共同研究により医療アルゴリズムを設計 業界初の取り組みが開始されました

金沢医科大学とソフトバンク、ソフトバンク・テクノロジーで、日本マイクロソフトの提供するMicrosoft Azureを活用した日本初の腎性貧血患者を対象としたシミュレーションアルゴリズムの開発を行いました。このアルゴリズムを用いて個の医療に基づく人工透析の現場業務貢献を目指しており実際に開発に携わったキーパーソンとなる友杉教授へ、開発にいたる経緯や将来像についてお話を伺いました。

(以下敬称略、2017年6月1日取材)

友杉 直久 教授

徳永:今回業界初のアルゴリズムを手がけることになった経緯について、医師である友杉さんがなぜ人工知能の活用に興味をお持ちになったのか教えてください。

友杉:各個人に向けた医療の現場を本当に考えられるシステムを作ろうというのが今回の発想のスタートでした。日々の臨床では患者さんの体内で何が起きているのかわからない要素が多く、判断するためのデータも少ない。
これが現在の私たちの置かれている状況です。ある程度経験を積んでいる医師でも理論はあるがデータに基づいた論証はされていないという課題があり、かくいう私もその一人でした。
今回の研究はこのデータ論証のとっかかりを作ったことになります。
臨床では得られないデータ、しかし理論的にはわかっている。これを「可視化」したことが大きな一歩です。
ある一定の理論に沿ったデータを溜めていけば、ITと組み合わせてデータを可視化できるのではないか?と、ディープラーニングに興味を持ち、本を読み、ご相談をさせていただきました。

対談風景1

徳永:その節はご相談くださりありがとうございました。今だから言えるのですが実は、打ち合わせ当初は友杉さんの「ゼロor 1」過ぎる判断基準に日々「むむむっ」と唸っておりました。
ディープラーニングは最初からできるものではなく、まず過去の事象を確認する可視化、次に大量のデータを元に統計・機械学習を行い、自己学習で分析していくという段階を経て実装されるものです。
友杉さんは、医療現場では「使える見える化、あるいは頭で描くグラフチャートが自動ででてこないと意味がない」というゴールから逆算する設計からまったくブレませんでしたね。
僕は「どうやってこの課題を解決するか?」を毎日考え続けて、その答えを友杉さんとの会話から見つけました。
フランスの合理主義哲学を提唱したルネ・デカルトの「演繹(えんえき)的思考」のお話です。

友杉:結果的には、帰納法・演繹法どちらも使っていますが、その患者さんの生死を最後に解析する砦に病理が存在しています。また医療は帰納的に証明されてこそ科学ではありますが、その科学も当初は人の仮説から生まれており、日々科学者たちの懸命な努力によりいくつもの理論が再構築あるいは、ゼロベースで生まれ変わっています。私たちの仕事は常に科学的で事実に沿ったものであり、なおかつ人間の体内構造が全て把握されてない現在医療においては、演繹的な思考も持ち合わせて常に仮説を立て実証する日々です。
ご提案を受ける中で、今回のアルゴリズムを誰に利用してもらい、そのために何のデータを収集し、どのようなアルゴリズムで解析し洗練して行くのかを考えることがシステムの全体設計において重要である点に気づかされました。「閾(しきい)値がないと判断基準ができません。閾値あるいは、再現性を証明できうる方程式の経験をお持ちだと思うのでエイ!で作ってくださいよ。」という徳永さんの無茶振りにはびっくりしましたが、同時に納得もありました。あの後毎日考え続けた結果、今回のアルゴリズムの基礎が生まれたのです。

  • グラフチャート
  • 対談風景2

徳永:友杉さんの事実にまっすぐで研究や患者さんに熱心なお人柄があってこそ、アルゴリズムができたのだと思います。色々なお医者様がいらっしゃいますが、なかにはこうした指摘があることで会話が閉ざされてしまうケースもあると聞きます。

友杉:そのあとは本当に早かったですね。第一アルゴリズムの要件定義、第二アルゴリズムの要件定義、今後の全体プランの設計。「こんなに早くできるものか」と、毎日のアウトプットを確認するのが楽しい日々になっています。

