なぜ、ソフトバンクの人事本部はゼロからパルスサーベイを開発したのか?

なぜ、ソフトバンクの人事本部はゼロからパルスサーベイを開発したのか?

(2020年3月27日 掲載)

  • ソフトバンクでは、社内向けパルスサーベイを自社開発した。
  • 仕事だけでなく、生活や健康など、従業員個人の「人生の充実」を目指している。
  • 数値目標はなく、社内コミュニケーションの活性化を目的にしている。

従業員が複数の設問に回答することで、組織の状態を定量的に可視化できる従業員サーベイ。働き方改革による組織改善ニーズの高まりから、様々なサーベイサービスがリリースされている。
そんな中、「Smart & Fun!」な働き方改革を掲げるソフトバンクでは、人事本部がゼロから社内向けパルスサーベイを開発し、2019年10月に全社導入に至った。ソフトバンク人事本部の井上允之氏に開発の経緯と意図を伺った。

組織ではなく、「仕事」「生活」を含めた個人に特化したサーベイが世の中になかった

――「パルスサーベイ」のプロジェクト開始の経緯を教えてください。

井上:ソフトバンクの社長である宮内から「従業員の “最新”かつ“一人一人”の状態を可視化できるようにしてほしい」という強い要望があったことが、今回の取り組みのはじまりです。

ソフトバンクでは2004年から毎年、従業員満足度調査を実施しています。これはESサーベイと呼ばれる、年に1度の大規模な調査。個人の意見の集合体として結果が出てくるため、「組織の健康診断」という位置付けです。

会社が組織としての強さを求めるのは当然のこと。しかしながら、私たちが働き方改革を推進する中で「Smart & Fun!」をスローガンに掲げているように、組織力を高めるためには個人の力も必要です。
年に1度のサーベイでは、サーベイを行った時と現在で、個人の状況が異なっている可能性があります。そこで、私たちはこれまでのサーベイを継続しながらも、個に特化したパルスサーベイの開発に乗り出したのです。

――既存のサービスを利用せず、自社開発した理由は何でしょうか。

井上:パルスサーベイの設計コンセプトとして「ワークライフインテグレーション」という概念を取り入れることにしました。ワークライフインテグレーションとは、直訳すると「仕事(work)と生活(life)の統合(integration)」。言い換えれば「人生の充実」を意味します。

仕事のパフォーマンスには、その人の普段の生活や健康状態なども大きく影響してきます。ワークライフインテグレーションの実現によって個人の力を高め、それにより組織の力も高めていく。この観点で、私たちが目指していたサーベイは既存サービスでは見つかりませんでした。そこで、自分たちで今回のサーベイを開発することにしたのです。

こうした「前例のないことにゼロから挑戦する」「まずは自分たちでやってみる」というのは、ソフトバンクの特徴的なカルチャーだとも言えます。

従業員の健康と生活もサーベイで調査

――ソフトバンクで開発したパルスサーベイの概要を教えてください。

井上:従業員の日々の充実度を測定するためのサーベイです。「Work(仕事)」「Life(生活)」「Health(健康)」のカテゴリーに分類される12の設問に、総合設問をプラスした「13の設問」によって構成されており、回答者は設問ごとに「7つの段階」から適切な答えを選択します。

毎月末、全社員に向けてメールでURLが送信され、PCやスマートフォンなど各自の端末からアクセスして回答します。所要時間はわずか1〜2分程度。月末の2営業日後には、結果を閲覧できる仕組みです。

――従来のサーベイと異なる点は何でしょうか。

井上:当社が開発したサーベイの特長の1つは「自分自身の状態把握」にも重点を置いていることです。
一般的なサーベイは、仕事に直結する設問が多くを占めるもの。ですが当社のサーベイでは、ワークライフインテグレーションの考え方を基に、「Life」や「Health」といった仕事以外の部分に関わる設問も取り入れています。

