企業はシンギュラリティとどう向き合うか?「PONANZA」開発者 山本一成インタビュー

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将棋界で起きたシンギュラリティを、
私たち企業も経験する

「PONANZA」開発者 山本一成インタビュー

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Google に在籍する未来学者のレイ・カーツワイル氏は、「2045年までに人間の能力をはるかに超える人工知能が登場し、シンギュラリティ(技術特異点)が起きる」と提唱している。2012年以降ディープラーニングが急速に発達し、シンギュラリティが現実味を帯びてきている今、企業はどのような準備をしておくべきなのか。

シンギュラリティとは
シンギュラリティ(技術的特異点)とは人工知能が発達し人間の知性を超える時点のことを意味し、それは人工知能が自らを超える人工知能を生み出すことによって起こると言われている。レイ・カーツワイル氏によって提唱されて以来、広く世間に広まった。

シンギュラリティとも呼べる現象がすでに起きているのが将棋界だ。2017年の電王戦で将棋プログラム「PONANZA(ポナンザ)」が佐藤 天彦名人に勝利。コンピュータが人間を凌駕し、もはや別次元の強さを手に入れたことが証明されたのだ。「PONANZA」を開発した山本 一成氏は、「つい最近まで、人間がコンピュータに負けるはずがないと誰もが思っていた。将棋界で起きたことを、近いうちに人類みんなが経験することになるはず」と話す。

今回は山本氏にシンギュラリティについての考えと、企業が人工知能時代に何をするべきかについて話を伺った。

山本一成
2017年に佐藤天彦名人に勝利した最強将棋プログラム「PONANZA」の開発者。愛知学院大学特任准教授。東京大学先端科学技術研究センター客員研究員。HEROZ株式会社リードエンジニア。著書に『人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?』(ダイヤモンド社)がある。

シンギュラリティは本当に起きるのか?

山本氏がリードエンジニアとして所属するHEROZ社が提供するゲームアプリ「将棋ウォーズ」。「PONANZA」からアドバイスをもらえる機能も。

将棋界ですでに起きているシンギュラリティ。まずは、それがどのように起こったのかを整理してみよう。「PONANZA」が初めてプロ棋士・佐藤 慎一4段に勝利したのが2013年。そして2017年にはプロ棋士最強の佐藤 天彦名人に勝利。2018年時点ではその成長はさらに加速し、人間が到底辿り着けない異次元の強さを持つようになった。

将棋界においてプロ棋士こそが最強であるという“神話”が崩れたのが5年前であったことを考えると、わずか数年で人工知能が爆発的に成長を遂げていることがわかる。これは将棋界の話に留まらず、コンピュータの世界全般で同じようなことが言えるという。

山本:

テクノロジーは指数関数的に発達します。「PONANZA」で言えば、例えるなら10年前に身長1m程度だったのが、5年前には2mになり、名人と勝負した2年前には4mになり、今は順調に8mに成長しようとしているようなもの。人の身長と比べたら巨人過ぎてまともな勝負ができないレベルです。
テクノロジーの指数関数的な成長を人間は直感的に理解することはできません。だから、「2045年までにシンギュラリティが起こる」と言われても、いまいち現実味を持てない。でも、テクノロジーの成長のスピードを考えたら、人工知能が人間を超える日が“来ないわけがない”と思うんです。

こうした近年の人工知能の急成長を可能にしたのが、ディープラーニングだ。これによって人工知能は「知能(=目的に向かう道を探す能力)」を獲得し、将棋のように特定分野においては人間を超えるレベルに到達した。しかし、「何をするべきか」という「知性(=目的を設計する能力)」はまだ獲得していない。現時点において、自由に目的を考える「知性」は人間ならではの能力だが、人工知能が「知性」を獲得する日は来るのだろうか?

山本:

人工知能が「知性」を獲得するとしたら、「ディープラーニングどうしの連携」によって達成されるのではないか、というのが私の考えです。別々の目的で設計されたディープラーニングを組み合わせて相互に影響を与え合いながら目的を達成することで、さまざまな知的活動が可能になると見込まれています。その一例として有名なのが、Google 傘下のディープマインド社が開発した囲碁プログラム「アルファ碁」です。
ディープラーニングの研究が始まってたった5年。本当にすべてを理解している人はまだいません。しかし、今よりもデータが集まり、今よりも巨大なコンピュータができあがれば、「知性」を持った人工知能が生まれることも現実に起こりうると思います。

人工知能が代替するのは「知的労働」

「知能」という点では人工知能は人間を超えつつあり、近い将来には人工知能に代替される仕事が出てくることは明らかだ。一般的には単純労働から置き換わっていくのではと思われがちだが、山本氏によれば、「むしろ人工知能が活躍しやすいのは知的労働」だという。

山本:

人工知能にとって簡単なことと、人間にとって簡単なことは違います。プロ棋士のことを単純労働者と言う人はいないと思いますが、コンピュータにしてみれば将棋で勝つことは簡単なことです。 一方で、人間が簡単にできても人工知能にとっては大変な仕事もあります。例えば、ホテルのベッドシーツを交換するという仕事。狭い隙間に入って、適切なシーツを選び、ベッドにかけて、シワを伸ばす。この複雑な動きを人工知能を搭載したハードウェア型のロボットで実現しようとしたら、開発費がいくらあっても足りません。
つまり、人間は「知性」を持っている点も含めて非常に優れているんです。にも関わらず時給1,000円でいろいろなことをやってくれます。人間の人件費が安すぎるんですね。こうした仕事を人工知能を搭載したロボットに代替させるのは、経済的な点からも厳しいでしょう。
人工知能が力を発揮する分野は単純労働よりも、むしろ知的労働のほうです。物理的な接点が少なくて、かつ仕事の単価が高い分野で、人工知能の導入が進んでいくと思います。

