ワーケーション誘致の先にある、和歌山県白浜町の「シラコンバレー」構想

"ワーケーション誘致の先にある、和歌山県白浜町の「シラコンバレー」構想" (2021年1月29日 掲載)

和歌山県白浜町では、現在、ワーケーション誘致を推進している。ワーケーションとは仕事(ワーク)と休暇(バケーション)をかけた造語。働きながら休暇をとるワークスタイルを指し、デジタルシフトによって場所に制限されない働き方が可能になったことで、近年注目を集めるようになった。
白浜町が推進するワーケーションは単なる快適なワークプレイスの提供に留まらないという。白浜町のワーケーション誘致の裏にある思惑とは。

ソフトバンクと和歌山県、白浜町は近年、地方創生におけるデジタルシフトについて情報交換を行い、各種ソリューションの導入検討を共同で進めている。本記事では、和歌山県の主催で「地方DXを考える」というテーマで開催されたソフトバンクによるワークショップの様子を紹介しつつ、白浜町の取り組みから、デジタルシフトによる地方創生の最前線を紹介する。

白浜町をIT企業集積地に

関西エリア随一のリゾート地、和歌山県白浜町。人口約2万人の小さな町に、日本有数の美しいビーチとアドベンチャーワールドのパンダ、そして温泉などの豊富な観光資源を目当てに年間300万人以上の観光客が訪れる。

""

観光業で賑わいを見せる白浜町だが、さまざまな地域課題もある。

その1つが人口流出だ。和歌山県は長らく高校卒業後の人材流出率が47都道府県でワースト1位。卒業と同時に進学のために出ていった若者たちは、そのまま就職してしまうことが多く、和歌山県に帰ってくることは少ないという。そのため、和歌山県および白浜町の人口は減少傾向にあり、過疎地域での高齢化も進んでいる。

そこで白浜町が観光業と農業・漁業に次ぐ新たな産業として可能性を見出したのが、IT産業だ。白浜町の取り組みのはじまりは15年以上前に遡る。

白浜町役場の大平幸宏氏は次のように語る。

「2001年に和歌山県の発案で、白浜町を情報通信関連企業の集積地にしようという構想が立ち上がりました。

""

白浜町は南紀白浜空港から約10分、東京・羽田空港から南紀白浜空港までも約70分と、都心からのアクセスが良いことが特徴です。白浜町は工場誘致などに適した土地はないのですが、IT企業であれば、通信環境とPCさえあれば仕事ができます。

また、人口流出を防ぐためには、魅力的な働き口が白浜町に必要です。そういった意味でも、IT企業誘致による地域振興は理にかなっていました」(大平氏)

IT企業誘致に乗り出した白浜町は遊休地を利用して企業向けのオフィス施設を設立。さまざまなIT企業に貸し出しをはじめた。

美しいビーチを臨みながら仕事をする──。魅力的に感じられるが、当初は目論見通りにはいかなかったという。

「2004年にIT企業向けのレンタルオフィス『白浜町ITビジネスオフィス』を開設し、都市部の企業2社に入居いただきました。しかし、入居企業は結局長続きせず、数年で撤退してしまったのです。

当時は白浜町としても、『入居してもらったらそれで終わり』という対応で、移転してきた企業へのサポートが十分ではなかったと思います。従業員の方の生活のサポートはもちろんですし、都心から地方に移転してきた企業の皆さんは地方行政や地元企業とのコラボレーションを求めているケースも多いのですが、そういった要望にも答えられていませんでした」(大平氏)

白浜町のIT企業誘致はしばらく思うようにいかない状況が続いた。風向きが変わったのは、2015年、セールスフォース・ドットコムの白浜町ITビジネスオフィスへの入居だ。それを皮切りにNECのグループ会社も入居し、白浜町のサテライトオフィスは注目を集めるようになる。

"白浜町ITビジネスオフィス"

白浜町ITビジネスオフィス

"白浜町第2ITビジネスオフィス"

白浜町第2ITビジネスオフィス

現在では白浜町ITビジネスオフィスは満室となり、2018年に開設した白浜町第2ITビジネスオフィスも現在満室だという。

「2004年に誘致した企業が撤退したことで私たちが学んだのが、企業に定着してもらうために地域のサポートが必要だということです。

例えば休日に一緒に釣りに行ったり、美味しい飲食店を紹介したり、地域のコミュニティに企業とそこで働く人が溶け込めるようにサポートする。実際、そういったサポートをすると入居した企業の皆さんに喜んでいただけることが多いです」(大平氏)

白浜町でワーケーションしながらビジネス創出

IT企業誘致が徐々に形になってきたところで、2017年から和歌山県と白浜町は新たな施策に乗り出す。仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を同時に行う、ワーケーションだ。

和歌山県庁の企画政策局の桐明祐治氏は次のように語る。

""

