【GIGAスクール】学校現場ICT化のリアル。全国自治体が語り合う「情報端末1人1台環境整備」の先にある教育の未来

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2021年8月21日、ソフトバンク主催による無料オンラインイベント「第1回ソフトバンクGIGAスクールサミット」(副題:iPadを活用し『知ろう!楽しもう!想像しよう!』丸ごとGIGAスクールの一日)が開催された。

教育委員会、学校、教育関連企業を対象に学校現場におけるICT活用の学び合いの場となることを目的とした本イベント。第1部では奈良教育大学教職大学院 教育DX研究室 准教授の小崎誠二先生によるオープニングアクトの後、教育のICT化推進、授業改革に力を入れている各自治体によるICT活用授業発表が行われた。

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イベントはソフトバンク竹芝本社を会場に、登壇者の先生方はオンラインで参加した。



小崎先生によるオープニングアクトで幕を明けた「GIGAスクールサミット」。小崎先生は奈良県教育委員会で学校現場のICT活用に取り組み、「県域同一ドメイン」「各種アプリケーションの包括ライセンス取得」など、奈良県独自の取り組みを推進してきた人物だ。

小崎先生は「GIGAスクール構想」の基本・根本は「1人1台端末」の実現ではなく、ネットワーク整備により、それぞれの子どもにあわせて、子どもたち自らがICTも使って学べる環境を整備することだと語る。

奈良教育大学 教職大学院 教育DX研究室

小﨑誠二 准教授

GIGAスクール構想でできるようになったこと

「GIGAスクール構想の基本・根本は『学校のネットワーク整備』です。『1人1台端末』ばかりが先行していますが、それはあくまでコロナ禍の感染症対策で前倒しになっただけ。ネットワーク整備で『やりたい人ができることをやれるように』『子どもたちが紙だけに縛られずICTも使って自分の力で学べるように』することが本懐です。

私が実施したアンケート調査では、小学校6年生は半数くらいが「自分より先生のほうがICTに詳しい」と回答していますが、中学校2年生になると大半が「自分のほうが詳しい」「自分のほうがネット利用のモラル・セキュリティに詳しい」と回答しています。この辺りの感覚をつかんでおくことが実は重要で、自分(教師)が“教えてやる”というスタンスではうまくいかなくなっているのかもしれません。

「1人1台の情報端末」「端末を学校外でも使う」「1人1アカウント」によって、これからGIGAスクールはますます進んでいきます。そこには「全国誰とでも話せる」「デジタルスキルが向上する」「人間関係が広がる」「先生の学びかたが変化する」などの価値があるといえるでしょう。

皆さんの学校のGIGAスクールはうまく進んでいるでしょうか。GIGAスクールがうまく進んでいるかどうかを診断する指標は「自由度があがったかどうか」。自由度が上がっていればいい方向に向かっているし、できることや選択肢が増えていれば前向きに進んでいる。全国で授業が変わってきています。授業の主体を子どもたちに預け、授業を作る主役が変わってきているように感じます。「一緒に学ぶことは楽しい、ワクワクする」が実現できるといいと思います」(小崎先生)

この日の講演資料はこちらから

北海道森町の「学校」「教育委員会」「行政」三位一体のGIGAスクール推進

次に各自治体の学校現場でのICT活用実践者たちが登壇。トップをかざったのは北海道森町。同町では学校、教育委員会、行政が協働してGIGAスクールに取り組む。

北海道森町役場 総務課情報管理係

山形巧哉 氏

GIGAの足りない僕たち

「森町のGIGAスクールは2021年1月からスタートしました。導入した端末はiPadのLTEモデル。子どもたちが日常的にICTを活用できる環境を考えたときiPadはとても親和性が高く、LTEならWi-Fiに縛られずどこからでもネットにつなげられます。念頭にあったのは、就学旅行や遠足でラップトップPCを持って走り回っている子どもの姿が想像しにくい、ということでした。

