概要
「生成AIが現場に定着しない」という壁に直面する企業は多くあります。そうした中、WordやExcelなど使い慣れたツールと連携して業務を支援する「 Microsoft 365 Copilot 」(以下、M365 Copilot )の利用率において、全世界にあるファイザーの拠点の中でトップクラスを誇るのが同社の日本法人です。同社は1,500人規模を対象とした全社展開において、ソフトバンクの「 Microsoft 365 Copilot 定着化支援サービス」を活用。伴走型の支援により研修の満足度スコア4.3(5段階評価)を達成しました。M365 Copilot を価値創出のパートナーへ昇華させるまでの軌跡に迫ります。
課題
- M365 Copilot 導入に当たって全社員の基礎知識を底上げする一斉研修の仕組みづくりが急務だった。
- 英語資料の解読や、顧客訪問前の情報収集などに多大な時間を要しており、思考する時間が不足していた。
- M365 Copilot の活用を単なる「時短」で終わらせず、新しいビジネス価値を生み出す段階へ引き上げる必要があった。
- ソフトバンクの支援を受けて、業務実態に合わせた研修を約2カ月半で開発し、全社展開した。
- M365 Copilot の翻訳や要約、資料の自動生成により作業が数分で完結。業務負荷が軽減された。
- 「 Copilot Studio 」などを活用したAIエージェント開発が活発化して自律的な組織になりつつある。
導入サービス
西田 陽子 氏
AIを「自分の血となり肉となる」ものへ。全社的な取り組みの背景
ファイザーは、革新的な医薬品やワクチンの研究開発・製造・販売を手掛ける世界的な製薬企業です。約2,700人が在籍する日本法人は、米国のグローバル本社(以下、ニューヨーク本社)と連携しながら日本市場へ医薬品を提供しています。
同社がAI活用のカルチャー醸成を本格化させたのは2023年です。グローバルで「AIチャンピオン」というAI活用の核となるメンバーを各国に置き、社内コミュニティーサイトで事例を発信し合う取り組みが始まりました。ニューヨーク本社の M365 Copilot 導入決定を受け、日本法人でも2024年に本格展開がスタート。現在、日本法人でこのAI推進をリードしているのが、執行役員 デジタル&テクノロジー部門長の西田陽子氏です。
「2026年に入り、ファイザーはグローバルで『AIフルエンシー(AIをDNAに組み込む)』という言葉を掲げました。専門家のツールと捉えられがちだったAIを、社員一人ひとりが自身の武器として使いこなす。つまり、自分事として取り込み『血肉化』する最初のステップが、AIフルエンシーです。日本法人は、個人の能力開発目標の一つとして『AIをどう使いこなすか』を各社員が宣言する仕組みを導入して全社でAIの自分事化を進めています」(西田氏)
このビジョンの下、日本法人は経営戦略「Pfizer Japan 2030」における「生産性とスピードの2倍化」という目標達成に向け、M365 Copilot の全社展開を推進しました。今後もグローバルで、AIフルエンシーを一段上のレベルへ引き上げるための強力なラーニング施策が予定されています。
企業テナントで守られた安全な環境と、セキュリティ意識の醸成
全社展開を進める上で欠かせないのがセキュリティ対応です。M365 Copilot は閉じたテナント内で動作して、入出力データがLLMの学習に使われることはありません。このため、機密情報を日常的に扱う製薬企業にとっても、安心して利用できる基盤が整っています。
こうした安全な環境があるからこそ、Outlook や Teams 、SharePoint などに蓄積された社内データを最大限に利用できます。リアルタイムでの会議要約やタスク整理、メールの返信文自動生成といった便利な機能も、全て安全に利用可能です。
しかし、ツールの安全性だけでは不十分です。クライアントパートナー シニアマネジャーの印田吉宏氏は、社員のセキュリティ意識の醸成が重要だったと強調します。
「ファイザーには、データの機密性に応じたラベリングや取り扱いを定めた情報セキュリティポリシーが存在します。導入初期に実施した部門別のトレーニング(後述)では、この既存ルールをベースにAIでの入出力データの取り扱いをあらためて教育しました。本人の自覚はもちろん、隣のメンバーの取り扱いに危うさを感じた際に声を掛け合えるレベルまで組織の意識を高めなければ、情報漏えいは防げません」(印田氏)
