農薬散布の負担軽減で注目される自動航行ドローンのメリットとは?

2023年3月31日掲載

農薬散布の負担軽減で注目される自動航行ドローンのメリットとは?

長きに渡り、人手不足の解消と業務の効率化が叫ばれてきた農業ですが、近年は農業にロボット技術やICT(情報通信技術)を活用した「スマート農業」が推進されています。その一つとして農業用ドローンの普及拡大が進められており、これを用いて農薬を散布する農家も増えつつあります。
本記事ではドローンを活用して農薬散布をする効果と、自動航行(自動運転)のメリットを紹介します。

目次

ドローンによる農薬散布の効果とは

農業分野での課題の一つに農薬散布があります。これまでは人の手やラジコンヘリなどの無人ヘリコプターなどを利用していたため、労働量や時間、コスト面で大きな負担になっていました。
しかし、ドローンによる農薬散布が登場したことにより、その課題解消に高い効果を上げています。以下に表にまとめました。

課題 / 散布方法
地上散布
無人ヘリでの散布
ドローンでの散布
労働量
かなり多い
少ないが、多くの事前準備が必要
少ない。自動運転でより軽減
労働時間
長時間
少ないが、多くの事前準備が必要
少ない。自動運転でより軽減
コスト
安価
高額
実質的に大幅削減

さらに詳しく説明していきます。

労働時間・量や人手不足の軽減

人が重いタンクを担いで噴射していく「背負式動力噴霧器(動噴)」による地上散布は、作業者に大きな負担がかかるだけでなく、非効率でした。また、無人ヘリコプターは効率は大幅に上がるものの、狭い圃場(ほじょう)への散布が難しいこともあります。業者へ依頼する関係上、散布時期の集中などによって希望する時期に農薬を撒けないなどの課題もありました。
しかし、ドローンを利用することによってそれらの課題は大きく改善されました。自動航行システムを搭載したドローンの場合、設定された飛行ルートに従って自動で農薬を散布します。高度な操縦技術は必要ない上にピンポイントでムラや無駄なく散布ができるため、労働時間や人的負担を抑えられます。

コスト削減

かつて農薬の空中散布として一般的だった無人ヘリコプターは、時間と労力が抑えられるものの、業者への委託費用が高額になるという大きな課題がありました。
ドローンは初期費用こそかかりますが、補助金制度の利用などによって、コストの大幅削減が期待できます。

農薬との接触減少

農薬との接触を減らせるのも大きなメリットの一つです。農業従事者の大半は農産物を安定供給するために農薬を必要な範囲で使用し、農作物を病気や害虫などから守っています。
この農薬は成分や使い方によって人体への安全性に差が出ます。特に人の手で行う地上散布の場合、健康に影響を及ぼさないよう農薬ラベルの使用上の注意に従い、適切な防護装備をして散布作業を行ったとしても作業者が農薬に触れる機会が非常に多くなってしまいます。
農業用ドローンで散布することによって農薬との接触が大幅に減り、健康被害のリスクを抑えられるでしょう。

農薬散布する自動航行ドローンとは

農業用ドローンが普及していることに伴い、近年では自動航行(自動運転)による農薬散布を可能にした高機能な農業用ドローンが登場してきました。自動航行の際に特に注目されるのは、「どれくらい高精度に位置の測定ができるか」です。

農薬散布する自動航行ドローンの場合、位置の測定方法は主に、GPS(全地球測位システム)とRTK(Real Time Kinematic)があります。GPSは自動車のナビゲーションシステムやスマートフォンの位置情報などに利用されているため、身近かもしれません。測定方法は「単独測位」と呼ばれる手法を用いており、単独の受信機でGPSを含む4つ以上の衛星から信号を受信し、各衛星からの距離を測定することで位置を算出しています。
RTKは、「相対測位」と呼ばれる測定方法の一つです。固定局と移動局の2つの受信機を用い、測位衛星から発射される電波の差「搬送波位相」を用いて測定します。2つの受信機と4つの衛星からの信号を受信しズレを修正するため、「単独測位」よりも高精度な位置情報を得られます。

自動航行ドローンでの農薬散布の課題

では、自動航行ドローンでの農薬散布にはどのような課題があるのでしょうか。

初期費用がかかる

農業用ドローンの機体価格は平均100〜300万円が相場とされています。自動航行やGPS搭載、燃費、散布性能などメーカやモデルによって価格はさまざまです。利用用途や安全性を踏まえ、長期的に考えて目的にあったものを選択する必要があります。
無人ヘリと比べると価格は手頃ではあるものの、決して安いものではないため、国の補助金制度などを利用して少しでも負担を少なくしましょう。

また、初期投資だけでなく、保険やメンテナンス費用もかかるので注意が必要です。

飛行の許可申請が必要となる

2019年の規制緩和により、農薬散布のための農業用ドローンの運用はより身近になりました。
ドローンの操作にあたっては、以前は農林水産省が定めた指針による技能認定や登録、機体の登録といった手続きが必要でしたが、今は特定団体の資格や免許、ライセンスなどの資格取得義務はありません。
しかし、航空法に基づいた国土交通省への「許可申請」は必須です。なぜなら、農薬散布は航空法で規制されている「危険物輸送」と「物件投下」に該当するためです。事前に国土交通省から飛行の許可・承認を受けなければなりません。

申請の条件として、一定時間の運転技能や農薬散布経験が求められます。これは自動航行システム搭載のドローンを利用する場合でも同様です。
つまり、一切ドローンを運転したことがない方が農薬を散布することはできないので注意しましょう。

位置測定方法によって生じる誤差のリスク

単独測位のGPSを使用する自動航行ドローンの場合、位置情報に2~10メートルほどの誤差が生じるという弱点があります。
これによってほかの作物や近隣の畑に散布してしまう可能性も出てきます。
特に果樹園などの傾斜角度の強い圃場では位置情報のズレが生じて、狙った位置へ散布できないことはもちろん、飛行の安全性の上でも大きなリスクとなりかねません。

高精度な測位が可能!ドローンの飛行経路を自動制御できるサービス

前述したように、農薬散布する自動航行ドローンにおいて位置情報の測定は大きな要素です。そのため近年、農業用ドローンの主流がGPS搭載の自動航行ドローンから、誤差数センチメートルの高精度な測位が可能なRTKを組み合わせた自動航行ドローンに移行しつつあります。
RTKはインターネット経由で位置情報を補正するサービスの利用が一般的となってきています。
例えば、「高精度測位サービス ichimill」は準天頂衛星システム「みちびき」などのGNSS(衛星測位システム)から受信した信号を利用してRTK測位を行うサービスです。
誤差数センチメートルの測位を可能にするため、安全な飛行かつピンポイントで農薬散布でき、自動航行ドローンでの農薬散布における大きな課題の解消につながっています。

農薬散布は効率の良い自動航行ドローンと高精度測位サービスを組み合わせる

農薬散布によって農作物の害虫や雑草による被害が抑えられ、安定供給へとつながっていきますが、重労働の一つでもあった作業がドローンによって一変しました。
近年は自動航行ドローンも登場し、作業時間や労働量は大幅に軽減されています。ほかの作物や近隣の畑へ散布の恐れという課題も、高精度な測位サービスを組み合わせれば狙った場所にピンポイントで散布することが可能になるため解消できます。
果樹園などの高低差のある圃場にも的確に散布しやすくなる農業用ドローン。効率の良い農薬散布から「スマート農業」を始めてみませんか。

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