「自動販売機の進化系」が起こす、30年ぶりのイノベーション
2024年4月15日掲載
小売業の未来の姿としてAmazon Goのような無人店舗の存在が語られていますが、一方で日本には古くから無人店舗が根付いています。それは日本全国どこにでも存在していて、24時間営業している自動販売機です。
日本のコンビニエンスストアの店舗数が55,852店(日本フランチャイズチェーン協会『コンビニエンスストア統計調査月報』2024年2月)なのに対し、2023年末の飲料自動販売機の設置台数は約221万台(出典:日本自動販売システム機械工業会)。治安のよさなどの要因で独自に進化を遂げ、インフラとも呼ぶべき存在になった日本の自動販売機が持つポテンシャルは大きいです。
一方で、近年、自動販売機ビジネスを取り巻く環境は大きく変化しています。自動販売機の設置場所は飽和状態になり、221万台の自販機に商品の補充をするオペレーションの負荷も、業界全体の課題になっています。
こうした自動販売機ビジネスに革命を起こそうとしているのが、ソフトバンクの自動販売機オペレーション効率化サービス「Vendy」です。プロジェクトを担当する3名に、サービスの概要と今後の展望について話を聞きました。
アナログな業務がドライバーの負担になっている
日本では全国に自動販売機が設置されており、世界一の普及率を誇っています。海外に比べて治安がよいという背景もあって独自に進化をとげ、台数を増やすことで売り上げを伸ばしてきました。
しかし、2016年に設置台数のピークを迎えた以降は少しずつ減少。その背景にはユーザニーズや販売チャネルの多様化、業界の人手不足といったさまざまな理由があります。
「自動販売機に商品を補充するルートセールスは1人平均100〜120台ほどを担当し、1日に10〜20ヵ所の設置場所をまわっています。中にはオンライン化されていて在庫が遠隔で分かる自動販売機もありますが、多くがアナログのため、現場に行ってみないと何がどのくらい売れたかが分かりません。補充に行く自動販売機の選定や順番、商品のラインナップなども、ドライバーの勘と経験を駆使しているのが現状です。
そのため、商品が売れていると見込んで補充に行った自動販売機でそれほど売れていなかったり、補充に行かなかった自動販売機で売り切れが出てしまったり、という無駄が発生することがあります。また、補充の途中でトラックに積んでいた商品がなくなってしまい、一度支店に戻って補充するということも。
こうした非効率さからドライバーの長時間労働が課題になっています。さらに、重労働ということもあってなり手が少なく、慢性的な人材不足に陥っています」(五十嵐)
経験と勘頼みのアナログなオペレーション業務がドライバーの負担になっているという現状。自動販売機オペレーション効率化サービス「Vendy」の立ち上げメンバーは、自動販売機業界の現状と課題に着目。DXによって効率化できるのではと考えました。
「自動販売機は全国に220万台もある。こんなにも消費者と接点がある機械が24時間稼働しているのは、すごいことなんです。これをどうにか進化させたいという考えから、事業を検討しはじめました」(五十嵐)
回答速度の体感は、PCやスマートフォンでマニュアルを開いて単語検索をするよりもずっと早く、お客さまからの質問にリアルタイムで回答しなければいけない場面で活用できるソリューションであることを体感できました。
自動販売機のオペレーション業務を効率化する「Vendy」
事業開発にあたり、ソフトバンクは飲料自動販売機製造の国内トップシェアを誇る富士電機と提携。業界の課題であるオペレーション業務の効率化を実現するサービスとして「Vendy」を立ち上げました。
「Vendy」の仕組みは次のようになっています。富士電機の協力のもと、自動販売機に売り上げのトランザクションデータを取るための新型通信ユニットを設置。ソフトバンクの4G回線をつないで、クラウドにデータを蓄積し、自動販売機から収集されたデータと天気・人流などの外部データををかけ合わせてAIが分析。商品の在庫状況把握、販売予測に基づく巡回計画、商品変更などを提案します。さらに、専用アプリの提供、保守・運用までをワンストップで提供するものです。
Vendyとは
では、「Vendy」を導入することで具体的に何が変わるのでしょうか。主な4つの機能が、「①巡回計画高度化」「②コラム最適化」「③リアルタイム在庫表示」「④リモコンレス」です。
「1つ目の『巡回計画高度化』は、自動販売機から収集される売上データと外部データに基づく精緻な販売予測をAIが分析し、機会損失と巡回コストを考慮した利益最大化を企図した巡回先の抽出を行い 、巡回すべき自動販売機と最適な巡回ルートを提示する機能です。これまでは経験と勘を駆使していた巡回計画に無駄がなくなり、効率よく補充作業ができます。
2つ目は『コラム最適化』です。コラムとは自動販売機の中の商品を補充する部分のことです。現状ではルートセールスが経験に基づいて商品の選定や配置を決めているため、特定の商品だけが売れて、機内の在庫にばらつきが出てしまうケースがあります。『Vendy』ではAIで売り上げを予測して商品ラインナップやコラムの数を提案し、機内在庫の平準化を実現します。