印田 吉宏 氏
「もっと早く知りたかった」――。社長の危機感が生んだ「エッセンシャルトレーニング」
導入当初の2024年は初期検証と位置付け、希望部門ごとに印田氏が個別のトレーニングを実施しました。現場自らROI(投資対効果)を証明して予算を獲得する事例も生まれ、約9割の部門が導入を進める中、全社展開へ舵を切る契機となったのが2025年の五十嵐社長へのトレーニングです。
「五十嵐は自ら受講した際、『これほど業務時間を短縮できるツールをもっと早く知りたかった。使い方を知らないのは会社として大きな損失であり、全社員が最低限の使い方を学べる研修を実施してほしい』と強く M365 Copilot の活用を後押ししました。これを起点に、不可欠な基礎知識を全社員へ届ける取り組みが本格化しました」(印田氏)
こうしてスタートしたのが「エッセンシャルトレーニング」の開発です。1,500人規模への一斉展開と、その後の定着を確実なものにするため、AI定着化支援の実績が豊富なソフトバンクをパートナーに迎えました。自社単独では難しいカリキュラム作成から研修の実施まで、約2カ月半かけて共に進めたのです。
「ニューヨーク本社からも標準の研修コンテンツやプロンプト集は提供されていましたが、日本の実態にフィットしない部分がありました。そこで、ソフトバンクが蓄積してきた実践的なプロンプト集とニューヨーク本社支給のコンテンツを掛け合わせて、日本法人の業務に直結する内容へブラッシュアップしました」(印田氏)
ITの専門家である印田氏らが内製すると、つい技術的な仕組みまで深く教えたくなるという課題もありました。
「ソフトバンクからは、『一般社員が活用するには何をどこまで知る必要があるか』『どこまで踏み込むと置いてきぼりになるか』という客観的なアドバイスを得られました。難し過ぎず実践的になるように、難易度のバランスを取ってくれたことは非常に助かりました」(西田氏)
ニューヨーク本社の方針と日本法人の実情を両立させる難しさについて、西田氏はこう振り返ります。
「グローバルと足並みをそろえて、共通の枠組みを活用するのは大前提でした。その一方で、日本法人での確実な浸透にはローカルに合わせた工夫も不可欠です。ソフトバンクの伴走力が、日本の事情を反映したコンテンツをつくる上で大きな力になりました」(西田氏)
「仕事を奪われる」不安をほぐした、地道なコミュニケーション
全社展開に当たり、現場からはさまざまな反応がありました。導入当初に根強かった「自分の業務がAIに奪われるのでは」という不安に対し、印田氏は一人ひとりとのコミュニケーションを積み重ねました。
「当社は英語資料の解読や英語でのコミュニケーション機会が多くあります。そこに時間を割く社員には『 M365 Copilot は言語の壁を下げる良きアシスタントになる』と伝えました。新しいツールに戸惑う社員には、AI活用でチームが活気づく様子を見せ、自発的にトレーニングへ参加できる環境づくりを意識しました」(印田氏)
こうした地道な働きかけが実を結び、日本法人の利用率が全世界の拠点でトップになったニュースが伝わると、社員の士気は高まりました。さらに、部門ごとの活用状況をグラフで可視化する仕組みも効果を発揮します。利用率がオープンになり、「あの部門に負けないように」と自主的にトレーニングを求める声が上がるなど、社内の雰囲気が一変しました。各部門に推進役となる「 Copilot チャンピオン」や「DXチャンピオン」を配置して、現場から啓発が広がる仕組みも整えました。
西田氏は当時の様子を振り返り、AIフルエンシーを根付かせるには、最初の背中を押すことはもちろん、その後いかに自律的に進められるかが重要だと強調します。
「満足度スコア4.3」の裏側。ソフトバンクと共に回したPDCA
エッセンシャルトレーニングは、4回のセッションに分けて実施されました。全セッションでアンケートを実施して、受講者の反応を基に都度カリキュラムを改善した結果、5段階評価で「満足度スコア4.3」という高水準につながりました。
「毎回フィードバックを反映して、アップデートを重ねることを重視しました。印田をはじめデジタル&テクノロジー部門のメンバー全員が、『 M365 Copilot を皆に根付かせるんだ』という強い思いで臨んでくれました」(西田氏)
この高い満足度を支えたもう一つの要因が、伴走したソフトバンクの存在です。印田氏は、同社が自社グループ数万人の社員に対して M365 Copilot の導入・定着化を実践してきた実績と、質の高い講師陣のサポートを高く評価しています。