データが多く、学習する回数が多いほどに人工知能は成長していく。「PONANZA」はこれまでに8,000億回以上の対局をシミュレーション、学習しているが、人間がこの対局数を行うのはまず不可能だ。ロボットの場合も同様に、実際に対局を行うとなると、物理的に壊れてしまう。人工知能は膨大なデータがあり、物理的な制約を受けない分野で活躍しやすい。現在特に人工知能の活躍が期待されるのが、金融業界と医療業界だ。

山本:

金融業界ではすでに人工知能を導入したアルゴリズムトレードが活用されています。ロボットがいなくて、仕事の単価が高い金融業界は、人工知能の活躍が期待される分野です。
また、画像を見て分析する仕事も人工知能が得意とする分野です。例えば、医師が行う診断。画像を見て判定する能力は、すでに人間よりも人工知能のほうがはるかに上回っています。赤外線などのデータも読み込ませてMRIやレントゲンの画像を合成して判断することで、人間よりも正確ですばやい診断が可能になるはずです。

人工知能時代、企業は愛のあるデータの取り方を

人工知能が学習するデータが増え、それを活用する技術が洗練されていくことで、近い将来シンギュラリティは起こりえる。では、今後、人工知能を効果的に活用して生産性を上げていくために、企業はどのような対応をしていくべきなのだろうか?

山本:

人工知能を成長させるためには学習させるための膨大なデータが必要です。しかし、「とりあえずデータを取っておけばいいだろう」といった対応では、人工知能に取り込む適切なデータを抽出するのに手間がかかってしまいます。愛のあるデータの取り方がされていないと、処理が大変なんです。実際、データサイエンティストは多くの時間をデータクレンジングに費やしています。
大事なのは、どのような目的で、どのように設計されているデータかがわかりやすいこと。そして、使いやすい状態にパッケージされていること。愛のあるデータの取り方がされていれば、人工知能への活用もスムーズに進んでいくと思います。

データの取り方のみならず、事業のどの部分で人工知能を活用するかを考えることも、企業にとっては避けては通れない。例えば、ディープマインド社は「アルファ碁」でプロ棋士に勝利し、ある種の神話を作った。そして、今後はさまざまな分野で人工知能技術を応用していくとみられる。これに限らず、加速度的に人工知能が成長して普及していくことが明らかな中で、企業も自分たちの事業に合わせた人工知能の活用方法を検討していくことが求められるだろう。

山本:

人工知能の活用は、大企業に限らず、中小企業でも検討が必要な時代になってくると思います。同じような対応の知的判断が繰り返されているところを事業のドメインで見つけていくことが必要です。

人工知能を使うことを目的にするのではなく、人工知能を使って何をしたいのかを明確にすることが大事だと言えそうだ。

人工知能は怖くない

人工知能が人間よりも賢くなったとき、私たちの働き方はどうなるのだろうか。一部の仕事はなくなるかもしれないし、人間は働かない時代になるかもしれない。どんな未来になるかはわからないが、何かしらの変化が訪れるのは間違いない。そんな中、人工知能が人間を追い抜かそうとすることに恐怖を抱く人もいるだろう。しかし、そもそも人工知能は本当に怖い存在なのだろうか。

山本:

シンギュラリティが来ることを人間が怖がる理由は、価値観の変容を強制されるからです。人間は知的世界において自分たちが中心だと思っています。しかし今、人工知能の登場によって自分たちの知能というのは相対的なものにすぎないということに気付き始めました。
2013年に「PONANZA」が初めてプロ棋士に勝ったとき、まるでお葬式のような雰囲気になったのを覚えています。将棋界においてプロ棋士が最強であるという神話が崩れ去り、人間よりもコンピュータのほうがはるかに強いという新しい価値観を突きつけられたのです。しかし5年経った今、コンピュータが人間よりも強いことにみんな慣れてしまい、当たり前のものとして受け入れています。わずか数年で価値観が大きく変容したのです。
将棋界で起きたのと同じようなことを、近い将来人類も経験することになるでしょう。
人間のいいところは、過去をすぐに忘れて、今を肯定できることです。今はシンギュラリティが怖いと思っていても、その時が来たら私たち人間は受け入れて、すぐに慣れてしまうと思います。

シンギュラリティが来ると言われているのが2045年。「労働の大部分を人工知能が行うようになって生産性が上がれば、ベーシックインカムで働かなくても毎月50万円が自分の口座に振り込まれるといった夢のような世界が来るかもしれない」と山本氏。しかし、そうなったときに、人は労働の代わりに何をすればいいのだろうか。

山本:

みんな「長時間働きたくない」と言っているのに、一方で「AIに仕事を奪われるのはいやだ」と言うんですよね。シンギュラリティが訪れたとしたら、その時はその時で私たちは今とは違う新しい価値観をもっていると思いますし、労働とは違う時間の過ごし方を発明しているはず。それに、人工知能が提案してくれる余暇は、もしかしたらたまらなく楽しいんじゃないかなと思います。

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