和歌山県白浜のリゾートホテルが目指す、デジタルシフトによるニューノーマル

"和歌山県白浜のリゾートホテルが目指す、デジタルシフトによるニューノーマル" (2021年1月29日 掲載)

「コロナ禍でどん底の地獄を見たのが、2020年の4月から5月です。宿泊客は昨対で15%から10%程度に落ち込みました」(ホテルシーモア・中峯氏)

新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言のさなか、日本の観光業は大きなダメージを負った。東京商工リサーチによれば、2020年上半期の宿泊業の倒産件数は前年の2.4倍。

紀伊半島の南岸に位置するリゾートタウン、和歌山県白浜町でも観光客が著しく減少したという。地域のホテルは、休業して助成金や補助金で凌ぐか、営業を続けて「ニューノーマル」にチャレンジするか。二者択一を迫られた。

ソフトバンクと和歌山県、白浜町は近年、地方創生におけるデジタルシフトについて、 情報交換を行い、各種ソリューションの導入検討を共同で進めている。

本記事では、白浜町のリゾートホテル「ホテルシーモア」がコロナ禍をきっかけに導入したソリューションを通じて、総支配人の中峯 宏氏に同ホテルのデジタルシフトへの取り組みについて話を聞いた。

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コロナ禍ではじめた新しい営業形態へのチャレンジ

──コロナ禍による緊急事態宣言。白浜町の観光業はどのような状況だったのでしょうか?

中峯氏:白浜町は観光立町。白浜温泉は、三古湯として道後温泉と有馬温泉とともに日本書紀に記載されているほど、歴史のある観光地です。また、美しいビーチは重要な観光資源で、近隣の宿泊施設は夏場だけで1年間に必要な売り上げを上げてしまうほどでした。

黙っていてもお客さまが来てくださるという状況が長く続いていたため、白浜町は訪日観光客への取り組みなども後発でしたし、いつのまにか新しい取り組みに対して保守的な町になってしまっていたように感じます。

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2019年12月に中国の武漢で新型コロナウイルスの感染拡大がはじまりましたが、最初は対岸の火事でした。しかし中国の旧正月にあたる2020年1月25日、本来ならば中国から多数訪れるはずのインバウンドの観光客が来ない。そこではじめて、『これは異常事態だ』と感じました。

国内の観光客も予約がことごとくキャンセル。国の助成金や補助金の情報が分かってくるにつれて、緊急事態宣言中は休業して従業員の給与も補償制度で賄おうとする事業者と、営業をしながら今後につながる種まきをしようとする事業者の2つが、白浜の中でもいました。どちらが多かったかと言えば、休業する事業者の方が多かったように感じます。

ホテルシーモアは、お客さまがほとんど来ない中で、なんとか次の商機を待つために新しい営業形態へのチャレンジを進めていました。

マスク着用の徹底や検温設備、飛沫感染防止設備の導入などの感染対策を取り入れたほか、デジタルシフトへの取り組みも推進しました。デジタルシフトを進めるきっかけは、コロナ禍による副産物だったと思います。

顔認証、デリバリー、ホテルシーモアのデジタルシフト

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──デジタルシフトへの取り組みとはどのようなものでしょうか?

中峯氏:ホテルシーモアではこれまでもデジタルシフトへの取り組みを行っていましたが、それがコロナ禍によって加速したという印象を受けています。

コロナ以前の取り組みとしては、例えばキャッシュレス決済。さまざまな決済手段を導入したほか、南紀白浜空港とNECさんと共同で顔認証による決済にも取り組んできています。現在ではさらに町内のレストランやバス会社、ゴルフ場にも顔認証の決済ネットワークを広げてきています。非接触での決済が可能なので、結果的にコロナ禍の状況にマッチしたように感じています。

