概要
福井県では、職員の柔軟な働き方を実現するため、電話環境のクラウド化を実施しました。従来は固定電話が前提であったため、テレワーク中であっても電話対応で出勤が必要になるなど、物理的な制約が働き方改革の障壁となっていました。そこで同県は、既存の Microsoft Teams 環境と高い親和性を持つ外線電話サービス「UniTalk」を導入。PCやスマートフォンで外線・内線対応を完結させ、単なる電話システムの刷新にとどまらないワークスタイルの変革を実現しました。その結果、人事異動時の電話設備等の移設工事にかかるコストを従来の約25%に削減。柔軟かつ機動的な組織運営を支える基盤となっています。
課題
- 固定電話があるために、テレワーク中も電話取り次ぎのための出勤が必要となり、「場所の制約」が働き方改革のボトルネックになっていた。
- 人事異動のたびに発生する物理的な配線工事や回線情報の精査に多大な時間とコストを要し、機動的な組織改編やワークスタイルの変革を阻む要因となっていた。
- 「UniTalk」の導入により、自宅や出張先でもPCやスマートフォンで電話対応が可能になり、物理的な制約が解消された。
- 設定変更がクラウド上で完結し、外部業者への発注や工事が不要に。本庁の電話機の移設コストを従来の約25%に削減しつつ、組織の動きに即応できる体制を実現した。
定量的な数値効果
導入サービス
働き方改革を阻む「固定電話」の壁
デジタルを活用した柔軟な働き方を推進する福井県では、令和2年度から在宅勤務制度の取り入れや Microsoft 365 を活用したチャットや資料の共同編集などのコミュニケーションの活性化を進めてきました。しかし、実務の現場では依然として「固定電話」が大きな障壁となっていたと、人事課の河合氏は語ります。
「従来は座席固定かつ固定電話が当たり前でした。テレワークをしていても、外線や代表電話は庁舎のデスクにいる職員しか取れず、電話対応のためにわざわざ出勤したり、担当者が庁舎内にいないときに県民の方とのコミュニケーションにタイムラグが生じたりと、非効率な場面が多く見られました。この『場所の制約』を解消し、真に柔軟な働き方を実現することが、電話環境刷新の最大の目的でした」(河合氏)
また、場所の制約に加え、人事異動に伴う物理的な運用コストも課題となっていました。DX推進課の岩堀氏は次のように振り返ります。
「福井県では毎年大規模な人事異動がありますが、そのたびに工事業者を呼んで座席の電話配線を組み替える必要がありました。多額の費用がかかるだけでなく、発注から完了まで数週間を要するため、機動的な組織運営の妨げになっていたのです」(岩堀氏)
最も重要なのはコストではなく「働き方」
検討の出発点は、単なる電話機の更新ではなく「場所や特定の端末に縛られない仕組み」の構築でした。当初はPHSなどの導入も選択肢にあがりましたが、全職員に専用端末を配布・管理することの負担が大きく、できるだけ既存環境を生かす方針が採られました。
「私たちが最優先したのは、あくまでワークスタイルを柔軟に変えていくことです。働き方改革を推進し、職員がより働きやすい職場環境を構築することが一貫した目的でした。コスト削減については、その理想の働き方を追求する中で『クラウド化によって、これまでの物理的な電話運用コストも軽減できるのではないか』という議論が付随して出てきたという側面が強いです」(河合氏)
Teams との親和性が決め手に
「電話環境のクラウド化を検討する中で、ソフトバンクさんから解決策として紹介されたのが『UniTalk』でした。すでに全庁で活用していた Microsoft 365 ( Microsoft Teams :以下、Teams )とシームレスに連携できるUniTalkは、同県にとって最も自然で合理的な選択肢となりました」(河合氏)
UniTalkは、Teamsの画面上で外線電話の発着信を可能にするクラウド電話サービスです。インターネット回線を通じて音声をやり取りするため、従来の電話線に縛られない柔軟な運用ができる一方で、ネットワークの混雑や通信障害といった外部環境の影響を受けやすいという側面も併せ持っています。UniTalkに決めた理由をDX推進課の岩堀氏は次のように語ります。
「UniTalkの導入を決めたのは、既存の電話番号をそのままにクラウド電話に移行できるためです。電話番号の変更が必要ないため、業務への影響を最小限に抑えて移行を進めることが可能になりました。また、UniTalkの電話機能を利用するためにはTeams Phoneのライセンスが必要です。令和4年まではE3に追加でTeams Phoneのライセンスを購入していましたが、E3購入の契約満了に合わせて、令和5年にTeams Phoneのライセンスが含まれるE5にアップグレードしました。セキュリティ強化など電話以外の機能も包括的に利用できるため、総合的なコストパフォーマンスを評価しています。」(岩堀氏)
一方で、行政機関として不可欠なBCP(事業継続計画)の観点から、慎重な検討も行われました。
「大規模災害などによるネットワークの混雑や通信障害といった外部環境の影響を受けやすいリスクを考慮し、全ての電話機能をクラウド型へ移行するのではなく、あえて従来の物理的な電話回線と固定電話機も一部残しています。利便性と安全性のバランスを追求した『ハイブリッド型』の運用を採用しています」(河合氏)
緻密な情報整理と手厚いフォローが円滑な切り替えの要
導入プロセスでは、既存の電話交換機(PBX)で管理されてきた膨大な回線情報の整理という「技術的ハードル」と、全庁的なマインドセットの転換という「運用的ハードル」の両面からアプローチを行いました。