徳永:6月に学会があることを伺い今回は相当なピッチで進めました。医療という専門性から学会だけに留められがちな今回の件を、いかに生活者(患者)にもお伝えして行くかを考えると、学会に合わせて今回のプロジェクトを伝えて行くというプロデュースも必要と考えご提案させていただいています。
最後に、友杉さんの今後のプロジェクトの展望について教えてください。

友杉:腎性貧血の治療にあたる医師との連携をこのツールの共同利用でさらに深め、複数名の患者さんのデータを投入し、腎性貧血における造血機構と鉄代謝機構に加え、その監視機構を融合させた統合アルゴリズムにまで発展させたいと考えています。人は個々で肉体の強度が違いますし、食生活でもこの強度の値が変化するので、個々の生命反応を正確に把握するシステムとしてこのプロジェクトを位置づけ、より医療の発展に寄与したいと考えております。

金沢医科大学とソフトバンクの作業分担

金沢医科大学は、赤血球造血刺激因子製剤投与量と赤血球数との関連性をシミュレーションする造血機構アルゴリズムの草案の提示を医療的観点で定義、ソフトバンクがこれを受けて行うアルゴリズムの検証、評価を行うものです。ソフトバンクは、金沢医科大学が定めたアルゴリズムの定義に添い演算式を設計開発し、これをシステム(Microsoft Azure)に対して実装、power BI(数値データがグラフ化されわかりやすいソフト)による表示方法を金沢医科大学の確認を取りつつこれを実装しています。

医療アルゴリズム開発支援の企画概要(案)

人の体内で何が起きているかを論証、可視化するために必要なアルゴリズムの設計と情報整理から開始

医療アルゴリズム開発支援の企画概要(案)

  • 上記内容は標準的な弊社ご提案のアプローチであり、金沢医科大学様との内容とは異なります。
    対象となる目的に応じて個別に上記を策定いたします。

稼働実績

  • プランナー1名・・・2ヵ月
    人工知能をどのように実装するか、技術的な要件と商用化した場合の全体システム構成に関する定義策定
  • 全体設計エンジニア1名・・・2ヵ月
    プランナーが策定した構成に対し、セキュリティや拡張性を踏まえたシステム設計を実施
  • データサイエンティスト3名・・・2ヵ月
    友杉氏が策定した本アルゴリズムを証明するための演算式設計を実施

システムの機能

Web画面機能

  • ネスプ投与シミュレーション画面(第一アルゴリズム)
    • x(畑)の可変シミュレーション機能
    • RBCからx(畑)の逆算シミュレーション機能
    • 変数a、変数bの可変シミュレーション機能
  • ネスプ投与結果とシミュレーション結果画面(第1、2アルゴリズム)
    • ネスプの投与量が各週で違う投与量でのシミュレーション機能
    • 変数a、変数bの可変シミュレーション機能
    • x(畑)の可変シミュレーション機能
  • ネスプ投与量とMCH値、RCB値のデータ入力画面

NEWS

  • 金沢医科大学と共同研究をしている腎性貧血患者の研究について日本透析医会雑誌Vol.33に掲載されました。

    日本透析医会雑誌Vol.33「透析患者の鉄分布の揺らぎ」

  • 腎性貧血患者を対象としたシミュレーションアルゴリズムの開発の機関紙掲載について

    2017年6月7日にリリースいたしました腎性貧血患者を対象としたシミュレーションアルゴリズムの開発について、腎臓病学会機関紙 「腎臓」に「AIによる腎性貧血における最適治療」として掲載される運びとなりました。引き続き、金沢医科大学とソフトバンク株式会社は、腎臓病改善に向けた共同研究を推進して参ります。

    AI による腎性貧血の最適治療
    (公)日本腎臓財団

    2018年 vol.40 P23-P27 特集「人工知能(AI)と腎臓」にて掲載
    http://www.jinzouzaidan.or.jp/jigyou/mag_zin.html

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医療向けシミュレーションアルゴリズム開発支援 アルゴリズム開発とCloud-edgeコンピューティング設計導入支援 ソフトバンク

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