Future Stride

“インターネットの父”村井純と語る。
5Gで何が変わるのか

慶應義塾大学環境情報学部教授 村井 純氏 × ソフトバンク 湧川 隆次

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2020年からの商用サービスが見込まれている5G通信は、私たちの社会をいかに変革していくのかーー。

“日本のインターネットの父”として知られる村井純氏は、インターネットが普及してきた過去を振り返り、「5Gは、不可能を可能にする夢がある」と語る。誰もが常時インターネットとつながる“アンワイアード”(あらゆるものが無線でつながる状態)な社会が訪れると、私たちが描く理想的な未来を実現することが可能になるそうだ。

ソフトバンクの湧川隆次氏は、そうした社会を実現する基盤「5G」の普及に向け、着々と準備をしている。村井氏がかつての教え子湧川氏と5G到来以降の社会について語り合った。

慶應義塾大学環境情報学部教授、大学院政策・メディア研究科委員長。1955年東京生まれ。1979年慶大工学部卒業、1984年同大理工学研究科博士課程修了。工学博士。専門はオペレーティング・システム。インターネット研究のパイオニアで日本の「インターネットの父」と呼ばれ、Internet Society (ISOC)による2013年インターネットの殿堂(Intemet Hall of Fame 2013)入りを果たす。WIDEプロジェクトのファウンダーや政府の委員会メンバーとしても活躍している。
2004年、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程を修了し、同大学環境情報学部有期専任講師を経て、2013年よりソフトバンクに在籍。主に、モバイル向けの通信プロトコルの研究開発と、ETF(インターネット技術標準化委員会)で通信技術の標準化、新規技術の事業開発などを手がける。著書は、「モバイルIP教科書」や「ITの正体」。

社会は“アンワイアード”になる

村井(慶應義塾大学):

人々がインターネットを利用するようになってから30年程度が経過しました。今では全世界の52%、日本だけで考えれば、おそらく90%以上の普及率です。世界はインターネット登場の前後で「ビフォー・インターネット」と「アフター・インターネット」に分けられます。インターネットは有線(ワイアード)でコンピューターをつなげるネットワークとしてスタートしました。そして、アフター・インターネットの世界に5Gが訪れることは、インターネットとあらゆるものが無線でつながる「アンワイアード」な世界が訪れるということです。どこにいてもインターネットが利用でき、なおかつ高度な情報処理が可能になります。かつてはインターネットは有線であることが最適だと考えられていましたが、LTEによってそうした制約から解き放たれ、5Gにより更に加速していきます。インターネットの登場以降、今が一番“夢を持てる時期”だと思っています。アイデアを実現するためのインフラが整うからです。

2005年に村井氏が監修し、湧川氏も編集に関わった『アンワイアード』(アレックス・ライトマン著)。今、まさにこの世界観が近づいている。
湧川(ソフトバンク):

村井先生がおっしゃったように、5Gというインフラは衝撃的です。4Gがインターネットをアンワイアードにし、5Gになると、その環境がますます向上します。すると、人々が常時インターネットに接続可能な世界になる。今は必要があればアプリを開き、インターネットにつながる時代ですが、さらにインターネットが身近な存在になっていきます。光ファイバーやWi-Fiなど、インターネットの接続方法はさまざまありますが、5Gによって、誰もがどこにいても高性能な品質でインターネットを利用できる社会になるのです。

村井:

4Gの普及によって、ビデオ(動画)が身近な存在になりました。しかし、実は、インフラにとって負担が大きいため、インターネットにとってビデオは苦手分野です。5Gは、映像の情報伝達を一気に快適にします。これはものすごいインパクトがあることです。例えば、医療が大きく変わるのではないかと私は考えています。現在、医療現場では8Kのカメラが利用され始めています。解像度の高い映像は、肉眼では捉えられない症状を見つけることができるからです。5Gが普及すると、そうした高い解像度の映像もスムーズに遅延なく伝達することができます。つまり、診察を受けるために病院に行く必要がなくなるのです。モバイル端末に8Kのカメラが搭載されれば、患部を撮影してお医者さんに送信するだけで症状をチェックしてもらえます。眼科にあるような目の病気を見つけるためのカメラは今は非常に高価ですが、それがモバイル端末に置き換わる世界を想像してみてください。劇的に価格も下がるでしょう。今では夢のようなことを実現するインフラが5Gなのです。

