自動運転時代はもうはじまっている。国内初 ハンドルがないバスの公道走行を実現

自動運転時代はもうはじまっている。国内初 ハンドルがないバスの公道走行を実現
(2020年2月6日掲載)
  • SBドライブが「CEATEC 2019」会場周辺の自動運転バスによる公道実証実験を実施
  • 車両と信号を4Gネットワークでつなぎ、「信号協調」による車両制御も
  • 自動運転バスは、高齢者が多く人手不足の過疎地域での移動手段としても期待される

大変革期を迎えている自動車業界。激化する競争の中心にあるのは、「自動運転」のテクノロジーだ。トヨタやテスラ、GMなどの旧来の自動車メーカのほか、自動運転に特化した新興のスタートアップ、そしてGoogleの「ウェイモ」など、世界中の企業がMaaS時代の覇権を争っている。

そんな中、「最も実用化に近いアプローチ」として、SBドライブが挑戦したのが、公共交通機関である「バス」を自動運転で動かすこと。
2019年10月に幕張メッセで開催されたIT技術とエレクトロニクスの国際展示会「CEATEC 2019」では、SBドライブが仏NAVYA製の自動運転バス「NAVYA ARMA」(ナビヤ アルマ、以下アルマ)を使用した実証実験を行った。
自律走行バスの存在は自動運転領域の起爆剤となり得るのか。SBドライブ 市場創生部の海保常毅(かいほ つねき)氏に話を聞いた。

SBドライブ株式会社 市場創生部 パートナーリレーションズ課 海保常毅氏

国内初となった自動運転バスの実証実験

――SBドライブが推進する「自動運転バス」のプロジェクトについて教えてください。

海保:私たちは2019年7月にアルマを東京都港区イタリア街の公道で走行させました。ハンドルのない自動運転バスが一般車両の進入を制限して専用空間にすることのない公道を走行することは国内初でした。続いて2019年10月の「CEATEC 2019」の実証実験では、会場である幕張メッセ周辺の千葉市美浜区の道路を、アルマが一般客を乗せて走行しました。


アルマというのは世界20カ国で導入されている、現在最も多くの走行実績を持つ自動運転バスです。実施したのは、このアルマが国際展示場ホール前のロータリーを出発して、時速18kmで周辺をぐるりとまわり、JR海浜幕張駅を通過して戻ってくるという、約1.5kmの巡回コースでした。

――ドライバーのいない自動走行だったのでしょうか。

アルマについて語る海保氏

海保:今回の実証実験は車内にドライバーのいない、いわゆる無人自動運転ではありませんでした。
というのも、現在の日本の法律上、完全な無人運転にすることはできないため、緊急停止など万一の際に対応するドライバーと保安員が同乗しています。しかし通常時は人の操作は必要なく、車内にハンドルもありません。自動的にバスが進み、停まり、人を運ぶという仕組みです。

千葉氏の公道を自動運転走行するアルマ

今回のように、自動運転車が片側2車線の公道を、他の一般車両と一緒に走るというのは、私たちにとって非常に大きなチャレンジでした。半年以上前から準備を開始し、国土交通省や千葉市、地元の警察などと連携して調整を繰り返しながら実施に至りました。

――公道で走行するにあたり、どのようなテクノロジーが使われているのですか。

海保:代表的なのは「信号協調」です。4Gの無線ネットワークで車両が信号機と通信し、例えば「目の前の信号が10秒後に青に変わる」といったデータをコンスタントに受け取ります。これはV2I(Vehicle to Infrastructure)といい、道路に設置された設備と自動車との間で情報をやり取りする技術です。

赤信号の交差点で停車するアルマ

また、カメラやライダー(LiDAR:光を用いたリモートセンシング技術)により、周りの自動車や歩行者、障害物などを検知する技術もあります。車両によって異なりますが、アルマの場合は合計8機のライダーを装備しています。
「安全」は何よりも重視すべき事項です。現段階では、自動運転は知らない道をいきなり走るのではなく、事前に決めたコースをスキャンしてマッピングし、どこにどのような建造物があるのかなどを細かく把握した状態で動かします。その上で、V2Iやセンシング技術などによって、リアルタイムの変化に対応した制御を行うのです。

――乗車した人たちの反応はいかがでしたか。

海保:何しろ未体験のことですので、乗る前は不安そうにされている乗客もいました。でも、実際に乗ってみると「意外とこんなものか」と受け入れてくださっていたように感じます。
また、2019年12月に相模湖のリゾート地で実施した実証実験では、小さいお子さんなどの歩行者が数多く行き交う道をアルマが走りました。途中で歩行者が飛び出してくるシーンなどもありましたが、アルマはまったく問題なく停まり、歩行者がいなくなるとまた動き出すなど、安定した走行を見せてくれました。

包括的な運行管理を行う「Dispatcher」システム

――SBドライブは乗用車ではなくバスを事業の中心にしていますが、「バス」に着目された理由は何ですか。

海保:私たちが目指すのは、自動運転によって社会課題を解決していくこと。現在、少子高齢化による「ドライバーの人手不足」が大きな問題となっています。
特に地方の過疎地域では、お年寄りが免許を返納したりして、バスへのニーズはあるのにドライバーが見つからないという状況が起こっています。そんな時にこそ自動運転のバスが役立つのです。
路線バスを運転するには大型二種免許が必要で、誰もがすぐにできることではありません。ですが「同乗する保安員」であれば、バスの運転手ほどの特殊技能が必要とされず、人材を確保できる可能性がより高まるでしょう。
自動運転車に搭載された自動走行制御システムと、自動運転バスの運行を管理するためにSBドライブが開発した「自動運転車両運行プラットフォーム Dispatcher(ディスパッチャー)」を組み合わせることで、人手不足問題に対して圧倒的なインパクトを持つサービスになると私たちは考えています。