アプリに関しては、いわゆる学習支援系システムは導入しておらず、教員の皆さん各々で使いたいアプリを自由に使っていただいています。よく使われているのはMicrosoft TeamsやOne Note。Siriを使った検索の授業、動画アプリで落語の寄席を撮影しレビューする授業、職業体験の様子などを撮影した動画をClipsで編集しiMovieでプレゼンする授業なども行われています。

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GIGAスクールにトラブルはつきものです。しかし森町では全教員と役場間で、良い意味で“雑”なホットラインが構築されています。教員の皆さんとって私なんかは、近所のお兄さんのような感覚のはず。教育の現場と教育委員会・役場はどこか対立的な関係にあったかもしれませんが、GIGAスクールの要は“協働”です。これからも役場・教員・教育委員会・ご家庭の皆さんのさまざまな知見を組み合わせながら、この取り組みを成功に導いていきたいです」(山形氏)

北海道森町立 鷲ノ木小学校

鍛治裕之 先生

ICT機器の日常使いを踏まえた「思考力・判断力・表現力」を高める授業実践

「コロナ禍を踏まえると、教育現場におけるICT環境にはハード・ソフト・人材を一体とした整備が不可欠なものとなりました。当町においても、町内全ての児童・生徒・教師にiPadが配置され、端末を活用した教育の効果・影響の検証、効果的な指導方法の開発が急がれています。

2020年末のiPad導入当時、新たな実践に対しては教員から期待の声・不安の声が入り交じっていました。しかし2021年3月ソフトバンク主催「動画作成ソフトを用いたiPadの研修」に参加後からiPadに対する不安・抵抗感が和らいだように感じています。前年度はコロナ禍で中止を余儀なくされた「新1年生を迎える会」ではiPadの動画撮影機能を活用したイベントが行われ、以降も全学年でiPadを用いた「思考力・判断力・表現力」を高める授業実践が進められています。

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これまでの取組みをあらためて振り返ってみると、ICTに必要な操作を教員同士が互いに共有し合う土台・空気感が最も必要だと感じました。授業実践に対する熱い思いももちろん大切ですが、現実的にはできないこと・わからないことが日々生まれていきます。「うまくいかない」と弱みすら共有できる、そんな取組みを心がけていきたいです」(鍛治先生)

宮城県石巻市では授業活用のほか、校務の効率化に実感

ICT化の対象となる学校の現場は教室だけではない。宮城県石巻市では教職員間のコミュニケーションに積極的にICTツールを活用。教職員のなかでICTへの理解が深まっているという。

宮城県石巻市立 大谷地小学校

藤坂雄一 先生

Google Classroomなどを活用した情報共有と校務の効率化

「2021年3月、児童とともに教員にもタブレット端末が配布されました。当初は「数回の研修会だけでは不安しかない」など、職員室ではネガティブなつぶやきも散見されました。そこで本校ではGoogle Classroomを活用しオンライン職員室の開設、コロナ禍における健康観察表や打ち合わせ記録の共有などを実践しました。そのうち「これは我々にとっても便利なツールなのかもしれない」という空気が育まれていったように思います。

会議ツールとしてGoogle Jamboard(デジタルホワイトボード)も積極的に活用しています。もともと校内研究の検討会において模造紙・付箋紙を用いたワークショップの文化が定着していたため、Jamboardをすぐに受け入れることができ会議の効率化が進みました。今は「Classroomにアップしておくね」「Jamboardの画像を共有してほしい」「Google フォームに回答しておいて」というつぶやきが日常的に交わされています。

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情報収集から情報共有の間にあるプロセス——例えば情報の編集・加工・資料作成・配布というものが全てGoogleのコンテンツで簡略化されました。それを教職員が実感することで「こんなこともできないか」といった具合に、汎用の可能性を探る習慣ができました。もちろんここでの実践は学級でのチャレンジに反映されており、授業での活用の幅も拡がっています。今後もさまざまな可能性を模索していきたいです」(藤坂先生)