眼科の診断用のカメラがモバイル端末に置き換わる可能性もある(写真 YakobchukOlena/iStock)
湧川:

インフラが変われば、社会が変わります。時代をさかのぼれば、小さなモバイル端末でビデオ視聴を楽しむことなど考えられませんでした。しかし、今では子どもたちの将来の夢に「YouTuber」がランクインする時代です。今私たちが当たり前だと考えているものが、当たり前ではなくなる。そうした社会の変化にはワクワクしていますね。

5Gは“産業を生み出す”基盤

湧川:

インターネットというインフラができると、ユーザーたちはそのインフラを利用して自らサービスを開発してきた過去があります。私は、5Gもそうした使われ方をしてほしいと期待を寄せているのです。例えば、私が学生時代は村井先生と一緒に自動車とインターネットをつなげる取り組みをしていました。当時は「ありえない・必要ない」と思われていたことですが、今では車のインターネット接続は当たり前になり、自動運転技術の実現に向け研究も進んでいます。使う人がいなければ、インフラは成長していきません。先ほど村井先生が医療についてお話しされていましたが、特定の産業でインフラがフル活用されることは非常に重要です。さまざまな産業でインフラとして利用され、もまれ鍛えられることで5Gが我々の生活に欠かせない基盤として根付いていくと思っています。

村井:

インターネットは、PCよりモバイルがメインになってきているなかで、どういったサービスが生まれてくるのかは私も期待しています。つい先日、慶應義塾大学SFC研究所データビジネス創造・ラボが主催するデータビジネスコンテストを開催したのですが、高校生が優勝しました。その高校生は自分が学校にお弁当を持っていく際に、振動で汁がこぼれたり、おかずが混ざってしまうことをすべて記録していたのです。そのデータをもとに振動に耐えるお弁当箱を設計し、3Dプリンターで通学専用のお弁当箱を開発し、見事優勝を勝ち取りました。遊び心のある作品だと思いましたが、今ではそうしたこともスマートフォンがあればできてしまうのです。この作品はまだまだ一事例にすぎず、今後は身に着けるすべてのもので人間のコミュニケーションを支えるようなプロダクトが生まれてくると思っています。

4Gはコンテンツ、5Gサービスをデリバリーする

村井:

そうした未来を考えた際に、新しいサービスが生まれることへのいちばんのネックは、過去の歴史や制度なのです。例えば中国では新しいサービスが続々と開発され、普及していきますが、日本はそうではない。実験レベルまではすんなりできても、国が絡んだレギュレーションなどがあるため、広く使われるサービスになるまでは時間を要する気がします。中国には「事後チェック」みたいな文化がありますよね。面白いことを始める際に、スタートに関しては寛容なのです。

湧川:

まさにその通りですね。これからは、今まで面倒だと感じていたことが、気づいた頃には改善されているのではないでしょうか。例えば、昔は車を運転する際にも地図を広げていました。しかし、今はスマホ1台あれば道に迷うこともありません。音楽も、CDを購入してPCに取り込んだりしていましたが、今はボタンひとつでダウンロードが可能です。4Gは、動画やWebコンテンツなど、いわばコンテンツをデリバリーするインフラでした。一方5Gは、サービスをデリバリーするインフラです。自動車とインターネットが接続し、「Uber」が生まれたように、新たな産業を創出する基盤になっていくと思います。

5Gの成長はユーザーが握る

村井:

5Gが浸透し、アンワイアードの精度が向上すると、今実現するのが難しいと思われている技術が瞬く間に完成していきます。すでに述べましたが、YouTuberが誕生したことで、映像も放送局から配信されるもの以外が主流になっていく可能性もあります。インターネットはボーダーレスな社会を実現する技術ですから、東京に一極集中している企業が全国各地に点在していくことで、地方創生にも一役買ってくれるという可能性も大いにあります。5Gによって場所を問わない世界が実現し、今まで不可能だと思われていたことがどんどん可能になる。放送権を付与してあげれば、地方に新たなテレビ局が生まれることも考えられるわけです。

