自社内でのAI活用を推進するソフトバンクでは早くから「IBM Watson」を導入し、実用化を進めてきました。営業メンバーの業務効率化をサポートするRPA推進課では、2020年4月、コロナ禍によるZoom一斉導入をきっかけに、AI文字起こしソリューションを導入。会議の議事録自動作成の活用を中心に、ユニバーサルな働き方への対応や、営業スキル向上などプラスアルファの効果も期待しています。
ソフトバンク株式会社
コンシューマ事業統括
営業第二本部 推進部 RPA推進課
中村 三詞郎(課長)
ソフトバンク株式会社
コンシューマ事業統括
営業第二本部 推進部 RPA推進課
三厨 酉子
RPA推進課では、RPAやAIを活用した営業メンバーの業務効率化をミッションとしています。すでにNLC(Natural Language Classifier)によるメールの自動分類や、確認や督促などの電話を自動でかけるAIオートコールを導入し、活用を進めてきました。そのなかで、次にフォーカスしたのが会議の議事録作成です。営業メンバーは400名近く、それぞれ毎日、数時間の会議に参加します。会議は必ず議事録を残すため、参加者が会議に参加しながら議事録を作成するほか、議事録作成のためだけにメンバーをアサインするケースもありました。
こうしたなか、コロナ禍でテレワーク導入が進み、2020年4月にはWeb会議ツール「Zoom」を一斉導入しました。
「これまでは全会議で音声を録音しているわけではありませんでしたが、Zoom導入によりWeb会議を録画し、議事録作成のための音声を確保できるようになりました(三厨氏)」
日常的にマスクをつけるようになったことの弊害もありました。
「聴覚障害があるメンバーが口元を見られず、会議の内容を理解できないという課題も出てきました(中村氏)」
自動文字起こしを活用すれば、会議中にリアルタイムで字幕を表示することも可能です。社内で提供している文字起こしソリューションを活用できるのではと、中村氏はAI部門に相談しました。
導入にあたって配慮したのが操作性です。文字起こしソリューションを利用するには、Zoomとは別に専用ソフトウェアを起動する必要がありました。「Zoom自体も導入したばかりで、わざわざ2つ起動して両方を操作するのはハードルが高いと感じました。そこで、Zoomからボタンひとつで文字起こしソリューションでの録音・自動文字起こしまでできるようカスタマイズしてもらいました」Zoomに文字起こしソリューションを組み込んだ形です。
事前に単語などの学習をせずに、いきなり使い始めたこともあり、最初のころは精度が上がりませんでした。
「最初はあまり使いものにならない状態でしたが、認識されなかった単語を登録することで、目に見えて改善していきました(三厨氏)」
AIの文字起こしでは、たとえば「ミドリさん」という人の話でも、色の「緑」だと認識してしまうと、後続の文章が色の話だという前提で構成されてしまい、文章全体の意味が通じにくくなってしまいます。人名や地名、社内での略語などを登録するだけでも、かなりの改善が見込めると言います。
「特に社内用語は顕著で、自社名(ソフトバンク)を『S(エス)』と呼ぶことが多いのですが、これを登録するだけでも大きく改善しました(三厨氏)」
毎日実施する5~10分ほどの朝礼を文字起こしにかけ、単語入力を積み重ねることで、半年ほどで十分使えると感じるほどになったと言います。
もうひとつ課題となったのが集音です。Web会議では、人によって話している環境が異なりますが、広い部屋での話し声や、マイクから遠い人の声はどうしても認識精度が下がります。
「なるべくイヤホンマイクを使ってほしいと依頼していたのですが、最初は浸透せず、文字起こしも精度が上がりませんでした。偶然ですが、途中で、高品質なイヤホンマイクが流行し、利用者が増えたところ、正確性も大きく向上し、集音の重要性を改めて感じました(三厨氏)」
セミナーのようなだれかひとりが話す会議だけでなく、ブレインストーミングのような複数人が話す会議でも、イヤホンマイクなどにより集音の精度を上げることで、言葉をきちんと拾えるようになりました。
現在は、議事録作成の機会が多いメンバーを中心に、1割ほどにアカウントを発行。今後は、全メンバーへの展開を進める予定で、会議の議事録作成時間が短縮されれば、相当な効果を期待できます。
「我々の反省点ですが、最初にあまりAIを学習させないまま導入してしまったため、精度の低さに違和感を持ったまま、使っていないメンバーもいます。今後は、精度改善の周知・啓蒙といった取り組みも進める予定です(三厨氏)」
録画データをあとから文字起こしし、テキストデータ化する方法が中心ですが、会議へのリアルタイム字幕も活用しています。字幕は聴覚障害があるメンバーへのフォローだけでなく、移動中で音を出せないといった際にも有効ではないかと考えています。
AI文字起こしソリューションに期待するのは業務効率化だけではありません。
「AIで文字起こしをしていると、ハキハキと相手に聞きやすい話し方かどうかが精度に影響しているように感じます。導入前に、プロのナレーターの音声で試したところ、一語一句正確に文字起こしされ驚きました。これを社員の話し方の指標にできるのではないかと考えています(三厨氏)」
実際、優秀なクルー(販売スタッフ)はAIの認識精度も高いと言います。今後はWeb会議での営業・商談の機会が増えることが予想され、相手に聞き取りやすい話し方がますます重要になっていくでしょう。
「“with AI”時代がやってくるなかで、文字起こしの精度をひとつの指標として活用できるのではないかと考えています(三厨氏)」
さらに、ダイバーシティにもつながっていきます。
「聴覚障害のあるメンバーにも積極的に会議に参加してほしいと考えたときに、AI文字起こしで参加しやすくなる環境が用意されていることで、チームに受け入れられていると感じられるでしょう。働き方の多様性に加え、チームビルディングへの効果も期待しています(中村氏)」
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