3つ目の『リアルタイム在庫表示』は、スマートフォンで各自動販売機の売れ行きを把握できる機能です。事前に、『どこの自動販売機で』『どの商品が』『どのくらい補充が必要か』を把握できるため、現地に行く前に最適な形で商品補充の準備ができます。
4つ目の『リモコンレス』は、スマートフォンでコラム配置などの設定変更ができる機能です。リモコンでの複雑な操作が不要になり必要なスキルの簡素化、平準化ができます。また売れ行きにあわせて、売価の設定変更などを現地に行くことなく実施できるので効率が上がります」(須田)
Vendy4つの機能
現場検証に参加をしたルートセールスからは、「担当エリアを効率よくまわることができて、本来やりたかった業務に時間を割けるようになった」などの声が寄せられているといいます。
サービスを作り込む段階から、現場の生の声を反映
「Vendy」のサービスとしての強みは、飲料メーカ様が抱える課題や実際に補充業務を行うドライバーの生の声を集め、サービスに反映している点です。新規サービスを立ち上げてから企業に提案するというのではなく、サービスを作り込む段階から飲料メーカに参加してもらったといいます。
「自動販売機のデジタル化について私たちなりにプランを考えて、飲料メーカ様に提案しにいったんです。すると、『売り上げが上がったとしても、補充する人が疲弊する仕組みは成立しない』という助言をいただきました。
そこで、現場の実情を知るために、ルートセールスさんの車に同乗して業務を体験させてもらうことにしました。いくつかの支店で、何の業務にどのくらいの時間がかかっているのかをストップウォッチで測ったりして、何を改善しなければいけないのか、どのように解決していくかを検討していきました。
実際に現場を体験してそれまで全く知らなかった自販機ビジネスの現場を知ることで多くの学びを得、ルートセールスの方々に尊敬の念を覚えました。
例えばルートセールスの方々に同行して話を聞く中で、個々の自販機特性の深い理解と、作業効率を少しでも上げられるよう日々試行錯誤を繰り返していることが分かったのです。
とはいえ、人間一人ではできることに限りがあります。そこを、ITを活用することによって少しでもオペレーション業務をよりよいものにしていく一助になりたい。そして、現場で働いている方々をより幸せにしていきたい。それが実現してこそ、イノベーションに意味があるのだと思いました」(五十嵐)
「Vendy」は自動販売機業界をどう変えるのか?
「Vendy」による自動販売機のオペレーション効率化は、業界にどのような変化をもたらすのでしょうか?
松山は、「単純作業をAIで効率化することで、ドライバーは対面でしかできない提案業務に力を注ぐことができる」と語ります。
「『Vendy』の導入は、労働負荷の軽減に加え、新たに生まれた時間を提案業務やロケーションオーナー様とのコミュニケーションに注力できるようになるという効果があると考えています。働く人の業務を効率化することで、さらに魅力的で、売れる自動販売機づくりにつながっていくはずです」(松山)
また、すでにある自動販売機のオペレーション業務の効率化だけでなく、新しく設置する際の売り上げ予測にもAIが役立つといいます。
「自動販売機は設置先のロケーションオーナーさんにロケフィー(割戻金)を支払うケースがほとんどです。新しく自動販売機を設置する際には、周りの環境からルートセールスさんが売り上げを予測してロケフィーを決めています。しかし中には、予測が外れて売り上げが伸びず、ロケフィーの設定が高額のため採算が取れないケースもあります。
その点、データをAIで分析すれば、より精度の高い売り上げ予測を立てることができます。これは自動販売業界全体の課題になっている部分なので、改善策を検討していきたいと考えています。
また、将来的には今後作成したモデルを基に、巡回業務を行っている他企業への横展開も視野にいれています。
『たまたま自動販売機があるから買う』ではなく、『この自動販売機で買いたい』と消費者の購買意欲をかき立てるような『なくてはならない買い場』になるものと信じて、自動販売機の素晴らしさを広く伝えていきたいと考えています」(松山)
自動販売機が日本に根付いて30年以上。長い期間をかけて普及した自動販売機は日本にとって重要な資産ですが、その維持にはデジタルを活用した効率化が不可欠です。労働人口の減少が見込まれるこれからの日本では、今後もあらゆる場面で「自動化」が求められます。省エネ化、災害などによる停電時の商品供給機能の実現、ユニバーサルデザイン化などを進めてきた自動販売機が日本の重要なインフラになっていくことを期待してやみません。
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Vendy(べンディ)
自動販売機の売上・在庫データ等をAIが分析し、これまでルートセールスが経験と勘を駆使していたオペレーション業務を自動化。業務効率化や売上向上による持続的な自販機運営業務を支援します。