ソフトバンクがニューノーマル時代の新たな営業スタイルを実現させるまで

2020年09月10日掲載

  • ソフトバンクは中小企業へのリーチ拡大のため、デジタルセールスの取り組みを本格化した
  • デジタルセールス高度化にむけて「意識改革」「マーケティング基盤再構築」「効果的なコンテンツ制作」 の3点に取り組んだ

目次

「順風満帆な道のりではなかったですね」

ソフトバンク株式会社 常務執行役員 法人事業統括 事業戦略・マーケティング担当の藤長国浩は、ソフトバンク法人部門のデジタルセールス高度化の活動を振り返り、こう語った。

コロナ禍によって、訪問営業ができない、大規模イベント自粛など、対面での営業活動が困難となる中、ソフトバンクは従来より進めてきた営業のデジタル化をさらに加速しつつあるという。失敗や苦労も多かったというその取り組みを、2020年9月1日に開催されたMarkeZine Day 2020 Autumnにおける藤長の講演内容から抜粋し、振り返る。

対面営業からデジタルセールスへ

ソフトバンクはコロナ禍以前の2018年からデジタルセールスに取り組んでいたが、当初の「デジタルセールス」の定義は今とは異なり、iPhone やiPad を使ったペーパーレスの提案を指していたという。
藤長が「ソフトバンクの自慢」と語る強力な対面営業に支えられ、当時の売上高と営業利益は最高益を更新しながら着実に成長していたが、一方で、対面営業では対応できない弱点もあったという。

藤長「日本には、中小企業が約400万社以上あるといわれています。対面で営業するとなると人数に限界がありますので、そういった中小企業へのリーチで苦戦していたんです。 ソフトバンクの中小企業に対するリーチは非常に少なく、一番小さなSOHO・零細企業に対するリーチは約10パーセントと、ビジネスの機会が創出できていないと言わざるを得ませんでした」

中小企業400万社へリーチするためには従来通りの対面営業では限界があると判断し、そこからソフトバンクはデジタルセールスの本格稼働に舵を切ったという。 まずは、マーケティング部門と営業部門を統合した新しい本部を設立。電話やメール、 Webセールスを連動する体制を構築し、中小企業にデジタルを使ってリーチすることを目指した。

しかし当初は、想定外の課題ばかりだったと、藤長は振り返る。

藤長「ウェビナーでは集客が一桁だったり、ターゲティングが全くできていないままメールを乱発していたので、当然クリック率も低迷していました。営業データとの連携も未熟でした。」
このような状況から脱出しデジタルセールスの高度化を実現するために、ソフトバンクは2018年以降から3つの取り組みを行っているという。

インサイドセールスの意識改革

藤長「 まずは、インサイドセールスの意識改革です。この時点でのインサイドセールスの業務内容は、問い合わせや解約、機種変更など手続き対応で、お客さまに受け身で対応していました。評価も対応件数で行っていたり、まるでコールセンターのようなインサイドセールスだったというのは否めません。 現場の対応でも、『RPAの詳細は把握していません』や『モバイル以外の商品のご案内はできません』といった回答もあり、処理件数を重視するあまりクレームが発生することもありました。


そこで、直販営業のエースをインサイドセールスのトップに据え、営業マインドを浸透させるさまざまな取り組みを行いました。 具体的には、評価体制を直販営業と同等に変えたことや、お客さまから追加のご注文が来た際には、言われたことだけではなく、『追加でこちらもいかがですか?』といった仮説提案に基づくアップセル・クロスセルを徹底して実施するようにしたり、チームで案件を獲得するような体制にしたりと、少しずつ意識を変えてきました。
同時に、顧客対応を行う営業部門と、案件処理を行うスタッフ部門に分けて、営業が顧客対応に専念できるような体制にしました。

また、ここが一番肝だと思うのですが、顔の見えないお客さまへより良くアプローチをするために、トークスクリプトのひな型を作成し、スキルの平準化を行いました。このトークスクリプト一つで、お客さまの行動は変わりますので、非常に重要です。
成功事例や、『こんなご案内をしたらこのような反応があった』というお客さまの声を、チームで共有することで意識を変え、そしてデジタルセールスの品質を上げていきました。その結果、営業生産性(※)は昨年同期比では約2倍に向上しています。
※一人当たりのモバイル新規獲得実績(2019年度1Qと2020年度1Qで比較)

さらに、インサイドセールスには多くのシニア営業を配置しております。若い頃から対面での営業に携わっていましたが、今のデジタルセールスの取り組みを理解していて、これまでの経験を生かしながら、さまざまなチャレンジをしています」

