し、費用も抑えられるメタル回線を利用してきた。

しかし、近年は一般家庭や企業などでより速度が速い光回線への乗り換えが進み、利用者全体で設備維持のコストをまかなう仕組みのメタル回線の利用料金は年々上昇。通信コストが膨らみ続けていた。さらに、メタル回線が2024年1月に終了することもあり、通信回線の切り替えが急務だったのだ。

代替する通信回線に求められる条件のハードルは高かった。

「ATMは決済を行う社会的なインフラです。万一、通信が途絶えてしまうと、ATMでの預金の出し入れができなくなり、お客さまにご迷惑をおかけしてしまいます。やりとりするデータ量は多くないのですが、通信が途絶えることは決してあってはなりません。しかも、お客さまの大事な個人情報を扱うわけですから、高度なセキュリティも求められます。

通信インフラ自体は利益をもたらすものではないため、なるべくコストは抑えたい。しかし、安定性とセキュリティは絶対に担保しなければならない。この両立が可能な通信回線を探していました」(みずほ銀行・吉川氏)

無線通信の弱点をカバーする「Twinアクセス」

検討の段階で光回線という選択肢は消えた。ATMの通信量は少量のため、光回線だとオーバースペックになってしまうからだ。また、光回線の場合は導入にあたって工事が必要となるため、店舗やATMの統廃合を進めているみずほ銀行にとって、ATM設置先の建物オーナーと工事の調整が必要になることで経営のスピード感が損なわれることも理由だった。

みずほ銀行からATMの通信コスト削減を相談されたみずほ情報総研と日本IBMは、さまざまな方法を模索。その1つが無線モバイル回線という選択肢だった。日本IBMの春間氏は当時を次のように振り返る。

「当時はまだ無線モバイル回線には不安がありました。通信が途切れることがありますし、インターネット網を使うためセキュリティも心配でした。『やはり光回線のほうが……』と考えていたときに、ちょうどサービスリリースされたのが『Twinアクセス』だったのです」(日本IBM 春間氏)

「Twinアクセス」はその名のとおり、モバイル2回線を常時接続して通信の安定性を図り、VPN環境を実現するモバイルサービスだ。同一パケットを2回線でそれぞれ送信し、早く受信したパケットを採用することで、モバイル通信の安定化を実現した。

「ソフトバンクと他キャリアの2回線で同時通信が可能で、自動で最適な通信に接続されるので、どちらかの回線に何かトラブルがあっても通信が途切れる心配が少ない。『Twinアクセス』はこれまでのモバイル回線の固定概念を覆すサービスです。無線のため運用コストは増加するが、通信コストは十分削減できるという判断で、システムへの採用を決定しました」(日本IBM 春間氏)

ATMの通信コストが従来の1/2に

みずほ銀行では、2018年6月から「Twinアクセス」を導入してシステムの設計とテストを繰り返し、2019年2月から先行して一部のATMに導入。品質確認などを行った。そして、2019年6月から全国のATMに導入を進めている。2019年11月時点で全店舗外ATMのうち半数ほどが切り替えを終えているという。

懸念されていた通信品質については、「今現在は大きなトラブルは発生していません」と、みずほ情報総研の熊澤氏。

「無線通信なので電波状況が影響しますが、電波が不安定なところはアンテナをつけることで通信品質を確保することができます」(みずほ情報総研 熊澤氏)

もう1つ、大きな課題だったコスト面については、どれほどの改善があったのだろうか。みずほ銀行の吉川氏は次のように話す。

「従来のデジタルアクセス回線に比べると、店舗によりますが、運用ベースでの通信コストは約1/2になりました。みずほ銀行の店舗外ATMは全国に1,500ヵ所以上あるので、とても大きな削減効果があります」(みずほ銀行 吉川氏)

利用者の目に映る変化ではないものの、「Twinアクセス」導入による通信コストの削減は、銀行の大転換期を生き残るための変革の一手になったと言えそうだ。

みずほ銀行では、今後は全国のATMでの回線切り替えを進める一方、導入後の品質をこまかくチェックし、課題を発見した場合は早急に対応していく考えだという。

ソフトバンクの福田氏は、今回の導入を振り返って次のように話す。

 

「『Twinアクセス』はソフトバンク独自のパケットコピー技術によって2回線の同時利用を可能にし、従来の無線モバイル通信の弱点を克服したサービスです。今回のみずほ銀行さまの案件にも自信を持ってご提供することができました」(ソフトバンク 福田氏)

「Twinアクセス」の通信の安定化を実現するパケットコピー技術。クラウド側に設置される局内終端装置とビジネス現場に設置される回線終端装置の間で、パケットを複製し、ロスしたパケットを相互に補完することでモバイル網内における不安定さを改善する。 「Twinアクセス」の通信の安定化を実現するパケットコピー技術。クラウド側に設置される局内終端装置とビジネス現場に設置される回線終端装置の間で、パケットを複製し、ロスしたパケットを相互に補完することでモバイル網内における不安定さを改善する。


攻めのコスト削減がイノベーションを加速させる

これまでは不安定と思われていた無線モバイル回線。しかし、将来的にさらなる通信品質の向上、通信量の確保が実現すれば、ビジネスシーンにおいて光回線の代替として導入される日も来るかもしれない。モバイル回線の手軽さは、ビジネスの変革のスピードを速める手助けにもなるだろう。

今回のみずほ銀行での「Twinアクセス」導入ケースは大幅なコスト削減にも寄与した。

たかが通信コスト、されど通信コスト。お客さまに提供するサービスとは直接関係がないビジネスの地盤となる部分ではあるが、攻めのコスト削減を行うことによって初めて新たな事業への投資が可能になり、企業のイノベーションを加速させると言える。

後記

個人では無線モバイル回線を気軽に使えるようになっているが、法人利用においては従来なかなか難しかった。「Twinアクセス」は、確かなセキュリティと安定性を求める法人向け通信システムの常識を覆す可能性があるだろう。同サービスがさまざまな業界のビジネスを変えていくことを期待したい。

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