宮城県石巻市立 河南東中学校

中谷友祐 先生

ニューノーマル時代に学び続けるための学習システムの構築

「本校では2021年4月、全学年全クラスにGoogle Classroomを整備し、学年別にiPadの使用ガイダンスを実施、その後ただちに授業での活用が行われています。例えば私が担当する社会科の授業では、Googleドキュメントを用いた地域レポートを作成。Google JamboardやGoogleスプレッドシートを活用した協働学習も行っています。

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他にも、Googleスライド・Googleスプレッドシート・Googleフォームを活用したパフォーマンス課題と発表会(英語科)、ビデオ会議ツールGoogle Meetを活用したオンライン授業(数学科)、YouTubeとGoogle フォームを活用した課題学習(技術・家庭科)などが行われ、学級活動(総合的な学習の時間)では、本校の目指す生徒像としてあるべき行動を考えてもらうため、Google スプレッドシートを活用しながら行動チャートを作成。学級ごとに1枚の掲示物にまとめて共有しています。

iPadが整備されたことで生徒は興味関心があることを自ら調べ、自ら学ぶようになりました。彼らは我々の想像以上にiPadを使いこなし、操作・使い方でわからないことがあれば生徒間で教え合いながら解決してしまいます。他方、まだ中学生なので、自己管理やマナー・リテラシーの面にはまだまだ課題があるでしょう。今後も生徒自身で考えさせながら『どのように使うことが望ましいのか』を教えていきたいです」(中谷先生)

愛媛県新居浜市によるICTを活用した対話的・協働的授業。大人しい生徒も積極的に発表に参加

かねてよりICT端末が導入されていた愛媛県新居浜市からはICTを活用した一歩踏み込んだ授業内容が発表された。先進的な対話的・協働的授業を展開しているなかで、それゆえのトラブルも起こるという。

愛媛県新居浜市立 新居浜小学校

間部祐司 先生

本校におけるICTを活用した1人1台端末への取組

「本校ではかねてよりICT端末が導入され、積極的な授業実践が行われてきました。しかし当時のインターネット環境はWi-Fiのみ。たびたび動作不具合が生じていました。そうした背景から、2020年11月GIGAスクール構想の実現に向け、市内全ての小学校に1人1台のタブレット端末を配布。教育委員会が中心となり環境整備が行われました。

以来、本校ではiPadを導入した授業実践を実施しています。授業支援ソフトとして主に使用するのは『ロイロノート』です。例えば6年生『天皇中心の国づくり』の社会科授業では、聖武天皇が治めた時代について、ロイロノート基本操作となるシンキングツール『フィッシュボーン』で整理しながらワークシートを作成。それを児童へ一斉送信し、児童に書き込んでもらいます。児童は資料からわかったことをどんどんワークシートに書き出し、時代背景について考えを深め、ときには友達同士で共有し認識を深めていました。

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GIGAスクールの成果は、いつでもどこでもICTを活用しながら自分の考えを整理したり可視化したりできるようになったことです。タブレット端末ではクラスメイト同士、思考の共有化を図れ、対話的かつ協働的な学びをうながしています。さらに授業への関心意欲も高まっています」(間部先生)

愛媛県新居浜市立 新居浜小学校

眞鍋裕介 先生

ICTを活用した授業で起きた子どもと私の変化

「間部先生と同じく新居浜小学校に勤めている私は、国語科の音読指導でiPadを取り入れました。登場人物の気持ちをみんなで考えながらワークシートに「大きく」「遅く」といった音読の記号を書き、最終的には音読の成果を発表します。今回の取組で音読の力は明らかに向上しましたが、何よりも、ロイロノートで録音した音声データを提出させ、みんなで共有する形式としたため、普段はモジモジしがちな大人しい児童も自信を持って発表してくれた点が大きな収穫でした。

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授業ではちょっとしたトラブルが生じることもあります。ある社会科の授業ではGoogle Jamboardを活用したのですが、テーマに対する課題を付箋に書かせ、それを分類していく過程で「勝手に付箋を移動するな」といった声が散見され、とうとうSNSさながらの荒れ状態に発展してしまったのです。

