カルビー株式会社 生成AIコンサルティング事例

2026.6

独自の生成AI環境を構築して全社展開。
現場の声を拾い上げ、全従業員の標準ツールに

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概要

ポテトチップスやシリアルなどの製造・販売を手掛ける大手食品メーカーであるカルビー株式会社(以下、カルビー)。同社は2023年からの生成AIの広がりを背景に、セキュアな環境で利用できる独自AIの開発に着手し、株式会社SI&Cとソフトバンク株式会社の伴走のもと全社共通の生成AI基盤「CAL-GPT」を構築しました。これを活用し、人事総務部門の問い合わせ対応の効率化や工場現場での外国人就労者への翻訳対応といったさまざまな課題を解決。全国の事業所に直接足を運びながら現場の声を拾い上げ、業務効率化や新たなコミュニケーションを生み出すなど、全従業員の標準ツール化に向けた生成AIの定着化を着実に進めています。

課題

  • パブリックな生成AIではセキュリティの懸念から社内文書を検索する仕組み(RAG※1)が構築できず、現場の業務で使えなかった。また、活用イメージが湧きにくいという定着化の壁もあった。
  • 人事総務部門において、異動の時期などの特定期間に全国から問い合わせが殺到し、対応に追われて本来のコア業務が圧迫される状況が発生していた。
  • 安全に社内データを活用できる全社共通の生成AI基盤を構築。さらに全国の事業所を訪問して現場の要望を吸い上げて実装することで、現場主導のAI活用が広がり始めた。
  • 社内規定を学習した独自の生成AIにより、問い合わせ対応の効率化を推進。担当者の負担軽減に加え、従業員が即座に疑問を解消できる体制を整備した。
※1 RAG(Retrieval-Augmented Generation):複数のデータベースから情報を検索・統合し、それをLLMが自然言語として処理を行う技術のこと。
目次
「最初から理想的な結果を求めるのではなく、まずは始めてみることが重要です。一つ一つ課題を潰しながら諦めずにやっていく、そのプロセスの積み重ねこそが最終的に成果につながるのだと考えています」
カルビー株式会社 稲手 信吾 氏
カルビー株式会社 情報システム本部 情報システム部 部長 稲手 信吾 氏

セキュアな全社AI基盤への構想

社会全体で生成AIへの関心が急速に高まった2023年。カルビー社内でも、この技術の波に遅れてはならないという課題意識が共有されていました。法務部門が中心となって生成AIの利用ガイドラインが策定され、従業員に対する安全な活用への啓蒙が始まりましたが、見過ごせない課題がありました。

「2023年当時、『この技術の活用に今すぐ取り組まないと、企業として他社に遅れを取ってしまう』という強い危機感がありました。会社として生成AIの利用を禁止するのではなく、いかに安全に活用していくかという観点から、まずは法務部門と連携して利用ガイドラインを作成し、従業員へ呼びかけました。しかし、一般に公開されている生成AIサービスをそのまま業務で利用することは、社内の機密情報や個人情報の漏えいなど、セキュリティ上の懸念がどうしても払拭できません。そこで、従業員が何も気にすることなく、社内の閉じた環境で安全に使える独自の生成AI環境を構築する必要があると判断しました」(稲手氏)

独自の生成AI環境を構築するにあたり、同社の情報システム本部は、特定の部署だけでなく全社的な利用をスコープとして想定し、二つの方向性を定めました。

「当時我々が目指したのは、大きく二つの系統を持たせることでした。一つは、インターネット検索の延長のように、誰もが日常の業務の中で気軽に使える汎用的なチャットツールとしての機能(一般検索)です。そしてもう一つが、社内に蓄積された膨大な文書や規定をAIに読み込ませ、必要な情報を的確に検索できる仕組み(社内文書検索)、いわゆるRAGの構築でした。この二つを軸に、全社共通のAI基盤を作っていこうと考えました」(稲手氏)

インタビューに応える稲手氏 インタビューに応える稲手氏

伴走パートナーの選定と人事総務部門でのRAG構築

全社共通のAI基盤「CAL-GPT」を構築するプロジェクトを推進するため、技術的なパートナー企業の選定が行われました。

「当時、情報システム本部は10名程度の少人数体制で、生成AIの社内環境を自社単独で構築・運用していくにはリソースもノウハウも不足していました。そのため、システム構築から実運用までしっかりと伴走してくれるパートナーの存在が不可欠と考えて、クラウドサービスや通信インフラの領域において日ごろから取引のあったソフトバンクさんに相談を持ちかけました。そこで、AI実装において高い技術力と実績を持つSI&Cさんをご紹介いただき、三社でのプロジェクトが始動しました」(稲手氏)