ホテルのレストランやベーカリーのメニューのテイクアウトとデリバリーをはじめたり、オリジナル商品のEコマースでの販売強化にも取り組みました。従来、ホテルはいわゆる装置産業のように捉えられていて、ずっと「待ち」の営業でした。しかし、コロナの感染が収まるまではなかなかお客さまが来てくださらない。そうなると、私たちの方からお客さまにサービスをお届けする必要があります。

テイクアウトとデリバリーに関しては、近隣の宿泊施設やレストランと一緒になって、地元のお客さまへサービス提供することで、白浜町としての共存共栄の形が少しずつ見えたようにも感じています。

当社は、元々県外からの観光客だけでなく地元の方にもお越しいただくため、「白浜キーテラス」という複合施設として、ホテルだけでなく足湯やレストラン、海中展望塔などさまざまなサービスを提供しています。

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白浜海中展望塔(コーラルプリンセス):沖合100m、高さ18m、水深8mの全天候型展望塔。12ヵ所の窓からは、カラフルな熱帯魚をはじめ、約30種類もの魚たちが鑑賞でき、まるで海底散歩をしているかのような気分が味わえる。

コロナ禍は、「地元の方との共存共栄を目指す」という当社の原点に回帰するきっかけにもなったように思います。

無人コンビニサービスの先にある、人とデジタルのハイブリッド

──お客さまの多様なニーズに答えられるように、デジタルを活用しているのですね。

中峯氏:最近では、ワーケーションのニーズに応えるために、姉妹館の「白浜館」にビジネスルームを用意するなど、「シーモア レジデンス」というビジネスニーズにマッチした施設も開設しています。

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一般的な旅館やホテルであれば「1泊2食付きで、夕食は何時から何時まで」など、決まったプランに対してお客さまが自身の行動を合わせなければなりません。しかし、多くの選択肢をお客さまに提供することで、より自由にお客さまに行動していただくことができるようになります。

その一環として、当社ではソフトバンクさんの協力の下、スマートマルシェという無人コンビニサービスと、その防犯対策として「スマートAIカメラ」を導入しました。

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スマートマルシェ | キャッシュレス決済を利用して商品を販売する無人コンビニサービス。オフィスなどの施設で、お菓子やカップ麺などの食品、飲料を設置企業の負担ゼロで販売することができる。

例えば、今日はお腹が空いていないから、夜食にカップ麺を食べて済まそうとか、そういったとき。

ホテルに設置されている売店は有人で、営業時間は朝7時から夜10時までです。営業時間外は、外のコンビニエンスストアまで行かなくてはならないため、これまではお客さまに面倒な思いをさせていました。

スマートマルシェとスマートAIカメラの導入により、営業時間外もホテル内で商品を買うことができ、かつ防犯性を担保することも出来ました。

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スマートAIカメラ | カメラの映像をリアルタイムでタブレットなどの端末で視聴可能。またAIが人物を検出し、該当の映像だけを抜き出しクラウド上に保存するためカメラのすべての時間の映像を確認する手間が省ける。また、スマートマルシェとあわせて設置することで、防犯上の問題を解決することができる。

今後は商品点数を増やしたり、季節に応じて商品展開を変更してみたりといろいろと試してみたいと思っています。ゆくゆくはホテルシーモアで作っているパンを「白浜館」のスマートマルシェで販売してみたいとも考えています。

お客さまが便利になることで、最終的にはホテルの売り上げに貢献していくはず。今回はその基盤となるサービスができたと思います。

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ホテルのサービスの根幹にあるのは、「人」です。AIさえあれば「人」は要りませんということにはなりません。しかし、そこからサービスを拡張していこうと考えれば、そこには必ずデジタルの取り組みが必要になります。

100%お客さまを満足させられる人もいれば、そうでない人もいる。そんな中で、デジタルがあれば提供サービスの底上げをすることもできます。これからのホテル運営におけるスタンダードは人とデジタルの併用型。今後も人とデジタルのハイブリッドの理想形を模索していきたいと考えています。