しかし私は、これはチャンスだと考えました。教室というリアル空間。そしてGoogle Jamboardというバーチャル空間。2つの空間がまさしくそこに混在している。ならばここでの体験は情報リテラシーの学びになるはず。失敗やトラブルが起きたときもみんなで共有すれば課題解決に当たれるでしょう。そんな姿勢を学んでもらえたと思います」(眞鍋先生)

【総評】失敗を恐れず「信じ切る」ことが大事

学校の現場でのICT活用の生の声が聞かれた「ICT活用授業発表」が終わると、有識者から発表への感想、そしてそれぞれのICT化への想いが語られた。

特定非営利法人 ほっかいどう学推進フォーラム 理事長

新保元康 先生

「本日の発表を聞き、あらためて「日本の先生は皆さん素晴らしい」と私は思いました。GIGAスクール以前から成功している教育現場では、これまでのやり方を変えにくいかもしれません。しかし本日ご紹介いただいた取り組みで学内のコミュニケーションが向上しているのは明らかです。教育現場のトップは失敗を恐れ改革を止めてしまいがちですが『最終的には先生たちが必ず成し遂げてくれる』と信じ切ることが重要。このチャレンジを止めてはいけません」(新保先生)

東北学院大学 文学部教授 学長特別補佐 教学改革担当

稲垣忠 先生

「GIGAスクール推進の鍵はコミュニケーションです。教育委員会が全てを事細かに決めてしまうと、先生方が主体的に活用する意欲を削いでしまいます。とはいえ、教育委員会が何も発信せずにいても現場は混乱します。実際にコミュニケーション不足から学校間で温度差が生まれているケースも聞いています。その意味では、本日の森町の発表にあった通り、関係者の間にホットラインが整備されていれば心強いでしょう。学校と家庭の関係も同様です。これまで学内への持ち込みや使用の禁止を当然としてきたICT端末が、GIGAスクール構想により学校でも家庭でも使われるようになりました。学校でどのような取り組みをしているのかを、保護者の方に伝えていくことが、協力体制の第一歩です。子どもたちがテクノロジーを上手く活用し、力をつけていくには、関係者のコミュニケーションが大きなパワーになると思います」(稲垣先生)

愛光中学・高等学校 社会科教諭・進路部長

和田誠 先生

「GIGAスクールを広めていくにはたくさんの課題があります。チャレンジや失敗を許す管理職がいる文化や学校もある。だからこそ現場にいる我々教員は、互いの失敗にも子どもたちの失敗にも寛容になることでICT活用は上手くいくと思います。私自身も人の何倍も失敗を繰り返し、そのたび周りの人に助けられてきました。日本各地の学校が失敗を積極的に共有できる文化が広がっていけば、と思っています」(和田先生)

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初の試みとなった「GIGAスクールサミット」は約200名の教育関係者が参加。その内94%がアンケートに「満足」と回答するなど、好評のうちに終了した。参加者からは「他の自治体の取り組みも知ることができたし、自分の自治体の実践も知ることができました」「同じように苦労されていることが共有できました」「実際の教育現場での活用の仕方の具体例を知ることができたことや、不安に感じていたことを解消することができた」などの声が聞かれた。

編集後記

長期化するコロナ禍はGIGAスクール構想を一気に推し進めることになった。最初のハードルであった「1人1台の端末環境整備」はほぼ実現した。一方で、その端末を活用してどのような教育を実現するのか。ICTを活用した新たな教育のあり方については、各自治体、教育委員会、学校、先生方による探求が続く。手探りの状況のなかでは、今回の各自治体の取り組み発表のように、教育の現場同士がつながり、互いの経験、知見を共有し合う場、学び合う場が今後も求められるだろう。

アーカイブ動画公開中

https://ml.visuamall.com/ml6/giga_summit/login/login.php?c=NzA1

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