この全社基盤の構想のもと、カルビーは各部署から「生成AIで解決したい課題」を募る活動を開始していきました。その中で具体的なユースケースとして挙がったのが、人事総務部門でした。

「社内で開催されたDXカンファレンス※2で、品質保証部門が新しい商品の開発時に発生する膨大なレギュレーションをAIに読み込ませ、効率化しているという先行事例の発表がありました。その発表を聞いた瞬間、『これは人事総務の業務でも応用できる』と確信し、プロジェクトに参画しました」(稲垣氏)

※2 DXカンファレンス:カルビー社内で定期的に開催されている全社向けイベント。需要予測AIの活用や馬鈴薯(ばれいしょ)の生産・調達における「馬鈴薯DX」など、AIやデジタル技術を用いた具体的な業務活用事例が幅広く共有される。

人事総務部門がAI導入を希望した理由には、同部門が抱えていた特定時期における業務集中の課題がありました。

「人事・総務本部は約50名の体制ですが、特に3月から5月にかけては新入社員の受け入れや全社規模の異動が重なり、全国から休みのルールや手続きに関する膨大な問い合わせが集中します。その電話やメール対応に追われ、本来注力すべき業務が圧迫される状況が続いていました。

寄せられる問い合わせには、イントラネットの規定集などを確認すれば解決する定型的な内容も含まれます。これを生成AIで効率化できれば、我々の業務負担軽減はもちろん、従業員側も回答を待つことなく即座に疑問を解消できると考えました」(稲垣氏)

こうして、CAL-GPT基盤上で人事総務の社内規定を読み込ませるRAGの構築がスタートしました。

インタビューに応える稲垣氏 インタビューに応える稲垣氏

現場の声から広がる実践的なAI活用と定着化

人事総務部門のRAG構築が試行錯誤の中で進められる一方、2024年6月には全社共通のAI基盤として「CAL-GPT」の汎用チャット機能などが全従業員に向けて公開されました。しかし、いざ公開してみると、製造や物流などさまざまな現場を持つカルビーならではの壁がありました。

「システムを全社に向けて公開した当初、現場部門からは『具体的にどう自分の業務に活用すれば良いか分からない』という戸惑いの声が多く上がりました。そこで、単にマニュアルを配布したりオンライン会議で説明して済ませるのではなく、全国の事業所に直接足を運びました。計50回以上ワークショップを開催し、AIの基礎やプロンプトの書き方を説明して、実際にAIに触れてもらいながら現場の生の声を聞く活動を徹底しました」(大田氏)

この地道な現場訪問の中から、現場部門の課題を解決する実践的なユースケースが生まれました。

「工場では、海外からの技能実習生をはじめ、多国籍な従業員が多く働いています。そうした現場の担当者から、『安全に関する注意書きや日々の連絡事項などを、PDFのまま現地の言葉に翻訳して掲示したい』という要望が寄せられました。そこで、ファイルを添付するだけで元のレイアウトを保持したまま翻訳され、再びPDFとして出力される機能を追加で実装しました。この機能をリリースしたところ、現場から『業務負荷を軽減でき、言語の異なる従業員とのコミュニケーションにもつながった』という喜びの声が上がり、活用の広がりを実感しました。課題の発見から追加機能の提案・実装まで、若手でも一気通貫で担当できる環境があったからこそ、早期に実現することができました」(大田氏)

こうした現場での定着化活動が実を結び始める中、並行して進められていた人事総務のRAG構築も、開発側との連携によって実運用フェーズへと移行しつつありました。

「当初は人事異動の発令が多くなる2025年1月からの運用を見据え、短期間での実運用開始を想定していました。私もSI&Cさんも慣れない中、両者で諦めることなくトライアンドエラーを繰り返し、助言を受けながら学習させるデータの形式を整えたり、指示の出し方を調整したりと、少しずつ回答の精度を向上させました。結果的におよそ2年をかけて、ようやく実運用に足るレベルへと到達し、2026年1月の異動シーズンには間に合わせることができました」(稲垣氏)

「SI&Cさんには非常に親身に根気強く伴走していただきました。我々情報システム部門が頻繫に間に入らなくても、開発側のエンジニアと業務部門の担当者が直接チャットツールでやりとりを行い、ハルシネーション(AIの誤答)を防ぐための対策を講じてくださりました。新しいサービスを共に作り上げる仲間という意識でプロジェクトを進めることができました」(大田氏)