マーケティング基盤再構築

藤長「デジタルセールスの高度化に向けた取り組みの2つ目は、マーケティング基盤の再構築です。実は今まで、 見込み顧客の育成に使うMA ツールは単独で利用しており、Salesforceなどの営業活動データのシステム(SFA)とはほとんど連携をしていない状態でした。

接点のあるお客さまに向けてメールマーケティングは実施していましたが、顧客理解ができないまま、私どもから言いたいことを一方的に、タイミングも自社に都合の良いタイミングで送っていたため、非効率なアプローチになっており、メールのクリック率も非常に低く、本当に苦労していました。

その改善に向けて、新しいデータマーケティング基盤として Web行動データを集めるWeb マーケティングツールを導入し、MAツールや SFA とも連携をさせ、さらに、グループ会社の子会社である Treasure Data のCDP(カスタマーデータプラットフォーム)を使って統合し、一元的に管理をする仕組みを作りました。

これによって、「Webの行動履歴に基づき関心の高いコンテンツをメールで配信し、見込み顧客へ育成してから提案活動を行う」という、顧客ニーズとターゲットにあわせた効率的なアプローチを行えるようになりました。 統合データをもとにターゲットを予測分析することで、アプローチは効果的、かつ、効率的になってきています。
以前は本当に低かったメールクリック率が、一部の施策においては11.4%、以前の3倍クリックいただけており、成果が本当に出てきていることを実感しています。

戦略的なコンテンツ制作

藤長「最後の取り組みは、コンテンツ制作です。魅力がないコンテンツでは興味関心をもってもらえませんので、ここは非常に注力した点です。

今まで提供するプロダクトの特長や優位性など言いたいことを全面に出したコンテンツを作っていました。その結果として、メールクリック率が低迷したり、ウェビナーの集客がうまくいかなかったりしていました。これらの課題を解決するために考え方を一新し、お客さまの購買意欲に沿った形でコンテンツを作成していこうとなりました。

新たなコンテンツ制作の戦略として、顧客の購買意欲を段階ごとに分け、それぞれの段階に応じたコンテンツを提供していくことを始めました。

例えば、まだ購買意欲が低い状態のお客さまに向けては、市場調査や海外動向などの気づきを与えるコンテンツを提供し、課題を顕在化させます。次にその課題に合った解決策や成功事例をソリューションとして紹介します。そしてさらに興味関心が高まったお客さまに対して、具体的な商材をご案内していくという形で、段階的に購買意欲を醸成していくことにしました。

藤長「コンテンツ制作の中では、市場レポートを無償で提供したり、業界のトレンドワードを盛り込んだり、鮮度の高い情報を素早く提供するなど、お客さまの興味関心をひくためのさまざまな仕掛けを試しています。 また、ウェビナーについては、ソフトバンク1社で開催していくには限界がありますので、パートナー企業との共催で実施しています。共催によりバリエーションを増やして実施するというところに関心をいただき、多くの方にご参加いただいています。」

デジタルセールス高度化施策の結果

これら3つの取り組みの結果、ソフトバンク法人のインサイドセールスにおける獲得利益は、非対面でのインサイドセールス内で完結したもので昨年から2倍、直販営業に案件をトスアップしたもので20倍と、1年弱で急成長したという。

藤長「この成長の要因は、マーケティング、インサイドセールス、そして対面の直販営業、3つの組織が目的を共有し、強固に連携できたことです。データ連携だけでは不足します。こういった組織連携をした上で、様々なデータを統合・連携させたことが、ソフトバンクのデジタルセールス成長の大きな要因だと確信しております」

最後に、藤長は次のようなメッセージで講演を締めくくった。

藤長「コロナ終息後のデジタルセールス継続への捉え方は世代間ギャップがあり、50代では、『コロナが終息したらコロナ前の状況に戻るんじゃないか』と考えられている方も多く、もしかしたら、皆さまの会社の上司や先輩の中には、デジタル化を推進しようとしても、『もうすぐ戻るからいいんじゃないか』と仰る方もいるかもしれません。しかし、そんなことは絶対ありません。デジタル化は必ず進みます。コロナが終息しても、デジタルマーケティングはどんどん進化していきます。

ですので、まずは、今。皆さん一歩を踏み出してください。

私たちの成功事例や失敗事例は皆さまに広くお伝えしたいと思っておりますし、皆さまからの成功体験や悩みも共有していただきながら、デジタルと対面のハイブリッドで営業していく。その新たな営業スタイルを支えるデジタルマーケティングを、皆さまと共に強く推進していきたいと考えております」

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