「ソフトバンク自身が大規模展開を経験しており、ノウハウを蓄積していることが何より心強かったです。講師陣の話も分かりやすく説得力があり、現実的かつ効果的なカリキュラム作りに貢献してもらいました」(印田氏)
時短から価値創出へ。現場を変えた M365 Copilot の広がり
同社の M365 Copilot 活用は、「時短」から「価値創出」へ移行しつつあります。 Word の企画書骨子作成や PowerPoint のスライド自動生成などが日常業務に溶け込み、資料作成の負荷が大幅に軽減。社員は本来注力すべき「思考やアイデアの創出」に時間を投資できるようになっています。
印田氏が具体的な成果に挙げるのがマーケティング部門の事例です。
「顧客訪問前に、医師の直近の活動や処方実績などの情報をプロンプト1つで収集・分析する仕組みが自発的に構築されていました。多大な時間を要したアプローチの戦略立案からメッセージ作成まで数分で完結しており、現場の実務に不可欠な存在として機能しています」(印田氏)
さらに現場では、「 Copilot Studio 」などを活用した独自のツール開発や社内コンテストも活発です。購買部門は、契約書内容レビューの効率化につながるエージェントを構築し、社内コンテストで1位を獲得。この実用性の高さは海外の購買部門にも紹介されたほどです。
また「ファイザービジネススクール」と呼ばれる社内の人材育成プログラムでは、各部門から参加する社員向けに「壁打ちエージェント」を活用しています。人に質問するのは気が引けるような細かな問いにもAIが丁寧に回答することで、提案の質を高める学習を加速させています。
「自律的に進化する組織」へ。ソフトバンクと描く次なる高み
ファイザー日本法人が目指す次のステージは「自律的な組織」の実現です。西田氏は、ゲーミフィケーションや同社の行動指針「JOY(喜び)」をベースにした施策の検討に触れて、「AIを使おう」と意識しなくても、誰もが楽しみながら自然とAIを使いこなせるカルチャーを育みたいと展望を語ります。
今後のソフトバンクへの期待について、両氏はキャッチアップ支援と他業界の知見インプットを挙げます。
「自社や製薬業界だけに目線が向く“大企業病”に陥らないように、他業種がどのようなカルチャーで M365 Copilot の定着を成功させているのか幅広いベストプラクティスの共有に期待しています。私たちが望む言葉だけでなく、専門的かつ客観的な視点から率直に意見をくれる心強いパートナーとして今後も頼りにしています」(西田氏)
現場の不安に向き合い、粘り強くデジタル変革を推進したファイザー日本法人。M365 Copilot の導入・定着に悩む企業にとって、同社の歩みは確かな道しるべになるはずです。
お話をうかがった方
西田 陽子 氏
印田 吉宏 氏
掲載内容は2026年6月現在のものです。Microsoft 365 Copilot、Microsoft Excel、Word、Copilot Studio、Outlook、Teams、SharePoint は、米国 Microsoft Corporation の米国およびその他の国における登録商標または商標です。
本事例での導入サービス
Microsoft 365 Copilot
Word、Excel、PowerPoint、Outlook、Teams など使い慣れた Microsoft 365 のアプリケーションと生成AIを連携させて、毎日の業務を強力にアシストするサービス。企業ごとの閉じたテナント内で動作して、入力したデータが外部のAI学習に利用されることはないため機密情報を扱う企業でもセキュアな環境で安心して活用できます。
Microsoft 365 Copilot 定着化支援サービス
生成AIや Microsoft 365 Copilot の導入から組織への浸透まで一気通貫でサポートするサービス。「ライセンスを付与したものの使われない」「効果が分からない」といった課題に対して、環境設定から実践的なプロンプトの提供、現場の実情に合わせた研修の実施、アンケートによる効果検証まで伴走して組織のAI定着と価値創出を後押しします。誰でも使いこなせる簡単な操作で、ちょっとした相談やグループでの情報共有、有事の際の安否確認までできるビジネスチャットです。セキュアな環境で社員のコミュニケーションを活性化します。