「これまでお話があったように、和歌山県では移住、定着を目的としてIT企業の誘致に力を入れてきました。しかし、一部の企業や人々にとってはやはりサテライトオフィスの開設や移住はハードルが高く感じられてしまうこともあります。

そのとき、海外にワーケーションという概念があることを知りました。オフィスの開設や移住が少し遠く感じてしまうのであれば、トライアルで数日もしくは数週間、地域で働くということをリアルに体験できる場を用意してはどうかと考えたのです。それにより、移住や観光とはまた違う形で地域や地域の人々と多様に関わる『関係人口』を増やしていくことができるのではないかと。

宿泊施設をご紹介したり、長期にわたってのワーケーションをご希望であればコワーキングスペースもご紹介します。研修なのか、開発合宿なのか、または地域でのビジネス創出なのか。企業ごとのご要望に応じてオーダーメイドでワーケーションのプランをご提案しています」(桐明氏)

ワーケーションは企業単位ではなく、フリーランスなど働く場所に対して裁量権のある個人が行う場合が多い。個人の場合は、日々の仕事をできるだけ快適な空間で、というようなシンプルなニーズだろう。

一方、企業単位でワーケーションに取り組むとなると、そこには企業としての明確な理由が必要だ。企業からはワーケーションに取り組みながら、白浜町をフィールドとしてビジネスを創出・展開したい、もしくはビジネスの実証事業をしたいという要望が多いという。

""

「個人のワーケーションについても、満足いただける環境は整っていると思いますし、そういった視点での白浜の魅力を発信していくこともしなければならないと思っています。

一方で、企業側の受け入れについても注力していかなければなりません。ビジネス創出が目的であれば、地域の企業への視察のご案内をしたり、県内で行われているローカルイノベーターを育てる取り組みとつなげたりもします。

企業誘致によるオフィス開設や移住に加えて、ワーケーションにより白浜町と継続的に関係を持っていただける企業を増やすことで、白浜町のITコミュニティを強化していきたいと考えています」(桐明氏)

ITコミュニティによる新結合が生み出すイノベーション

美しい海を見ながら仕事できるだけでなく、より深く、白浜町の『ひと』、『企業』、そして『課題』と向き合うワーケーション。

地方創生にビジネスチャンスを見出している企業にとっては、白浜町はワークプレイスであるだけでなく、格好のビジネスフィールドにもなり得る。白浜町にとっては、IT企業が集まりコミュニティが生まれることで地域の活性化につながり、地域課題を解決するイノベーションが起こる可能性も高まる。

2020年11月、和歌山県の主催でソフトバンクによる LEGO® SERIOUS PLAY®(レゴ® シリアスプレイ®)メソッドと教材を活用したワークショップが開催された。参加者は官公庁や和歌山県、白浜町、田辺市の職員など地方行政の関係者。テーマは「地方DXを考える」だ。

""

「新型コロナウィルス感染症の流行によって変化したもの」「変化した価値観」などさまざまなテーマについて各自がブロックで自分のイメージをつくり、グループ内で共有していった。

グループは初対面の参加者同士で組まれていたにも関わらず、ブロックが媒介となり、まるで同じ組織で働いているメンバーかのように、和やかに活発に意見が交換された。

そして一番の盛り上がりを見せたのが、最後の「理想の町」というテーマだ。ワークショップに参加していた白浜町の職員の鎌谷隆志氏は、5Gネットワークを表現するアンテナと自動車をブロックでつくり、自動運転が普及した街を表現した。

""

白浜町は航空による一次交通は整備されている一方で、町内の移動のための鉄道やバスなどの2次交通には課題が残されている。鎌谷氏は自身の両親が移動に困っている現状を見て、自動運転によるMaaSの未来を描いたという。

さまざまなIT企業が白浜町に集いコミュニティが生まれ、町の未来についての議論が至るところで交わされるようになったとき、鎌谷氏の描いた未来が実現する日が来るかもしれない。

"白浜のシンボル“円月島”"

白浜のシンボル“円月島”

前出の大平氏は白浜町ではすでにそんなコミュニティが生まれつつあると語る。

「すでに白浜町では進出した企業の人たちが顔見知りになり、コミュニティが形成されつつあります。それは、白浜町にとっての資産です。

そこに新しくワーケーションで訪れる企業の人たちが交わり、イノベーションが生まれる。そのためにも、白浜をビジネスや実証実験のフィールドとして使い倒してもらいたいと思います。

これからも企業誘致やワーケーションで知らない人同士がどんどんと出会うことで、他にないコミュニティを形成できれば面白いですね。

先々は『シラコンバレー』と呼ばれるように、白浜発のモデルが生まれ、それを日本全国そして世界に展開できるような町にしていきたいです」(大平氏)