「移行には既存の電話交換機についての情報をソフトバンクに提出する必要があったため、請求情報を元に固定電話の管理、支払いを担当している部署へ問い合わせを行うなど、移行前の棚卸しには工数がかかりました。また、電話機の管理管轄が複数の課にまたがっていたため、部門横断的な調整も不可欠でした。しかし、この機会に情報を整理しきったことで、クラウド移行への土台が整いました」(岩堀氏)
本番導入にあたっては、着実なステップを踏みました。令和2年度にDX推進課の約100IDで先行導入して品質を検証し、翌年度のモデル所属での試行を経てフリーアドレス化に合わせ順次導入し、令和6年度には本庁舎の8割の所属(約63所属)まで拡大していったのです。
実務プロセスにおいては、地元ベンダー企業にサポートをしてもらいつつ、職員が「 Teams で外線をかける」といった新しい環境にスムーズに適応できるよう、現場に近い目線でのフォローも徹底されました。
「各職場の担当者を集めて説明会を開催したほか、切り替え当日も地元ベンダーさんに各フロアで現地サポート体制を敷いていただいたおかげで、大きな混乱はありませんでした。 Teams という使い慣れたツールをベースにしたUniTalkの利便性と、地元ベンダーさんによる手厚い現地フォローという組み合わせがあったからこそ、職員も年代を問わず、新しい仕組みをスムーズに受け入れることができたのだと感じています」(河合氏)
Microsoft Intune 活用で実現した安全な個人スマートフォンの活用
場所を選ばない働き方を支えるデバイスとして、職員が所有するスマートフォン※1の業務利用(BYOD※2)も許可されています。
「自治体として懸念されるセキュリティ面については、Microsoft Intune を導入することで万全の対策を講じました。仕事用とプライベート用の領域を完全に分離し、業務データのコピー&ペースト制限や、紛失時は業務領域のみをリモート消去するといった対応を可能にしています。これにより、職員のプライバシーを尊重しながら、行政情報の漏えいを確実に防ぐ安全なモバイル環境を実現しました」(岩堀氏)
※2 BYOD(Bring Your Own Device):個人で所有するスマートフォン・タブレット・PCなどの端末を業務で利用すること。ヘッドセットで外線通話が可能。両手が空くのでPC操作をしながらの通話もできます。
移設コストは約25%に減少、ストレスフリーな連携を実現
UniTalkの導入により、定量・定性の両面で劇的な変化が表れています。
「フリーアドレスとUniTalkの導入で固定電話と内線番号を大幅に減らすことができました。その影響もあり、本庁分だけでも人事異動時の移設工事費が従来の約25%に減少しました。しかし、それ以上に大きいのは『時間の削減』です。これまでは外部業者へ移設工事を発注してから作業完了まで数週間を要していましたが、今はクラウド上の設定変更だけで即座に対応できます。物理的な制約に縛られることなく、組織の改編に合わせたスピード感のある運用が可能になりました。
また定性的な面では、職員はPCとヘッドセット、あるいは個人のスマートフォンといった取り回しの良いツールを使って Teams アプリで通話を行うため、会議室や出張先でも庁内電話に対応できるようになりました」(岩堀氏)
業務の進め方も、より洗練されたものへと進化しました。
「 Teams のステータス表示で相手が対応可能か確認してから、チャットで『今、外線を転送していいですか?』と打診した上で回せるようになりました。以前のような不在を前提とした取り次ぎがなくなり、非常にストレスフリーなコミュニケーションが実現しています。
さらに、一つの代表番号で同時に最大6通話程度が可能になったことも大きなメリットです。窓口業務の多い出先機関からは『フリーアドレス化と同時平行ではなく、UniTalkを優先して導入してほしい』という要望が出るほど、現場の支持を得ています」(河合氏)
自治体特有の課題解決とさらなる進化
今後は、本庁舎での成功モデルを県内約100カ所の出先機関へと広げていく計画です。
「特に出先機関は業務内容が多岐にわたるため、それぞれの職場の意向や業務実態を調査しながら、どこにいても柔軟に働ける環境を広げていきたいと考えています」(河合氏)
「技術的な課題としては、複数地域に出先機関を配置している自治体ならではのルールに基づく運用上の工夫が必要であると思っています。当庁には、複数出先機関がありますが、別地域の市外局番の電話番号を他拠点で使用することができない制約があり、各拠点ごとに割り当てている番号を管理する必要があります。人事異動時にスムーズに移行できる仕組みを期待しています」(岩堀氏)
さらに、昨今社会問題となっている「カスタマーハラスメント」への対策として、通話録音機能の強化にも強い関心を寄せています。
「行政として県民の皆さまの声を大切にしながら、職員が安心して業務に取り組める環境を整備することも重要だと考えています。新たな機能付与には技術的な検証が必要です。DX推進課と連携しながら、これからも現場のニーズに寄り添った取り組みを進めていきたいと考えています」(河合氏)
行政事務のデジタル化を牽引する福井県の挑戦は、電話環境の刷新という強固な土台を得て、さらなる高みへと続いていきます。
お話をうかがった方
福井県 総務部 人事課
行政経営・人材マネジメント室 企画主査
河合 義文 氏
デジタル県庁グループ 主事
岩堀 涼華 氏
掲載内容は2026年4月現在のものです。
本事例での導入サービス
UniTalk
Microsoft Teams から0ABJ番号(03や06など)での発着信を可能にするクラウド電話サービス。PC、スマートフォン、タブレットなどマルチデバイスに対応し、固定電話機に縛られない働き方を実現します。