2026.5
「太陽光のゼロ円設置」を加速 住宅用PPAの普及を支える遠隔監視・運用の仕組みとは
本導入事例は、ASCII.jp(株式会社角川アスキー総合研究所)に掲載された記事をもとに、ソフトバンクにて一部箇所を追記の上、再編集したものです。元記事:https://ascii.jp/elem/000/004/370/4370726/ 文:大塚昭彦/TECH.ASCII.jp
概要
日本の太陽光発電市場において、これから急速な拡大が期待されるのが「住宅用PPA(Power Purchase Agreement)」のビジネスだ。“初期費用ゼロ”で自宅に太陽光設備を設置できる住宅用PPAは、家主の経済的負担を軽減するとともに太陽光発電の普及を加速させる新たなモデルであり、2030年には年間9万軒規模の導入が見込まれている。
この住宅向けPPAビジネスを展開する事業者に欠かせないのが、各家庭の発電量や消費電力を正確に把握し、課金するためのEMS(エネルギー管理システム)とスマートメーター、そして両者の間をつなぐ通信回線である。ただし、このビジネスは10年、20年をかけて収益を上げていくモデルであり、導入コストも運用コストも低く抑えなければ成り立たない。
その課題解決に取り組むため、PPA事業者向けサービスを提供するエナジー・ソリューションズでは、あすかソリューション製の多機能で高信頼なスマートメーターと、ソフトバンクがアジア太平洋地域で独占販売パートナーとして取り扱う、プリペイド型のIoTプラットフォーム「1NCE(ワンス) IoTフラットレート」を採用した。
今回はエナジー・ソリューションズ 代表取締役社長の森上寿生氏、あすかソリューション 技術顧問の西川弘記氏に、急拡大が見込まれる住宅用PPA市場の課題、両社ソリューションの強み、そして1NCEの採用で得られたメリットをうかがった。
課題
- 住宅用PPAは10〜20年という長期間で投資を回収するビジネスモデルであり、数万軒規模の展開を見据えると、従来の月額課金制SIMでは通信ランニングコストが収益を大きく圧迫していた。
- 設置環境が多様な一般住宅では、単一キャリアでは通信圏外となるリスクがあった。また、屋外設置のメーターにおいて、振動や温湿度変化による物理SIMの接触不良や経年劣化を防ぐ必要があった。
- 10年間追加料金なしのプリペイド型「1NCE」の採用により、月額基本料を撤廃。通信コストを大幅に抑えることで、大規模な管理・運用においても高い収益性と価格競争力を確保した。
- 日本国内のマルチキャリア対応により、設置場所を問わない安定接続を実現。さらにチップ型のeSIMを採用することで、20年の長期運用に耐えうる物理的堅牢性を高め、メンテナンスコストの最小化に成功した。
導入サービス
“初期費用ゼロ”の太陽光設備導入、急拡大が見込まれる「住宅用PPA」
住宅用PPAは、PPA事業者が導入コストを負担して一般住宅に太陽光設備を設置し、発電した電力を家主や電力会社に売る(売電する)ことで、10年、20年単位で長期的に導入コストを回収し、利益を得るビジネスである。
“初期費用ゼロ”の太陽光設備導入を可能にする「住宅用PPA」の仕組み
住宅用PPAが注目される背景には、社会の脱炭素化を目指す政府や自治体の動きがある。政府では、2030年までに新築戸建住宅の約60%に太陽光発電設備を設置することを目標に掲げている。また、東京都、京都府、川崎市などでは、新築住宅への設置が義務化され、この動きは今後、全国に拡大していくものと見られている。
しかし、住宅への太陽光設備の導入には、1戸あたり平均で200万円程度がかかるという(太陽光パネルと蓄電池をセット導入した場合)。家主としては、住宅のコストに太陽光設備のコストまで上積みされるのでは負担が重い。そこで、導入コストをゼロにする方法として、住宅用PPAへの注目が集まっているわけだ。
実際に、国内の住宅用PPA市場はこれから急速に拡大していく見込みだと、エナジー・ソリューションズの森上氏は説明する。