現在ではさまざまな部門でAI活用が進んでいます。

「グループ会社であるカルビーポテト株式会社では、生産者から馬鈴薯に関する専門的な知識を問われることが多く、これまでは国内外の文献を調べて翻訳するのに多大な時間を要していました。しかしCAL-GPTを導入してからは、参考文献の素早い検索や分析、ファクトチェックが可能になり、業務スピードとクオリティーが大きく向上しました。

また、アイデアの壁打ちや商品説明文の作成など、個人の業務においても頻繫に活用されており、ワークショップ実施後から利用率が減少せず、日常業務への定着が着実に進んでいます」(大田氏)

インタビューに応える大田氏 インタビューに応える大田氏

最初から100点を目指さない。AIを育て、全従業員の標準ツールへ

「技術の移り変わりが激しいAIの分野において、パートナーの協力もあり、安定してプロジェクトを推進することができました」
カルビー株式会社 大田 怜実 氏
カルビー株式会社 情報システム本部 情報システム部 S&OP・IT活用推進課 大田 怜実 氏

同社は、開発プロセスと全社への定着化を推し進める中で、本プロジェクトにおけるパートナー企業の技術力と情報提供力を評価しています。

「CAL-GPTの一般検索は『マルチエージェント構成』という仕組みを採用しています。これはユーザーからの質問内容に応じて、AIが自動で最適なエージェントを割り当てて回答を生成してくれるというものです。こうした構成を早い段階からSI&Cさんが取り入れてくださったことに非常に高い知見を感じました。

また、ソフトバンクさんには、最新のDX・AIトピックをはじめ、AI活用コンテストなどの社内啓蒙活動などの情報を紹介いただいたり、最先端テクノロジーが体験できるExecutive Briefing Centerへご招待いただいたり、継続的なサポートをいただいています。

技術の移り変わりが激しいAIの分野において、パートナーの協力もあり、安定してプロジェクトを推進することができました」(大田氏)

今後のパートナーへの期待として、稲垣氏はより踏み込んだプロジェクトマネジメントと提案の重要性を挙げます。

「AI開発は時間やコストが見えにくいので、『1年でここまで可能』といった現実的なマイルストーンを提示していただけるとありがたいです。それにより、『それなら2年かけてもさらに高度な機能を目指そう』といった期間や投資に対する正確なビジネス判断が可能になります。さらに、我々の目的を踏まえた上で、『別のアプローチの方が最適ではないか』といったコンサルティング視点での提案も期待しています。そうした踏み込んだ支援があれば、我々がAIに挑戦するハードルはさらに下がると感じています」(稲垣氏)

CAL-GPTの全社的な定着化を進める同社は、その先のビジョンを描いています。

「私どもの本部長がよく言っているのですが、『読み・書き・そろばん・生成AI』だと。仕事で普通に使う標準的なツールの一つとして、生成AIをみんなが使えている状態というのが、やはり目指す姿の一つかなと思います」(稲手氏)

「今後はCAL-GPTに『AIエージェント』を組み込んだ機能拡充を行いたいです。RAGを用いた専用アプリもさらに構築し、現場の人間が自らAIをカスタマイズして、カルビーの業務に特化した専属のエージェントを作れる状態が理想です」(大田氏)

最後に、同じく生成AIの活用に取り組む企業の皆さまへ、稲手氏からメッセージをいただきました。

「カルビーは、2019年頃に画像解析AIを用いた原材料の品質チェックの自動化に取り組み、その後も需要予測や馬鈴薯の収量など予測系のAIなどに挑戦してきました。そうした過去の経験則から言えることは、最初から理想的な結果を求めるのではなく、まずは始めてみることが重要だということです。初期段階では思うような結果が出ないこともありますが、一つ一つ課題を潰しながら諦めずにやっていく、そのプロセスの積み重ねこそが最終的に成果につながるのだと考えています」(稲手氏)

現場のリアルな声に耳を傾け、人と技術を共に育てていくカルビーの挑戦。生成AIが全ての従業員にとって「当たり前のツール」となる未来へ向けて、その着実な歩みはこれからも続いていきます。

カルビー株式会社 生成AIコンサルティング事例

お話をうかがった方

カルビー株式会社 稲手 信吾 氏

カルビー株式会社

情報システム本部 情報システム部

部長

稲手 信吾 氏

カルビー株式会社 大田 怜実 氏

カルビー株式会社

情報システム本部 情報システム部 S&OP・IT活用推進課

大田 怜実 氏

カルビー株式会社 稲垣 智高 氏

カルビー株式会社

人事・総務本部 総務・給与部 総務課

課長

稲垣 智高 氏

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