自動運転車両運行プラットフォーム「Dispatcher(ディスパッチャー)」について語る海保氏

――「Dispatcher」では具体的にどういったことができるのでしょうか。

海保:「Dispatcher」では、運行ダイヤを組んで細かく走行指示を発信したり、それぞれのバスの位置情報をGPSで正確に把握できたり、車内外に搭載されたセンサで走行中の状況が確認できたりと、事業者にとって必要な情報をリアルタイムで受け取ることが可能です。また車内のカメラ映像をAI解析し乗客の状態を検知することで、車内安全も実現します。例えば乗客が席に座る前に自動発車をして転倒事故を引き起こすといったことを予防します。
先日のCEATECでの実証実験では、私自身が運行管理者としてアルマを管理しました。PC1台あれば、私1人で複数のバスを同時に遠隔監視することができるので、同じく人手不足へのアプローチとして最適なツールだと言えます。

自動運転車両運行プラットフォーム「Dispatcher(ディスパッチャー)」の画面

――このシステムを使えば、アルマ以外の自動運転車を動かすことも可能なのですか。

海保:現在、Dispatcherは10車種との接続が可能で、事業者の目的に合わせて車両を選ぶことが可能です。今回のアルマはかなり多くの実績ある車種ですが、例えばフィンランドのSensible4製の「GACHA(ガチャ)」は全天候型の自動運転バスで、豪雨や豪雪、電波の入りにくい山中などに強いという高い性能を持っています。
他にも、空港で乗客の荷物などを運ぶTLD製のトーイングトラクター「TractEasy」の自動運転車の運行管理をすることも可能です。実際に成田空港で運用されています。

SBドライブ 海保氏

地域コミュニティに貢献 自動運転バスの未来

――今後、日本において自動運転バスはどのように広まっていくと思われますか。

海保:私はよく、自動運転バスを「エレベーター」に例えます。モビリティ単体に価値を置くのではなく、その存在による経済波及効果を基準にして、総合的な価値を判断するという考え方です。
自動運転「バス」というと、私たちはつい「運賃をとるもの」と考えてしまいがちです。しかし、国土交通省の2017年度の調査では、全国のバス事業者のうちおよそ7割が赤字。乗客からの運賃で事業を成り立たせるというビジネスモデルは、すでに破綻しかけているかもしれません。
エレベーターを考えてみてください。「エレベーターに乗ったから運賃を払って」と言われることはまずありません。ですがエレベーターがあることで、そこに来たお客さまがスムーズに移動できて、その結果としてたくさんの購買や消費が発生すれば、トータルでの収支はプラスになります。
海外のモデルケースを見ても、例えばスウェーデンのヨーテボリ、スイスのシオンなどで走っている自動運転バスは、運賃を払わずに乗ることができます。自動運転バスを「新しい公共交通サービス」としてとらえ、街を活性化させようという取り組みです。北欧では早い時期から国をあげて自動運転車の導入に力を入れており、数多くの事例があります。

自動運転バスの地域コミュニティへの貢献について語る海保氏

――地方創生の一手として、自動運転バスを活用するというイメージですね。

海保:特定の民間企業がビジネスのために始めるというよりも、スマートシティ構想の一環としてコミュニティ自動運転バスを運行するといったように、地域で回収していくやり方が理想的ではないかと私は考えます。 また、遊園地やショッピングモールなど、特定の施設の中を移動するバスを自動運転にするというのは、最も導入しやすい例のひとつです。公道を走らない自動運転車であれば、道路交通法などの影響を受けにくいため、プロセスの難易度は格段に下がります。
地方自治体と特定の施設が手を組み、街中を走りながらその施設への集客に結びつける自動運転バス、というものも出てくるかもしれません。

――現在ある課題を解決していくために必要となるものは何ですか。それに向けて今後何をしていかれるのか、将来への展望などお聞かせください。

海保:現状では、自動運転バスの事業はクリアしなければならない課題が多く、「ただちに儲かる事業」とはなりません。世界で一番売れているといわれるアルマですら、総販売台数は180台程度です。まだまだ小さいマーケットなのです。
しかし、自動運転の時代は必ずやってきます。そのためには社会の理解と、官民一体での継続的な取り組みが不可欠です。今の段階では私たちは「先駆者」のような存在ですが、私たちのプロジェクトを見て後続となる事業者が生まれ、長期的に自動運転車を走らせるプレイヤーとなり、ゆくゆくは自動運転が当たり前となる世の中になればと願っています。

編集後記

自動運転の未来を語るとき、現在の延長線上で全ての乗用車が完全に自動制御されている状態を思い浮かべがちだ。しかし、自動車と交通インフラの進化はセットで考えなければならない。MaaS時代においては、海保氏が語る「エレベーターのようにバスに乗れる」状況こそが、最適解なのかもしれない。

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