「日本では、1年間で約25万軒の住宅が新築されます。2030年には、そのうちの60%に太陽光設備が設置され、さらにその60%が住宅用PPAを採用すると予想されています。つまり住宅用PPAは、2030年には年間で9万軒程度の市場規模になります。ハウスメーカーがPPA事業者とタイアップ(協業)する動きも始まっており、2030年以降の市場はさらに拡大していくでしょう」(森上氏)
エナジー・ソリューションズ 代表取締役社長の森上寿生氏
住宅用PPA向けEMSサービスを開始、その実現に不可欠だったスマートメーター
森上氏が2010年に設立したエナジー・ソリューションズでは、設立当初から「脱炭素社会の実現」をテーマに掲げ、再生可能エネルギーの拡大に向けたエネルギー業界向けITソリューションを提供してきた。
同社では、2012年から太陽光発電所向けEMSサービス「ソーラーモニター」を提供しているほか、オフグリッド(自家消費太陽光発電)向け、系統蓄電池向けなどのEMSサービスも展開しており、この分野では高い実績を持つ。
そして、これからの市場拡大を見据え、2021年に提供を始めたのが住宅用PPA事業者向けの「ソーラーモニターオフグリッド for MAスマートメーター」である。このサービスでは、あすかソリューションが開発した「MAスマートメーター」が採用されている。
あすかソリューションの「MAスマートメーター」(写真はカバーを外したところ)
森上氏は「このスマートメーターがなかったら、サービスは実現していませんでした」と、MAスマートメーターを高く評価する。なぜこれが不可欠だったのか。それは、このスマートメーターが“1台4役”の優れた機能を持つからだ。
住宅用PPA事業者が契約住戸や電力会社へ売電するためには、太陽光による発電量だけでなく、「住宅が自家消費した電力量」や「電力会社に売った電力量(売電量)・買った電力量(買電量)」も正確に把握しなければならない。
こうしたデータを1台でまとめて取得できるのが、MAスマートメーターの特長だ。あすかソリューションの西川氏は、次のように説明する。
「一般的なスマートメーターは買電量しか扱えませんが、MAスマートメーターでは、発電量・売電量・買電量のデータをまとめて把握し、サーバーに一括送信できます。自家消費した電力量は発電量から売電量を差し引けば分かりますから、PPA事業者は課金スキームを実現できます。当社はこの仕組みで特許を取得しています」(西川氏)
あすかソリューション 技術顧問/パワーメッシュ 代表の西川 弘記 氏
さらにMAスマートメーターは、太陽光設備に必須のパワーコンディショナー(直流/交流変換装置)の遠隔監視機能や、通信モジュールも本体に内蔵している。つまり、住宅用PPAで必要な機能が、この1台だけですべてそろうわけだ。複数のメーターや通信機器を組み合わせるよりも低コストであり、工事やメンテナンスも簡単になる。
MAスマートメーターは太陽光による発電量を計測するとともに、電力会社のスマートメーターからBルート情報(売電量/買電量)を取得し、モバイル回線経由でそれらをサーバーに一括送信できる(画像提供:エナジー・ソリューションズ)
他の国内MVNO SIMから1NCEのIoT SIMに乗り換え、その理由は
このMAスマートメーターに内蔵されているのが、1NCE IoTフラットレートのIoT向けチップ型SIM(eSIM)である。
1NCEはIoT向けの通信機能を含むプラットフォームサービスであり、プリペイド(一括払い)方式でSIMを購入すれば、月々の基本料や通信料は発生せず、最大10年間、500MBまでのIoTデータ通信ができる。しかも、価格は1枚あたり2000円+SIMカード代(税抜)と安価だ。
実は、エナジー・ソリューションズでは従来、他の国内MVNOが提供するIoT向けSIMを利用してきた。それがなぜ、今回は1NCEを選択したのか。森上氏は、大きく2つの理由を挙げた。