設問の作成にあたっては、学術的な根拠が不可欠だと考え、筑波大学国際産学連携本部働く人への心理支援開発研究センターに学術指導をいただきました。

2018年11月から開発をスタートし、2019年4月からのトライアルでは、社内約800名、社外約500名の方に協力をあおぎました。「Life」「Health」カテゴリの設問では、文章の表現によって受け手の印象が大きく変わるため、結果との相関関係を見ながら、慎重に検証を重ねていきました。

それと並行して、サーベイのシステム部分は社内のIT部門と調整しながら開発を進め、2019年10月に、ソフトバンクの全正社員を対象にサービスリリースに至りました。

サーベイ結果をチーム内コミュニケーションの起爆剤に

――こうしたサーベイの結果は、具体的にどのようにして活用できるのでしょうか。

井上:サーベイを実施する目的の1つが、上司と部下のコミュニケーションを活性化させること。

サーベイの結果は、人事が管理するのはもちろんのこと、本人の同意のもとで上司に対して開示する仕組みにしています。つまり、上司が部下の状態を把握する材料となるのです。

数名程度の部下であれば、普段から一緒に仕事をしているので、個人の状態変化にもすぐに気が付けるかもしれません。しかし、それが10名を超えるチームだと、全員と密にコミュニケーションをとれないケースもあると思います。そうなると、サーベイの結果が個人の最新の状態を把握する上で大事な情報となってきます。

データは個人情報になるため、開示の範囲は回答者自身が設定できますが、現在はほとんどの回答者が、上司への開示を選択しています。

――コミュニケーションの促進に関して、人事サイドから何か特別な働きかけをされていますか。

井上:サーベイのスコアをもとに人事が、上司と部下の面談を強要するようなことはせず、スコアの目標値なども特に設定していません。あくまで「会話のきっかけとして、各自が自由に使ってください」というスタンスです。

もしも「低いスコアが付いたら強制的に面談が組まれる」というルールを作ってしまうと、回答にバイアスがかかり、サーベイ自体の意味がなくなってしまいます。

また、こうしたサーベイは「個人の傾向」が顕著に現れるため、同じ状態でも7(非常にそう思う)をつける人もいれば、4(どちらとも言えない)の人もいます。そのため、スコアの絶対値はあくまで目安にしかなりません。

そこで重要なのは、スコアの絶対値ではなく、変化を追っていくこと。突然、スコアが数段階下がった社員がいたとしたら、それは注目すべき変化です。そんな時に上司から積極的に「最近、何かあった?」などと声をかければ、有益なコミュニケーションへとつながる可能性が高いでしょう。

――さらに今後は、サーベイで得たデータをどのような形で活用することが考えられますか。将来に向けての展望など教えてください。

井上:サーベイは、ある意味で会社が仕事以外の部分も聞くという、これまでになかった取り組みです。

私たちが望むのは、ここで得たデータをポジティブな方向性で役立てていくこと。上司と部下のコミュニケーションを円滑にすることが第一の目的ですが、今後の可能性として「スコアがどのような波形を見せたら、個人が高いパフォーマンスを発揮できるのか」といった、良い状態のモデルを可視化することもできるかもしれません。可視化することで、そこに近づけていく努力が可能になります。

現在はまだパルスサーベイを定着させる最初の段階です。まずは従業員にサーベイの「心理的な安全性」と「利用価値」を感じてもらうことが最優先事項。

皆さんに安心してサーベイを使ってもらい、状態変化が見られることの利点を理解してもらいながら、データを着実に蓄積していきます。そしてデータが集まれば、ゆくゆくは活用の幅も自ずと広がっていくことでしょう。

後記

ソフトバンクの社内で推進されている「Smart & Fun!」な働き方改革では、新たなことに挑戦するクリエイティブな時間を創出するための業務効率化の一環として、ボトムアップで多数のAIやRPAプロジェクトが立ち上がっている。パルスサーベイ開発も同様に「ないものは作ってしまう」というソフトバンクのチャレンジの文化が現れている。パルスサーベイがきっかけとなり、また新たにソフトバンクで「Smart & Fun!」なプロジェクトがはじまることを期待したい。