湧川:

5Gもインターネットも、標準化技術なのです。そのなかで差別化していくには、「どうやって使ってもらうか」を突き詰める必要があります。ソフトバンクはインフラ事業者として、利用者に使ってもらえるよう、できるだけオープンなインフラ・ソフトウェアでお客様に提供していければと思っています。

村井:

自由自在に使えるオープンなソフトウェアがあれば、地方創生も可能になります。インフラさえ整っていれば、地方が独自に戦略を立て、世界に類を見ない素晴らしいサービスを展開できるようになります。すると、「北海道に訪日外国人が集中する」なんてことも起こるです。慶應大学の授業で、学生が自分が履いている靴を3Dでモデリングしてその場で3Dプリンターで作ってしまうなど、昔はとても大変だったことが、今では簡単にできます。インフラを提供する側には、ユーザーがどう利用するかという視点を常に持っていただきたいです。

湧川:

電話のシステムは、独自システムが多いのです。利用者がスマホ・携帯電話を使っていたときはサービスも電話・Webでシンプルでしたので問題ありませんでしたが、5Gになり医療、自動車などあらゆる産業が顧客になったとき、この独自システムはハードルになります。5Gが広く普及していくためには、そうした複雑な要素を排除する必要があります。そのため、ソフトバンクでは、現在、お客様と一緒にインフラを開発していくことを主眼に置いています。

村井:

まさに私も5Gというインフラを活用し、今後どのようなことができるのかと試行錯誤しています。例えば、過去に2022年のW杯の日本招致委員のメンバーを務めていたのですが、「バーチャルリアリティの中で寝転び、ビールを飲みながらリアルタイムで試合を観戦する」プランをプレゼンしたことがあります。2022年までに、ほぼほぼリアルタイムの3次元映像の観戦システムを作ることができると本気で思っているのです。

湧川:

たしかに、IoTの普及によりデータを集めることが非常に容易になりました。5Gは計算能力を持ったインフラなので、村井先生がおっしゃったような未来も実現できる可能性があると思います。

誰もが夢をもてる時代の到来

村井:

先ほど「バーチャルリアリティでサッカーをリアルタイムで観戦する」とお話ししましたが、こうした世界観が実現すると、教育にも一役買うと考えています。例えば、弧を描く強烈なペレの“バナナシュート”を誰もが蹴れるようになるかもしれません。VR空間の中でペレがシュートする瞬間を見れば、足のどの位置でボールを蹴り、その瞬間の筋肉がどうなっていたのかが分かります。そのデータを蓄積していけば、科学的な観点からペレの強烈なシュートを再現できるようになるのです。プロにしかできない繊細な味付けの料理も、同様に再現可能になります。5Gには、そうした夢があるのです。医療現場で使うなら、手術中の映像を3次元で記録し、成功例と失敗例を記録していくこともできます。そうしたら、もう医者が手術で失敗しない未来がやってくるかもしれません。少し先の未来では、「2018年はそんな簡単なこともできていなかったんだ。よくも怖がらずに病院に行けたね」といった会話がされていることでしょう。

そうした未来を実現するためには、社会の理想的な姿を常にイメージすることが必要です。私が話したサッカーのことも、医療のことも、まるで予期できないことではないと思います。1990年代だったら理解不能だったかもしれませんが、「今ならできるんじゃないか」と想像できるはずです。高校生が“こぼれない弁当箱”を構想したように、誰もが自由にイマジネーションできるのが2018年。ビジョンを実現するための手段として、インフラをデザインする。この視点を持つことこそが、重要なのではないかと思います。

■本記事はNewsPicks Brand Designの制作のもと、2018年3月30日にNewsPicks上に掲載されたものです。

■ソフトバンクでは、2020年の第5世代移動通信システム「5G」の提供に向け、実証実験などを通じた研究開発に取り組んでいます。ソフトバンクの5G×IoTの取り組みについては5G×IoT STUDIOでご紹介しています。

■ソフトバンクの5G×IoTについて

https://www.softbank.jp/biz/5g/

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