一つは「通信コスト」だ。住宅用PPAビジネスでは、運用コストをできる限り抑えなければならない。1軒あたり毎月数百円でも、10年、20年の運用期間全体で、なおかつ数万軒の規模になれば、トータルでは非常に大きな額になる。エナジー・ソリューションズのEMSサービスには通信料金も含まれているため、通信コストを抑えられれば優位性につながる。
「従来のSIMは毎月一定額の契約でしたが、サービス運用費全体の中で、その通信費がかなり高い割合を占めていました。これを1NCEに変えたことで、通信費は大幅に安くなりました」(森上氏)
もう一つの問題は「シングルキャリア」である。従来利用してきたSIMでは、1つのキャリアしか使えなかった。一方で、1NCEは日本を含む多くのエリアでマルチキャリアに対応している。
「そもそも住宅に設置するものですから、つながらないケースはまれです。それでも、万が一電波が届かずつながらない場合、シングルキャリアだとほかのキャリアに切り替えられず“お手上げ”になってしまいます」(森上氏)
チップ型SIM(eSIM)、追加コストなしの海外ローミングもメリット
1NCEの採用は、ほかにも多くのメリットをもたらしている。
住宅用PPA向けのスマートメーターには、メンテナンスコストを抑えるために、長期にわたって故障しない信頼性が求められる。西川氏によると、MAスマートメーターは「20年の運用期間で故障率0.5%以内」という基準で設計されており、実際の製品ではさらに高い「故障率0.1%未満」の信頼性を実現しているという。
1NCEのラインアップからチップ型SIM(eSIM)を採用したのも、長期間利用する際の信頼性を高めるためだ。両氏のこれまでの経験上、スロットにカードを差し込むタイプの物理SIMは、20年という長期で見ると「よく壊れる」という。
「屋外に長期間設置される製品ですから、振動、温度、湿度など、さまざまな故障要因があります。(基板上にチップを固定する)eSIMにすれば、ポッティング樹脂を充填して基板まですべて固めてしまうこともできますから、信頼性がものすごく上がります」(西川氏)
eSIMの組み込みに関しては、ソフトバンクのIoTチームからの技術サポートも受けた。開発拠点は海外だったが、技術的な相談やアドバイスをソフトバンクから得ながら進められたため「とてもスムーズでした」と振り返る。
1NCEが追加コストなしで海外ローミング(世界170カ国・地域以上)に対応していることも、オペレーションコストを軽減する効果をもたらしているという。従来は、海外の工場からスマートメーターが届いた段階で、1台ずつ日本のキャリアSIMを挿入して、検品作業を行う必要があった。
「現在は、海外の工場でeSIMを組み込んだらアクティベートして、動作検証まで行った状態で出荷されます。日本に輸入されたら、もう通信ができる状態になっていますので、すぐに検品ができます。かつては大変だった工程が、かなり簡素化されました」(森上氏)
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エナジー・ソリューションズの顧客である住宅用PPA事業者の中には、すでに1万軒を超える契約を持つ事業者も出てきているという。これから市場が拡大すれば、10万軒、20万軒規模での管理と運用も必要になるはずだ。事業者には、これまで以上に「運用コスト」の課題が重くのしかかることになる。
森上氏は「10万軒、20万軒の規模になったとき、いかに効率良く運用ができるのかが鍵です。われわれのEMSサービスも機能追加を進めていきます」と語った。管理効率の良いエナジー・ソリューションズのEMSサービス、信頼性の高いあすかソリューションのスマートメーター、そしてコストパフォーマンスの高い1NCEのIoT SIMが、太陽光発電の普及期という新たなステージの実現を支えることになるだろう。
掲載内容は2026年4月現在のものです。
本事例での導入サービス
1NCE IoTフラットレート
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